不動産賃貸業とは、不動産を賃貸して賃料等を得る事業で、日本標準産業分類における中分類「69―不動産賃貸業・管理業」に分類される業界に該当するものをいい、そのうち、主として住宅(店舗併用住宅を含む)を賃貸する事業を貸家業という。
住宅とは、人の居住を用途として建築された建物、およびヒトが居住できるように区画、整備された建物をいう。
一方、主として事務所、店舗その他の事業用オフィスを賃貸する事業を貸事務所業(または、貸ビル業)という。
ここでは、主に貸家業(日本標準産業分類―細分類―6921)について解説する。
貸家とは貸主が賃貸する目的で取得する不動産、または自己居住用として取得した後に賃貸不動産として提供しているものであり、賃貸マンション・アパートなどの貸家集合住宅と賃貸戸建住宅に分かれる。
賃貸マンションと賃貸アパートの区分は明確な規定がなく、一般的に木造や軽量鉄骨造の準耐火、2~3階建ての低層物件を「アパート」、鉄筋コンクリート造などの3階建て以上の中高層耐火構造による共同住宅を「マンション」と呼ぶことが多い。
全国的に展開している大手の事業者は少なく、その大半は限定的な地域に数棟を所有する小規模な事業者である。
総務省・経済産業省「平成28年経済センサス-活動調査(速報(要約))」によれば、「不動産業、物品賃貸業」の事業所数は355,102と全体の6.6%を占めているが、従業者数は1,479,307人で全体の2.6%に過ぎない。
ちなみに、平成24年調査時と比べると事業所数は▲6.5%となっているが、従業者数はと0.4%増となっているため、1事業所あたりの従業者数は増加している。
大手の事業者は用地仕入、開発、賃貸物件の設計・施工管理、物件の運営・管理業務などを一貫して自社で行う。
対して、特定地域で少数物件を展開する小規模事業者は、多岐にわたる運営・管理業務をアウトソーシングすることが多いため従業員は少人数であることが大半である。
その場合、入居者の募集業務については、地域の情報を有している地場の不動産賃貸仲介業者に、入居者の窓口業務や物件管理、修繕・リニューアル工事の立案などのプロパティマネジメント業務は専門の不動産管理業者に委託するのが一般的である。
なお、不動産の管理形態は大きく以下の3種類に分けられる。
<管理委託方式>
不動産管理会社がオーナー所有物件の賃料集金の代行や物件の清掃・点検、入退去手続き・物件修繕などを行い、物件の管理料を収入とする形態である。
<サブリース方式(一括借上げ方式)>
不動産管理会社が、不動産オーナーから賃貸不動産を一括で借り上げ、運営・管理を一手に引き受け、一元管理する賃貸システムである。
オーナーは不動産管理会社の手数料、管理費などを差し引いた一定金額を保証賃料として受け取る。
入居率変動による収入減少リスクを回避すること、煩雑な運営・管理業務を委託すること等を目的に導入される。
家賃保証は一定期間ごとに不動産管理会社との間で見直され、保証賃料引下げの要請がある場合が多い。
サブリース期間も永続的に延長されるわけではない。
<自己所有方式>
オーナーから物件を買い取って所有し、運営・管理業務も引き受けるため、収益も全て不動産管理会社のものになる。
所得の伸び悩み、安定収入の確保難、住宅ローンを組めない非正規雇用労働者の増加等による持家志向の減退、貸家政策の充実などから住宅賃貸需要は堅調に推移している。
ただし、都市部の好立地物件では高水準の賃料を維持しているのに対し、特徴のない郊外物件や交通の不便な立地の物件については賃料が下落しており、地域ごと物件ごとの格差が拡がっている。
新設住宅着工戸数の内、借家系は年間40~50万戸水準で推移してきたが、リーマンショック後の2009年以降は30万戸程度に減少した。
その後、しばらく横ばいで推移した後、近年になって、再び40万戸程度にまで持ち直しつつある。
今後ニュータウンのような郊外開発の広域市街地形成は減少していくことが予想され、貸家の新設については、人口の集中と同様に都市部を中心に展開されていくと考えられる。
借家の戸数(ストック数)は、1988年で推計1,402万戸であったものが、2018年には1,906万戸と、30年間で35%以上増加している。
その要因としては、2000年の不動産投資信託法制定を機に、投資ファンドや大手デベロッパー、住宅系REITによる賃貸マンションへの投資が活発化したこと。
また、2000年代前半の株安・低金利などの資産運用難の状況下、アパート関連事業者による地主への積極的な営業攻勢により、アパートの供給量が増加したこと、が挙げられる。
一方で、世帯数に対する住宅の供給過剰が年々進行していることから、空室率は年々増加し、2008年以降13%を超える水準で推移している。
今後、単身世帯や核家族の増加により、世帯数こそ微増すると予測されているが、併せて、首都圏や地方の都心部地域への人口移動もまた加速しているため、入居者のニーズを捉えきれない郊外の物件は年々厳しくなっていくことが予想される。
また、学生、一般単身者、ファミリー、高齢者では平均居住年数が大きく異なってくる。
賃貸住宅は、現代の日本における一般的な「住宅すごろく」でいうところの「実家⇒(独立)⇒借家⇒(所帯形成)⇒持家」の中での過渡的な居住場所としての性格が大きい。
学生・一般単身者では2年から4年の居住期間の割合が最も高く、ファミリー・高齢者では4年以上の居住期間の割合が最も多い。
安定した入居率を維持するためには、当該地域の入居者の特徴を捉えた募集活動が求められる。
不動産賃貸業における仕入にあたるものは、用地確保および建物建築である。
不動産賃貸業にとって立地条件は最も重要な事項であり、ビジネスとしての成否を左右する要因ともいえる。
用地確保や建物建築にあたっては不動産市況(地価変動)や建築コスト等の変動要因に大きく影響を受ける。
地価は2008年のリーマン・ショック以降は下落し続けていたが、三大都市圏を中心に底打ち感が強まっている。
建築費は、東日本大震災以降、上昇傾向が続き、2014年4月には消費税が5%から8%に引き上げられた際の駆け込み需要の影響からさらに高騰した。
その後、2019年10月に行われた2度目の消費税増税(従来は2017年4月に予定されていた)などの影響もあり、高止まりしている。
競合について、不動産賃貸業は限られたエリアごとおよび物件ごとに市場競争がなされることから、スケールメリットや事業者の業界地位、ブランド力などが競争力の絶対的な優位条件とならない点で特徴的である。
よってエリア特性や立地条件に応じて、入居者ニーズに対応した競争力のある物件を提供できるかどうかが重要となってくる。
近年では、地域による人口構成、家族構成、年齢構成の違いから建物本体、内部構造、附属設備に至るまで少子・高齢化に伴い入居者のニーズは多様化しており、最近はライフサイクルに応じたよりよい物件に積極的に住み替えを行う傾向がある。
バブル期には需要供給ともに郊外の物件が中心であったが、地価下落に伴う都心回帰現象を背景に、立地も都心部に戻り、同じく都心へ回帰しつつある。
賃貸不動産の代替品となるものには、持家の戸建や分譲マンションがあり、とくに都心部の駅周辺などの好条件の用地は戸建・マンションデベロッパーも積極的に仕入れ、開発することから、用地確保や入居者確保において競争が生じるケースがある。
もともと小規模な事業者が多い不動産賃貸業界においては、人口減小の危機が取り沙汰される近年、M&Aによる再編が活発となっており、大会社が小規模事業者を買収して地域内のシェア拡大を図るケースが目立つ。また、WEB制作会社や賃貸仲介のWEBサイトを運営する会社がM&Aの主体となることも多く、不動産賃貸事業におけるWEBマーケティングの重要度は日に日に高まっている。
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