旅館業法2条には旅館・ホテル営業、簡易宿所営業および下宿営業が規定されているが、ここでは、旅館・ホテル営業を「旅館・ホテル業」として主な対象とする。
旅館・ホテルは、価格帯と立地により、リゾートホテル・旅館(星野リゾート、湯快リゾートなど)、シティホテル(帝国ホテル、マンダリンオリエンタルなど)、ビジネスホテル(ワシントンホテルなど)、エコノミーホテル(東横INN、ルートインなど)に分類できる。
【価格帯別主要ホテルブランド】
出典:筆者作成
旅館・ホテルが有している機能として、飲食機能、宿泊機能、物販機能、コンベンション機能、レジャー機能が挙げられる。
従来の団体向けの営業では、旅行代理店の担当者や添乗員の評価を得ることが重視されていたが、近年、ネットエージェントの存在感が高まっていくにつれ、消費者はネットエージェントが公表する顧客満足度評価の結果を参考として宿泊先を決定するようになっている。
仕入先としては、食材・商品・備品業者、清掃・配膳・リネンサプライ業者などが挙げられるが、不動産に関わる費用(賃借料、リース料等)については、経営ストラクチャーによって異なってくる。
経営ストラクチャーは、所有・経営・運営の組み合わせによって、①所有・直営方式、②賃借方式(リース方式)、③運営受託契約方式(マネジメント・コントラクト方式)、④フランチャイズ方式、⑤運営指導方式に大別される。
日本においては、所有・経営・運営が一体となった①所有直営方式が多かったが、近年では外資系ホテルの進出や事業再生スキームの利用、不動産の流動化等を目的としてこれらの分離が進んでおり、土地所有者に物件を立てさせ、リースで調達するなど、多様な経営ストラクチャーによるチェーン展開が進んでいる。
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旅館・ホテル市場は、バブル経済崩壊後、一貫して減少傾向にあったが、近年においては、政府主導でLCC(格安航空会社)の産業整備、中国人向けのマルチビザ発行など観光振興策を打出しており、インバウンド需要の取り込みから回復の兆しが見えてきた。内訳を見ると、旅館市場はほぼ横ばいを維持するようになり、ホテル市場は拡大してきてしている。
訪日外国人旅行者の数は、2011年こそ東日本大震災の影響で一時的に減少したが、その後は増加傾向にあり、日本人の減少分を補う形となっている。2019年は延べ宿泊者数5憶4200万人のうち19%を外国人が占める結果となった。
背景として、世界全体における海外旅行者数が増えていること、日本ならではなエンターテインメントをはじめとして日本への関心が高まったこと、アジア諸国が経済成長したこと、LCCによる航空機運賃が下落したこと、などが想定される。
一方で、2020年2月以降はコロナウイルス感染症による影響で訪日外国人の数が大きく減少している。
旅館の客室は1部屋当り収容人数が4~5人とホテル(2~3人)より多く、大浴場のみで客室に浴室を持たないケースが多いなど、団体旅行客向け施設が多い。近年では旅行の個人化・宿泊者ニーズの多様化が進んでいるが、その対応の遅れなどを背景にして、旅館の施設数は年々減少傾向にある。
1989年に77,269施設あった旅館数は、2017年時点で38,622施設と、ほぼ半減している。一方で、ホテルは沖縄等のリゾート地におけるホテル開発、海外ホテルチェーンの日本進出、ビジネスホテルの出店が積極的に行われたことで、1989年に4,970施設あったホテル数は10,402施設に倍増している。
それでもなお、ホテルの客室は不足しており、政府による規制緩和が進められた。結果、オフィスからカプセルホテルへのコンバージョンや、民泊の新規参入により簡易宿所の施設数が増加傾向にある。
またホテルの新たな役割としてMICE(※)も注目される。ICCA(国際会議協会)が発表した統計によれば、2018年に開催された世界全体の国際会議開催数は12,937件(前年比379件増)で、このうち日本での開催件数は449件(前年比78件増)であり、過去最高の開催件数を更新した。日本では国と各都市がそれぞれ誘致に積極的に動いている。現在は開催件数・参加者数ともに大学・会議場施設が上位を占め、ホテルとしては神戸ポートピアホテルのみが上位10会場に名を連ねている。
※MICE:企業などの会議(Meeting)、企業などの行う報奨・研修旅行(IncentiveTravel)、国際機関・団体・学会などが行う会議(Convention)、展示会・見本市/イベント(Exhibition/Event)の頭文字
また、2016年度以降、簡易宿所営業が増加している要因には、住宅宿泊事業法の施工が想定される。
旅館・ホテル業界におけるM&Aは活発化しており、買手の主な目的は①訪日外国人観光客の需要獲得を見込んだ投資ファンドや大企業による投資、②ホテルチェーンによる地方旅館・ホテルの再生、③異業種からの進出による事業ポートフォリオ再編、に分類される。
東京、大阪といった大都市圏や、京都などの観光地、主要なリゾート地においては訪日外国人の増大により業績回復の兆しが見えているが、地方における中堅中小の旅館・ホテルでは未だに借入金の負担が重くなり再生の目処が立たない事業者も多い。2021年の東京五輪に向けて経営環境が良好である内に大手資本の傘下に入ることは事業承継の手段として有効な選択と言える。
また、ブランドや独自の強みを有しているにもかかわらず、コロナウイルス感染症により業績が悪化している場合には従業員や利用者を優先し、大手資本へ譲渡する選択肢も考えられる。
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