海外ビジネス情報
2023/02/19
テーマ: 03.海外
タイで拡大するゲーム市場!
テクノロジーの進化やeスポーツの拡大が成長を後押し
タイのゲーム産業は、この数十年間力強い成長を遂げ、国内で最も有力な成長産業の1つとなっていることに加え、今後も継続的に成長するものと見込まれる。成長を支える主な要因は、新型コロナウイルスがもたらした消費者行動の変化、テクノロジーの進化、eスポーツ市場の拡大などである。重要な成長段階にはあるものの、業界はまだ十分に発達しているとはいえず、ゲーム開発におけるタイの国際競争力は弱い。高スキル人材の不足や政府の支援が不十分なことが主な課題となっている。今後、人材の不足など業界内で対応が可能な課題を克服することで、国際競争力の強化やさらなる飛躍を遂げる可能性がある。
目次
ゲーム市場の概要
タイでゲームの人気が高まっている背景には、ゲームが単なる娯楽というだけではなく、人とつながる場としても機能する新たなネットワーキング効果を生み出しているということがある。これにより、ゲーム業界のビジネスエコシステムが関連ビジネスも巻き込んで拡大している。

ゲーム市場の動向
タイのゲーム市場規模は、新型コロナウイルスの感染拡大前からすでに緩やかな成長を遂げており、2015~2019年の年平均成長率は16%だった。
2020年、新型コロナウイルスによって多くの業界が大きな打撃を受けたが、ゲーム市場規模は343.16億バーツと、前年比35%の成長率を記録した。
潜在成長力も大きく、2020年から2023年にかけて年平均成長率25%で成長し、2023年には655億バーツに達するだろうと予測されている。
タイゲーム市場規模

成長のカギ
▮新型コロナウイルス感染拡大前
デジタル技術の革新と進化は、利用者のゲーム体験向上に加えて、ゲーム制作プロセスの加速ももたらした。
インターネットの普及とスマートフォンの低価格化により、モバイルゲームに関わる事業活動が活発化し、利用者数も増加した。
タイにおいてeスポーツ市場の拡大は、ゲームに対するイメージ向上に貢献しており、2017年には政府スポーツ庁(SAT)がeスポーツを正式種目として認定している。
▮感染拡大期
感染拡大は消費行動の変化をもたらした。家で過ごす時間が増えたことで、人々の余暇の過ごし方が変わりゲーム人口が増加した。
また、消費行動の変化でオンラインの利用が活発になったことが、オンラインゲームやアプリ内課金の需要を押し上げた。
ゲームは、人とのつながりをもたらすコミュニケーションの場という新たな交流手段となり、そのことが多くの人々をひきつけた。
▮アフターコロナ
テクノロジーの進化により、VR、AR、クラウドゲーム、メタバースなどが登場し、ゲーム体験のますますの充実が予想される。
ゲーム市場とeスポーツ市場の成長によりゲームを取り巻くビジネスエコシステムが拡大し、新たな雇用、新たなビジネスモデル、ゲーム以外の業界(広告など)の機会を創出することが期待される。
タイのゲーム市場規模:カテゴリー別 (2020年)

2020年の消費額は339.08億バーツだが、生産額は8.37億バーツに過ぎない。
これは、タイのゲーム産業が消費によってけん引されており、そのほとんどが輸入で賄われていることを示している。
要因としては、グローバルに展開する外国企業の製品、特に政府の全面的な支援を受けられる国で生産したゲームが、品質などの面で国際競争力が高いということがあげられる。

2020年の売上高は、アプリ内課金が65%と大半を占め、次いで小売が34%、その他はわずか1%であった。
アプリ内課金の売上高が最も多い理由としては以下があげられる。
モバイルゲームの普及とF2P(基本的に無料)のビジネスモデルにより、より多くの消費者が気軽にゲームに参加し、それが需要けん引していること
オンライン決済手段の多様化によって、オンライン購入やアプリ内課金などに対するユーザーの利便性が向上したこと
タイで人気のあるゲームの98%以上が輸入品である。つまり、アプリ内課金の売上などの形で、資金が外国のゲーム開発会社や多国籍プラットフォームに流出しているということである。
ゲームの利用状況

タイでは、モバイル、PC、コンソールの全てのゲーム市場が伸びており、ゲーム人口が大きく拡大し、全人口の約半数(48%)がゲームをするようになっている。
ゲーム業界の調査会社Newzooによると、2021年のゲーム人口は3,200万人で、2020年の2,780万人から15%増加している。
2020年のゲーム市場をデバイスセグメント別にみると、AndroidとiOSの売上高が最も大きく、2017~2020年の年平均成長率も高く、タイでは主にモバイルゲームの成長が著しいことが分かる。
モバイルゲーム急成長の主な要因としては以下があげられる。
インターネットの普及と接続性の向上により、ゲーム用コンソールなどを購入せずにモバイル機器で簡単にゲームにアクセスできるようになったことで、モバイルゲーム需要が増加した。
多くのスマートフォンブランドが価格を引き下げ、スマートフォンの価格がより手頃になっている。これにより、低コストでゲームが楽しめるというゲーム体験の向上につながっている。

ゲーム業界のサプライチェーン
ゲーム業界の一般的なサプライチェーンには、 コア機能を担う4つのメインステークホルダー:
①ゲームディベロッパー(開発・制作を手掛ける)
②ゲームパブリッシャー(企画・マーケティング・リリースを行う)
③ディストリビューター
④消費者(エンドユーザー)およびサポート機能を担う3つのサポートステークホルダー:
①ミドルウェアメーカー(特定の機能を付与するための機器を製造)、
②ハードウェアメーカー、③インターネットサービスプロバイダー(ISP)が存在する。
ソニー、任天堂、アクティビジョン・ブリザードなどの大手企業は、自社でゲームディベロッパー・パブリッシャー、独自の流通プラットフォームなど、サプライチェーン内の複数のコア機能を担っている場合がある。
▮従来のサプライチェーン
従来のサプライチェーンの流れでは、まずゲームディベロッパーがゲームの開発・制作を、ゲームパブリッシャーが企画・マーケティング・リリースを行う。
その後、ディストリビューター・小売店による流通を経て消費者(エンドユーザー)に届けられる。
▮モバイルオンラインゲームのサプライチェーン
インターネットの出現、テクノロジーの高度化、モバイル端末の普及により、ゲームディベロッパーがApple App StoreやGoogle Play Storeなどのオンラインチャネルを通じて直接ゲームを配信するという流れに構造が変化している。

主な特徴

ゲーム業界のビジネスモデル
タイゲーム業界の主なビジネスモデルは、B2P(Buy-to-Play、購入型)、P2P(Pay-to-Play、定額料金型)、F2P(Free-to-Play、基本的に無料)の3つである。
タイでは、モバイルゲームに主に採用されているF2Pの利用が増えている。要因としては、特定のデバイスなしで、無料でダウンロードでき、場所や時を選ばず簡単にアクセスできることなどがある。
加えてF2Pは、新しいプレイヤーにゲームを試してもらうことが容易であり、多様な顧客層を取り込むことができる。

世界のゲーム市場

Newzooによると、世界のゲーム市場規模は、2021年には1,930億ドル、2024年には2,230億ドルに達すると予測される。また、2020~2024年の年平均成長率は5.6%に達するとみられる。
世界のゲーム市場において、日本企業は、技術適応力と継続的なイノベーションにより、市場をリードしてきた。
現在もソニー、任天堂、バンダイナムコなどが金額ベースシェアのトップ10にランクインするなど、存在感を維持している。
米国企業は、マイクロソフト、アクティビジョン・ブリザード、エレクトロニック・アーツ、エピック・ゲームズ、テイクツー・インタラクティブ・ソフトウェアなど様々な大手が、世界のゲーム市場で優勢を誇っている。
一方、米国連邦取引委員会(FTC)は、このような有力企業による業界の寡占に厳しく対応しており、事実マイクロソフトが提案したアクティビジョン・ブリザードの買収について、「この合併がライバルを締め出し、生産量を制限し、価格を操作し、消費者の選択肢を減らす能力を生み出す」として、この買収を阻止するために同社を提訴している。

タイゲーム業界の主要企業
Garena Online Thailand(シンガポールのSea Companyの子会社)は、2021年の売上高が70.24億バーツで、タイゲーム市場の最大手である。
同社は、オンラインゲームのディベロッパーおよびパブリッシャーであり、近年、アジアのeスポーツ市場で人気急上昇の「ROV: Arena of Valor」を提供している。
それに続き市場で2位および3位のシェアを持つのはテンセントおよびバンダイナムコで、2021年の売上高はそれぞれ13.10億バーツおよび5.28億バーツとなった。

政府によるゲーム産業支援計画
タイの20年国家戦略、デジタル経済推進計画、タイ・デジタル経済社会開発計画など、デジタル産業の発展を支援する政府機関が、競争力強化や人材育成を目的として、主にゲーム関連を対象とした数多くの計画を実施している。

投資優遇措置
政府は、タイへの投資に関心を持つゲーム会社が、デジタル経済振興機関(DEPA)および投資委員会(BOI)から投資優遇措置を受けられるようにすることで、タイのゲーム産業の発展を支援している。
これらの優遇措置は、ゲーム会社に対する免税だけでなく、助成金、コンバーチブル*、マッチングファンドといった形で資金調達をサポートするものもある。
DEPA投資優遇措置

BOI投資優遇措置

▮投資優遇措置
・機械類の輸入関税免税
・研究開発で使用する原材料の輸入関税免税
・輸出向け生産に使用される原材料の輸入関税免税
・税制以外の優遇措置**
注: **税制以外の優遇措置とは、投資機会の調査を目的とした外国人の入国許可、投資促進活動に従事する高スキル人材や専門家の入国許可、土地所有許可、外貨の国外持ち出し・送金許可など
課題、今後の動向、機会
課題
専門家や高スキル人材など人的資源の不足
DEPAによるとタイでは、特にゲーム開発やゲームパブリッシングなどに関わる専門家や高スキル人材が依然として不足している。
タイでは人材不足が世界市場でのプレゼンス向上や国際競争力の強化の妨げになっており、その結果、ゲームやコンテンツの多くを外国企業の製品に頼っている(市場規模・金額ベースの98%)。
資金や政府サポートの不足
タイのゲーム会社は、資金調達や政府の支援を受ける上で苦労している。これは官民ともに、ゲーム業界に対する理解がまだ浅く、ゲームに対して否定的なイメージを持っているためである。
こうした資金や支援の不足のため、タイのゲームディベロッパーやパブリッシャーは国際競争力のある質の高いゲームやコンテンツを制作することが困難な状況にある。
タイのゲーム産業を支えるインフラの不足
以下の通り、タイにはまだゲーム産業を支えるインフラが整っておらず、投資家が投資判断を下すのが困難である。
政策・規制がきちんと体系化されていない
保存や記録のためのデータベースが十分に整備されていない
今後の動向
▮ゲーム開発におけるデジタルイノベーションと技術進歩
クラウドゲームは、ゲームをストリーミング配信で提供するサービスである。データはデータセンターで遠隔処理されるため、良好なインターネット接続環境さえあれば、ゲームをダウンロードしたり高性能のハードウェアを購入したりすることなく、ゲームを楽しむことができる。
ブロックチェーン技術により、換金可能な暗号通貨やNFTを使ってゲーム内アイテムの取引ができる。
メタバースは、VRやARなどのデジタル技術を組み合わせた3DのCGで構築される仮想空間で、分身となるアバターを通じて他のユーザーや環境との仮想的な交流を行えるようにするものである。これによってユーザー体験を向上させる。
▮新しいビジネスモデル:P2E(Play-to-Earn、ゲームをしながら稼ぐ)の実現
P2Eは、プレイヤーがゲームをしながら、暗号通貨やNFTでお金を稼ぐことができるというものである。
機会
▮投資機会
タイ企業による外国のゲーム会社との共同事業や協業の動き
ゲーム制作に関わるデジタル技術への投資拡大の動き
ゲームやデジタルコンテンツに関連した教育機関やトレーニングコースの設立増加の動き
業界を盛り上げるためのマーケティング会社との連携の深化・拡大の動き
ビジネスマッチングのためのゲームイベントの開催増加の動き
▮広告の機会
ゲームイベント、メディア、eスポーツの大会を通じた、ブランド広告の機会の増加
ゲームディベロッパーやパブリッシャーとのブランド提携によるバーチャル商品、アプリ内アイテムの販売機会の増加
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執筆:YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd.
(山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)
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