事業承継の基礎知識 相続・事業承継における不動産と税金

相続・事業承継の対策において、不動産の取り扱いは重要なポイントです。不動産の購入、保有、売却にかかわる税金について解説します。

(6) 法人が不動産を売却したときの税金と特例

不動産を売却した場合、原則として売却金額から帳簿価額を控除して、譲渡損益を計算する。
ただし、一定の資産の譲渡益については、課税を将来に繰り延べる圧縮記帳や、課税の減免である特別控除の適用を受けることができる。

◆圧縮記帳

□概要

圧縮記帳とは、不動産の買換えや交換等を行った場合に、一定の会計処理(圧縮記帳)を行うことにより、資産の譲渡益のうち、一定の金額を税務上の損金(圧縮損)とすることができる制度である。
税務上は、資産の譲渡益と圧縮損が相殺されるため、譲渡益に対する課税が軽減される。

圧縮記帳を行った場合、新たに取得した資産の税務上の取得価額は、圧縮損控除後の金額となる。
従って、減価償却資産について圧縮記帳を行った場合、税務上の取得価額が小さくなることから、以後減価償却費として損金に算入できる金額は小さくなる。
また、将来その資産を売却した際の譲渡益の金額は大きく(または譲渡損の金額は小さく)なる。
つまり、圧縮記帳は将来の課税所得を増加させることとなるため、課税の減免制度ではなく、課税の繰延制度といえる。

□会計処理

圧縮記帳の適用を受けるためには、新たに取得した資産について①・②・③いずれか(交換により取得した資産の圧縮記帳は①のみ)の会計処理を行う必要がある。
例えば300の資産を取得し、120の圧縮記帳を行う場合、次のような処理となる。

①損金経理により帳簿価額を減額する方法

【損金経理により帳簿価額を減額する場合の仕訳】
【損金経理により帳簿価額を減額する場合の仕訳】

②確定決算で積立金として積み立てる方法

【確定決算で積立金として積み立てる場合の仕訳】
【確定決算で積立金として積み立てる場合の仕訳】

③決算の確定の日までの剰余金処分により積立金として積み立てる方法
【決算の確定の日までの剰余金処分により積立金として積み立てる場合の仕訳】
【決算の確定の日までの剰余金処分により積立金とする場合の仕訳】

なお、会計上は②・③の処理を原則としている。
また、税効果会計を適用する場合には、圧縮積立金の額は、税効果相当額を控除した金額となるため、次のように処理することとなる(実効税率は30%とする)。

【税効果会計を適用する場合の仕訳】
【税効果会計を適用する場合の仕訳】

◆買換えの特例

□概要

平成32年3月31日までに特定の譲渡資産(棚卸資産を除きます)を譲渡し、かつ、原則として譲渡資産を譲渡した事業年度の前後1年以内に特定の買換資産を取得し、これをその取得の日から1年以内に事業の用に供した場合には、譲渡資産に係る譲渡益の80%(※1)相当額を限度として、圧縮記帳を適用し、課税を繰り延べることができる。

この制度の対象となる買換えは、例えば次のような買換えである。

【買換え特例の対象】
【買換え特例の対象】

(※1)長期保有資産の買換えのうち、次の買換えについては、それぞれ次に掲げる割合
・大都市等(首都圏・名古屋・近畿圈の一部)以外の地域から大都市等への買換え…75%
・大都市等以外の地域から特定地域(東京23区)への買換え…70%

(※2)既成市街地等の区域内から区域外への買換えについては、平成29年度税制改正により譲渡資産および買換資産からそれぞれ以下のものを除くこととされている。
・譲渡資産 事務所用建物およびその敷地用の土地等
・買換資産 都市再生特別措置法に基づき各市町村が作成した立地適正化計画に記載された地域(都市機能誘導区域)以外にある土地等、建物および構築物

(※3)長期保有資産の買換えについては、買換資産(土地等)について以下の制限が設けられている。
・その面積が300m2以上のものであること。
・事務所等一定の施設の敷地の用に供されるもの(当該施設に係る事業の遂行上必要な駐車場の用に供されるものを含む)または駐車場の用に供されるもの(建物または構築物の敷地の用に供されていないことについて、やむを得ない事情があるものに限る)であること。

□課税の繰延額(圧縮損の計上限度額)

圧縮損の計上限度額は、譲渡資産の譲渡対価の額と買換資産の取得価額のいずれか少ない金額(圧縮基礎取得価額)に譲渡資産の譲渡益割合(譲渡益÷譲渡対価)を乗じた価額の80%(※)相当額となる。
(※)地方から大都市等への買換え等、一定の場合は75%または70%

□設例

10年超所有していた遊休地を譲渡し、新たに事業用の土地を購入し、事業の用に供した。
当該買換えに係る課税所得はいくらになるか。

・資産の種類:土地
・譲渡対価の額:100,000,000円
・譲渡資産の帳簿価額及び譲渡経費:30,000,000円
・譲渡資産の譲渡益:70,000,000円
・買換資産の取得価額:120,000,000円

イ)圧縮基礎取得価額
100,000,000円(譲渡対価の額と買替資産の取得価額ンおいずれか少ない金額)

ロ)譲渡資産の譲渡益割合
【譲渡資産の譲渡益割合】
【譲渡資産の譲渡益割合】

ハ)圧縮損の計上限度額
100,000,000円×0.7×80%=56,000,000円

ニ)買換えに係る課税所得
70,000,000-56,000,000円=14,000,000円

【買換えの特例 税務上の取り扱いイメージ】
【買換えの特例 税務上の取り扱いイメージ】

なお、仮に上記のケースで買換資産の取得価額が80,000,000円であった場合、圧縮基礎取得価額は80,000,000円、譲渡資産の差益割合は0.7 (70,000,000円÷100,000,000円)、圧縮損の計上限度額は44,800,000円(80,000,000円×0.7×80%)、買換えに係る課税所得は25,200,000円(70,000,000円-44,800,000円)となる。

◆交換の特例

□概要

次の要件を全て満たす固定資産の交換をした場合には、交換譲渡資産の譲渡益を限度として、圧縮記帳を適用し、課税を繰り延べることができる。

・譲渡資産が1年以上所有の土地等、建物(付属設備、構築物を含む)、機械及び装置、船舶、鉱業権等の固定資産であること
・譲渡資産と取得資産は同一種類の資産であること
・取得資産は、相手方が過去1年以上所有していること
・取得資産は、交換譲渡資産の用途と同一の用途に供すること
・取得資産が、交換の相手方において交換のために取得したものでないこと
・交換差金等の金額が、譲渡資産の時価と取得資産の時価のいずれか多い方の価額の20%以内であること

□課税の繰延額(圧縮損の計上限度額)

圧縮損の計上限度額は、交換の形態によりそれぞれ次の算式により計算する。

【交換の形態と圧縮損の計上限度額】
【交換の形態と圧縮損の計上限度額】

□設例

当社が所有している底地(借地権がついている土地)の一部と他社が所有している借地権の一部とを交換し、更地にして駐車場の用に供することとしました。当該交換に係る課税所得はいくらになりますか。なお、交換の特例の要件を全て満たすものとし、交換差金等の授受はありません。

【設例の概要】
【設例の概要】

・譲渡資産の帳簿価額:5,000,000円(時価10,000,000円)
・取得資産の価額(時価):10,000,000円
・譲渡経費:300,000円

圧縮損の計上限度額が4,700,000円(10,000,000円-(5,000,000円+300,000円))となるため、交換に係る課税所得は、0円(4,700,000円-4,700,000円)となる。

【交換の特例 税務上の取り扱いイメージ】
【交換の特例 税務上の取り扱いイメージ】

◆収用等の特例

□概要

法人の所有する資産が国や地方公共団体に収用等された場合には、法人は補償金を取得することになり、この補償金に対応する譲渡益については法人税の課税対象になります。

ただし、法人が代替資産を取得した場合において、次の全ての要件を満たし、かつ、圧縮記帳を適用したときは、圧縮限度額の範囲内で課税を繰り延べることができます。

・収用等された資産(譲渡資産)が土地、建物等の固定資産(棚卸資産を除く)であること
・代替資産は、原則として譲渡資産と同じ種類の資産であること
・原則として収用等のあった日から2年以内に代替資産を取得すること等
なお、課税の繰り延べの対象となる補償金は対価補償金(※1)であり、収益補償金(※2)や移転補償金(※3)等は、原則として課税の繰り延べの対象となりません。

(※1) 対価補償金…収用等された資産の対価となる補償金
(※2) 収益補償金…資産を収用等されることによって生ずる事業の減収や損失の補てんに充てられるものとして交付される補償金
(※3) 移転補償金…資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付される補償金

□課税の繰延額(圧縮損の計上限度額)

イ)取得した対価補償金等の額-(譲渡経費-移転補償金等の額)※=改訂補償金等の額
ロ)改訂補償金等の額-譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額=譲渡差益の額
ハ)譲渡差益の額÷改訂補償金等の額=差益割合
ニ)

【圧縮限度額の計算】
【圧縮限度額の計算】
※マイナスの場合は0となります。

□設例

法人の所有する事業用の土地が国に収用されたので、補償金をもって新たに土地を取得し、事業の用に供しました。取得した土地の圧縮限度額を教えて下さい。
・収用された土地の帳簿価額 20,000,000円
・対価補償金等の額 82,000,000円
・移転補償金等の額 1,000,000円
・譲渡経費 3,000,000円
・代替資産(土地)の取得価額 100,000,000円

①改訂補償金等の額
82,000,000円 -(3,000,000円-1,000,000円)= 80,000,000円

②譲渡差益の額
80,000,000円 - 20,000,000円 = 60,000,000円

③差益割合
60,000,000円 ÷ 80,000,000円 = 0.75

④圧縮記帳の基礎となる取得価額
80,000,000円 < 100,000,000円
∴ 80,000,000円

⑤圧縮限度額
80,000,000円 × 0.75 = 60,000,000円

【収用等の特例 税務上の取り扱いイメージ】
【収用等の特例 税務上の取り扱いイメージ】
 

◆特別控除

特別控除とは、一定の要件を満たす不動産の譲渡等を行った場合に、その資産の譲渡益を限度として、一定の金額を損金の額に算入することができる制度である。
なお、特別控除は圧縮記帳と異なり、他の資産の帳簿価額を減額する必要はない。
つまり、課税の減免制度となる。

収用換地等の場合の所得の特別控除における限度額は5,000万円であり、圧縮記帳の特例との選択適用である。

 
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