事業承継の基礎知識 事業承継における非上場株式の問題と税金

オーナー経営者の事業承継で最も気を払わなければならないのは、自社株式の承継とそれにかかる税金の問題です。非上場株式の評価方法は一筋縄には行きません。また、承継先によって評価方法が異なるという制度の仕組みも直感に反します。避けては通れない自社株式の特徴とその取扱いについて解説しています。

(7) 非上場株式の相続と税金

 

オーナー経営者の相続に際して悩ましいことには、次のようなものがある。
①相続発生時期によって、自社株の評価額が高いケース・低いケースがあること。
②後継者が相続した自社株は外部売却等できないため、相続税の納税財源を別途確保しなければならないこと。
③自社株は後継者が全て相続することが望ましいため、他の相続人が相続する資産額とのバランスを欠き、遺産分割トラブルにつながる懸念があること。
なお、自社株の相続に関しては、一定の要件を満たせば「非上場株式等についての相続税の納税猶予制度」の適用を受けることができる。

◆相続税の計算

□相続税課税価格と基礎控除
オーナー経営者に相続が発生した場合、相続財産について相続税評価額を算定し、相続税課税価格(相続財産-非課税財産-債務・葬式費用)を計算する。
「同族株主等」である後継者が自社株を相続する場合は、「原則的評価方式」により自社株式を評価することになる。
相続税課税価格が相続税基礎控除額を超えた場合、財産を取得した人に相続税がかかる。

相続税基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で算定する。
相続税課税価格の計算上、以下のものは相続財産ではないが相続税の計算対象となる。
いずれも、贈与時点の評価額により計算する。

・相続・遺贈により財産を取得した人が、被相続人から相続発生前3年以内に贈与により取得した資産の額(「生前贈与加算」といいます)。なお、この3年以内の贈与に対応する贈与税は相続税から控除する。

・被相続人が相続時精算課税制度により贈与した資産の額。なお、贈与の際の贈与税(一律20%)は、相続税の計算時に精算する。

・贈与税の納税猶予制度の対象となった自社株。なお、納税猶予を受けていた贈与税は免除となる。

□相続税の速算表
相続税課税価格から相続税基礎控除額を差し引いた残額を法定相続分により按分した額を、速算表(下記参照)にあてはめて計算した各相続人の税額の合計が相続税の総額になる。

【相続税速算表】
【相続税速算表】

□配偶者の税額軽減制度
被相続人の配偶者は、法定相続分(例えば相続人が配偶者と子どもである場合は1/2)までの課税価格、または、課税価格1億6,000万円まで相続しても負担する相続税をゼロとする制度である。
ただし、配偶者が相続する財産について遺産分割が完了していること、原則として申告期限までに相続税申告することが要件となる。

被相続人(例えばオーナー経営者)の相続時(第一次相続)に、配偶者(妻)が資産の半分を相続して配偶者が納める相続税がゼロであっても、その後の配偶者の相続時(第二次相続)に相続税がかかるケースがあるため、遺産分割については、第一次相続・第二次相続両方について考える必要がある。

【配偶者の税額軽減制度の利用による第二次相続への影響】
【配偶者の税額軽減制度の利用による第二次相続への影響】

□相続税早見表(子が相続する場合)
「表① 相続税早見表(配偶者あり)」は、相続人の中に配偶者がおり、配偶者が法定相続分(1/2)相続した場合、子どもが負担する相続税額合計を記載している(第一次相続)。
「表②配偶者表② 相続税早見表(配偶者なし)無」は、相続人の中に配偶者がいない場合、子どもが負担する相続税額合計を記載している(第二次相続)。

【表① 相続税早見表(配偶者あり)】
【表① 相続税早見表(配偶者あり)】

(注1) 課税価格=相続財産-債務・葬式費用。
(注2) 配偶者の税額軽減を法定相続分まで活用するものとします。
(注3) 子どもは全て成人とし、孫の養子はいないものとします。
(注4) 万円未満の端数は四捨五入して表記しています。

【表② 相続税早見表(配偶者なし)】
【表② 相続税早見表(配偶者なし)】

(注1) 課税価格=相続財産-債務・葬式費用
(注2) 子どもは全て成人とし、孫の養子はいないものとします。
(注3) 万円未満の端数は四捨五入して表記しています。

◆相続税の納税

①自社株は第三者に売却するわけにはいかないため、換金性が著しく低い資産といえます。従って、後継者の納税資金の手当てを事前に検討することが重要である。
②当該会社の資金を活用する方法として、死亡退職金、当該会社に事業用資産を売却、当該会社に自社株式を売却(金庫株)等が考えられる。

相続税の申告・納付期限は、相続開始後10カ月以内である。
金銭一括納付が原則であるが、金銭一括納付が困難であるとする要件を満たした場合は困難な金額について「延納(年賦払い。利子税が別途かかります)」が認められる。
更に、延納も含め金銭納付が困難であるとする要件を満たした場合は困難な金額について「物納(相続財産による納付)」が認められる。
延納・物納いずれも相続開始後10カ月以内に申請しなければならない。

以下、後継者が相続した自社株に係る相続税の納税財源の手当てとして当該会社等が協力して行う方法について説明する。

□死亡退職金
会社が後継者に対して、亡くなったオーナー経営者の死亡退職金を支払い、それを自社株に係る相続税納税財源に充てる方法である。

・会社における取り扱い
法人税法上、役員退職金としての「適正額」は損金となります。税務上の「適正額」の目安とされる算式がある。
ただし、「適正額」はその役員の功績等により決められるものであり、算式だけで決まるものではない。

【目安とされる算式】
役員退職金「適正額」=最終月額報酬×役員勤続年数×功績倍率

なお、会社が支払う(役員)死亡退職金の額に上限はありません。税務上の適正額を上回る部分の役員退職金は、言い換えると「剰余金の処分により支払う退職金」すなわち会社にとっては「配当」と同じである。

高額な退職金の支給を遺族が希望し、かつ、会社に支払う資金力があり、高額な役員退職金を払うことについて会社として問題がない(他の役員や従業員のモラル等)場合には、それを支給することもあり得る。
ただし、適正額を上回る部分の役員退職金は損金にならない。

なお、会社は、「死亡退職金」と「弔慰金」を別々に支給することが肝要である(それぞれ相続税非課税枠があるため)。

・受け取る個人(後継者)の取り扱い
死亡退職金(相続発生後3年以内に支給が確定したもの)は相続税の対象であるが、「500万円×法定相続人の数」までの部分は相続税非課税である。
また、弔慰金は、「相続発生前の月額報酬×6カ月(業務上死亡の場合は36カ月)」まで相続税非課税、それを上回る金額は死亡退職金として取り扱われる。

・役員退職金の功績倍率方式について
役員退職金の算定方法として代表的なものとされるのが、「功績倍率方式」といわれる算定方法である。

【功績倍率方式による役員退職金の算定方法】
【功績倍率方式による役員退職金の算定方法】

報酬の金額は役員の功績を反映し、勤続年数は会社への貢献度にもつながることから、役員退職金の算定をするのに適した方法であるといわれている。
「功績倍率を何倍にするか」については難しいところであるが、役職に応じて1~3倍程度の倍率を採用している法人が多い。

「功績倍率がいくらであれば、過大な役員退職金とならないのか」という点について、過去の裁判例では、同種の事業を営む事業規模が類似する法人を複数社選定し、これらの平均値を用いる方法(平均功績倍率法)が、客観的かつ合理的な方法として採用されたケースがある。

□当該会社に事業用資産を売却

オーナー経営者の相続財産の中に、同族会社が使用している土地や建物等の事業用資産(生前は、会社がオーナー経営者に地代・家賃等を支払っている)が含まれている場合には、後継者が自社株式の他に当該事業用資産も相続し、当該事業用資産を同族会社に時価で売却し、その売却代金で相続税を納付する方法がある。

この場合、相続した資産を売却する際の売却利益の計算上、取得時期および取得費は被相続人のそれを引き継ぎます(先祖伝来の土地のように取得費が不明の場合の取得費は、「売却代金×5%」)。

【事業用資産の売却】

当該会社が借入金により、その資産を買取った場合、その金利は会社の経費になる。
一方、相続人個人が借入金により相続税を納付しても金利は経費にならない。
個人・法人トータルで考えた効率のよい相続税納税資金手当てが重要である。

なお、相続財産を相続開始から3年10カ月以内に売却した場合、「相続税の取得費加算」という所得税等の特例により売却利益に係る税金を軽減できる。

【相続税の取得費加算の特例】
相続等により取得した財産を相続開始から3年10カ月以内(相続税申告期限から3年以内)に譲渡した場合には、その者が納付した相続税額のうち、一定額を売却利益の計算上「取得費」に加算することができる所得税・住民税の特例である。

取得費に加算できる金額は「売却する財産に係る相続税額」になる。

【相続税の取得費加算の特例】

(注)従来は、譲渡する資産が「土地等※」の場合に特別措置が設けられていたが、平成26年度税制改正によりその特別措置は廃止され、平成27年1月1日以後の相続等により取得した財産を売却する場合、「土地等※」と「土地等※以外」は同じ取り扱いになった。

【参考】平成26年12月31日以前の相続等により取得した財産を譲渡した場合
取得費に加算できる金額は、売却する財産が「土地等※」であるか、「土地等※以外」であるかにより異なる。

・売却した財産が「土地等※」の場合
取得費に加算できる金額は「その者が相続等により取得した全ての土地等※(物納土地を除く)に係る相続税額」になる。
【相続税の取得費加算の特例(売却した財産が「土地等※」の場合)】

・売却した財産が「土地等※以外」の場合
取得費に加算できる金額は「売却する財産に係る相続税額」になる。
【相続税の取得費加算の特例(売却した財産が「土地等※以外」の場合)】

□当該会社に自社株式を売却(金庫株)
後継者が相続した自社株式(未上場株式)を当該発行会社に売却し(すなわち「自己株式・金庫株」)、その売却代金を相続税納税資金に充てる方法である。
相続開始から3年10カ月以内(相続税申告期限から3年以内)に譲渡した場合、「相続税の取得費加算」の特例と「金庫株」をした個人株主に関する税金特例(「みなし配当課税の停止」)により税負担を軽減させて自社株式を売却することができる。

ただし、会社にとって金庫株は資金の固定化を意味する。
会社の事業計画、資金計画等あらゆる観点からの検討が必要となる。
また、金庫株取得については、あらかじめ株主総会での特別決議が必要である。
【自社株式の売却(金庫株)】

【「金庫株」の税金の取扱い】
【「金庫株」の税金の取扱い】

◆オーナー経営者が持つ自社株式は誰が相続すべきか

自社株式は、(後継)経営者が相続すべきであり、どんなに可愛くても経営に関係のない子どもには渡すべきではない。
例えば、長男が次期経営者の場合、次男や長女が自社株の贈与・相続を受けて株主になると、長男は、これまでのような経営ができなくなる可能性がある。
さらに、長男の子どもが3代目となった場合、株主は従兄弟同士となり、より面倒になる。

経営に関係のない人にとっては、自社株式を保有することによって配当がもらえるのは魅力的であり、将来何らかの金額で換金できるかもしれない、等々どうしても執着してしまう。

自社株式は後継者である長男に承継し、経営に関係ない次男や長女には「金融資産○○を」など、承継する資産の方向性を検討しておくべきである。
例えば、長女を受取人とする生命保険の加入なども有効なわかりやすい対策となる。

 
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⇒平成30年度税制改正で納税猶予はどう変わる?
 
⇛事業承継とは | 事業承継税制から後継者教育まで
 
⇒M&Aとは?企業買収の方法と必須となる基礎知識
 
⇒会社の買収とは | 企業買収の意味と仕組み
 

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