M&Aの基礎知識 資本政策の会計・税務

資本政策とは、会社の目指す資金調達、株主構成および純資産の構成を実現するための施策の総称です。実際に用いられる手法としては、自己株式、新株発行、種類株式、新株予約権、減資、利益剰余金の資本組入れ、株式の消却、株式併合、株式分割などがあります。

(5) 新株予約権の会計・税務

新株予約権とは

新株予約権とは、株式をあらかじめ定めた価格で取得できる権利をいい、取得者は、発行会社に対して権利行使することにより、当該株式会社の株式の交付を受けることができる。
また、役職員に対してインセンティブ目的で付与する新株予約権を一般的にストック・オプションという。

新株予約権の活用方法

役職員に対するインセンティブ目的(ストック・オプション)

役職員に対して、株価向上への動機付け(インセンティブ)を行うことを目的として付与する。なお、役職員以外の社外協力者(弁護士、コンサルタント等)にも付与することが可能。
上場準備会社では、株式上場に向けた資本政策のなかで、役職員への報酬、モチベーションの向上を企図して利用される。
ストック・オプションには、税制適格要件を満たすもの(税制適格ストック・オプション)と税制適格要件を満たさないもの(税制非適格ストック・オプション)がある。税制適格ストック・オプションでは、個人(取得者)に対して権利行使時の経済的利益への課税はなく、株式売却時に課税されることとなる。一方、税制非適格ストック・オプションでは、個人(取得者)に対して権利行使時の経済的利益への課税(給与所得等)が生じる。

企業の資金調達手段(上場会社向け)

イ)新株予約権の単独発行
新株予約権を第三者に割り当てる方法。権利取得者が、将来権利行使することにより、発行会社は資金調達を実現することができる。

ロ)新株予約権付社債としての発行
新株予約権付社債とは、予め定められた条件の下で発行会社の新株を購入できる権利が付された社債をいう。新株予約権部分の行使と、社債の償還を別々で実行するタイプや、社債を行使財源として用いて、新株の発行を受けるタイプ等がある。

買収防衛策(上場会社向け)

主に上場企業において、敵対的買収に対抗するために、新株予約権を使って買収者の有する持株割合を希薄化させる方法。
買収防衛策には、買収者の登場前に導入される平時導入型と、登場後に導入する有事導入型がある。

ストック・オプションの税務

ストック・オプションに関する課税関係

ストック・オプションとは、会社が役職員等の個人に対し業績向上へのインセンティブとして付与する新株予約権をいう。
ストック・オプションに関する役職員等の課税関係をまとめると以下のようになる。なお、以下の表では、株式については1株当たり、ストック・オプションについては1単位当たりの課税関係を示している。

【ストックオプションの課税関係(原則と例外)】

種類株式名
原則
(税制非適格ストック・オプション)
例外
(税制適格ストック・オプション)
権利行使時
株式売却時
権利行使時
株式売却時
個人(役職員等) 「権利行使時の株式の時価-権利行使価格」を給与所得等として課税 「株式売却価格-権利行使時の株式の時価」を株式譲渡損益として課税 課税関係なし(※1) 「株式売却価格-権利行使価格」を株式譲渡損益として課税

(※1) 株式売却時まで課税は繰り延べられる。

【税制非適格ストック・オプションの場合】
【税制適格ストック・オプションの場合】
【税制非適格ストック・オプションの場合】 【税制適格ストック・オプションの場合】

なお、税制非適格ストック・オプションを譲渡した場合の所得区分は、譲渡先に応じて以下のようになる。

譲渡先
発行法人
左記以外
所得区分(※2)
給与所得等
譲渡所得

(※2) 税制非適格ストック・オプションの譲渡対価と取得費との差額に対する課税関係を示している。

税制適格ストック・オプション

ストック・オプションの権利行使により得た経済的利益は、行使時において給与所得等として課税されるのが原則だが、一定の要件を満たす場合、「税制適格ストック・オプション」として、行使時における給与所得課税等を株式売却時まで繰り延べることができる。
なお、税制適格ストック・オプションの主な要件は、以下の通り。

【主な発行内容の要件】
・発行価格が無償であること
・権利行使がその付与決議後2年から10年の期間に行われること
・年間の権利行使価額が1,200万円以下であること
・譲渡禁止規定が付されていること
・権利行使価格が付与時の株価以上であること 等

【主な取得者の身分要件】
・付与対象者が、発行会社およびその子会社の取締役、執行役または使用人である個人であること
・付与対象者が付与決議時に大口株主(上場会社の場合は発行済株式の10分の1超を保有する株主、非上場会社の場合は発行済株式の3分の1超を保有する株主)に該当しないこと 等

発行会社の会計

発行時

イ)金銭の払込みを受けて発行するケース
例えば、資金調達の一環として、金銭の払込みを受けて新株予約権を発行する場合は、新株予約権の発行価額は、純資産の部に計上する。

借方
貸方
現金預金
×××
新株予約権
×××

ロ)ストック・オプションとして発行するケース
ストック・オプションとして新株予約権を発行する場合は、通常は金銭の払込みはない。
ストック・オプションの公正な評価額を算定し、ストック・オプションに係る対象勤務期間(一般的には、権利行使が制限されている期間をいう)を基礎とする方法等の合理的な方法により対象事業年度に配分し、「株式報酬費用」として費用計上する。また、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使または失効が確定するまでの間、純資産の部に「新株予約権」として計上する。

借方
貸方
株式報酬費用(※)
×××
新株予約権
×××

(※) 対象事業年度に配分し、費用計上する。

なお、未公開企業については、行使価格を株式の評価額以上とすれば、費用計上は不要となる。

【株式報酬費用の配分の事例】
【株式報酬費用の配分の事例】
【株式報酬費用の配分の事例】

権利行使時

イ)新株発行で対応したとき
新株予約権の発行価額と権利行使に伴う払込金額の合計額を、資本金または資本準備金に振り替える。

借方
貸方
現金預金
×××
資本金
×××
新株予約権
×××
資本準備金
×××

ロ)自己株式処分で対応したとき
新株予約権の発行価額と権利行使に伴う払込金額の合計額と自己株式の帳簿価額との差額を、自己株式処分差損益として計上する。自己株式処分差益は「その他資本剰余金」に計上し、自己株式処分差損は「その他資本剰余金」から減額し、減額しきれない場合は「その他利益剰余金」から減額する。

なお、自己株式処分差損益は、資本項目であり、損益計算上の損益項目ではないため期間損益には影響を与えない。

借方
貸方
現金預金
×××
自己株式
×××
新株予約権
×××
(自己株式処分差益)
×××
(自己株式処分差損)
×××
(その他利益剰余金)
×××
失効時

権利行使がされずに権利が失効したときは、新株予約権の発行価額を「新株予約権戻入益」として利益計上する。

借方
貸方
新株予約権
×××
新株予約権戻入益
×××

発行会社の税務

発行時

新株予約権に対する払込金額を新株予約権の発行価額とする。なお、払込金額が新株予約権の時価を上回る場合、または、下回る場合においても、受贈益または寄付金等の認定はない。

権利行使時

イ)資本金等の額の増加
付与者から権利行使に際して払い込まれた金銭等の額と新株予約権の発行価額の合計額は資本金等の額となる。

借方
貸方
現金預金
×××
資本金等の額
×××
新株予約権
×××

ロ)ストック・オプションの費用計上額の取り扱い
ストック・オプションとして新株予約権を発行し、「株式報酬費用」を計上している場合は、税制非適格ストック・オプションの当該費用は、原則として権利行使時に損金に算入することになる。なお、税制適格ストック・オプションの当該費用は損金とならない。

失効時

イ)ストック・オプション以外
新株予約権が失効した場合には、新株予約権の発行価額相当額は、益金として処理する。

ロ)ストック・オプション
それまでの費用計上の金額が損金にならない一方、費用計上の対象となったストック・オプションの失効による利益の額は、益金の額に算入されない。

無料 資料ダウンロード M&Aのノウハウが凝縮!! マンガでわかるM&Aの落とし穴 10選

M&A/事業継承マニュアル M&A/事業承継 基礎知識