印刷とは、「版を媒介にして、文字や図等を紙等にインクで定着させ、副生物を高速大量に製造する行為」と定義され、印刷行為に係る商取引とその取引に付随する業界を総称して印刷業界と呼ばれる。
印刷製品は用途別に、商業印刷・出版印刷・事務用印刷・包装印刷・その他特殊印刷・ソフトおよびサービスに分類される。
印刷会社は、受注生産型産業であり、エンドユーザーは出版社、新聞社、その他製造メーカー等、幅広い。製品特性や稼働状況によって、印刷加工会社(ラミネート・切抜き等)や同業印刷会社に外注を行うこともある。
資材価格は原油相場(為替相場含む)に連動する。ただし、主たる仕入先(資材メーカー)である原紙メーカーは、大資本による寡占化が進んでおり、相対的に印刷会社の交渉力は弱くなることが多い。
印刷業の市場規模(製造品出荷額ベース)は、1997年をピークに減少傾向にある。
印刷用途別の生産金額で見ると、新聞・雑誌・書籍等の発行部数に連動している出版印刷の落ち込みが大きく、デジタルメディアへの移行等による新聞・出版業界の構造不況が影響している。折込チラシ・DM・カタログ・パンフレット等の発行部数に連動している商業印刷は、景況感の変化による企業の広告費の影響を受けやすく、近年では持ち直しているが、広告メディアそのもののデジタル化が進んでおり、再成長の途上にあるとは言えない。食品・飲料ペットボトル・医薬品・日用品等に係るパッケージ・ラベル印刷が主である包装印刷は、底堅く推移している。
事業者数は、市場規模の縮小とほぼ同じペースで減少している一方で、一事業者あたりの売上高は近年増加傾向であり、再編が進んでいると想定される。オフセット輪転機の設置台数も同様に減少してきたが、近年は横ばいで推移しており、供給過剰状態が緩和されてきたと考えられる。
購買単価については、原油価格と為替レートの影響を強く受ける。2008~2009年は中東情勢の悪化と途上国における需要拡大を主要因として高騰したが、その後、リーマンショックの影響で下落している。近年は投機資金流入等により、再び上昇傾向にある。
顧客との力関係により、購買単価の上昇金額を価格転嫁できないケースが多いため、経営のリスク要因となっている。
媒体別に広告費の推移を見ると、紙媒体(新聞、雑誌、折込、DM、フリーペーパー・フリーマガジン、POP、電話帳)の広告費は、2006年の約3兆2千億円をピークに大きく減少しており、2015年には約2兆円と34%減となっている。一方で、インターネット広告費は2006年の約4,800億円から10年で1兆2千億円と140%の成長を遂げており、従来の紙への印刷を主体とした広告からインターネットへ広告費のシフトが起こっていると考えられれる。
2015年度のデジタル印刷市場(事業者売上高ベース)までマイナンバー制度関連の影響により増加し、その後横ばいで推移している。
もっとも、デジタル印刷市場は全体として拡大傾向にあると考えていい。
市場環境が厳しい中、デジタル印刷領域では、フルデジタル印刷によるコストメリットや新たな付加価値の提案によって、紙出力案件を確保している事業者が台頭してきている。また、上位事業者では、デジタル印刷から受託業務内容を拡大させたBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の実績も増加している。
オフセット印刷を主力とする事業者においても、デジタル印刷を取り扱う事業者が出ており、IT技術を付加させた複合的な提案によって、顧客の業務をワンストップで請け負うといったビジネスを行うようになっている。
【デジタル印刷市場規模推移と予測】
注1.事業者売上高ベース
注2.2019年度見込値、2020年度予測値
出典:株式会社矢野経済研究所「デジタル印刷市場に関する調査結果(2019年)」(2019年9月17日発表)
印刷業界においては、ネット通販に特化した新規参入事業者により価格競争に拍車がかかり、業績が厳しくなった印刷会社の再生支援も含め、周辺領域や異業種を巻き込んだM&Aが活発である。
業界で高いシェアを持つ大企業は、海外展開やデジタルメディア領域など成長分野や異業種へ進出し、事業領域を拡大することで、印刷需要の縮小に対応している。中堅中小企業においては、共同仕入などによるコスト削減などによるスケールメリットや、後継者不在による事業の引き継ぎを目的として同業との事業統合が行われるケースもあれば、領域に特化した印刷物を手掛けている会社と協業して新しい技術・ノウハウを取り入れることで、独自の提案力を磨いた差別化が行われているケースもある。
元請は従来の強みであった営業・企画・デザインに生産加工工程を付加し、下請けは生産加工だけでなく営業・企画・デザインまで内製化する、といった総合印刷会社を志向するか、コアとなる分野に経営資源を集中させ、特化させていくか。印刷事業者のM&A戦略が問われている。
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