事業承継の基礎知識 事業承継における非上場株式の問題と税金

オーナー経営者の事業承継で最も気を払わなければならないのは、自社株式の承継とそれにかかる税金の問題です。非上場株式の評価方法は一筋縄には行きません。また、承継先によって評価方法が異なるという制度の仕組みも直感に反します。避けては通れない自社株式の特徴とその取扱いについて解説しています。

(1) 相続税・贈与税における自社株式の評価

 

◆事業承継の概要(事業承継に際しての課題)

事業承継に際して、人的承継(経営を行う代表者の引継ぎ)と物的承継(会社の意思決定権や財産権である株式の引継ぎ)の2つの課題があるが、ここでは主に自社株式の評価や承継方法(相続・贈与・譲渡(売買))にかかわる物的承継を取り上げる。
事業承継を検討する際には、事業・会社を今後どう継続発展させていくかを検討し、場合によっては会社の売却という選択肢もある。
その意思決定の流れは下記の図のイメージになる。

【事業承継フローチャート】
【事業承継フローチャート】

まず、事業・会社を継続していくか撤退するかを決める。
撤退する場合には、M&A(外部売却)や会社清算を検討していくこととなる。

継続する場合には、親族内の後継者の有無を検討し、親族内に後継者がいない場合には、第三者に株式を移転(M&A・MBO)することとなる。
MBOとは、第三者である自社経営陣に株式を買い取ってもらう方法である。

なお、相続人ではない親族や第三者である個人に無償で引き継いで欲しい場合には、遺言により引き継ぐ(遺贈する)ことが可能であるが、承継者にかかる相続税の納税をどう確保するかという問題が生じる。
後継者が社長の子などの親族である場合には、その親族に経営者の資質があれば育成し、自社株式と代表権をその親族に引き継がせることになる。
その親族に経営者の資質がなければ、自社株式はその親族に、代表権は第三者に引き継がせるか、自社株式も含め第三者に引き継がせる(先のMBOと同じ)ことを検討することとなる。

◆自社株式の評価ルールの概要

□その株式を取得する人の議決権割合で決まる評価額

未公開株式(取引相場のない株式)には、市場価格がなく、特別な評価方法が定められている。
自社株式の多くを所有することにより企業を支配している「同族株主等」と、わずかの株数だけを所有し、主に配当金の受け取りを期待している「同族株主等以外の株主」では株式を所有する意味合いが異なるため、その評価方法も異なる。
なお、ここでは特に断りのない限り、「普通株式」のみを発行している会社について説明する。

個人が「取引相場のない株式(以下「自社株式」といいます)」を相続・遺贈・贈与により取得する場合における相続税・贈与税の計算上の評価は、「財産評価基本通達」により評価方法が決められている。
ただし、この通達の第1章総則6項に「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定められており、課税上弊害がある場合は「財産評価基本通達」による評価額が認められない場合もある。

□「財産評価基本通達」による評価方法

自社株式を相続・遺贈・贈与により取得した後の議決権割合により「同族株主等」か「同族株主等以外の株主」いずれかに決まり、それに応じた評価ルールで自社株評価額を計算し、相続税・贈与税の課税価格に算入する金額が決まる。
「同族株主等」にとっての通常の評価ルールを「原則的評価方式(純資産価額または類似業種比準価額またはそれらの折衷価額)」といい、「同族株主等以外の株主」にとっての評価ルールを「特例的評価方式(配当還元価額)」という。

・オーナー経営者が、一般従業員に1株贈与した場合
オーナー経営者が所有する自社株を一般従業員(それまで自社株は持っていない)に1株贈与した場合、その従業員が贈与株式を含めても「同族株主等以外の株主」に該当するときは、「特例的評価方式(配当還元価額)」により計算する。
一般従業員へ贈与

・オーナー経営者が、一般従業員から1株贈与を受けた場合
一般従業員が所有する1株をオーナー経営者に贈与した場合、オーナー経営者は「同族株主等」であるため、「原則的評価方式」により計算する。
オーナー経営者へ贈与

◆評価の概要

自社株式の評価の概要と手順は以下のイメージになる。

【自社株式の評価の概要と手順】
【自社株式の評価の概要と手順】

□株主の判定

筆頭株主グループや当該株主の議決権割合により「同族株主等」に該当するか、「同族株主等以外の株主」に該当するかを判定する。

(A)「同族株主等」に該当する場合

① 当該会社の「会社規模」を判定(「会社規模」の判定については後述)。
② 当該会社が「特定会社等」に該当するか否かを判定(「特定会社等」の判定については後述)。
③ 「同族株主等」で「特定会社等」に該当しない場合の自社株の評価方式は通常、「原則的評価方式」、すなわち「純資産価額」または「類似業種比準価額」または「それらの折衷価額」のいずれかである。いずれを採用できるかは、「会社規模」により決まる。「原則的評価方式」による自社株評価額は、当該会社の時価純資産価額や、当該会社および「業種が類似する上場会社」の配当実績・利益(課税所得)実績・簿価純資産価額で決まる。一般的には、「特例的評価方式(配当還元価額)」による評価額に比べて、高額になる。

④ 当該会社が「特定会社等」に該当する場合は、「会社規模」にかかわらず「原則的評価方式」のうち「純資産価額」によらなければならない(株式保有特定会社は「S1+S2方式」によることもできる。なお、「同族株主等」に該当しても「特例的評価方式(配当還元価額)」を適用する例外ケースもある。

(B)「同族株主等以外の株主」に該当する場合

⑤ 「同族株主等以外の株主」は、「特例的評価方式(配当還元価額)」になり、過去の配当実績に基づき評価する。一般的には「原則的評価方式」による評価額に比べ、低額となる。ただし、「特例的評価方式(配当還元価額)」による評価額が「原則的評価方式」による評価額を上回る場合には、「原則的評価方式」により評価する。

◆「同族株主等」と「同族株主等以外の株主」の判定

□「同族株主等」と「同族株主等以外の株主」の判定と採用できる評価方式

まず、自社株を取得した者が「同族株主等」と「同族株主等以外の株主」のどちらに該当するかを判定する。
この判定は、筆頭株主グループの議決権割合等により行う。

「同族株主等」に該当する人(株主)が取得する自社株の評価額は「原則的評価方式」により計算する。
「同族株主等以外の株主」に該当する人(株主)が取得する自社株の評価額は「特例的評価方式(配当還元価額)」により計算する。

・株主グループに分ける
「株主グループ」とは、本人とその「同族関係者」をいい、次の者を指す。

①株主の親族(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)
②株主と内縁関係にある者
③個人である株主の使用人
④①~③以外の者で、株主から受ける金銭等によって生計を維持している者
⑤②~④の者と生計を一にするこれらの者の親族
⑥ 株主と特殊関係のある法人(法人税法施行令4条に規定)

・株主グループごとの議決権割合
それぞれの株主グループの議決権割合を把握する。新たに自社株を取得することとなる場合、議決権割合は、その取得後の割合となる。

・判定
自社株式を取得した者が「同族株主等」または、「同族株主等以外の株主」のいずれに該当するかを判定する。
「同族株主等」に該当する人(株主)が取得する自社株式の評価額は通常、「原則的評価方式」により計算する。
「同族株主等以外の株主」に該当する人(株主)が取得する自社株の評価額は「特例的評価方式(配当還元価額)」により計算する。

①議決権割合が最も大きい「筆頭株主グループ」の議決権割合が50%超の会社の場合、「50%超の株主グループ」に属する者は「同族株主等」に該当し、「50%未満の株主グループ」に属する者は「同族株主等以外の株主」に該当する。

②「筆頭株主グループ」の議決権割合が30%以上50%以下の会社の場合、「30%以上の株主グループ」に属する者は「同族株主等」に該当し、「30%未満の株主グループ」に属する者は「同族株主等以外の株主」に該当する。

③「筆頭株主グループ」の議決権割合が30%未満の会社の場合、「15%以上の株主グループ」に属する者は「同族株主等」に該当し、「15%未満の株主グループ」に属する者は「同族株主等以外の株主」に該当する。

◆評価会社が自己株式を有している場合等の議決権割合の考え方

「同族株主等」と「同族株主等以外の株主」の判定にあたって評価会社が自己株式を有している場合等には、議決権割合の計算上留意が必要である。

□評価会社が自己株式を有している場合の議決権割合

評価会社が自己株式を有している場合は、自己株式を除いて議決権割合を計算する。

□議決権を有しないこととされる株式がある場合(相互保有株式)

評価会社の株主のうちに、当該評価会社に25%以上の株式を保有されている会社がある場合は、その会社が有する当該評価会社の株式に係る議決権数はゼロとして議決権割合を計算する。

【議決権を有しないこととされる株式】
B社はA社株式10%について、議決権がない。
なお、B社のA社株式が25%以上であれば両者とも相手方に対し、議決権がなくなる。
【議決権を有しないこととされる株式】

□投資育成会社が株主である場合の株主の判定

評価会社の株主のうちに投資育成会社がある場合において、当該投資育成会社が「同族株主」に該当し、かつ、当該投資育成会社以外に「同族株主」に該当する株主がいないときは、当該投資育成会社は「同族株主」に該当しないものとされる。

この場合において、評価会社の議決権総数として「同族株主」を判定し、「同族株主」に該当することとなる株主がいるときは、その株主を「同族株主等」として、その株主以外の株主を「同族株主等以外の株主」とする。

◆「同族株主等」に該当しても「特例的評価方式」を適用する例外ケース

「同族株主等」に該当する者でも、一定要件を満たす者は「特例的評価方式(配当還元価額)」の適用がある例外ルールがあり、下表中の「★」のケースをいう。

【原則的評価方式と特例的評価方式の判定】
【原則的評価方式と特例的評価方式の判定】

自社株式を取得した者の判定において「同族株主等」に該当する者であっても、一定要件を満たした者については例外的に「特例的評価方式(配当還元価額)」を適用するルールになっている。

◆筆頭株主グループの議決権割合が30%以上の会社の場合

具体的には、「同族株主のいる会社」における50%超グループに属する場合、あるいは、30%以上のグループに属する場合であっても、次の①②③④の全ての条件に合致する場合には「特例的評価方式(配当還元価額)」を適用する。
ただし、「特例的評価方式(配当還元価額)」による評価額が「原則的評価方式」による評価額を上回る場合には、「原則的評価方式」を適用する。

①その者の当該株式取得後の議決権割合が5%未満であること。
②「中心的な同族株主」がいる会社であること。
③②の「中心的な同族株主」がいる会社において、評価対象株式を相続等で取得する者を基点においた場合に、その者が「中心的な同族株主」でないこと。
④その者は課税時期において当該会社の社長等の「役員」でないこと、かつ、申告期限までに「役員」となる者でないこと。

◆筆頭株主グループの議決権割合が30%未満の会社の場合

筆頭株主グループの議決権割合が30%未満の会社(「同族株主のいない会社」)については、議決権割合15%以上のグループに属する株主であっても、次の①②③の全ての条件に合致する場合には「特例的評価方式(配当還元価額)」を適用する。
ただし、「特例的評価方式(配当還元価額)」による評価額が「原則的評価方式」による評価額を上回る場合には、「原則的評価方式」を適用する。

①その者の当該株式取得後の議決権割合が5%未満であること。
②「中心的な株主」がいる会社であること。
③その者は課税時期において当該会社の社長等の「役員」でないこと、かつ、申告期限までに「役員」となる者でないこと。

◆用語の意義

□「同族株主等」と「同族株主」とは

「同族株主等」とは、①②③のいずれかに属する株主をいい、「同族株主」とは、①②のいずれかに属する株主をいう。

①筆頭株主グループの議決権割合が50%超の場合
…筆頭株主グループに属する株主
②筆頭株主グループの議決権割合が30%以上50%以下の場合
…議決権割合30%以上の株主グループに属する株主
③筆頭株主グループの議決権割合が30%未満の場合
…議決権割合15%以上の株主グループに属する株主

□「中心的な同族株主」とは

「中心的な同族株主」とは、特定の同族株主の一人およびその配偶者、直系血族、兄弟姉妹、1親等の姻族(法人税法に定める同族関係者である会社のうち、これらの者の議決権割合が25%以上の会社を含む)の合計議決権割合が25%以上である場合におけるその特定の一人の株主をいう。

【本人からみた場合の親族と中心的な同族株主の判定の範囲】

【本人からみた場合の親族と中心的な同族株主の判定の範囲】

【本人からみた場合の親族と中心的な同族株主の判定の範囲】2

□「中心的な株主」とは

「中心的な株主」とは、議決権割合が15%以上の株主グループのいずれかに属しており、単独(株主1人)で議決権割合が10%以上となる株主をいう。

□「役員」とは

「役員」とは次の者をいう。

①社長、理事長、代表取締役、代表執行役、代表理事、清算人
②副社長、専務、常務その他これらに準ずる役員
③取締役(委員会設置会社の取締役に限る)、会計参与、監査役、監事

 
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