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事業承継の基礎知識 有価証券の税務・会計

法人税法は有価証券を次のように定義しています。 有価証券とは「金融商品取引法第2条第1項に規定する有価証券その他これに準ずるもので政令で定めるもの(自己が有する自己の株式または出資および法人税法第61条の5第1項に規定するデリバティブ取引に係るものを除く。)をいう。」

(3) 有価証券の譲渡損益

法人が有価証券を譲渡した場合、譲渡損益が発生する。例えば、値上がりを期待して保有していた上場株式を市場で売却するとき、その時の譲渡対価が帳簿価額(譲渡原価)を上回っていれば譲渡益が生じ、譲渡対価が帳簿価額(譲渡原価)を下回っている場合は譲渡損が生じる。譲渡損益は法人税の課税所得計算上、損金または益金の額に算入される。

有価証券の譲渡損益は次のように計算する。

譲渡損益=譲渡対価-譲渡原価
譲渡原価=1単位当たり帳簿価額×譲渡単位数

譲渡対価は原則として有価証券を譲渡し、その対価として得た金額のことをいい、みなし配当がある場合には当該みなし配当の額を控除した金額とする(時価で譲渡した場合を前提とする)。

税務上、1単位当たり帳簿価額の算出方法は移動平均法と総平均法のいずれかによることとされており、売買目的有価証券、満期保有目的等有価証券、その他有価証券の区分ごとに、かつ、有価証券の種類ごとに算出方法を選定し、区分した後のそれぞれの銘柄ごとに、選定した算出方法により取得価額を平均化して1単位当たり帳簿価額を計算する。

移動平均法または総平均法の選定については納税地の所轄税務署長に届出を行う必要があり、届出を行わなかった場合には法定の計算方法である移動平均法により1単位当たりの帳簿価額を算出する。

譲渡損益は原則として譲渡に係る契約をした日(約定日)に計上するが、一定の条件に基づき有価証券を引き渡した日に計上することができる。

譲渡損益の計算と計上時期

譲渡損益の計上時期
(1)原則は約定日基準

有価証券の譲渡損益は原則として譲渡に係る契約をした日(約定日)に計上し、約定日の属する事業年度の所得の計算上、益金の額または損金の額に算入する((6) 有価証券投資の設例 仕訳編【設例】―国内株式を売却した場合―参照)。

(2)例外としての引渡日基準

次のような場合は約定日基準によらず、有価証券を引き渡した日に譲渡したとして取り扱う引渡日基準により譲渡損益を計上することができる。

①売買目的有価証券、満期保有目的等有価証券、その他有価証券の区分ごとに
②譲渡および取得のいずれについても、引渡し日に計上する経理処理を
③継続適用している

ただし、この要件を満たしていても、事業年度終了の日において未引渡しとなっている有価証券に係る譲渡損益については、原則通り約定日に認識しなければいけない。
なお、会計上では原則として税務上と同様「約定日基準」により有価証券の譲渡損益を計上するが、継続適用を条件として「修正受渡日基準(保有目的区分ごとに、買手は約定日から受渡日までの時価の変動のみを認識し、売手は売却損益のみを約定日に認識する方法)」によることもできる。

譲渡対価

有価証券の譲渡損益の計算上、譲渡対価は原則として有価証券を譲渡し、その対価として得た金額のことをいい、みなし配当(資本政策の会計・税務(2) 自己株式の会計・税務「自己株式の取得に応じた株主の税務上の取扱い」参照)がある場合には当該みなし配当の額を控除した金額となる。

<法人と役員との間で有価証券の低廉譲渡を行った場合の法人側の課税関係>
一般的には有価証券を譲渡して受け取った対価が譲渡対価となるが、例えば法人とその法人の役員との間で特別な事情により時価よりも低い価額または無償で有価証券の売買等が行われるケースがある。この場合、実際に受け取った対価ではなく時価を基準に法人税を計算する場合があるので留意が必要である。

(1)法人から役員に譲渡するケース

法人から役員に時価よりも低い価額または無償で有価証券を譲渡した場合、譲渡した法人側では時価と実際の取引価額との差額は損金算入が認められない場合がある。すなわち、時価と実際の取引価額との差額は役員に対する給与として取り扱われ、当該差額が毎月概ね一定額発生している場合等のケースを除いて、役員賞与として損金算入が認められない点に留意が必要である。
【法人から役員に譲渡するケース】

(2)法人が役員から取得するケース

法人が役員から時価よりも低い価額または無償で有価証券を取得した場合、取得した法人側では時価と実際の取引価額との差額は受贈益として、法人税の課税所得計算上、益金の額に算入される。
【役員から法人に譲渡するケース】

譲渡原価

譲渡原価とは、有価証券の譲渡損益の計算上、譲渡対価から差し引く金額をいい、「譲渡原価=1単位当たり帳簿価額×譲渡単位数」として計算する。
具体的には、有価証券を売買目的有価証券、満期保有目的等有価証券、その他有価証券に区分し、かつ、有価証券の種類ごとに選定した算出方法(移動平均法または総平均法)により、区分した後のそれぞれの銘柄ごとに1単位当たりの帳簿価額を算出し、譲渡した有価証券の数を乗じて譲渡原価を計算する。

(1)取得価額の決定

1単位当たりの帳簿価額は移動平均法または総平均法により有価証券の取得価額を平均化して算出するので、まず取得価額を決定する必要がある。
有価証券を取得する一般的な方法として、上場株式等を証券会社を通じて購入するケースが考えられる。他にも、新たに設立された会社の株式を引き受ける場合、増資の割当てにより新株を取得する場合等がある。そこで法人税法は有価証券の取得価額の算定を取得の方法に応じて定めており、主要な取得の方法に係る取得価額の決定は下表の通りである。

【取得の方法に応じた取得価額】
【取得の方法に応じた取得価額】
※証券会社に対する購入手数料は取得価額に算入することになるが、有価証券を取得するために要した通信費、名義書換料、外国有価証券の取得に際して徴収される有価証券取得税その他これに類する税については取得価額に含めないことができる。

(2)1単位当たり帳簿価額

有価証券の譲渡原価を計算するためには、1単位当たり帳簿価額の計算を行わなければならない。税務上、1単位当たり帳簿価額の算出方法は移動平均法と総平均法のいずれかによることとされており、売買目的有価証券、満期保有目的等有価証券、その他有価証券の区分ごとに、かつ、有価証券の種類ごとに算出方法を選定し、区分した後のそれぞれの銘柄ごとに選定した算出方法により、1単位当たり帳簿価額を計算する。
なお、移動平均法または総平均法の選定については納税地の所轄税務署長に届出を行う必要があり、届出を行わなかった場合には法定の計算方法である移動平均法により1単位当たりの帳簿価額を算出する(下表参照)。

【移動平均法と総平均法の内容】
【移動平均法と総平均法の内容】
※ここでいう「銘柄」とは、有価証券を売買目的有価証券、満期保有目的等有価証券、その他有価証券のいずれかに区分した後の銘柄のことをいう。

(3)1単位当たり帳簿価額の算出方法の届出

①1単位当たり帳簿価額の算出方法の選定と届出
新たに有価証券を取得(適格合併または適格分割型分割による被合併法人または分割法人からの引継ぎを含む。)した場合には、その取得の日の属する事業年度の確定申告書(仮決算に基づく中間申告を行う場合は中間申告書)の提出期限までに、1単位当たり帳簿価額の算出方法(移動平均法または総平均法)を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければいけない。
ただし、取得事業年度前の事業年度において既に区分および種類を同じくする有価証券を取得している場合は、既に適用している算出方法で1単位当たり帳簿価額を算出することになる。
なお、移動平均法または総平均法の選定は、売買目的有価証券、満期保有目的等有価証券、その他有価証券の区分ごとに、かつ、有価証券の種類ごとに行う。

②法定の計算方法としての移動平均法
1単位当たり帳簿価額の算出方法の届出を行わなかった場合、あるいは届け出た算出方法により1単位当たり帳簿価額を算出しなかった場合は、法定の計算方法である移動平均法により1単位当たり帳簿価額を算出することになる。

③1単位当たり帳簿価額の算出方法の変更
選定した1単位当たり帳簿価額の算出方法を変更する場合には、新たに採用する算出方法をその採用しようとする事業年度開始の日の前日までに、変更する理由等を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出し、承認を受ける必要がある。ただし、現在採用している算出方法を採用してから3年を経過していないときや、3年が経過していても変更することについて合理的な理由がないと認められるとき、またはその変更によっては課税所得の計算が適正に行われ難いと認められるときは、税務署長は申請を却下できるとされているため、注意が必要である。

有利発行により取得した有価証券に係る課税関係

上記の【取得の方法に応じた取得価額】の表③のように、例えば時価よりも安い価額で発行(有利発行)された株式を法人が取得する場合、その取得価額は実際の払込金額ではなく、取得時において取得のために通常要する価額(時価)とされ、払込金額と時価との差額は株式を取得した法人において受贈益として法人税の課税所得計算上、益金の額に算入されることがある。

ところで、有利発行により株式を取得した場合でも、例えばその取得が当該発行法人の株主として株主割当に応じたもので、当該株主割当が株式の内容および数に応じた平等の割り当てであり、かつ、その株主と異なる株式を有する株主との間においても経済的な衡平が維持される場合には、株主間で不平等が生じることがなく、課税上の弊害もない。しかし、例えば特定の第三者が有利発行により株式を取得するケース等においては、有利発行される前に既存株主が有していた価値(持分)の一部が有利発行後には有利発行により株式を取得した当該第三者に移転することになる。そこで、有利発行による第三者割当の方法で株式を取得した者が法人である場合には、当該株式の時価と払込金額との差額は受贈益として、当該法人の法人税の課税所得計算上、益金の額に算入される。

なお、有利発行であるか否かは、払込金額等を決定する日の現況における当該発行法人の株式の価額(決定日の価額のみをいうのではなく、決定日前1月間の平均株価等、払込金額等を決定するための基礎として相当と認められる価額をいう。)と払込金額等との差額が払込金額等を決定する日の時価の概ね10%相当額以上であるか否かにより判定することになる。

保有目的区分の変更

保有目的の区分(売買目的有価証券、満期保有目的等有価証券、その他有価証券)の決定は当該有価証券の取得時に行い、取得後の変更は原則として認められていない。保有目的に応じて評価方法が異なることから、保有目的の変更を取得後に自由に認めてしまうと、それまで帳簿価額と時価の差額について評価損益を認識していなかった有価証券について、保有目的の変更により評価損益が認識される等、法人の意思により課税所得が変動し、課税上の弊害が生じるおそれがあるからである。ただし、例外的に一定の事由が生じた場合には保有目的の変更が認められている。
下表の「①変更前区分」に区分していた有価証券について、「②変更事由」が生じたときは、当該事由が生じた時において、「①変更前区分」の有価証券を「③譲渡等の価額」で譲渡し、かつ、「④変更後区分」の有価証券を「③譲渡等の価額」で取得したものとみなして各事業年度の所得の金額を計算する。

【保有目的区分の変更に関する取り扱い】
【保有目的区分の変更に関する取り扱い】
※企業支配株式等とは、法人の特殊関係株主等が発行済株式または出資の総数または総額の20%以上を※有する場合のその法人の株式または出資のことをいう。

従って、「③譲渡等の価額」が帳簿価額となっているケースにおいては、「①変更前区分」の有価証券を帳簿価額で譲渡したものとみなされ、保有目的の変更時点で特に課税関係は生じないが、「③譲渡等の価額」が時価となっているケースにおいては、保有目的の変更時点で時価と帳簿価額との差額が益金または損金の額に算入される。
なお、保有目的区分の変更後はその変更後の保有目的に応じて事業年度末の評価を行うので、例えば、満期保有目的等有価証券に区分していた企業支配株式が企業支配株式に該当しないこととなり、その保有目的区分を売買目的有価証券に変更する場合、保有目的の変更時点では課税関係は生じないが、事業年度末においては時価法により評価を行い、評価差額は益金または損金の額に算入する。

クロス取引を行った場合の税務上の取り扱い

クロス取引とは、ある銘柄の注文において、同一銘柄、同数量の買い注文と売り注文を同時に発注し、約定させる取引をいう。例えば、顧客はこの取引を証券会社に委託することで、取引の前後において保有する株式の銘柄、数量を変化させることなく、保有する株式等の含み損または含み益を実現することができる。この点、クロス取引は、形式的に売買を行うことにより、損金または益金算入が認められない評価損益を実質的に実現させる取引として、税務上は当該売買はなかったものとして取り扱うこととされており、クロス取引による譲渡損益の実現は認められない。
なお、売買目的有価証券については、評価損益が損金または益金に算入される。

(参考:法人税法基本通達2-1-23の4)

同一の有価証券(法第61条の3第1項第1号《売買目的有価証券の期末評価額》に規定する売買目的有価証券を除く。)が売却の直後に購入された場合において、その売却先から売却をした有価証券の買戻しまたは再購入(証券業者等に売却の媒介、取次ぎもしくは代理の委託をしている場合の当該証券業者等からの購入または当該証券業者等に購入の媒介、取次ぎもしくは代理の委託をしている場合の当該購入を含む。)をする同時の契約があるときは、当該売却をした有価証券のうち当該買戻しまたは再購入をした部分は、その売却がなかったものとして取り扱う。

(注1)同時の契約がない場合であっても、これらの契約があらかじめ予定されたものであり、かつ、売却価額と(注1)購入価額が同一となるよう売買価額が設定されているときまたはこれらの価額が売却の決済日と購入(注1)の決済日との間に係る金利調整のみを行った価額となるよう設定されているときは、同時の契約がある(注1)ものとして取り扱う。
(注2)本文の適用を受ける取引に伴い支出する委託手数料その他の費用は、当該有価証券の取得価額に(注2)含めない。
(注3)購入の直後に売却が行われた場合の当該購入についても同様に取り扱う。

なお、会計上もクロス取引について売買処理を認めない旨の指針が定められている。

自己株式の買取りに応じて株式を譲渡した場合の取り扱い

自己株式の買取りに応じて株式を譲渡した場合、自己株式の取得側と買取りに応じて譲渡した譲渡側において、通常の有価証券の取得または譲渡とは異なる税務上の取り扱いがなされる。そこで、①取得側(株式発行法人)と②譲渡側(法人株主)のそれぞれの課税関係について、設例を交えながら説明する。

【設例】

【株式発行法人(A社)の自己株式取得直前の概要】
 <自己株式取得直前の法人税法上の貸借対照表>
【株式発行法人(A社)の自己株式取得直前の概要】
・発行済株式総数 1,000株(普通株式のみ)
・1株当たりの資本金等の額 40,000円(=資本金等40,000千円÷発行済株式総数1,000株)
 【法人株主が有する譲渡直前のA社株式の内容】
・保有株式数 1株
・帳簿価額 45,000円
 【取引の概要】
・売買株式数 1株
・譲渡価額(全て現金交付) 50,000円

①取得側(株式発行法人)
取得側(株式発行法人)にとって自己株式の購入(取得)は発行した株式の買い戻しであり、株主から当初払い込まれた資本金等の払い戻しと当該払込資本により獲得した利益の分配(配当)と考えることができる。そこで、法人税法上は取得した自己株式に対応する資本金等の額(取得資本金額)を減額(取得直前の資本金等の額が零以下の場合は零とする)し、株主に対して支払った対価が当該取得資本金額を上回った場合には、その上回った金額を配当とみなして(みなし配当として)利益積立金から減額することになる。
設例に基づく法人税法上の仕訳は以下の通りである。

【設例に基づく法人税法上の仕訳 取得側】
【設例に基づく法人税法上の仕訳 取得側】
②譲渡側(法人株主)
自己株式の買取りに応じて株式を譲渡した場合、譲渡側の法人株主では、
イ)譲渡価額が譲渡した株式に対応する発行法人の取得資本金額(譲渡直前の発行法人の資本金等の額が零以下の場合は零とする)を上回る金額についてみなし配当として受取配当等の益金不算入の取り扱いがなされ、配当として受け取った法人側では配当額の20%~概ね100%が益金不算入となり((4) 有価証券に係る利子・配当等「益金不算入額の計算方法」参照)、
ロ)譲渡した株式に対応する発行法人の取得資本金額と譲渡原価の差額が譲渡損益となる。
設例に基づく法人税法上の仕訳は以下の通りである。

【設例に基づく法人税法上の仕訳 譲渡側】
【設例に基づく税法上の仕訳 譲渡側】
①みなし配当 10,000円(50,000円(譲渡価額)-40,000円(資本金等の額))
①受取配当等の益金不算入制度が適用される。
②譲渡損 5,000円(40,000円(資本金等の額)-45,000円(帳簿価額))
②損金の額に参入される。

<参考>
【「帳簿価額<資本金等の額」の場合】
【「帳簿価額<資本金等の額」の場合】
※自己株式の買取りに応じて株式を譲渡した場合、譲渡側の法人株主では譲渡価額と譲渡原価の差額のうち、みなし配当の額については受取配当等の益金不算入の取り扱い(みなし配当課税)により、配当額の20%~概ね100%が益金不算入となるので、発行法人(A社)以外に当該株式を同額で譲渡する場合(みなし配当相当額について譲渡損益として取り扱われる)と比べて、課税所得が圧縮されることになる。
※ただし、上記は自己株式の買取りに応じて株式を譲渡した場合(公開買付・相対取引)の取り扱いとなるので、上場会社が自己株式を有価証券市場で購入した(市場取引)場合には、当該株式を売却した株主に対してみなし配当課税は行われない(資本政策の会計・税務(2) 自己株式の会計・税務「自己株式の取得に応じた株主の税務上の取扱い」参照)。

<自社株TOBの税金軽減効果と留意点>
上場会社等(上場株式、店頭売買登録株式等の発行者)が自己株式を取得する場合、株主総会の特別決議に基づく特定の株主との相対取引のケースを除いて、有価証券市場等からの取得または公開買付(TOB)によらなければならない。有価証券市場から自己株式を取得する場合には譲渡側の法人株主にみなし配当課税は行われないが、株式発行会社による公開買付(自社株TOB)に応じた場合にはみなし配当課税が行われ、譲渡側の法人株主は前述のような課税所得の圧縮効果を享受することができる。

このように、株式発行会社による公開買付(自社株TOB)に応じた法人株主の課税所得の圧縮効果が、いわゆる「自社株TOBの税金軽減効果」であり、例えば株式発行会社による公開買付価格が市場価格よりもディスカウントされていても、法人税等を考慮すると(当該株式売却取引により生じる税引き後のキャッシュ・イン・フローから判断すると)、法人株主は市場で公開買付価格よりも高い市場価格で当該株式を売却するよりも、発行会社による公開買付(自社株TOB)に応じるほうが有利なケースが存在する。
ただし、自己株式として取得されることを予定して取得した株式が自己株式として取得された際に生ずるみなし配当については、受取配当等の益金不算入制度の適用はなく、益金となる。
この結果、例えば自社株TOB実施の公表中に当該自社株TOBに応じることを予定して対象株式を購入し、その後自社株TOBに応じて当該株式を売却するケースから生じるみなし配当については、受取配当等の益金不算入制度の適用はなく、上述のような課税所得の圧縮効果が享受できないことになる。

なお、この取り扱いは、自社株TOBに応じた際に生じるみなし配当だけでなく、法人間での相対取引により生じるみなし配当についても適用される。
(グループ法人単体課税制度についてはグループ法人税制とは「(7) グループ法人間の金庫株譲渡」参照)

信用取引
(1)信用取引の概要

信用取引とは、一定の保証金(委託保証金)を証券会社に差し入れることで、証券会社から資金を借りて株式を買う(信用買い)、または、借りてきた株式を売る(信用売り)取引のことである。
信用取引では一般に反対売買を行い、売買代金の差額等を受払いすることによって決済する場合が多いようであるが、株券を受渡しすることによって決済することもできる。すなわち、信用買いしているときは約定金額および諸費用を支払ってその株式を引き取り(「現引」という。)、信用売りしているときは信用売りした株式と同一銘柄の株券を引き渡して(「現提(現渡)」という。)信用取引を決済する。

(2)信用取引における損益

①信用取引による譲渡損益
信用取引による株式の譲渡損益の計上時期は、他の有価証券取引の場合と同様に、反対売買を行った場合はその反対売買の契約をした日(約定日)、現渡の場合はその決済に係る約定が成立した日(約定日)となる。
信用買いの決済を現物の受渡し決済(取引)で行い、株式を取得した場合(繰延ヘッジ処理の適用を受けて取得した場合を除く。)、取得時の時価に受渡決済に伴って新たに支出する委託手数料その他の費用の額を加算した金額を現引した株式の取得価額とし、当該取得価額と買付けに係る対価の額との差額は、その取得の日の属する事業年度の所得の額の計算上、益金または損金の額に算入する。
なお、信用取引による取得価額(譲渡原価)・譲渡損益は他の保有する株式と区分して個別法(個別決済)により計算を行う(
(6) 有価証券投資の設例 仕訳編「信用取引(信用買い)」参照)。

②信用取引に係る委託手数料等の取り扱い
法人が信用取引の方法により株式の買付け(買建て)または売付け(売建て)を行うと、その取引に関して証券会社との間で委託手数料や支払日歩(信用取引の売付けまたは買付けから決済までの期間に応じた金利相当分)等の授受が行われる。これらについては、原則として、買付けを行った場合に証券会社に支払う委託手数料や金利相当額等は買付けに係る対価の額に含め、売付けを行った場合に証券会社に支払う委託手数料は買付けに係る対価の額に、受領する金利相当額は売付けに係る対価の額に、それぞれ含める。
ただし、委託手数料以外については、継続適用を条件にそれぞれの対価の額に含めず、発生に応じて費用または収益として益金の額または損金の額に算入することが認められている。

③配当落調整額および権利処理価額の取り扱い
配当落調整額とは、買建中または売建中にその株式について配当が付与された場合において、証券会社が売付けを行った者から徴収し、買付けを行った者に支払う当該配当に相当する金銭の額をいい、買付けを行った者が証券会社から支払いを受ける配当調整額に相当する額は買付けに係る対価の額から控除し、売付けを行った者が証券会社に支払う配当調整額に相当する額は、売付けに係る対価の額から控除する。ただし、継続適用を条件にそれぞれの対価の額から控除しないで発生に応じて費用または収益として益金の額または損金の額に算入することが認められている。
権利処理価額とは、買建中または売建中にその株式について株式分割、株式無償割当ておよび会社分割による株式を受ける権利、新株予約権または新株予約権の割当てを受ける権利(株式を受ける権利等)が付与された場合において、証券会社が売付けを行った者から徴収し、買付けを行った者に支払う当該株式を受ける権利等に相当する金銭の額をいい、買付けを行った者が証券会社から支払いを受ける権利処理価額に相当する額は買付けに係る対価の額から控除し、売付けを行った者が証券会社に支払う権利処理価額に相当する額は、売付けに係る対価の額から控除する。なお、権利処理価額に相当する金額については、配当調整額のように費用または収益として益金の額または損金の額に算入することは認められていない。

④期末における取り扱い
信用取引で未決済となっているものを法人が期末において有している場合、税務上は期末において差金決済したものとみなして算出した利益または損失に相当する額(みなし決済損益)を法人税の課税所得計算上、益金または損金の額に算入する。また、期末において差金決済したものとみなして算出した利益または損失に相当する額については、翌期首において洗替え処理を行い、翌事業年度の所得の計算上、損金または益金の額に算入する((6) 有価証券投資の設例 仕訳編「―期末において信用買いの残高(買建玉)がある場合―」参照)。

売買目的有価証券
(1)評価方法

売買目的有価証券に区分された有価証券は法人税法において時価法で評価する。時価法とは、事業年度末における当該有価証券の時価をもって事業年度末の評価額とする方法をいう。具体的には、事業年度末において有する有価証券を銘柄の異なるごとに区別し、銘柄ごとに以下の区分に応じた価格にその有価証券の数を乗じて算出した金額により評価する。((6) 有価証券投資の設例 仕訳編【設例】―国内株式を購入した場合――国内株式の期末処理(売買目的有価証券の期末評価)―参照)

【売買目的有価証券の時価の算出方法】

【売買目的有価証券の時価の算出方法】
※1 価格公表者とは、有価証券の売買価格または気配相場の価格を継続的に公表し、かつ、その公表する価格がその有価証券の売買価格の決定に重要な影響を与えている場合におけるその公表者をいう。
※2 事業年度末における最終売買価格がない場合には最終気配相場の価格とする。最終気配相場の価格もない場合には、直前の最終売買価格または最終気配相場の価格とする。

(2)評価損益の取り扱い

売買目的有価証券に係る評価損益(帳簿価額と時価法による評価額との差額)は、法人税法上、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金または損金の額に算入する。なお、売買目的有価証券に係る評価損益を当該事業年度の益金の額または損金の額に算入した場合、当該事業年度の翌事業年度において益金算入額に相当する金額を損金の額、もしくは、損金算入額に相当する金額を益金の額に算入する。
当該事業年度において評価損益を計上した有価証券の翌事業年度の開始の時における帳簿価額は、当該事業年度終了時の帳簿価額から、計上した評価損益の金額を加減した金額とされているので、この処理を行うことが必要となる。この評価損益計上時と反対の処理を行うことで評価損益を期首において戻し入れる処理を「洗替え処理」という。((6) 有価証券投資の設例 仕訳編―【設例】国内株式の期末処理(売買目的有価証券の期末評価)―参照)

満期保有目的等有価証券およびその他有価証券
(1)評価方法

<税務>
満期保有目的等有価証券およびその他有価証券は、法人税法において原価法により評価する。原価法とは、期末帳簿価額をもって事業年度末の評価額とする方法いう。
ただし、償還有価証券(売買目的有価証券以外の有価証券で償還期限および償還金額の定めのある有価証券※)については、償却原価法によって評価する。ここで償却原価法とは、償還有価証券について、期末帳簿価額に帳簿価額と償還金額との差額のうち当該事業年度に配分すべき金額(調整差損益)を加算し、または減算した金額をもって事業年度末の評価額とする方法をいう。なお、調整差損益は、満期保有目的等有価証券とその他有価証券に区分した後の銘柄別に、以下の算式により算出する。((6) 有価証券投資の設例 仕訳編【設例】―国内公社債(新規発行)を購入した場合――割引発行された国内公社債の期末処理(アキュムレーション、未収利息の計上)―参照)

※償還期限に償還されないと見込まれる新株予約権付の社債その他これに準ずるものを除く。

【償却原価法による調整差損益の算定方法】

① 当期末額面合計額>前期末額面合計額のケース
(当期末額面合計額-当期末調整前帳簿価額)×A+(当期末額面合計額-当期末調整前帳簿価額)×B
【償却原価法による調整損益の算定方法】➀
② 当期末額面合計額≦前期末額面合計額のケース
【償却原価法による調整損益の算定方法】➁

(注1) 前期末額面合計額とは、前事業年度末における当該償還有価証券の償還金額(額面金額)の合計額をいう。
(注2) 当期末調整前帳簿価額とは、償却原価法を適用する前のその償還有価証券の帳簿価額をいう。
(注3) いずれの場合も銘柄別に計算する。
(注4) 次の場合は、償還有価証券を取得した日の属する事業年度(取得事業年度)の計算において、上記計算方法のうち「当期の日数×1/2」を「その償還有価証券の取得の日から当期末までの日数」と読み替えて計算することができる。
・その償還有価証券と同一銘柄の有価証券を前事業年度末において有しておらず、かつ当該取得事業年度においてその償還有価証券と同一銘柄の有価証券の取得がないとき
(注5) 算式中の「日数」は、継続適用を条件に「月数」で計算することもできる。その場合、月数は暦に従って計算し、1月に満たない場合は1月とみなす。

<会計>
会計上は償却原価法の適用にあたり、上記の調整差損益を利息法により計算することを原則としているが、利息法の計算の複雑性を考慮して、継続適用を条件として簡便法としての定額法により計算することもできるとされている。なお、利息法は計算が複雑であり、また、利息法を採用した場合には売却原価の算定方法が税務上は認められていない先入先出法となることから、実務的には定額法を採用することが多いものと思われる。

(2)評価損益の取り扱い

<税務>
原価法では期末帳簿価額が事業年度末の評価額となることから、法人税法上、評価損益は生じない。従って課税所得への影響はないことになる。ただし、償却原価法により期末帳簿価額に加算または減算した調整差損益の金額は、益金または損金の額に算入する。

<会計>
上述の通り税務上はその他有価証券を原価法により評価するが、会計上は時価をもって貸借対照表価額とし、取得価額と時価との差額(評価差額)は洗替え方式に基づき全部純資産直入法または部分純資産直入法により処理する。なお、会計上は原則として継続適用を条件に選択適用が認められる。
ここで全部純資産直入法とは、評価差額の合計額を純資産の部に計上する方法をいい、部分純資産直入法とは、時価が評価価額を上回る銘柄に係る評価差額は純資産の部に計上し、時価が取得原価を下回る銘柄に係る評価差額は当期の損失として処理する方法をいう。
それぞれの具体的な会計処理は以下の通りである。なお、部分純資産直入法を採用する場合、銘柄ごとに評価差額がプラスであるかマイナスであるかを判断し、評価差額がマイナスの銘柄に係る評価差額を当期の損失として処理することになるが、ここでは説明を簡潔にするため期末に保有しているその他有価証券は1銘柄のケースを例にとる。また、説明を簡潔にするため、税効果会計の適用はないものとする。

【評価損益の取り扱いに係る具体的な会計処理方法】
【評価損益の取り扱いに係る具体的な会計処理方法】
この通り会計上部分純資産直入法を採用しており、かつ「時価<帳簿価額」の場合(④のケース)には、評価差額20は投資有価証券評価損として損益計算書上で損失として計上される。他方、税務上その他有価証券は原価法にて評価が行われるため、会計上で計上した投資有価証券評価損20について税務上加算調整する必要が生じる。

有価証券の減損処理

(1) 有価証券投資に関する税務」に記載した通り、有価証券は時価法または原価法もしくは償却原価法により評価するが、下記のケースにおいては法人税法上、評価損の損金算入が認められる。

有価証券について「一定の事実」が生じた場合において、当該有価証券の評価換えをして損金処理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した金額のうち、当該有価証券の減額前の帳簿価額と事業年度末における時価との差額に達する範囲内の金額は、評価換えをした日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

上記の「一定の事実」は以下の①、②、③を指す。ただし、有価証券が完全支配関係にある他の内国法人が発行する株式または出資であり、当該他の内国法人が清算中である場合、あるいは当該他の内国法人の解散(合併による解散を除く。)が見込まれる場合、または当該他の内国法人が完全支配関係にある他の内国法人と適格合併を行うことが見込まれる場合は覗かれる。

① 上場有価証券等(売買目的有価証券内「売買目的有価証券の時価の算出方法」の、取引所売買有価証券、店頭売買有価証券および取り扱い有価証券、その他価格公表有価証券)の価額が著しく低下したこと(ただし、企業支配株式等を除く)
② ①に規定する有価証券以外の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと
③ ②までに準ずる特別の事実

①については、当該有価証券の事業年度末における時価が帳簿価額の概ね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない場合が該当する。この場合の時価は売買目的有価証券の評価方法である時価法によるそれぞれの時価(売買目的有価証券内「売買目的有価証券の時価の算出方法」参照)をいうが、該当する上場有価証券等を売買目的有価証券以外の保有区分としている場合には、当該事業年度の終了の日以前1月間の当該市場価額の平均額によることもできる。

②にある「資産状態が著しく悪化」には以下のようなケースが該当する。
・当該有価証券を取得して相当の期間を経過した後に、当該発行法人について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定、更生手続開始の決定等の事実が生じた場合
・事業年度末における当該有価証券の発行法人の1株または1口当たり純資産価額が当該有価証券取得時の1株または1口当たりの純資産価額に比して概ね50%以上下回った場合

上場有価証券の評価損

<会計>
会計上、売買目的有価証券以外の有価証券のうち時価のあるものについて時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、当該時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理しなければならない。時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合は時価の著しい下落に該当するものとされ、その場合には、「時価が取得原価まで回復する見込があると認められる」合理的な反証がない限り、減損処理を行わなければならない。

<税務>
税務上は、時価が帳簿価額の概ね50%相当額を下回り、「近い将来時価の回復が見込まれない場合」を損金計上の要件としており、「時価の回復の見込みがないと判断し難い」場合には、会計上は評価損を計上するものの、税務上は損金計上せず加算調整を行う実務があると思われる。
この点、国税庁は平成21年4月に「上場有価証券の評価損に関するQ&A」を公表し、企業が所有する上場有価証券の時価が帳簿価額に比べて50%以上下落し、会計上減損処理が行われた場合において、税務上その評価損を損金算入するに当たっての取り扱いの明確化を図っている。

Q&Aでは、株価の回復可能性の判断基準として、回復可能性がないことについて法人が用いた合理的な判断基準が尊重されるとしており、具体的に次のような見解が示されている。
「株価の回復可能性の判断のための画一的な基準を設けることは困難であるが、法人の側から、過去の市場価格の推移や市場環境の動向、発行法人の業況等を総合的に勘案した合理的な判断基準が示される限りにおいては、税務上その基準は尊重されることになる。具体的には、専門性を有する第三者である証券アナリスト等による個別銘柄・業種別分析や業界動向に係る見通し、発行法人に関する企業情報等を用いて、当該株価が近い将来回復しないことについての根拠が提示されるのであれば、これらに基づく判断は合理的な判断であると認められるものと考えられる。

監査法人等による監査を受ける法人において、上場株式の事業年度末における株価が帳簿価額の50%相当額を下回る場合の株価の回復可能性の判断基準として一定の形式基準を策定し、税効果会計等の観点から自社の監査を担当する監査法人から、その合理性についてチェックを受けて、これを継続的に使用するのであれば、税務上その基準に基づく損金算入の判断は合理的なものと認められる。ただし、ここでいう『自社の監査を担当する監査法人によるチェック』は税効果会計等の観点から、独立の監査法人等による財務諸表監査等の一貫として行われるものであり、監査法人等による関与であっても、その関与が自社の経営についてのコンサルタント業務のみを行うものや、会計参与や税理士による関与のように、利害関係を有する第三者の保護のために行われる監査に当たらないものは、これに該当しない。」

上場廃止前後における株式等の減損処理等の取り扱い

法人税において有価証券の減損処理が認められる要件について、「有価証券の減損処理」および「上場有価証券の評価損」にて説明したが、例えば、会社更生手続開始の申し立てにより、株式等が上場廃止となるような場合事業年度末における減損処理(評価損計上)等の取り扱いは以下のようになる。

(1)事業年度末において投資対象銘柄が上場廃止前の場合

上場有価証券等の事業年度末における時価が帳簿価額の概ね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことが減損処理の一要件となっているが、投資対象会社が会社更生法の申し立てを行い、取引所が上場廃止を決定している場合には、「近い将来その価額の回復が見込まれない」とする要件を満たす可能性があると考えられる。

(2)事業年度末において投資対象銘柄が上場廃止となっている場合

投資対象有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、投資対象有価証券の価額が著しく低下した場合には、減損処理(評価損計上)が可能となる。従って、「有価証券の減損処理」および「上場有価証券の評価損」に記載の通り、更生手続開始の決定がある場合には、「資産状態が著しく悪化」のケースに該当することから、投資対象有価証券の価額が著しく低下している場合には、減損処理(評価損計上)が可能である。

(3)100%減資が行われた場合

投資対象会社が更生計画認可決定を受け、発行済株式の全てを無償取得し、償却した場合(100%減資が行われた場合)、当該株式の帳簿価額相当額を株式消滅損として損金算入することになる。

(4)有価証券を譲渡した場合

有価証券を譲渡した場合には、譲渡金額と帳簿価額の差額を有価証券譲渡損として損金に算入(譲渡益の場合には益金に算入)する。

なお、転換社債型新株予約権付社債(以下、「CB」という)についても、事業年度末における減損処理(評価損計上)の取り扱いは上記(1)および(2)と同様、譲渡した場合の取り扱いも上記(4)と同様となる。CBについて弁済を受けた場合には、弁済金額と帳簿価額との差額を損金に算入(弁済金額が帳簿価額を上回る場合には益金に算入)する。

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