M&Aの基礎知識 事業譲渡とは

事業譲渡とは、一定の目的のために組織化された有機的一体として機能する有形、無形の財産・債務、事業組織、ノウハウ、取引先との関係などを含む包括的な概念である「事業」の全部または一部を他の会社に譲渡することをいいます。 また、事業譲渡の対価は会社に支払われるため、売手のオーナーが直接資金を受け取ることはできません。そのため、一定の計算に基づいて利益が出れば、売手企業に法人税が課税されることになり、株主には課税されません。また、株式譲渡と違い、消費税の課税対象となる点には注意が必要です。 買手にとっては、簿外債務を引き受けてしまうリスクがないという点でメリットがある手法といえます。 ただし、事業譲渡の手続きは、譲渡対象にする資産・負債、従業員や契約等を選別し、個別に進める必要があるため、同じM&Aの手法である株式譲渡と比べると一般的には煩雑になります。契約が必要なものはすべて再締結が必要であり、事業所の賃貸契約、光熱費や通信費などの契約の名義変更も求められます。また、不動産の名義変更にあたっては、不動産取得税、登録免許税などのコストがかかります。 反対株主の株式買取請求権、競業避止義務についても、事業譲渡では内容を押えておきたい重要な規定です。

(3) 事業譲渡の税務

 

目次

◆事業譲渡における時価
◆譲渡会社の税務上の取扱い
◆譲受会社の税務上の取扱い
◆営業権(のれん)の償却
◆営業権の評価


◆事業譲渡における時価

事業譲渡は、資産負債の包括承継であり、この資産負債を時価で譲渡・譲受したものとして課税所得を計算する。
この場合の時価は、次のように考える。

・第三者間取引の場合は、そこに恣意性がない限りにおいて、原則として交渉で決めた価額が税務上の時価と認められる。

・同族会社間など特殊関係者間の取引の場合は、客観的に時価と認められる価額(専門家など第三者が算定した価額など)を時価とする。

なお、売買価額が時価と異なる場合には、寄付金課税、受贈益課税の問題が起こる。

□同族会社間の売買価額が時価よりも高い場合

売買価額と時価との差額は、譲受会社から譲渡会社へ価値の移転があったものとみなされる。
したがって、譲受会社においては、支払った対価の額と時価との差額のうち実質的に価値の移転があったと認められる金額が寄附金の額とみなされる。
一方、譲渡会社においては、時価での売買よりも譲渡益が多額となり、課税対象額が増える。

□同族会社間の売買価額が時価よりも低い場合

売買価額と時価との差額は、譲渡会社から譲受会社へ価値の移転があったものとみなされる。
したがって、譲渡会社においては、受け取った対価の額と時価との差額のうち実質的に価値の移転があったと認められる金額が寄附金の額とみなされて、寄付金と譲渡益の認定課税が生じる。
一方、譲受会社においては、贈与を受けたと認められる金額について受贈益課税がなされる。

※上記の場合において、その同族会社の関係が完全支配関係であるときは、寄付金として認定される金額については全額損金不算入となり、また、受贈益として認定される金額については全額益金不算入となる。


◆譲渡会社の税務上の取扱い

□法人税

事業譲渡により譲渡した財産の譲渡価額は、その事業譲渡日の属する事業年度の益金の額に算入され、その財産の譲渡直前の帳簿価額が、損金の額に算入される。
譲渡価額が譲渡直前の帳簿価額よりも高ければ、その超える部分の金額は、譲渡益として法人税の課税対象になる。
ただし、事業譲渡を完全支配関係がある法人間で行った場合において一定の要件に該当するときは、グループ法人税制が適用され、譲渡損益が繰り延べられる。

□消費税

事業譲渡により譲渡した資産は、通常の資産の譲渡と同様、各資産に付された対価の額を課税資産と非課税資産(土地、有価証券等)に分類して、消費税の計算を行う。
なお、個々の財産について対価の額が明らかでなく、資産負債を一括して売買価額を決定している場合には、課税資産と非課税資産の時価で按分した金額を用いる。
この場合、営業権は課税資産に含まれる。


◆譲受会社の税務上の取扱い

□取得価額

事業譲渡により取得した資産の取得価額は、売買金額に引取運賃等の付随費用およびその資産を事業の用に供するために直接要した費用を加算した金額となる。
個々の財産の売買金額が明らかでなく、一括して契約している場合には、個々の財産の時価に応じて売買金額を振り分けて個々の売買金額を決定する。

□減価償却限度額

事業譲渡により取得した減価償却資産は、中古資産を取得した場合の見積り耐用年数により減価償却限度額を計算することができる。
その資産の事業供用後の使用可能期間として見積もられる年数により償却するが、この見積りが困難である場合には、次の算式で計算した年数を耐用年数とすることができる。

・法定耐用年数の一部を経過した資産
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%

・法定耐用年数の全部を経過している資産
法定耐用年数×20%
(注)1年未満の端数が生じた場合は切捨て、算式により計算された年数が2年未満のときは2年とする。

なお、取得した減価償却資産のうち取得価額が10万円未満または使用可能期間が1年未満のものについては、事業供用事業年度において損金経理をすることを要件に損金算入することができる。
また、一括減価償却資産の損金算入、中小企業者等の少額減価償却資産の特例(取得価額30万円未満の減価償却資産の取得価額の損金算入)の規定を適用することができる。


◆営業権(のれん)の償却

□会計上の取扱い

会計上、のれんは、原則として20年以内にその効果の及ぶ期間にわたって定額法その他の合理的な方法により規則的に償却することとされている。
一方、負ののれんについては、負ののれんが生じた事業年度の利益として一時で処理することになる。

□税務上の取扱い

事業譲渡した法人が、その事業およびその事業に係る主要な資産負債の概ね全部を譲受法人に移転した場合において、その事業譲渡に係る対価の額とその移転資産負債の時価純資産価額とに差額があるとき等には、資産調整勘定または負債調整勘定を計上し、それぞれ次の金額を損金の額または益金の額に算入することとされている。

□資産調整勘定、差額負債調整勘定

資産調整勘定の金額の当初計上額
    または             × その事業年度の月数 / 60
差額負債調整勘定の金額の当初計上額

□退職給与債務引受額、短期重要債務見込額

退職給与の支払、損失の発生等の一定の事由が発生した場合のその事由に相当する金額

<資産調整勘定>
事業譲渡に係る対価の額が、その事業譲渡に係る資産負債の時価純資産価額を超える場合のその超える部分の金額が資産調整勘定として計上される。

<負債調整勘定>

・退職給与債務引受額
事業譲渡により譲り受けた従業員の退職給与につき、事業譲渡前の在職期間等を勘定して算定する旨を約し、これに伴う負担を引き受けた場合におけるその退職給与債務引受に係る金額

・短期重要債務見込額
事業譲渡に係る事業の利益に重大な影響を与える将来の債務で、その履行が確定していないもののうち、事業譲渡後3年以内におけるその債務の額に相当する金額

・差額負債調整勘定
事業譲渡に係る対価の額が、その事業譲渡に係る資産負債の時価純資産価額に満たない場合のその満たない部分の金額


◆営業権の評価

会計上は、営業権の評価に関しての規定はない。
一方、税法上は、相続税法、財産評価基本通達165に規定されている。
実務においては、財産評価基本通達、DCF法、超過収益還元法、利益年倍法などが営業権の評価に用いられている。

□相続税法財産評価基本通達による評価

超過利益金額(平均利益金額×0.5-企業者報酬の額-総資産価額)×営業権の持続年数(原則10年)に応ずる基準年利率による複利年金原価率

□DCF法による方法

DCF法を用いて、将来予想キャッシュフロー(CF)を元に対象事業の現在価値を算定し、そこから、現在の純資産価額を控除した差額を営業権の価額とする方法。
営業権=将来CFの現在価値(予想税引後純利益÷資本還元率)-時価純資産価額

□超過収益還元法

予想される利益からその事業の正常利益を控除した金額を超過収益力と考え、これを資本還元する方法。
営業権=超過利益(将来の予想税引後利益-正常利益)÷資本還元率

□利益年倍法

平均純利益に当事者間で設定した年数または倍率を乗じて計算する方法。
事業譲渡により取得する利益獲得機会が、今後何年続くかを見積もり、その年数を乗じる。
営業権=平均純利益×年数

 
⇒事業譲渡とは?その内容についてご紹介
 
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⇒平成30年度税制改正で納税猶予はどう変わる?
 
⇛事業承継とは | 事業承継税制から後継者教育まで
 
⇒M&Aとは?企業買収の方法と必須となる基礎知識
 
⇒会社の買収とは | 企業買収の意味と仕組み
 

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