事業承継の基礎知識 事業承継における非上場株式の問題と税金

オーナー経営者の事業承継で最も気を払わなければならないのは、自社株式の承継とそれにかかる税金の問題です。非上場株式の評価方法は一筋縄には行きません。また、承継先によって評価方法が異なるという制度の仕組みも直感に反します。避けては通れない自社株式の特徴とその取扱いについて解説しています。

(6) 医療法人の事業承継

 

◆医療法人の出資持分に関する相続対策の考え方

医療法人の事業承継を考える場合には、まず、現状の出資持分の評価額を把握することが大切である。
次に、社会医療法人や特定医療法人も含めて、今後どの医療法人形態で事業を行うか検討する必要がある。
また、出資持分なし医療法人への移行促進を後押しする医療法人の納税猶予制度が平成26年10月より運用されている。
このように、医療法人の出資持分に関する相続対策は税法、医療法人制度を中心とした医療法制を考慮して検討する必要がある。

◆医療法人の出資持分の評価

□評価の対象となる医療法人
医療法人は大きく、「財団医療法人」、「出資持分なし社団医療法人」、「出資持分あり社団医療法人」に分類される。
これらのうち平成19年3月31日以前に設立申請された「出資持分あり社団医療法人」の出資持分については一般の事業会社と同様に相続税、贈与税の対象となる。

【評価の対象となる医療法人の範囲】

◆評価の手順

医療法人の出資持分は事業会社の自社株と同様の手順により評価する。
ただし、以下の点について異なる。

□「同族株主等」または「同族株主等以外の株主」の判定
医療法人は「同族株主等」または「同族株主等以外の株主」の判定は行わない。
よって、「特例的評価方式(判定還元価額)」の適用はなく、医療法人の出資持分は全て、「原則的評価方式(純資産価額、類似業種比準価額、それらの折衷価額のいずれか)」により評価する。

□会社規模の判定
会社規模の判定上、医療法人は「小売・サービス業」に該当するものとする。

□特定の評価会社の判定
医療法人における「比準要素数1の会社」とは、類似業種:比準価額を算定する際の2要素(年利益金額・簿価純資産価額)のうち1要素が直前期末を基準に計算した場合にゼロであり、かつ、直前々期末を基準に計算した場合にいずれか1要素以上がゼロになる医療法人をいう。

◆類似業種比準価額の計算方法

医療法人は医療法において配当が禁止されているため、医療法人の場合、「類似業種比準価額」の計算は、「配当」を計算要素から除外します。
なお、類似業種の業種目は「その他の産業」となる。

【医療法人の類似業種比準価額】

※1 平成28年12月31日以前に相続等により取得した場合は「×3」
※2 平成28年12月31日以前に相続等により取得した場合は4

A=「その他の産業」の株価(課税時期の属する月、前月、前々月、前年平均額および課税時期の属する月以前2年間の平均額※3のうち、いずれか低い金額)
B=課税時期の属する年分の「その他の産業」の1株当たり年利益金額
○B=評価法人(医療法人)の直前期末以前1年間または2年間の年平均における1株当たりの利益金額のいずれか低い金額(マイナスの場合は0とします)。利益とは、「損益計算書上の利益」ではなく「法人税の課税所得を基礎とした金額」
C=課税時期の属する年分の「その他の産業」の1株当たりの簿価純資産価額
○C=評価法人(医療法人)の直前期末における1株当たりの簿価純資産価額

※3 平成28年12月31日以前に相続等により取得した場合は2年平均額を使用できません。

(注1)利益、簿価純資産は、1株当たりの資本金等の額を50円に換算したものを用いる。
(注2)A、B、Cの数値は、国税庁が「その他の産業」の上場会社の株価等から算定し、個別通達として公表している「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」より引用する。

◆純資産価額の計算方法

医療法人の「純資産価額」を計算する際は、「同族株主等」の議決権割合が50%以下の場合の「純資産価額×80%」の適用はない

◆医療法人の組織変更

「出資持分あり医療法人」は、出資者の相続等の都度、出資持分に対する相続税等が発生する。
一方で「出資持分なし医療法人」へ移行した場合には、移行後は出資持分は無くなるため、出資持分に係る相続税の問題は解消する。

□「出資持分なし医療法人」移行時の税務
「出資持分なし医療法人」は、大きく分類して社会医療法人、特定医療法人、拠出型医療法人の3形態がある。
平成19年3月31日以前に設立申請された出資持分あり医療法人、いわゆる経過措置型医療法人から、この3形態へ移行する場合、出資者は出資持分を放棄することになる。
下記では、経過措置型医療法人から出資持分のない医療法人に移行する場合の課税関係を確認する。

【出資持分ありから出資持分なしへの移行イメージ】

□移行に伴う課税関係

・概要
「経過措置型医療法人」から「出資持分なし医療法人」に移行する場合、出資者たる個人は出資持分を放棄することになる。
この放棄により、その出資者またはその親族等の相続税または贈与税の負担を不当に減少する結果となると認められる場合には、医療法人を個人とみなして、医療法人に対して贈与税が課される(みなし贈与課税)。

ただし、社会医療法人、特定医療法人および一定の要件を満たした拠出型医療法人に移行する場合には、贈与税は課税されない。

ロ)みなし贈与税課税が行われる趣旨
出資持分を放棄していなければ、出資者に相続が発生した場合に出資持分に対する相続税が課税されるのに対して、出資者が出資持分を放棄すると出資持分に対する相続税は課税されない。
従って、出資持分の放棄が行われたとしても出資者およびその親族等が医療法人を実質的に支配していると認められる場合は、出資持分の放棄が行われた時点で相続税の補完税である贈与税を医療法人に課税し、相続税等の負担が不当に減少しないようにする。

□社会医療法人への移行時の課税関係
社会医療法人とは、第5次医療法で創設された医療法人形態で、へき地医療、小児救急医療など、地域医療を支える医療法人を社会医療法人として位置づけた。
社会医療法人の認定を受けるには、法人運営の非同族性などの要件を満たし、都道府県知事の認可を受ける必要がある。
この社会医療法人の認可を受けるためには、出資者は出資持分を放棄する必要があるが、公益性の高い社会医療法人への移行に伴う出資持分の放棄に対して「みなし贈与税」は課税されない。

□特定医療法人への移行時の課税関係
特定医療法人とは、租税特別措置法により定められている法人形態で、その事業が医療の普及と向上、社会福祉への貢献、その他公益の増進に著しく寄与し、かつ、公的に運営されているとして、国税庁長官の承認を受けたものをいう。
社会医療法人同様、公益性を担保するため、その運営について非同族性が保たれていることなどの要件を満たす必要がある。
この特定医療法人の認可を受けるためには、出資者は出資持分を放棄する必要があり、公益性の高い特定医療法人への移行に伴う出資持分の放棄に対して「みなし贈与税」は課税されない。

□拠出型医療法人への移行時の課税関係
拠出型医療法人とは、第5次医療法改正によって、平成19年4月以降に設立申請される社団医療法人で、設立時に財産を出資するのではなく、財産を拠出して設立する医療法人をいう。
つまり、拠出型医療法人には出資持分の概念はない。

イ)移行の税務の取扱い
経過措置型医療法人から拠出型医療法人に移行する場合には、出資者およびその出資者の親族等の相続税等の負担が不当に減少すると認められるときは、医療法人を個人とみなして、贈与税が課される。

ロ)課税されない場合
下記の要件を満たせば、出資者などの相続税負担が不当に減少する場合に該当せず、贈与税は課されない。

【経過措置型医療法人から拠出型医療法人に移行する際、贈与税が課税されないための要件】

また、上記イの運営組織の適正性とは、下表の社会医療法人や特定医療法人と同等の要件が求められる。

【運営組織の適正性の概要】
【運営組織の適正性の概要】

ハ)贈与税が課税される場合の計算過程
 拠出型医療法人に移行した場合で、上記要件を満たすことができなかったときは、医療法人を個人とみなして、各出資者(贈与者)からの贈与財産に贈与税が課される。
この場合の贈与税額は、各贈与者(出資者)の贈与財産に係る贈与税額を計算し、それらを合算した金額となる。

◆医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度およびみなし贈与税の非課税

□医療法人版納税猶予制度創設の背景
「出資持分あり医療法人」から「出資持分なし医療法人」への移行促進を目的として創設された制度である。
「出資持分なし医療法人」への移行期間中における出資持分の相続税・贈与税について一定の要件のもと納税を猶予し、猶予された税額は納税猶予を受けた者が移行期限までに出資持分を放棄することで免除される。

医療法人は剰余金の配当が禁止されているため、過去に蓄積した剰余金が多額となり、出資持分の評価額が高額になる傾向がある。

その結果、医療法人の出資持分を引き継いだ相続人等が支払う相続税が多額となり、出資持分の払戻請求に伴う資金負担が医療機関経営の永続性を脅かすといわれている。

平成19年4月1日に医療法が改正され、以後、社団医療法人は「出資持分なし医療法人」しか設立できないことになった。

平成19年3月31日以前に設立された既存の「出資持分あり医療法人」は経過措置により「当分の間」存続することが認められており、「出資持分なし医療法人」への移行を促しているが十分に進んでいない。

このような状況から、「出資持分あり医療法人」から「出資持分なし医療法人」への移行を促進することを目的として、税制措置・補助制度・融資制度において支援を行うことが検討され、税制面では、平成26年度税制改正により「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度」が創設されることになった。
従って、一般の事業会社を対象とした「自社株に関する相続税・贈与税の納税猶予制度」とは全く内容が異なる。

◆医業継続に係る相続税の納税猶予制度の概要

「出資持分あり医療法人」から、「出資持分なし医療法人」への移行期間に、相続発生に伴い相続人等が「出資持分あり医療法人」の出資持分を相続や遺贈により取得した場合において、その医療法人が相続税の申告期限において認定医療法人※1であるときは、担保の提供を条件に、その出資持分に係る相続税が移行期限※2まで猶予される。

そして、移行期限※2までに当該相続人等が出資持分の全てを放棄した場合には、猶予されている相続税額は免除される。

【医業継続に係る相続税の納税猶予制度】
【医業継続に係る相続税の納税猶予制度】

◆医業継続に係る贈与税の納税猶予制度の概要

「出資持分あり医療法人」の出資者が出資持分を放棄したことにより、他の出資者の出資持分の価値(経済的利益)が増加した場合には、その価値移転部分に対して、当該他の出資者に贈与税が課税される。

しかし、「出資持分あり医療法人」から「出資持分なし医療法人」への移行期間において当該出資者の出資持分放棄時に医療法人が認定医療法人※1であるときは、担保の提供を条件に、出資持分の放棄に伴う価値移転に係る贈与税が移行期限※2まで猶予される。
そして、移行期限※2までに、納税猶予を受けている当該他の出資者が出資持分の全てを放棄した場合には、猶予されている贈与税額は免除される。

【医業継続に係る贈与税の納税猶予制度】
【医業継続に係る贈与税の納税猶予制度】

※1 認定医療法人とは、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」に規定されている移行計画について、平成26年10月1日から平成29年9月30日(今後の医療法改正により3年間延長される予定)までに厚生労働大臣の認定を受けた医療法人をいう。
※2 移行期限は、厚生労働大臣の認定を受けた日から起算して3年以内である。

◆みなし贈与税の非課税

□改正の背景
第六次医療法改正により認定医療法人制度および相続税・贈与税の納税猶予制度が創設された。
出資持分なし医療法人への移行支援策として打ち出された認定医療法人制度であるが、この制度を活用している医療法人がほとんどないのが現状である。
制度を活用している医療法人が少ない理由としては、出資持分なし医療法人移行時の医療法人に対する贈与税課税の問題が残っているためである。

出資持分あり医療法人が、出資持分の放棄により出資持分なし医療法人へ移行した場合には、原則として医療法人を個人とみなして医療法人に贈与税が課される(ただし、一定の要件を満たす場合は非課税)。
認定医療法人制度は、出資者個人に係る税負担は出資持分なし医療法人への移行が完了すれば免除されるが、医療法人に対する贈与税課税問題には何ら手当がされておらず根本的な問題解決となっていない。

□みなし贈与税の非課税
出資持分なし医療法人への移行が進まない現状を鑑みて、平成29年度の税制改正において、今後の医療法改正を前提として、現行の認定医療法人制度に代えて、出資者が出資持分の放棄を行い移行計画に記載された移行期限までに出資持分なし医療法人へ移行した場合には、医療法人に対して課される贈与税を非課税になるように改正される。

この非課税になるための要件として、今後の医療法改正において、従前の認定医療法人の認定要件に加えて「運営の適正性要件(法人関係者に利益供与しない等の要件が検討されています)」が追加される予定である。
留意点としては、出資持分なし医療法人へ移行した日以後6年間は移行計画の認定要件を充足し続ける必要がある。
当該要件に充足しなくなった場合には遡って医療法人に対して贈与税が課されることになる。

なお、今後改正される医療法で規定する施行日から平成32年9月30日(予定)までの間に認定を受けた認定医療法人が当該制度の対象となる。

【みなし贈与税の非課税にかかわる改正】
【みなし贈与税の非課税にかかわる改正】

※1 一定の要件を満たした場合、医療法人に対する贈与税は課税されない。
※2 改正後の認定移行計画に記載された移行期限までの期間

□贈与税の非課税基準について
平成29年度の税制改正では、今後改正される医療法の基準に従って認定された新認定医療法人について、出資持分なし医療法人への移行の際に贈与税は課税しないことになっている。
すなわち、非課税基準については改正後の医療法に規定されることになる。

 
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