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M&Aの基礎知識 資本政策の会計・税務(2019年更新)

資本政策とは、会社の目指す資金調達、株主構成および純資産の構成を実現するための施策の総称である。実際に用いられる手法としては、自己株式、新株発行、種類株式、新株予約権、減資、利益剰余金の資本組入れ、株式の消却、株式併合、株式分割などがある。

(2) 自己株式の会計・税務

自己株式とは

自己株式の有償取得・保有・消却・処分は株主総会・取締役会の決議のもと、原則として自由にでき、活用方法も多様化している。
一方、自己株式の取得に係るみなし配当課税の有無、財源規制には注意を要する。

意義

自己株式とは、株式会社が有する自社の株式をいう。
平成13年の商法改正により、分配可能額の範囲内での自己株式の有償取得・保有・消却・処分は株主総会・取締役会の決議のもと、原則として自由に行うことができるようになった。

目的

自己株式の取得は、例えば以下のような目的で行われる。

イ)企業防衛策(上場会社向け)
大株主または提携先等が株式を売却する際に、会社がその株式を取得することで、敵対的な買収を予防することができる。

ロ)相続税の納税資金対策(非上場会社向け)
市場流通性のない非上場会社の株式について、オーナーが株式を会社に買い取ってもらうことにより、またはオーナーの後継者が相続等により取得した株式を会社に買い取ってもらうことにより、相続税の納税資金を確保することができる。

ハ)株式市場の安定化(上場会社向け)
市場で流通している自社株の株価下落に対し、自己株式取得が一時的な受け皿として機能することにより、株式需給環境が改善されるため、株式市場の安定化を図ることができる。

ニ)機動的な組織再編(上場会社向け)
合併等の組織再編に際して、新株発行に代えて会社の保有する自己株式を割当てることにより、発行済株式総数の増加による株式価値の希薄化、配当負担金額の増加、株主管理コストの増加等の問題を防ぎつつ、機動的に組織再編を進めることができる。

発行会社における取得時の会計・税務

取得時の会計

自己株式を取得した際の仕訳は以下のようになる。

【自己株式取得時の仕訳】

借方 貸方
自己株式 XX 現金預金 XX

ただし、自己株式は資産項目ではなく純資産の部の控除項目となるため、期末に自己株式を保有している場合は、貸借対照表の純資産の部の株主資本の末尾にマイナス表記で記載する。

【貸借対照表における自己株式(取得時)】
(単位:百万円)

資産 500 負債 250
純資産
 資本金
 その他資本剰余金
 その他利益剰余金
250
60
40
150

自己株式50百万円を取得

借方 貸方
自己株式 50 現金預金 50

(単位:百万円)

資産 450 負債 250
純資産
 資本金
 その他資本剰余金
 その他利益剰余金
 自己株式
200
60
40
150
▲50

取得時の税務

自己株式の取得は、税務上、資本金等の額の払い戻し、または利益積立金額の分配とされ、自己株式の取得法人において損益は発生しない。このような取り扱いにより、出資の払い戻しと未処分利益の分配は明確に区分する必要がある。

減少させる資本金等の額または利益積立金額は以下イ)、ロ)の通りとなる。ただし、自己株式を市場買い付け等の一定の方法により取得する場合には、取得対価の全額が資本金等の額の払い戻しとされる。

イ)資本金等の額の減少額
次の算式により計算した金額となる(自己株式の取得対価の額を限度とする)。

発行会社の取得直前の資本金等の額  ×  取得する自己株式数
発行済み株式総数(直前に有している自己株式数を除く)

ロ)利益積立金額の減少額
次の算式により計算した金額となる。
自己株式の取得対価の額 - 上記イ)の金額

【資本金等の額と利益積立金のイメージ】

資産 負債
資本金等の額
20,000千円
イ)
利益積立金額
25,000千円
ロ)
イ)=資本金等の額の減少額
20,000千円  ×  =4,000千円
1,000株
ロ)=利益積立金額の減少額
(取得対価 ー イ))
8,000千円 ー 4,000千円 =4,000千円

<前提条件>
・ 資本金等の額 : 20,000千円
・ 利益積立金額 : 25,000千円
・ 発行済株式数 : 1,000株
・ 自己株式取得株数 : 200株
・ 取得対価の額 : 8,000千円

ハ)源泉徴収義務
株主に支払う自己株式の取得対価は、税務上、株式譲受の対価(資本の払戻金額:上記イ)の金額)とみなし配当の対価(利益の分配額:上記ロ)の金額)に区分される。
みなし配当が生じる場合には、発行会社は自己株式の取得対価の支払いの際、株式の種類と株主の区分に応じて、みなし配当金額に以下の表に掲げる税率を乗じた金額を源泉徴収し、翌月10日までに納付しなければならない。
なお、平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に行うべき源泉徴収の際には、所得税と併せて2.1%の復興特別所得税を徴収し、納付しなければならない。

【上場株式(大口株主等※を除く)の配当に対する源泉徴収税率・特別徴収税率】

個人株主(大口株主等※を除く) 所得税 15%
復興特別所得税 0.315%
住民税 15%
法人株主 所得税 15%
復興特別所得税 0.315%
住民税

※大口株主等とは、内国法人から支払がされるその配当等の支払いに係る基準日において、発行済株式総数等の3%以上を有する個人をいう。

【非上場株式の配当に対する源泉徴収税率・特別徴収税率】

個人株主 所得税 20%
復興特別所得税 0.42%
住民税
法人株主 所得税 20%
復興特別所得税 0.42%
住民税

発行会社における消却時の会計・税務

消却時の会計

消却とは、自己株式を消滅させることにより発行済株式を減らす行為をいう。
自己株式の消却を行った場合には、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する。
ただし、その他資本剰余金がマイナス残高となった場合には、そのマイナスの数値をその他利益剰余金から補てんする必要がある。

【貸借対照表における自己株式(消却時)】

(単位:百万円)

資産 450 負債 250
純資産
 資本金
 その他資本剰余金
 その他利益剰余金
 自己株式
200
60
40
150
▲50

イ)自己株式50百万円を消却
ロ)その他資本剰余金がマイナス残高となったため、その他利益剰余金から補てん

借方 貸方
イ) その他資本剰余金 50 自己株式 50
ロ) その他利益剰余金 10 その他資本剰余金 10

(単位:百万円)

資産 450 負債 250
純資産
 資本金
 その他利益剰余金
200
60
140

消却時の税務

自己株式を取得した場合には、税務上はその取得時点で直ちに自己株式を消却したものとされる。そのため、その後に法的に自己株式を消却しても、税務上は特段の処理は生じない。資本金等の額または利益積立金額の総額に異動はなく、損益も発生しないことになる。

発行会社における処分(譲渡)時の会計・税務

処分(譲渡)時の会計

処分(譲渡)とは、取得した自己株式を再発行する行為をいい、増資と同様、資金調達を行うことができる。
自己株式の譲渡に伴う収入金額から帳簿価額を控除した額がプラスであれば「自己株式処分差益」、マイナスであれば「自己株式処分差損」を計上する。自己株式の処分は資本取引と考えられることから、これら処分差損益は「その他資本剰余金」として計上される。ただし、その他資本剰余金がマイナス残高となった場合には、そのマイナスの数値をその他利益剰余金から減額する必要がある。
なお「自己株式処分差損益」は、資本項目であり、損益計算上の損益項目ではないため期間損益には影響を与えない。

【自己株式処分時の仕訳】

借方 貸方
現金預金 XX 自己株式 XX
(自己株式処分差損 XX) (自己株式処分差益 XX)
(その他利益剰余金 XX)

また、会社法上、自己株式を処分(譲渡)する場合は新株発行の一種として取り扱われる。このため、自己株式を処分(譲渡)する際には、募集株式の発行に関する所定の手続き(株主総会や取締役会の決議等)が必要となる。

処分(譲渡)時の税務

自己株式を取得した場合には、税務上その取得時点で直ちに自己株式を消却したものとして取り扱う。そのため、自己株式を処分(譲渡)した場合には、新株発行に準じ、原則としてその譲渡対価の額を資本金等の額の増加額として取り扱う。なお、自己株式を処分(譲渡)した場合であっても、税務上、資本等取引であることから損益は発生しない。

自己株式の取得に応じた株主の税務上の取扱い

自己株式の取得に応じた株主が発行会社から受け取る現金等の財産が、1株当たりの資本金等の額を上回る場合、その上回る部分の金額は実質的には株主に対する利益の配当と同様のため、「みなし配当」として課税上取り扱われる。具体的に、みなし配当課税がなされる場合の課税関係は以下の通り。

なお、例外として、上場会社が市場を通じて自己株式を取得する場合(市場買付等の場合)には、当該株式を売却した株主にはみなし配当課税は行われない。この場合は、通常の株式売却と同様、売却代金と当初の取得価額との差額が株式譲渡益となり、所得税等が課される。

①資本金等の額>取得価額の場合

【資本金等の額>取得価額の場合】

売却代金(20,000円)と資本金等の額(16,000円)との差額がみなし配当の額(4,000円)となり、資本金等の額(16,000円)と当初の取得価額(3,000円)との差額が株式譲渡益(13,000円)となる。

②資本金等の額=取得価額の場合

【資本金等の額=取得価額の場合】

売却代金(20,000円)と資本金等の額(16,000円)との差額がみなし配当の額(4,000円)となり、資本金等の額(16,000円)と当初の取得価額(16,000円)は同額のため株式譲渡益(損)は発生しない。

③資本金等の額<取得価額の場合

【資本金等の額<取得価額の場合】

売却代金(20,000円)と資本金等の額(5,000円)との差額がみなし配当の額(15,000円)となり、資本金等の額(5,000円)と当初の取得価額(16,000円)との差額が株式譲渡損(11,000円)となる。

自己株式の権利関係

会社は、保有する自己株式について議決権を有しない。自社のために自らが議決権行使をすれば不公正な決議がなされる恐れがあるためである。その他の共益権(各種の監督是正権)も同様に有しない。
また、剰余金配当請求権や残余財産分配請求権も有しない。

財源規制

自己株式を取得するために株主に交付する金銭等の額は、原則として分配可能額を超えることはできない。
分配可能額とは、剰余金の額等の合計額から自己株式の帳簿価額等の合計額を減じて得た金額をいう。
分配可能額を上回って自己株式を取得した場合に会社に対して損害を与えたときは、取締役等の会社に対する損額賠償責任が生じることになるため留意を要する。

未上場のオーナー企業の自己株式の活用方法と留意点

平成13年の商法改正により、自己株式の取得が原則自由化されたことで、未上場のオーナー企業の株主対策として、例えば下記のような活用方法が考えられる。
・株主が相続税等の納税資金とするために株式を売却する際に、会社自身が買い取る。
・取引先や知人等に分散していた株式を、会社自身が買い取って、オーナー一族の議決権比率を高める。
・株式売却を希望している株主がいるが、買い取る人がいないため、会社自身が買い取る。
ただし、実務上、自己株式の取得は、株主総会の決議等の所定の手続きを踏む必要がある。
その際に、自己株式の取得の内容(1株あたりの買取金額等を含む)が全株主に知れ渡ることになり、かつ、他の株主にも「株式の譲渡の申込み」等をする権利(売主追加請求権)があるため、留意を要する。

なお、会社法では、次の2つの場合には、売主追加請求権が排除される。
(1)公開会社でない株式会社が株主の相続人等から、相続等した株式を取得する場合(ただし、当該相続人等が株主総会等で議決権を行使していない場合に限る。)
(2)売主追加請求権を排除する旨を定款であらかじめ定めている場合

自己株式を時価と著しく異なる価格で取得した場合の課税関係

自己株式の取得金額が時価※よりも高額または低額であり課税上弊害が著しい場合、買主(発行会社)、売主(売却株主)、残存株主(売却株主以外の株主)それぞれにおいて課税が生じる可能性がある。課税上弊害があると認定された場合の取扱いの概要は以下の通りである。

【高価買取のケース】
例)時価2,000円の自己株式を5,000円で取得

買主(発行会社) 売主(売却株主) 残存株主
(売却株主以外の株主)
【役員株主以外の個人又は法人株主からの取得】
時価と譲渡価額の差額(5,000-2,000=3,000円)について寄付金認定
通常通り、みなし配当課税等 なし
【役員株主からの取得】
時価と譲渡価額の差額(5,000円-2,000円=3,000円)について役員賞与認定

【安値買取のケース】
例)時価2,000円の自己株式を500円で取得

買主(発行会社) 売主(売却株主) 残存株主
(売却株主以外の株主)
明確な判断基準はないが、受贈益課税が考えられる 【売主が個人株主の場合】
時価の1/2を下回る価額で譲渡したと認定された場合、時価と譲渡価額の差額(2,000円-500円=1,500円)についてみなし譲渡益課税
【同族会社における自己株式取得の場合】
買主である発行会社が、一部の株主から安値で自己株式を取得した場合には、結果として、売主以外の残存株主が保有する株式の価値が増加することとなる。この価値増加部分が、売主から残存株主に対する贈与と認定されて、みなし贈与税課税
【売主が法人株主の場合】
時価と譲渡価額の差額(2,000円-500円=1,500円)について寄付金認定

※自己株式の時価について、上場会社の株式については取引所の株価とし、未上場株式については所得税法・法人税法において株式の評価額に関する直接の定めはないが、課税上弊害がない限り、相続税評価方式を準用できるものとされている。

所得税法・法人税法における自社株の評価額

相続税・贈与税とは異なり、所得税法・法人税法における未公開会社の株式の評価額に関する直接の定めはない。
所得税法・法人税法においては、課税上弊害がない限り、相続税評価方式を準用できるものとされている。以下に照会する。

① 売買実例のあるもの
最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額

② 売買実例のないもので、類似会社の株式の価額のあるもの
類似会社の株式の価額に比準して推定した価額

③ ①・②に該当しないもの
その株式等の発行法人の1株当たりの純資産価額等を斟酌して通常取引されると認められる価額

実務上、上記③の純資産価額の計算は、課税上弊害がない限り、以下の条件のもと相続税を計算する場合に使用する「財産評価基本通達」により計算した金額により算定する。

イ)「中心的な同族株主」に該当する場合は、当該発行法人は「小会社」に該当することとする。つまり、「純資産価額」か、「折衷価額(折衷割合は、類似業種比準価額0.5、純資産価額0.5)」のいずれか低い価額。

ロ)当該発行法人が土地等または上場株式等を所有している場合は、「純資産価額」の計算上、これらの資産については評価時点における価額による。つまり、土地等については路線価、上場株式等については3ヵ月平均の最も低い価額を使わず、通常の取引価額による。

ハ)「純資産価額」の計算上、法人税相当額(含み益に対する37%)の控除は行わないで計算する。

ニ)その他は財産評価基本通達によって差し支えない。例えば、議決権割合5%未満であれば「配当還元価額」、議決権割合50%以下のグループに属するならば「純資産価額」について20%割引可。

一般的な未公開会社は、上記「③」に該当するケースが多く、課税上の問題に頭を悩ますことが多い。同族関係者間における売買であれば、上記「③」を基準に考えれば良い。
一方、全くの第三者間の売買についても、上記「③」が適用されるのではないか、と懸念があるが、必ず上記ルールに縛られるわけではないことが所得税基本通達59-6「株式等を贈与等した場合の『その時における価額』」の解説に留意点として記載されているので紹介する。

当然のことながら、純然たる第三者間において種々の経済性を考慮して決定された価額(時価)により取引されたと認められる場合など、この取扱いを形式的に当てはめて判定することが相当でない場合もあることから、この取扱いは原則的なものとしたものである。

「所得税基本通達逐条解説(一般財団法人大蔵財務協会発行)」より抜粋

株式の消却

株式の消却とは

株式の消却とは、自己株式を消滅させることにより発行済株式を減らす行為をいう。
会社法では保有する自己株式のみ消却が認められている。

発行会社の会計

自己株式の消却時には、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額する。
ただし、その他資本剰余金がマイナス残高となった場合には、そのマイナスの値をその他利益剰余金から減額する必要がある。

発行会社の税務

自己株式の消却時には税務上、特段処理は生じない。
自己株式の取得時において資本金等の額または利益積立金額の減少として既に処理されており、税務上の帳簿価額がゼロとなっているためである。

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