山田コンサルティンググループ株式会社
経営ナレッジ

調剤薬局は、主として医師の処方せんに基づき医療用医薬品を調剤し，販売又は授与する事業所をいう。調剤薬局の開設は、薬事法により、その所在地の都道府県知事の許可を受けなければならず、また、健康保険法等により保険調剤を行う場合は、①薬局は保険薬局の指定を、②薬剤師は保険薬剤師の登録を、それぞれ厚生労働大臣（現在は地方厚生局支局長に権限委譲）から受けなければならない。調剤薬局の中で、保険薬局の指定を受けた薬局を保険薬局という。

処方せん受付回数と集中率

調剤薬局の各店舗が管理する主要な指標として、処方せん受付回数と集中率がある。「門前薬局」から「かかりつけ薬局」への移行を推進する厚生労働省の方針の中、処方せん受付回数及び集中率の高い門前薬局の調剤基本料（調剤技術料の1項目）は引き下げられている。これにより、これまで好調な業績を維持してきた、大手調剤薬局チェーンは減益が想定される。

特定保険薬局への誘導の禁止

医療機関及び医師は、保健医療機関及び保健医療養担当規則第2条の5及び19条の3に規定する通り、処方せんの交付に関し、患者に対して特定の保険薬局において調剤を受けるべき旨の指示等を行ってはならないとされており、また、その指示等の対償として、保険薬局から金品その他の財産上の利益を収受してはならないと決められている。

A)調剤報酬改定への対応

調剤薬局の収入源である調剤報酬は、大きく薬剤料と調剤技術料と薬学管理料に分けられる。原則2年に1度、調剤報酬改定が行われ、薬剤料は、薬価のマイナス改定の影響を直接的に受け、調剤技術料と薬学管理料は、改定の方向性により薬局店舗毎に受ける影響度合いは異なってくる。

B)難化する薬剤師の確保

調剤薬局では、薬剤師1人当たりの処方せん枚数が40枚/日と制限されているため、調剤薬局が規模を拡大するためには、薬剤師の確保が必要不可欠である。しかし、調剤薬局業界は、学校教育法改正ならびに薬剤師法改正により、2006年より薬学部が4年制から6年制に移行したことで、慢性的な薬剤師不足に陥っている。製薬会社、病院、大手ドラッグストア等が薬剤師を積極採用する中、薬剤師の確保には、多額の採用費及び教育費が必要となっている。

市場規模拡大の限界

調剤薬局業界は、高齢化の進展による調剤機会の増加が見込まれるものの、国民医療費の抑制の一環として調剤報酬算定要件の見直しや段階的な薬価の引き下げが実施されることで、従来通り市場規模が拡大することは期待出来ない状態にある。
また、医薬分業率もおよそ７割まで達しており、門前薬局の新規出店機会は減少する見込みである。
更に、2016年度の調剤報酬改定により、いわゆる大型門前薬局の評価の見直しが行われ、受付回数が4万回/月超のグループに属する保険薬局で、①処方せん集中率が95％超、又は②特定の医療機関との間で不動産の賃貸借取引のある保険薬局は、調剤基本料がもう1段引き下げられる等、集中率の高い門前薬局の調剤報酬は引き下げられる傾向にある。

かかりつけ薬剤師・薬局

前述の通り、調剤薬局業界を取り巻く環境は大きく変化する中、調剤薬局は、かかりつけ機能を強化することが求められている。具体的には、①服薬情報の一元的・継続的把握、②24時間対応・在宅対応、③医療機関等との連携の3つの機能が挙げられる。
2016年度の調剤報酬改定では、かかりつけ薬剤師・薬局を評価する改定を行い、厚生労働省は門前薬局からかかりつけ薬局への移行を推進しているが、かかりつけ機能の1つである「24時間対応・在宅対応」は、経験豊富な薬剤師が少なく、かつ、経営効率が悪い（処方せん枚数が40枚/日に満たない）ことから、かかりつけ機能を持てる薬局は、薬剤師に余裕のある薬局に限られる。

後発医薬品（ジェネリック）

後発医薬品は、先発医薬品の特許終了後に、先発医薬品と品質・有効性・安全性が同等であるものとして厚生労働大臣が製造販売の承認を行っている医薬品であり、一般的に開発費用が安く抑えられ、先発医薬品に比べて薬価が低くなっている。
厚生労働省は、国民医療費の抑制の一環で、後発医薬品の普及を促しており、後発医薬品の常備体制が整っている調剤薬局に対して報酬加算（後発医薬品調剤体制加算）をしている。

セルフメディケーションによるOTC（一般用医薬品）の普及

セルフメディケーションとは、軽度の病気の治療・予防を医療保険制度の適用外であるOTCを使って自分自身で行うことである。政府は薬事法及び薬剤師法を改正することで、OTCの販売規制の緩和を行っており、更には、調剤薬局にもかかりつけ薬局としてOTCの販売を促している。また、平成28年度の税制改正では、スイッチOTC薬の所得控除を創設し、患者に従来の医療費控除と選択適用できるようにして、税制面からもセルフメディケーションを促している。

スーパー・コンビニ・ドラッグストアとの競争

医薬品の販売規制緩和によりスーパーやコンビニ等がOTCの販売を始めたり、ドラッグストアが調剤コーナーを併設して、医薬用医薬品を販売したりと、調剤薬局の競争環境は厳しくなっている。

調剤薬局業界は、大手の占有率が低く（大手10社の占有率：1割強）、小規模事業者が多数存在することが特徴である。OTC医薬品の販売規制緩和による異業種との競合、慢性的な薬剤師不足、薬価の段階的引き下げ等、外部環境が厳しい中、経営資源の乏しい小規模事業者は、大手薬局チェーンの傘下に入ることで、店舗の存続を図っている。
また、大手薬局チェーンも、調剤報酬改定による収益減をスケールメリットで補うため、積極的に資本提携先を探しており、入札時には、投資回収期間を通常よりも長く設定した金額を提示することが多かった。今後は、調剤報酬改定の影響もあり、投資回収期間の設定は短縮され、取引価格は適正な水準に戻ると思われるが、M&Aの取引件数は増加することが見込まれる。

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