鉄鋼製品卸売業とは、「日本標準産業分類 中分類53―建設材料・鉱物・機械器具卸売業分類」における「小分類534 鉄鋼製品卸売業」を指し、主として粗鋼、鋳・鍛鋼製品を卸売する「鉄鋼粗製品卸売業」、鋼管やブリキ、亜鉛鉄板などを取り扱う「鉄鋼一次製品卸売業」、ドラム缶、ワイヤーロープ、ばね、チェーンなど、その他の鉄鋼製品を取り扱う「その他の鉄鋼製品卸売業」に分類される。
日本の鉄鋼流通機構は、大正から昭和初期にかけての指定商制度、共販組合の成立によってその基礎が形成され、鋼材の大口需要に対する販売は、三井、三菱、岩井、安宅の4社によって行われる一方、零細需要については、明治末期頃からみられた特約店(二次卸)によって販売された。
その流れを受けて、現代においても鉄鋼製品卸業者は、一次卸、二次卸、三次卸に区分される業界構造が形成されている。
扱われる鋼材の大半は鉄でできた普通鋼鋼材であるが、鉄にモリブデンやニッケルなどを加えて硬度や強度を上げた特殊鋼鋼材なども取扱う。
なお、鋼材は、形状別では条鋼・鋼板・鋼管・外輪、用途別では構造用鋼・工具鋼・特殊用途鋼に分けられる。
【鉄鋼製品卸売業の分類】
□高炉材
鉄鉱石・原料炭等を主原料とし、各種合金の添加により普通鋼から特殊鋼(鉄・炭素以外の元素を加え、鉄鋼に高度・強度等の特性を付加したもの)までのあらゆる用途への対応が可能であり、その用途は、自動車用鋼板などの高級品から一般建築用まで幅広い。
国内では、新日鐵住金・JFEホールディングス・神戸製鋼所・日新製鋼HDの4社の高炉メーカーで製造される。
□電炉材
鉄スクラップを主原料として製造されるリサイクル品であり、その用途は建築用等の普及品が中心。
近年では高品質化が進み、商材によっては高炉材のシェアを奪っているケースもある。
国内では、東京製鐵などの普通鋼電炉メーカーと、大同特殊鉄鋼などの特殊鋼メーカーで製造される。
□一次卸
生産業者または海外から商品を直接仕入れ、メーカー等の需要家または海外に販売する直卸と次段階の卸売業者に販売する元卸をいう。
□二次卸
商品を一次卸から仕入れ、次段階の卸売業者または、金物屋やホームセンター等の小売業者、メーカー等の需要家に販売する中間卸をいう。
一次卸から仕入れた商材に自社保有の機械で切断・穴あけ等の加工処理も行う事業者が大半であるが、特定の外注加工業者へ委託を行う場合もある。
□三次卸
商品を二次卸売業者から仕入れ、小売業者やメーカー等の需要家に販売する卸をいう。
自社で保有する機械で鋼材の小型化や表面加工を行う場合がある。
高炉材の市場価格は、投機の対象となっている鉄鉱石・原料炭の市場価格の影響を受けるため、不安定である。
また、鉄鋼・自動車の最大手である新日鐵住金とトヨタが半年に一度行う自動車用鋼板のひも付き取引価格交渉の影響も受ける。
電炉材においては鉄スクラップの市場価格に影響を受ける。
鉄スクラップの価格は、需要(鉄鋼メーカーの仕入量)と供給(鉄スクラップの発生量)の状況により決定される。
また、一般的に特約段階において、販売業者相互間のいわゆる仲間取引相場として、実取引の伴わないものがそのまま示されることもある。
需給関係などでメーカーの市場支配力が弱まったり、逆に供給量が不足したりするような場合、メーカー販売価格から大きく乖離する。
市中価格がメーカーの販売価格を下回ると逆ざやになり、特約店は収益を圧迫される。
粗鋼や普通鋼材の生産高は2007年までは右肩上がりを続けていたが、リーマンショックによる鋼材需要の減少、中国における生産能力の拡大などを要因として、2008年以降は減少が続いた。
2010年に入ってからは、中国、ASEANなどのアジア各国の経済成長、製造業における生産拠点の海外シフトなどにより外需主導で生産高は底上げされつつある。
一方、国内消費に相当する見掛消費(=生産+輸入-輸出)は、ほぼ横ばいで推移している。
同様に、普通鋼の内需はリーマンショック以降、回復の兆しがなく推移しており、特に、製造業は微減傾向が続いている。
唯一、建設業では消費税増税前の駆け込み需要、東京五輪などによる新築着工数の伸びの影響もあり、わずかに回復している。
経済産業省「平成26年 商業統計」によれば、鉄鋼製品卸売業の年間商品販売額は24兆4,571億円であり、卸売業全体の6.9%、法人事業所数は、6,369所と全体の2.8%を占める。
近年では世界的な業界再編が加速し、国内においても大手鉄鋼メーカーの経営統合が相次いでいる。
「鉄鋼を製造する方法としては、粗鋼生産量全体の77%を占める高炉法と残りに23%を占める電炉法に大別される。
高炉法は鉄鉱石や原料炭などの主原料を還元し、鉄を精製したうえで製鋼を行うのに対し、電炉法は鉄スクラップを主原料とし、放電熱で鉄を融解した上で製鋼を行う(出典:SPEEDA)」。
◆高炉メーカー
高炉法で製鋼する過程では、原料として鉄鉱石が必要となるが、近年、資源メジャーの寡占化の進行を背景に原料価格の高騰が続き、鋼材価格に影響を与えている。
輸出シェアでは鉄鉱石3大メジャーで約6割を占め、鉄鋼メーカーの価格交渉力は弱い。
製鉄所には豊富な資源、莫大な資金、多くの条件を満たす立地が必要であり、日本国内での高炉・転炉を用いた新たな製鉄所の建造がほぼ不可能であり、参入障壁が高く、限られた事業者による寡占市場といえる。
(参考:SPEEDA)
主要企業は、2012年10月に新日本製鐵と住友金属工業が経営統合して発足した新日鐵住金(粗鋼生産量シェア約40%)、JFEホールディングス(同約26%)、神戸製鋼所(同約7.2%)、日新製鋼(同約3.6%、新日鐵住金の子会社化)である。
それぞれの業績では、中国の景気減速による鋼材の供給過剰、原料価格や原油価格下落なども影響し、近年、大幅に減収減益となっている。
今後も海外企業との競合激化は免れず、高級鋼や特殊鋼による差別化、海外現地生産の強化、アライアンス先との提携などにより競争優位を確保して行く必要がある。
◆普通鋼電炉メーカー
電炉法は、鉄スクラップを電炉で融解し、鉄鋼を製造する製法であり、高炉法と比べ生産設備が小規模である。
高炉法のように一度操業を開始したら20年は止められない、といったことがないため、需給調整が容易で小回りが利く。
電炉法で製造される普通鋼は、建設用が大部分を占めるが、建設用鋼材はメーカー間で品質の差がつきにくい上、原料の鉄スクラップ価格の変動が大きいため、「店売り取引」からの販売が中心である。
新規住宅着工件数や公共インフラ投資の縮小などにより、市場が縮小しているなか、本業界は構造的供給過剰状態にあるとされ、経済産業省は2015年6月、本業界に対し、生産設備集約や企業統合など事業再編を促すことを明らかにしている。
バブル崩壊後、鋼材需要が低迷し業界再編の動きがあったが、現在でも中小電炉メーカーを含め、約30社程度存在している。
◆特殊鋼電炉メーカー
特殊鋼は高価な合金を含む上、ユーザーの仕様に見合った製品を製造するため、一般的に普通鋼よりも高価である。
特定の需要に合わせて生産を行うため、「ひも付き取引」による販売形態がとられ、取引関係は比較的継続的で、流通業者などは決められた値段で決められた受注先に卸す。
なお、特殊鋼の製造に用いられる鉄スクラップには、自動車や機械製品の製造工程中の切断加工などによって発生した端材が主に用いられ、建物解体などから発生したスクラップとは異なり、純度が高い。
業績が川下産業の資材需要と設備投資に大きく左右される上、原材料の価格変動リスクが大きいため、各社が強固な収益基盤の確立を目指した業界再編・系列強化を目指している。
【鉄スクラップの流れ】
近年、様々な素材が誕生することにより、川下メーカーで使用される素材の選択肢が増えたことで、最終製品の素材構成に大きな変化が生じつつある。
市場成長が見込まれ、かつ、環境・エネルギー制約の大きな自動車、航空機などの産業においては、素材の一段の高機能化だけでなく、特性に応じた素材の置き換え(非鉄金属化、樹脂化、新素材化)、素材感の垣根を超えた組合せが進められており、鉄に取って代わる素材が台頭してきている。
新素材には製造コストや技術面での課題があるが、技術革新によって解決されていくことで、素材間での競争が激化して行くものと考えられている。
異なる素材の組合せについては、例えばアルミは熱伝導率が高いため、熱をかける溶接が難しく、また、強度を持たせることは一般に困難とされていた。
近年においては、鉄とアルミのテーラードブランク工法(※)など、技術開発が進んでおり、これに伴ってメーカーからのニーズも変化して行く可能性がある。
(※)テーラーブランク工法とは、板厚や材質の異なる複数の鋼板をプレス成形前に溶接して1枚のブランクとする、摩擦攪拌接合を用いた手法をいう。
鉄鋼製品卸売業界においては、国内市場の縮小に対応するべく、大手同士の合併などによる再編が進んでいる。一方では、海外企業の買収や合弁事業化にも積極的で、競争環境が厳しい外需への対応も急いでいる。
このような大きな流れの中で、足元では地方の中堅・中小企業が大手の傘下になる例が増えており、今後もこの傾向は続いていくものと考えらる。
売り手のメリット
買い手のメリット
□取引先
□与信管理
□在庫管理