介護施設(シニアリビング)業界とは、高齢者向けの住まいを提供し、運営・管理する事業者による産業であり、 ここでは中でも有料老人ホーム及びサービス付き高齢者向け住宅を主な調査対象とし、解説する。
有料老人ホームとは、老人福祉法第29条に規定された高齢者向け居住施設のことをいい、「老人を入居させ、入浴、排せつ若しくは食事の介護、食事の提供又はその他の日常生活上必要な便宜であって厚生労働省令で定めるもの(以下「介護等」という。)の供与(他に委託して供与をする場合及び将来において供与をすることを約する場合を含む。)をする事業を行う施設」であり、「老人福祉施設、認知症対応型老人共同生活援助事業を行う住居その他厚生労働省令で定める施設でないもの」とされている。
有料老人ホームには、大きく次の3つの類型がある。「介護付有料老人ホーム」は、自治体から介護保険サービスである特定施設入居者生活介護(介護保険法8条11項)の事業者指定を受けている老人ホームである。自治体から指定を受けていないが、食事や生活支援サービスを提供し、必要に応じて外部の介護サービスを利用できる老人ホームは「住宅型有料老人ホーム」、同様のサービスを提供するが、要介護認定をうけたものは入居できない老人ホームが「健康型有料老人ホーム」である。
サービス付き高齢者向け住宅(通称・サ高住)は、2011年10月施行の高齢者住まい法第5条に規定されている。状況把握サービス、生活相談サービス、その他の高齢者が日常生活を営むために必要な福祉サービスを提供する住宅をいう。有料老人ホームと比べると規制に柔軟性があり、高齢者向け住宅を拡充するために導入された制度である。
シニアリビング事業者が、利用者である高齢者へサービスを提供するためには、介護職員の雇用(もしくは訪問介護サービスなどを提供する居宅系介護事業者への委託)の確保が重要である。また、清掃や食事の提供を内製化しない場合、清掃事業者、給食事業者との取引を行うことになる。
介護サービスを提供している場合、国民健康保険連合会より審査を受け、介護報酬を受け取る。施設については、自己所有物件で経営する場合であれば、土地・建物に多額の投資が必要となり、賃借物件の場合であっても、設備規模に相応の賃借料が発生する。
(※1)市場規模については、厚生労働省「サービス付き高齢者向け住宅等の月額利用料金」にて公表されている有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅の月額利用料金(平均)を年額に換算し、それぞれ老人ホームの定員数、サ高住の戸数に掛け合わせることで概算を推計したものである。
(※2)主要企業については、シニアリビング事業を主としている企業、もしくはセグメント別売上高等によりシニアリビング事業の売上高が公表されている企業からリストアップしたものである。
有料老人ホームの利用者は高齢者が中心であり、介護付有料老人ホームでは利用者の82%、住宅型有料老人ホームでも73%を80歳以上の高齢者が占めている。在所者数は年々増加しており、2014年には、28万人に達した。定員数に占める在所者数である在所率は2009年より80%台前半で横ばいである
高齢者(65歳以上)人口は、2014年実績で約3,300万人であり、その後も増加し続け、2042年に3,878万人に達してピークを迎えると推計されている。増加している高齢者の介護ニーズに応えるために、引き続き介護施設、居住系施設の整備が必要である。
有料老人ホーム全体の施設数、定員数はともに増加傾向にあるが、近年では総量規制によって介護付有料老人ホームの新規開設は難しく、住宅型有料老人ホームの増加が多くの割合を占める。
高齢者向け住宅のさらなる拡充のため、2011 年にサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)制度が創設された。これは最低限の安否確認と生活相談を提供すること以外は、顧客の属性に合わせた自由なサービス設計が可能で、利用者が増加している。
供給コントロールの制約も受けにくいため、登録件数は増加して行き、直近の2015年12 月末時点で18.5万戸に達した。
保険給付関係の平成25年度累計の総数は、件数1 億4,082万件、費用額8兆8,549億円、利用者負担を除いた給付費8兆164億円となっている。施設サービス(主に介護保険3施設)にかかわるものは全体の35.3%、居宅サービスにかかるものは53.9%を占める。近年、在宅介護を推進する政策による高齢者向け住宅の普及も後押しして、居宅系サービス利用者が増加しており、2005年に居宅サービス割合が施設サービス割合を逆転して以降、年々差が広がっている。
利用者へサービスを提供するためには、介護職員の雇用(もしくは居住系介護事業者への委託)のほか、清掃や食事の提供を内製化しない場合、清掃事業者、給食事業者との取引が必要となる。中でも、人材の問題は根深く、質・量ともに不足している状況が常態化している。
2014年度の厚生労働省の調査でも、介護サービス事業者の抱える問題点として、「良質な人材の確保が難しい」「今の介護報酬では人材確保・定着のために十分な賃金を払えない」「経営(収支)が苦しく、労働条件や労働環境の改善をしたくてもできない」などヒトに係るものが多く挙げられた。
有効求人倍率は、全業種の平均との乖離が狭まることなく推移している。採用が困難な理由としては、「賃金が低い」が61.3%、「仕事がきつい(身体的・精神的)」が49.3%の回答結果が得られている。
高齢者の入居施設としては、他にグループホーム、介護保険3施設(特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設)が挙げられる。いずれも要介護度が比較的高い高齢者を対象とした施設で、有料老人ホーム等と比べて利用者の自己負担が少ないところに特徴がある。特に、介護保険3施設では、本来、自己負担が原則とされる居住費(家賃等)や食費部分についても所得が一定水準以下であれば、一部が介護保険から給付される(補足給付)。
グループホーム、特養、老健については定員数が年々増加傾向にあるが、特定施設と同様に総量規制導入によって供給スピードは鈍化している。今後も在宅介護を推進する政策方針から、増加には一定の歯止めがかかるものと考えられる。介護療養型医療施設については、2018年3月に廃止が予定されている施設類型であることから、新設は認められておらず、定員数が減少している。
シニアリビング業界におけるM&Aは、近年、同業同士、異業種からの参入を問わず加速している。稼働率の引き上げを目指すものの、人材不足によって受入れる体制が整わなかったり、競争環境激化によって入居者の確保は難しく、その上、介護報酬のマイナス改定の影響により経営が逼迫し、やむを得ず事業の売却を選択する事業者も少なくない。
一方、買い手企業の目的には、大きく3つのパターンがある。一つめは、大手事業者、その他介護サービス事業者等による拠点・エリアの拡大、ノウハウ獲得。二つめは既存事業との親和性が高い住宅・建設系事業者、保険会社、警備会社などによる既存事業とのシナジー効果を求めたもの。三つ目は、単純な規模拡大ではなく、地域ニーズに密着した医療・介護サービスによる差別化である。既存入居者のサービス維持、サービスメニューの拡充の目的から、介護の居宅系、通所系事業者を買収するケースや、医療機関の買収を行うケースがこれにあたる。
少子高齢化、人口減少によって、既存のビジネスが先細って行くことは避けられないため、介護分野に進出することで高齢者マーケットに進出し、顧客を囲い込むという意図は大きい。
近年、大手の中には海外、特に介護需要が高まっている中国へ市場を求めて展開している事業者もいる。
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