事業承継の基礎知識 5. 非上場株式の相続税・贈与税の納税猶予(事業承継税制)

「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」(事業承継税制)を利用すれば、後継者が現経営者から自社株式を贈与あるいは相続・遺贈によって取得した場合、一定の条件を満たして所定の手続きを行うと、贈与税・相続税の納税が猶予されます。中小企業のオーナーにとって、換金性のない自社株式に対して多額の相続税が課されることは死活問題です。会社に負担をかけず、円滑な事業承継ができるようにするために設けられたのが、この「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」なのです。

5-9. 平成30年度税制改正による納税猶予制度への影響

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◆平成30年度税制改正で納税猶予は抜本的に拡充

中小企業経営者の高齢化が急速に進展する中、後継者難ゆえの廃業により地域経済に打撃を与えるおそれがあり、事業承継の円滑化を通じた生産性の向上は「待ったなし」の極めて重要な課題である。
社長や会社経営者たちは、後継者への経営権の承継を検討するものも、経営状況が芳しいほど、高額になった自社株の株式評価額が足かせになり事業承継が停滞しがちだ。
このような現状の課題を解決するため、事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予及び免除制度)では、現行制度の改正だけでなく、10年間の特例措置として抜本的な見直しが行われた特例制度が創設された。

【贈与税・相続税の納税猶予の改正内容一覧】
【贈与税・相続税の納税猶予の改正内容一覧】

これにより、中小企業者は贈与時および相続時の税負担がゼロで、後継者に自社の株式を承継させることが可能となる。
相続税申告にあたっては、適用の可能性を改めて確認しておきたい。

ただし、特例制度を適用するには、2018年4月1日から2023年3月31日までの間に特例承継計画を都道府県に提出する必要がある(提出期間は5年に限定)。

【贈与税の納税猶予の全体像と改正の影響】
【贈与税の納税猶予の全体像と改正の影響】

【相続税の納税猶予の全体像と改正の影響】
180510【相続税の納税猶予の全体像と改正の影響】

◆改正ポイント①:納税猶予対象株式及び納税猶予税額の拡大

原則制度では、納税猶予対象株式は発行済株式総数の2/3に達するまでである。
さらに、相続税の猶予割合に関しては80%であることから、株式に係る相続税の約53%(2/3×80%)しか猶予されず、税負担の軽減効果は限定的であった。

新設された特例制度においては、特例後継者が、特例認定承継会社の代表権を有していた者から、贈与又は相続若しくは遺贈により当該特例認定承継会社の非上場株式を取得した場合には、その取得した全株式に係る贈与税又は相続税の全額について、特例後継者の死亡の日等までその納税が猶予される。

すべての株式が納税猶予の対象となったことで、今まで以上に後継者ではない相続人の遺留分に配慮する必要がある。

□設例
・被相続人は発行済株式の全株を保有しており、特例後継者が全株を相続により取得(相続開始時の相続税評価額:3億円)。
・特例後継者は被相続人の子で、相続人はこの子1名のみ。上記株式以外に相続財産なし。

【相続税の納税猶予 原則制度と特例制度のイメージ】
【相続税の納税猶予 原則制度と特例制度のイメージ】

◆改正ポイント②:承継パターンの拡大

原則制度では、先代経営者以外の者(例えば、先代経営者の妻)からの贈与については、納税猶予の対象となっておらず、税負担の問題から後継者に株式を集約できないことがあった。
また、中小企業の中には兄弟による共同経営のニーズもあるが、一人の後継者しか納税猶予を受けることができず、必ずしも中小企業経営の承継パターンのニーズに適っていなかった。

特例制度では、代表者以外の者を含む複数人の株主(親族以外の者を含む)から、代表者である特例後継者(最大3名)への納税猶予対象株式の贈与等も納税猶予の対象になる。
ただし、代表者以外の者からの贈与等は、特例承継期間(5年)内に当該贈与等に係る申告期限が到来するものに限る。

なお、原則制度においても、代表者以外の者を含む複数人の株主(親族以外の者を含む)からの贈与等も納税猶予の対象になる。
ただし、代表者以外の者からの贈与等は、特例承継期間(5年)内に当該贈与等に係る申告期限が到来するものに限る。

【原則制度と特例制度】
【原則制度と特例制度の承継パターン】

◆改正ポイント③:雇用確保要件の実質的な撤廃

原則制度では、事業承継後5年間平均で雇用の8割を維持できない場合は納税猶予が打切られ、納税が必要になるため、これが納税猶予の適用を躊躇させる要因だった。

特例制度においては、雇用確保要件を満たせない場合であっても、一定の都道府県へ提出すれば納税猶予を継続できるようになったため、これまでより事業承継税制を選択しやすくなった。

【雇用確保要件を満たさなくなったときの流れ】
【雇用確保要件を満たさなくなったときの流れ】

ただし、雇用確保要件を満たせない場合、一定の書類を提出する必要があるため、原則制度と同様、雇用確保要件充足の継続的な確認が必要となる。
これにより、雇用確保要件は実質的に撤廃されることになるが、資産管理型会社の例外規定とは無関係であり、資産管理型会社に該当する場合、親族以外の従業員が5人未満になると納税猶予は打切りとなる。

◆改正ポイント④:譲渡、合併、解散時等の納税猶予額の減免

原則制度では、後継者が自主廃業を行う場合、納税猶予は打ち切られ納税が必要になるが、その時点で株価が下落していたとしても、承継時の株価を基に贈与税額または相続税額を納税する必要があり、過大な税負担が生じる。
そのことが納税猶予の適用を躊躇させる要因の1つである。

特例承継期間(5年)経過後に下記の事由等が生じた場合、納税猶予が打切られ納税猶予税額の納税が必要となる。
・特例認定承継会社の非上場株主の譲渡
・特例認定承継会社の合併による消滅
・特例認定承継会社の解散

ただし、「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」には、譲渡若しくは合併の対価の額(その時の株式の相続税評価額の50%が下限)又は解散時の相続税評価額に基づき納付金額を再計算し、当初の納税猶予税額との差額は免除される。
これにより、経営悪化で自主廃業を行う場合の過大な税負担への不安が払拭され、事業承継税制を選択しやすくなる。

なお、「経営環境の変化を示す一定の要件を満たす場合」とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
譲渡、合併、解散等の時期によっては、特例の要件で判定することもできる。

【判定時期の原則と特例】
【判定時期の原則と特例】

さらに、譲渡又は合併の場合において、その対価の額がその時の株式の相続税評価額の50%を下回る場合には、担保の提供を条件に、再計算した納付金額は一旦納税猶予される。
そして、譲渡又は合併後2年を経過する日において下記の要件をいずれも満たす場合には、納付金額を再々計算し、当該猶予されている額との差額は免除される。
・譲渡後の特例認定承継会社又は吸収合併存続会社等の事業が継続している
・これらの会社において、特例認定承継会社の譲渡又は合併時の従業員の半数以上の者が雇用されている

【減免額計算の原則】
【減免額計算の原則】

<再計算後の納付金額の計算方法>
次のイ及びロの金額の合計額(当初の納税猶予額が上限)

イ 再計算した贈与税額等:次の(a)又は(b)の場合に応じ、それぞれに掲げる額を基に再計算した贈与税額等
(a)譲渡又は合併の場合:譲渡又は合併の対価の額(譲渡又は合併のときの相続税評価額の50%相当額を下限)
(b)解散の場合:解散の時における株式の相続税評価額

ロ 直前配当等の額:譲渡等の前5年間に特例後継者及びその同族関係者に対して支払われた配当及び過大役員給与等に相当する額

なお、合併の対価として交付された吸収合併存続会社等の株式の価額に対応する贈与税額等を除いた額である。

【減免額計算の特例(譲渡又は合併の対価の額<その時の相続税評価額×50%の場合)】
【減免額計算の特例(譲渡又は合併の対価の額<その時の相続税評価額×50%の場合)】

<再々計算後の納付金額の計算方法>
次のイ及びロの金額の合計額

イ 再々計算した贈与税額等:実際の譲渡又は合併の対価の額を基に再々計算した贈与税等

ロ 直前配当等の額:譲渡等の前5年間に特例後継者及びその同族関係者に対して支払われた配当及び過大役員給与等に相当する額

なお、合併の対価として交付された吸収合併存続会社等の株式の価額に対応する贈与税額等を除いた額である。

◆改正ポイント⑤:相続時精算課税制度の適用対象者の拡大

原則制度においては、後継者が贈与者の子や孫『以外』の場合、納税猶予打切り時に暦年課税で贈与税が課税されるため、後継者に過大な税負担が生じる可能性があり、納税猶予の適用を躊躇させる要因の1つとなっている。

特例制度においては、特例後継者が贈与者の推定相続人以外の者(その年の1月1日において20歳以上である者に限る)であり、かつ、その贈与者が同日において60歳以上の者である場合には、相続時精算課税の適用を受けることができることとする。

これにより、推定相続人以外の特例後継者への贈与であっても、納税猶予が打切りになった場合の税負担リスクが軽減されることになる。

◆納税猶予の期限が確定したときの利子税の計算

納税猶予の期限が確定した場合、納税猶予額に併せて利子税(年3.6%)を納付する。
ただし、各年の特例基準割合が7.3%に満たない場合、利子税の税率は以下の算式で計算する。
3.6% × 特例基準割合(※) ÷ 7.3%(0.1%未満は切捨て)
(※) 特例基準割合は、国税庁のホームページで確認することができる。

例えば、平成30年分の特例基準割合は1.6%なので、平成30年中の利子税の税率は以下の計算になる。
3.6% × 1.6% ÷ 7.3% = 0.7% (0.1%未満は切捨て)
なお、納税猶予期間が5年を超える場合には、特例承継期間(5年間)分の利子税は免除される。

事業承継税制の適用要件の確認は、必ず顧問税理士、コンサルタントなどの専門家にご相談ください。
平成30年度税制改正により、事業承継税制において認定経営革新等支援機関の果たす役割が大きくなり、経営革新等支援機関への注目が高まっています。
山田コンサルティンググループ株式会社は、経済産業省より「経済産業大臣認定経営革新等支援機関」の認定を受けており、お客様の持続的な発展に向けた総合的な支援ができる体制を整えています。お気軽にご相談ください。

 
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