事業承継の基礎知識 相続・事業承継における不動産と税金

相続・事業承継の対策において、不動産の取り扱いは重要なポイントです。不動産の購入、保有、売却にかかわる税金について解説します。

(5) 不動産の売却にかかわる特例

 

買換えの特例、取得費加算の特例、3,000万円の特別控除など、不動産の売却にかかわる特例は多岐にわたる。
そのメリットと適用要件を理解しておけば、税負担を抑えた財産の整理が可能となる。

◆不動産を買換えた場合の売却益と所得税・住民税(事業用資産の買換えの特例)

個人が事業用資産の買換えを行った場合には、一定の要件のもと売却益のうち80%に相当する部分の課税の繰延べを受けることができる。

・個人が、事業の用に供している一定の土地・建物等を売却し、一定の期間内に土地・建物等の特定の資産を取得し、その取得の日から1年以内にその買換資産を事業の用に供した場合には、買換え特例の適用を受けることができる。

・特例の適用を受けるためには、例えば売却・買換えの地域制限や売却資産の所有期間制限、買換資産たる土地・建物等の面積制限などいくつかの要件を満たす必要がある。

・この特例は平成32年12月31日までに売却された場合に適用される。

・この特例の適用を受けた場合に、売却資産の売却時点で課税される譲渡所得の金額は、原則として次の算式によって計算する。
売却資産の売却時点で課税される譲渡所得の金額=収入金額-必要経費

□売却資産の売却金額≦買換資産の購入価額のとき

収入金額=譲渡資産の譲渡価額×0.2
必要経費=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×0.2

□売却資産の売却金額>買換資産の購入金額のとき

収入金額=譲渡資産の譲渡価額-買換資産の取得価額×0.8
必要経費=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×(収入金額÷譲渡資産の譲渡価額)

平成27年8月10日以後に行った買換えが、実務上よく使用される「7号買換え」に該当する場合は、上記算式中の「0.8」および「0.2」は以下の区分に応じ、置き換える。

・地方から東京都23区への買換え:「0.2」→「0.3」、「0.8」→「0.7」
・地方から東京都23区を除く一定の大都市への買換え=「0.2」→「0.25」、「0.8」→「075」
・「7号買換え(所有期間が10年超の長期所有土地・建物等の買換え)」の主な要件は、以下のとおり。

【「7号買換え」の主な要件】
【「7号買換え」の主な要件】

◆相続した不動産を売却した場合の特例(取得費加算の特例)

相続した不動産を売却する場合、売却損益計算上の「取得費」は元の所有者(被相続人)の取得費を引継ぐ。
ただし、相続した土地・建物を、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内に売却した場合には、納付する相続税のうち一定金額を譲渡所得の計算上、取得費に加算することができる。
この特例の適用により、所得税・住民税の負担が減少する。

□制度の概要

相続により取得した土地や建物を、相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内、すなわち相続開始日の翌日から3年10ヶ月以内に売却した場合には、その売却した人が負担した相続税のうち一定金額を取得費に加算して譲渡所得の計算を行うことができる。

【取得費加算の特例の適用対象期間】
【取得費加算の特例の適用対象期間】

この特例を「相続税の取得費加算の特例」といい、この特例の適用を受けると所得税・住民税の負担が減少する。

・通常の譲渡所得税の計算
譲渡所得の金額 = 売却収入 -(取得費+譲渡費用)

・取得費加算の特例を適用する場合の譲渡所得税の計算
譲渡所得の金額 = 売却収入 - {(取得費(※)+取得費加算額)+譲渡費用 }

(※)相続により取得した財産を売却した場合の取得費は、被相続人における取得費を引き継ぐ。また、取得時期も被相続人の取得日を引き継ぐ。

・「相続税の取得費加算の特例」を適用するためには、確定申告が必要。

□取得費加算額の計算式

取得費加算額の計算式は、売却する資産が土地等であるか、それ以外であるかで異なります。

【売却資産が土地等の場合】

(イ)平成26年12月31日以前に開始する相続により取得した土地等の売却
【取得費加算額の計算式(土地:平成26年12月31日以前)】

(ロ)平成27年1月1日以隆に開始する相続により取得した土地等の売却(平成26年度税制改正)
【取得費加算額の計算式(土地:平成27年1月1日以降)】

(ハ)改正前と改正後での取得費加算額の比較

【例】
・法定相続人 1人
・相続財産 2億円(相続税評価額)
・相続税額 4,860万円(平成27年1月1日以降に相続が発生した場合)
・土地Aのみを相続開始後3年10ヶ月以内に売却した場合

【取得費加算額の計算(土地:改正前後での取得費加算額の比較)】

<取得費加算額の計算>
・改正前:上記(イ) 729万円(土地A)+2,187万円(土地B)=2,916万円
・改正後:上記(ロ) 729万円(土地A)

【売却資産が土地等以外(建物等)の場合】
【売却資産が土地等以外(建物等)の場合】
※平成27年1月1日以降に発生する相続により取得した資産に関する「相続税取得費加算額」の計算上、「土地」「土地以外」の区別はなくなり、同じ計算方法となる。

◆居住用不動産の売却と所得税・住民税

・居住用不動産を売却して売却益が生じる場合には、その売却益から3,000万円控除することができる。
・売却益に対する税率は、原則として所有期間5年以下のときは39.63%、所有期間5年超のときは20.315%。
・その他の特例として、「低率分離課税」、「買換特例」が設けられている。
・空き家の発生を抑制する観点から、相続により取得した居住用不動産(空き家)を売却して売却益が生じる場合には、その売却益から3,000万円控除することができる。

◆居住用不動産を売却した場合の3,000万円の特別控除

・居住用不動産を売却した場合には、税負担を軽減する措置として「3,000万円の特別控除」が設けられている。
・居住用不動産の所有期間にかかわらず、居住用不動産の売却による所得のうち3,000万円を非課税とする制度。
・配偶者や直系血族、生計を一にする親族や同族会社等の身内に売却した場合には適用を受けることができない。
・居住用不動産を買換えた場合に、住宅ローン控除との併用はできない。

◆所有期間が10年超の居住用不動産の買換特例

・所有期間が10年超の居住用不動産の売却をし、一定期間内に新たな居住用不動産を取得し居住する場合には、買換えた部分に対応する所得はないものとして所得税等を課さない制度(つまり、売却金額以上の資産を購入した場合には、売却益にかかる所得税等を課さない制度。ただし、課税を繰り延べるだけで、非課税ではない)。

・平成29年12月31日までの居住用不動産の売却が対象となる。

・売却価額が1億円以下である場合に限る。

・「3,000万円特別控除と低率分離課税」の適用を受ける場合には、この特例の適用を受けることはできない。

・配偶者や直系血族、生計を一にする親族や同族会社等の身内に売却した場合には適用を受けることができない。

・当該買換資産について、住宅ローン控除との併用はできない。

◆相続した居住用不動産(空き家)を売却した場合の3,000万円の特別控除

・居住用不動産(空き家)を相続した個人が、その後一定期間内に当該資産を売却した場合には、3,000万円の特別控除を受けることができる。

なお、低率分離課税および買換特例の規定は適用できない。

・売却する居住用不動産(空き家)は、昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建物を除く)であり、かつ、譲渡時において耐震基準に適合していることが必要。なお、居住用不動産(空き家)を取り壊し、敷地のみを売却していても対象となる。

・相続時期から譲渡時期まで事業・貸付・居住の用に供していない場合に限る。

・平成31年12月31日まで、かつ、相続開始日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却が対象となる。

・売却価額が1億円以下である場合に限る。

・この特例を受けるためには一定の書類を添付した確定申告書の提出が必要。

・この特例を受けた場合、「相続税の取得費加算の特例」は適用できない。

◆居住用不動産の売却損の取扱い

・不動産の売却損は、原則として、その他の所得と損益通算することができない。
・特例として、所有期間5年超の居住用不動産の売却損で一定の要件を満たす場合には、損益通算することができ、また、相殺しきれなかった売却損は翌年以降3年間繰越すことができる。

□原則

・不動産の売却損は、同じ年の他の所得(給与所得や事業所得等)と損益通算することができないため、居住用不動産の売却損も原則として他の所得との損益通算はできない。
・同じ年に他の不動産の売却益が生じた場合には、通算することができる。

□2つの特例(損益通算および繰越控除)

平成29年12月31日までの売却で、所有期間5年超の居住用不動産の売却損について、一定の要件に該当する場合には、以下(1)(2)の2つの特例が認められている。

(1)同じ年の他の所得(給与所得や事業所得等)と居住用不動産の売却損を相殺することが可能
(2)(1)で相殺しきれなかった売却損については、翌年以降3年間(合計所得金額が3,000万円以下の年に限る)繰り越して、その翌年以降の所得と相殺することが可能
【2つの特例(損益通算および繰越控除)】

◆住宅ローンにより居住用不動産を買換える場合

・住宅ローンにより新たな居住用不動産に買換えて、一定の要件を満たした場合に、②の特例を適用できる。
・この特例を受けるためには確定申告が必要です。また、繰越控除を受けるためには、毎年連続して確定申告する必要がある。
・適用要件を満たせば、併せて取得した居住用不動産に「住宅ローン控除」の適用を受けることができる。

◆居住用不動産の売却代金でローンが完済できない場合

・売却した居住用不動産に係るローン残高が売却金額を超えている等一定の要件を満たした場合には、一定のローン残高の金額から売却金額を控除した残額を限度として、②の特例を適用できる。
・この特例を受けるためには確定申告が必要です。また、繰越控除を受けるためには、毎年連続して確定申告する必要がある。

【売却損の金額と売却金額の合計額が住宅ローン残高を上回る場合】
【売却損の金額と売却金額の合計額が住宅ローン残高を上回る場合】

【売却損の金額と売却金額の合計額が住宅ローン残高を下回る場合】
【売却損の金額と売却金額の合計額が住宅ローン残高を下回る場合】

 
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