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M&Aの基礎知識 資本政策の会計・税務

資本政策とは、会社の目指す資金調達、株主構成および純資産の構成を実現するための施策の総称です。実際に用いられる手法としては、自己株式、新株発行、種類株式、新株予約権、減資、利益剰余金の資本組入れ、株式の消却、株式併合、株式分割などがあります。

(2) 自己株式の会計・税務

自己株式とは

自己株式の有償取得・保有・消却・処分は株主総会・取締役会の決議の基、原則として自由であり、活用方法も多様化している。
一方、自己株式の取得に係るみなし配当課税の有無、財源規制には注意が必要である。

意義

自己株式とは、株式会社が有する自社の発行した株式をいう。
平成13年の商法改正により、分配可能額の範囲内での自己株式の有償取得・保有・消却・処分は株主総会・取締役会の決議の基、原則として自由となった。

目的

自己株式の取得は、例えば以下のような目的で行われる。

イ)相続税の納税資金対策(非上場会社向け)
市場流通性のない非上場会社の株式について、オーナーが株式を会社に買い取ってもらうことにより、またはオーナーの後継者が相続等により取得した株式を会社に買い取ってもらうことにより、相続税の納税資金を確保することができる。

ロ)株式市場の安定化(上場会社向け)
市場で流通している自社株の株価下落に対し、自己株式取得が一時的な受け皿として機能することにより、株式需給環境が改善されるため、株式市場の安定化を図ることができる。

ハ)企業防衛策(上場会社向け)
大株主または提携先等が株式を売却する際に、会社がその株式を取得することで、敵対的な買収を予防することができる。

ニ)機動的な組織再編(上場会社向け)
合併等の組織再編に際して、新株発行に代えて会社の保有する自己株式を割当てることにより、発行済株式総数の増加による株式価値の希薄化、配当負担、株主管理コストの増加等の問題を防ぎつつ、機動的に組織再編を進めることができる。

発行会社における取得時の会計・税務

取得時の会計

自己株式を取得した際の仕訳は以下のようになる。

【自己株式取得時の仕訳】
【自己株式取得時の仕訳】
【自己株式取得時の仕訳】

ただし、自己株式は資産項目ではなく純資産の部の控除項目となるため、期末に自己株式を保有している場合は、貸借対照表の純資産の部の株主資本の末尾にマイナス表示で記載する。

【貸借対照表における自己株式(取得時)】
【貸借対照表における自己株式(取得時)】
【貸借対照表における自己株式(取得時)】

取得時の税務

自己株式の取得は、税務上、資本金等の額に払戻し・利益積立金額の分配とされ、損益は発生しない。このような取り扱いにより、出資の払い戻しと未処分利益の分配は明確に区分することにしている。

減少させる資本金等の額または利益積立金はイ)ロ)の通りとなる。ただし、市場買い付け等一定の場合には、取得対価の全額が資本金等の額の払い戻しとされる。

イ)資本金等の額の減少額
次の算式により計算した金額となる(自己株式の取得対価の額を限度とする)。

【資本金等の額の減少額の計算式】
【資本金等の額の減少額の計算式】
【資本金等の額の減少額の計算式】

ロ)利益積立金額の減少額
次の算式により計算した金額となる。
自己株式の取得対価の額 - 上記イ)の金額

【資本金等の額と利益積立金のイメージ】
【資本金等の額と利益積立金のイメージ】
【資本金等の額と利益積立金のイメージ】

<前提条件>
・ 資本金等の額 : 10,000千円
・ 利益積立金額 : 15,000千円
・ 発行済株式数 : 1,000株
・ 自己株式取得株数 : 200株
・ 取得対価の額 : 6,000千円

ハ)源泉徴収義務
株主に支払われる自己株式の取得対価は、税務上、株式譲受の対価(資本の払戻額:上記イ)に相当する金額)とみなし配当の対価(利益の分配額:上記ロ)に相当する金額)に区分される。

みなし配当が生じる場合には、発行会社は自己株式の取得対価の支払いの際、株式の種類と株主の区分に応じて、みなし配当金額に以下の表に掲げる率を乗じた金額を源泉徴収し、翌月10日までに納付しなければならない。

なお、平成25年1月1日から平成49年12月31日までの間に行うべき源泉徴収の際には、所得税と併せて復興特別所得税も徴収し、納付しなければならない。

【上場株式(大口株主等※を除く)の配当に対する源泉徴収税率・特別徴収税率】
【上場株式(大口株主等※を除く)の配当に対する源泉徴収税率・特別徴収税率】2
【上場株式(大口株主等※を除く)の配当に対する源泉徴収税率・特別徴収税率】2

※大口株主等とは、内国法人から支払がされるその配当等の支払いに係る基準日において、発行済株式総数等の3%以上を有する個人をいう。

【非上場株式の配当に対する源泉徴収税率・特別徴収税率】
【非上場株式の配当に対する源泉徴収税率・特別徴収税率】
【非上場株式の配当に対する源泉徴収税率・特別徴収税率】

発行会社における消却時の会計・税務

消却時の会計

消却とは、自己株式を消滅させることにより発行済株式を減らす行為をいう。
自己株式の消却を行った場合には、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する。
ただし、その他資本剰余金がマイナス残高となった場合には、そのマイナスの値をその他利益剰余金から補てんする。

【貸借対照表における自己株式(消却時)】
【貸借対照表における自己株式(取得時)】
【貸借対照表における自己株式(取得時)】

消却時の税務

自己株式を取得した場合には、税務上はその取得時点で直ちに自己株式を消却したのと同様の処理を行う。そのため、その後に法的に自己株式を消却しても、税務上は特段の処理はない。資本金等の額または利益積立金額の総額に異動はなく、損益も発生しない。

発行会社における処分(譲渡)時の会計・税務

処分(譲渡)時の会計

処分(譲渡)とは、取得した自己株式を再発行する行為をいい、増資と同様、資金調達を行うことができる。
自己株式の譲渡に伴う収入金額から帳簿価額を控除した額がプラスであれば「自己株式処分差益」、マイナスであれば「自己株式処分差損」を計上する。自己株式の処分は資本取引と考えられることから、これら処分差損益は「その他資本剰余金」として取り扱われる。ただし、その他資本剰余金がマイナス残高となった場合には、そのマイナスの値をその他利益剰余金から減額する。
なお「自己株式処分差損益」は、資本項目であり、損益計算上の損益項目ではないため期間損益には影響を与えない。

【自己株式処分時の仕訳】
【自己株式処分時の仕訳】
【自己株式処分時の仕訳】

また、会社法上、自己株式を処分(譲渡)する場合は新株発行の一種として取り扱われる。このため、自己株式を処分(譲渡)する際には、募集株式の発行に関する所定の手続き(取締役会や株主総会の決議等)が必要となる。

処分(譲渡)時の税務

自己株式を取得した場合には、税務上その取得時点で直ちに自己株式を消却したのと同様の処理を行う。そのため、自己株式を処分(譲渡)した場合には、新株発行に準じ、原則としてその譲渡対価の額を資本金等の額の増加として処理する。なお、自己株式を処分(譲渡)した場合であっても、税務上、損益は発生しない。

自己株式の取得に応じた株主の税務上の取扱い

自己株式の取得に応じた株主が発行会社から受け取る現金等の財産が、1株当たりの資本金等の額を上回る場合、その上回る金額は実質的には株主に対する利益の配当と同じと考え、「みなし配当」として課税上取り扱われる。具体的に、みなし配当課税がなされる場合の課税関係は以下の通り。

なお、例外として、上場会社が市場を通じて自己株式を取得する場合(市場買付の場合)には、当該株式を売却した株主にはみなし配当課税はなされない。この場合は、通常の株式売却と同様、売却代金と当初の取得価額との差額が株式譲渡益となり、所得税が課される。

①資本金等の額>取得価額の場合

【資本金等の額>取得価額の場合】
【資本金等の額>取得価額の場合】

売却代金(10,000円)と資本金等の額(5,000円)との差額がみなし配当の額(5,000円)となり、資本金等の額(5,000円)と当初の取得価額(2,000円)との差額が株式譲渡益(3,000円)となる。

②資本金等の額=取得価額の場合

【資本金等の額=取得価額の場合】
【資本金等の額=取得価額の場合】
【資本金等の額=取得価額の場合】

売却代金(10,000円)と資本金等の額(5,000円)との差額がみなし配当の額(5,000円)となり、資本金等の額(5,000円)と当初の取得価額(5,000円)は同額のため株式譲渡益(損)は発生しない。

③資本金等の額<取得価額の場合

【資本金等の額<取得価額の場合】
【資本金等の額<取得価額の場合】
【資本金等の額<取得価額の場合】

売却代金(10,000円)と資本金等の額(2,000円)との差額がみなし配当の額(8,000円)となり、資本金等の額(2,000円)と当初の取得価額(5,000円)との差額が株式譲渡損(3,000円)となる。

財源規制

自己株式を取得するために株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、原則として分配可能額を超えることはできない。
分配可能額とは、剰余金の額等の合計額から自己株式の帳簿価額等の合計額を減じて得た額をいう。
分配可能額を上回って自己株式を取得した場合に会社に対して損額を与えたときは、取締役等の会社に対する損額賠償責任が生じる。

自己株式の権利関係

会社は、保有する自己株式について議決権を有しないものとされている。自社のために自らが議決権行使をすれば不公正な決議がなされる恐れがあるためである。その他の共益権(各種の監督是正権)も同様に有しないものとされている。
また、剰余金配当請求権や残余財産分配請求権も有しないものとされている。

未上場のオーナー企業の自己株式の活用方法と留意点

自己株式の取得が原則自由化されたことで、未上場のオーナー企業の株主対策の一つとしても、例えば下記のような活用方法が考えられる。

・取引先や知人等に分散していた株式を、会社自身が買い取って、オーナー一族の議決権比率を高める。

・株式売却を希望している株主がいるが、買い取る人がいないため、会社自身が買い取る。

・株主が相続税等の納税資金とするために株式を売却する際に、会社自身が買い取る。

ただし、実務上は、自己株式取得は、株主総会の決議等所定の手続きを踏む必要がある。
その際に、自己株式取得の内容(1株あたりの買取金額を含む)が全株主に知れ渡ることになり、かつ、他の株主にも「株式の譲渡の申込み」等をする権利(売主追加請求権)があるため、注意が必要。
なお、会社法では、次の2つの場合には、売主追加請求権が排除される。

(1)売主追加請求権を排除する旨を定款であらかじめ定めている場合
(2)公開会社でない株式会社が株主の相続人等から、相続等した株式を取得する場合(ただし、当該相続人等が株主総会等で議決権を行使していない場合に限る。)

自己株式を時価と著しく異なる価格で取得した場合の課税関係

自己株式の取得金額が時価※よりも高額または低額であり課税上弊害が著しいと設定されると、買主(発行会社)、売主(売却株主)、残存株主(売却株主以外の株主)それぞれにおいて課税が生じることがある。その概要は以下の通り。

【課税上弊害があると認定された場合の取扱い】
【課税上弊害があると認定された場合の取扱い】
【課税上弊害があると認定された場合の取扱い】

※自己株式の時価について、上場会社の株式については取引所の株価とし、未上場株式については所得税法・法人税法において株式の評価額に関する直接の定めはないが、課税上弊害がない限り、相続税評価方式を準用できるものとされている。

所得税・法人税における自社株の評価額

相続税・贈与税とは異なり、所得税・法人税における未公開会社の株式の評価額に関する直接の定めはない。
所得税・法人税においては、課税上弊害がない限り、相続税評価方式を準用できるものとされている。以下に照会する。

①売買実例のあるもの

最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額

②売買実例のないもので、類似会社の株式の価額のあるもの

類似会社の株式の価額に比準して推定した価額

③ ①・②に該当しないもの

その株式等の発行法人の1株当たりの純資産価額等を斟酌して通常取引されると認められる価額

純資産価額は、実務上、課税上弊害がない場合は以下の条件のもと相続税を計算する場合に使用する「財産評価基本通達」により計算した金額を求める。

イ)「中心的な同族株主」に該当する場合は、当該発行法人は「小会社」に該当することとする。つまり、「純資産価額」か、「折衷価額(折衷割合は、類似業種比準価額0.5、純資産価額0.5)」のいずれか低い価額。

ロ)当該発行法人が土地等または上場株式等を所有している場合は、「純資産価額」の計算上、これら資産については評価時点における価額による。つまり、土地等については路線価、上場株式等については3ヵ月平均の最も低い価額を使わず、通常の取引価額による。

ハ)「純資産価額」の計算上、法人税相当額(含み益に対する37%)控除は行わないで計算する。

ニ)その他は財産評価基本通達によって差し支えない。例えば、議決権割合5%未満であれば「配当還元価額」、議決権割合50%以下のグループに属するならば「純資産価額」について20%割引可。

一般的な未公開会社は、上記「③」に該当するケースが多く、課税問題に頭を悩ますことが多い。同族関係者間における売買であれば、上記「③」を基準に考えれば良い。
一方、全くの第三者間の売買についても、上記「③」が適用されるのではないか、とする心配が多々生じるが、必ず上記ルールに縛られるわけではないことが所得税基本通達59-6「株式等を贈与等した場合の『その時における価額』」の解説に留意点として記されているので紹介する。

当然のことながら、純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して決定された価額(時価)により取引されたと認められる場合など、この取扱いを形式的に当てはめて判定することが相当でない場合もあることから、この取扱いは原則的なものとしたものである。

「所得税基本通達逐条解説(一般財団法人大蔵財務協会発行)」より抜粋

株式の消却

株式の消却とは

株式の消却とは、自己株式を消滅させることにより発行済株式を減らす行為をいう。
会社法では保有する自己株式のみ消却が認められている。

発行会社の会計

自己株式の消却時には、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する。
ただし、その他資本剰余金がマイナス残高となった場合には、そのマイナスの値をその他利益剰余金から減額する。

発行会社の税務

自己株式の消却時には税務上の処理はない。
自己株式の取得時において資本金等の額または利益積立金額の減少として既に処理されており、税務上の帳簿価額がゼロとなっているためである。

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