M&Aの基礎知識 事業譲渡とは

事業譲渡とは、一定の目的のために組織化された有機的一体として機能する有形、無形の財産・債務、事業組織、ノウハウ、取引先との関係などを含む包括的な概念である「事業」の全部または一部を他の会社に譲渡することをいいます。 また、事業譲渡の対価は会社に支払われるため、売手のオーナーが直接資金を受け取ることはできません。そのため、一定の計算に基づいて利益が出れば、売手企業に法人税が課税されることになり、株主には課税されません。また、株式譲渡と違い、消費税の課税対象となる点には注意が必要です。 買手にとっては、簿外債務を引き受けてしまうリスクがないという点でメリットがある手法といえます。 ただし、事業譲渡の手続きは、譲渡対象にする資産・負債、従業員や契約等を選別し、個別に進める必要があるため、同じM&Aの手法である株式譲渡と比べると一般的には煩雑になります。契約が必要なものはすべて再締結が必要であり、事業所の賃貸契約、光熱費や通信費などの契約の名義変更も求められます。また、不動産の名義変更にあたっては、不動産取得税、登録免許税などのコストがかかります。 反対株主の株式買取請求権、競業避止義務についても、事業譲渡では内容を押えておきたい重要な規定です。

(1) 事業譲渡の法務(手続き、届出)

 
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◆事業譲渡の意義

事業譲渡とは、一定の目的のために組織化された有機的一体として機能する有形、無形の財産・債務、事業組織、ノウハウ、取引先との関係などを含む包括的な概念である「事業」の全部または一部を他の会社に譲渡することをいう。

したがって、事業用財産・債務を一括して譲渡する場合であっても、個々の財産・債務の譲渡としか認められない場合は、事業譲渡には該当せず、通常の譲渡と同様に、土地、建物、機械等の財産を単体として個別に評価する。

事業譲渡は、技術、取引先との関係、組織などの無形財産も含めて一括して譲渡することから、単体としての価値に、「のれん」の価値を加味するのが一般的である。

◆事業譲渡と合併との相違

事業譲渡は、株式交換等や吸収合併と類似する企業統合制度であるが、吸収合併との主な相違点は以下のようにまとめられる。

・会社の消滅
事業の全部を譲渡する場合でも、譲渡する会社は解散するとは限らないが、吸収合併される会社は、当然に解散し、清算手続を経ないで消滅する。

・権利義務関係
事業譲渡では、当事者間の契約により債権債務を個別に引き継ぐが、吸収合併では、消滅会社の権利義務関係のすべてを包括的に引き継ぐ。

・従業員関係
事業譲渡では、当事者間の合意の他、従業員の合意が必要であるが、吸収合併では、消滅会社の労使関係も包括的に引継ぐ。

・競業避止義務
当事者間で合意しない限り、事業譲渡した側は20年間協業できない。
吸収合併される側は、包括承継され消滅すため、競業避止義務の問題は起こらない。

・債務の承継
事業譲渡における債務の引継関係は、債権者の承諾を得て譲受会社が免責的債務引受をしない限り譲渡会社は責任を免れない。
一方、吸収合併では、債務についても包括的に引き継ぐ。
ただし、債権者に合併異議申立権が与えられている。

・当事者
事業譲渡は個人事業でも可能であるが、吸収合併は法人に限る。

◆事業譲渡の手続き

事業譲渡は、取締役の業務運営に関する基本的事項であり、取締役会で事業譲渡に関する基本的事項を決議することが必要である。
この決議を受けて事業譲渡日程表、事業譲渡覚書等を作成し、代表取締役が株主総会の承認を条件として、事業譲渡契約の締結をするのが一般的な流れになる。

その後、事業譲渡承認株主総会を開催するための取締役会を開催し、株主総会の招集、株主名簿の閉鎖等について決議する。
株主総会を開催して「事業譲渡契約書」の承認を受け、公正取引委員会への事業譲渡届出書提出の手続を経て事業譲渡手続は完了する。

□取締役会の決議等

取締役会設置会社において、事業譲渡を決定するためには、取締役会の決議が必要である。
取締役会設置会社以外の会社で、2人以上の取締役がある場合には、取締役の過半数をもって、事業譲渡を決定する。

□事業譲渡契約の締結

事業を譲り受ける会社と譲渡する会社が事業譲渡契約を締結する。
ただし、この契約の効力は、以下の手続完了後または所定の期間経過後に発生させることになる。

□臨時報告書の提出

有価証券報告書の提出義務のある会社は、下記のいずれかの事業譲渡または譲受けに係る契約を締結した場合(契約の締結が確実に見込まれ、かつ、その旨が公表された場合を含む。)には、遅滞なく、内閣総理大臣に対して「臨時報告書」を提出しなければならない。

・事業譲渡または譲受けによって、提出会社の資産の額が最近事業年度の末日現在の純資産額に比して30%以上減少または増加することが見込まれるとき

・事業譲渡または譲受けによって、提出会社の売上高が最近事業年度の実績に比して10%以上減少または増加することが見込まれるとき

□公正取引委員会への届出

一定以上の規模の事業を譲り受ける場合には、譲受会社は、事前に公正取引委員会へ事業等の譲受けに関する計画届出書を届け出る。
譲渡当事会社は、公正取引委員会が届出を受理してから、原則として30日を経過するまで事業譲渡してはならない。

□株主に対する通知または公告

事業譲渡を行う場合には、会社はその効力発生日の20日前までに、株主に対して通知または公告を行うことが必要である。
これは、反対株主に株式買取請求の機会を確保させるためのものである。

□株主総会の特別決議

以下のケースでは、事業譲渡の効力発生日の前日までに、事業譲渡を行うことにつき、株主総会の特別決議による承認が必要である。
ただし、当該事業譲渡が、簡易事業譲受、略式事業譲渡等に該当する場合、株主総会の決議は不要。

・譲受会社
他の会社の事業の全部を譲り受ける場合には、株主総会の特別決議が必要。
事業の一部を譲り受ける場合には、株主総会決議は不要。

・譲渡会社
事業の全部または重要な一部を譲渡する場合には、株主総会の特別決議が必要となる。
ただし、事業の重要な一部の譲渡であっても、譲り渡す資産の帳簿価額が、その会社の総資産額の20%以下の場合には、株主総会の決議は不要。

□監督官庁による許認可

事業内容によっては、監督官庁による許認可がなければ営業できない。
この場合は、事業譲受会社で再度許認可を取得する必要がある。

□財産等の名義変更手続

事業譲渡により、譲渡会社の当該事業についての財産等はすべて譲受会社へ移転する。
移転した財産等のうち、預金、土地および建物など、譲渡会社の名義で登記、登録等が行われているものについては、譲受会社への名義変更が必要となる。

◆公正取引委員会への届出

事業譲渡等に対する独占禁止法による規制の目的は、事業譲渡等による競争の実質的な制限を防止することにある。
そこで、独占禁止法は、会社が一定以上の規模の事業譲受等を行う場合に、合併と同様の事前届出義務を事業譲受会社に課している。
会社は、届出書の受理日から30日を経過するまでは事業譲渡等を行うことができない。

□届出義務のある会社

事業譲受等を行う場合に届出をしなければならない会社は、事業譲受等を行う会社の国内売上高と当該会社が属する企業結合集団に属する当該会社以外の会社等の国内売上高合計額が200億円を超える場合の、当該事業譲受会社となる。

□届出が必要なケース

上記に該当する会社が、次のいずれかの行為を行う場合には、事前届出が必要である。
・国内売上高が30億円を超える会社の事業の全部の譲受けをしようとする場合
・他の会社の事業の重要部分の譲受けを使用とする場合であって、当該譲受けの対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合
・他の会社の事業上の固定資産の全部または重要部分の譲受けをしようとする場合であって、当該譲受けの対象部分に係る国内売上高が30億円を超える場合

□届出が不要なケース

上記の場合であっても、事業等の譲受けをしようとする会社及び事業等の譲渡をしようとする会社が同一の企業結合集団に属する場合は、届出が不要となる。

◆特別決議が必要な事業譲渡

株式会社が次の事業譲渡等に関する行為を行う場合は、その効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議による承認を受けることが必要となる。
・事業の全部の譲渡
・事業の重要な一部の譲渡
・他の会社の事業全部の譲受け(事業の一部を譲り受ける場合には株主総会決議は不要です。)
・事業全部の賃貸、経営委託、事業上の損益全部を共通にする契約、その他これらに準ずる契約の締結、変更または解約

□事業の「重要な一部」の譲渡

事業の「重要な一部」の譲渡であっても、当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額がその株式会社の総資産額の20%以下の場合には、株主総会決議は不要。
なお、事業譲渡により総資産額の20%超の資産を譲り渡す場合でも、事業の「重要な」一部の譲渡に該当しない場合には、株主総会の決議は不要。

□簡易事業譲受

他の会社の事業全部を譲り受ける場合に、取得対価として交付する財産の帳簿価額の合計額が譲受会社の純資産額の20%以下である場合には、譲受会社における株主総会決議は不要となる。
ただし、仮に株主総会を開催した場合に、この事業全部の譲受けの決議が否決されるような議決権を有する反対株主から、反対の意志の通知があった場合には、事業譲受の効力発生日の前日までに、株主総会の特別決議による承認を受けることが必要である。

□略式事業譲渡等

事業の全部もしくは重要な一部の譲渡または事業の全部の譲受け等に係る相手方が当該事業の譲渡等をする株式会社の「特別支配会社」である場合は、株主総会の承認を省略することができる。
「特別支配会社」とは、事業譲渡等を行う会社の議決権の90%以上を直接または間接に保有している会社のことをいう。

対象となる契約は以下のものである。
・事業の全部の譲渡
・事業の重要な一部の譲渡
・他の会社の事業の全部の譲受け
・事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任等

⇒事業譲渡とは?その内容についてご紹介
 
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