コラム
2023/11/02
テーマ: 07.不動産
次世代が困らない不動産承継対策 第2回
本コラムは「月刊 家主と地主」2023年10月号に掲載されたものです。
遺されて困る不動産 やっておくべき三つの対応策
次世代により多くの不動産を遺すための対策として、不動産の有効活用などの資産承継対策は有用です。9月号からスタートした本連載では、資産承継対策に携わってきた6人のコンサルタントが、そのノウハウをリレー形式で伝授します。第2回は、売却や相続のことを考えて準備をすることの大切さについて解説していきます。
不動産はすぐに売れない?
土地の活用方法はさまざまですが、ほとんどの人が活用時点ではそれが一番良い方法であると考えて、実行していると思います。ただ、そのときに最終的な場面(売却する、相続するなど)までを想定し、準備・対策をすることで、次世代に「より良い不動産」を遺すことができます。
東京都に住むBさんの例です。Bさんは農家であり、土地をたくさん保有していました。Bさんの子どもたちは農家を継ぐつもりがなかったため、Bさんは保有している農地をそのままではなく、活用したうえで引き継いだほうがいいと考えました。
そこで、Bさんは元々持っていた自宅や貸し宅地以外の土地を駐車場にしたり、農地を宅地に転用してアパートを建てたりするなど、さまざまな活用をしました。その後、二十数年が経過し、Bさんから子どもたちへの相続が発生。
子どもたちは相続税の支払いのために不動産の一部を売却する必要があったことから、不動産会社に売却の相談をしました。その際、すぐに売却できそうなのは駐車場のみであると言われたのです。子どもたちは駐車場を一番残したいと思っていましたが、納税のための現金はなく、また、納税期限が迫っていたため、仕方なく駐車場を売ることにしました。
納税後、残った不動産は売却するのが難しいだけでなく、管理の手間も多々あり、今後どうすればいいかわからず悩みました。なぜ、このような事態になったのでしょうか。
不動産の活用方法と流動性

図表1のとおり、不動産はその種類や活用方法、さらには立地・管理状態などにより流動性(現金化のしやすさ)に差が出ます。
今回、Bさんの保有している不動産は「自宅」「駐車場」「底地」「アパート」でした。底地は購入者が借地人に限定されることなどから、流動性が低くなります。さらに本件では、借地との境や隣地との境界が未確定でした。また、アパートは賃貸管理の状況が悪く修繕も行っていなかったため、すぐに売却することが困難な状況でした。
不動産は活用することにより利益を得られますが、同時に関係者が増え、権利調整や管理の負担が生じます。そして、これらへの対応の有無やその内容が不動産の流動性へ大きく影響を及ぼします。
どのような活用方法でも、その特性を見極めて先を見据えた対応をしていくことが大切なのです。
不動産承継対策の基本
それでは、次世代が遺されて困らない不動産を引き継いでいくためにはどうすればいいのでしょうか。私たちは、図表2に記載した内容を実施することが対策の基本だと考えています。
第一に「実勢価格の把握」です。不動産にはさまざまな価格がありますが、そのうち実勢価格とは”今この不動産を市場に出した場合に付く価格“のことです。これは、あくまで相場を把握する指標の―つである”地価公示価格“ゃ、市場における客観的な経済価値である”鑑定評価額“とは異なります。この価格は実際に取引が成立する価格であるという特徴を有し、物件によっては数週間・数力月で変動する場合もあります。実勢価格を定期的に把握することは、納税資金の目安になるだけでなく売却時期を見定めることができるというメリットがあります。一方で、この実勢価格は机上の試算とは異なるため、信頼できる不動産会社へ依頼することが重要です。
第二に、「色分け」です。これは、持っている不動産のそれぞれの状況を整理することです。具体的には各不動産の収支状況、建物の状態、契約内容などを洗い出し、所有者の意向、相続人の属性や意見などを踏まえて、不動産を「残したほうがいい」「将来的に手放してもいい」「早く手放したほうがいい」などに振り分けます。これにより、流動性の確保も含めた対策の優先度をつけることができます。
第三に、「条件整備」です。これは底地などの流動性の低い不動産に対して、特に重要な対策です。一般的に整備条件として重要なのは、①境界確定②分筆③契約書の整備④地代の妥当性検証です。この整備をすることにより、一定程度の流動性が確保され、突発的な事情にも対応することが可能となります。ただし、この条件整備には隣接地権者や借地人ら、第三者の同意が必要となり、多大な時間を要することから、時間に余裕を持って対応する必要があります。

以上、三つの対策を行うことにより、相続時における納税財源のめどが立ち、次世代へより良い不動産を遺すことが可能となります。
次回は、“不動産承継対策の基本は納税財源の確保。知っておきたい物納制度”をテーマにお届けします。

解説者紹介
山田コンサルティンググループ株式会社
不動産コンサルティング事業本部 営業部
シニアコンサルタント
土 恵一(つち けいいち)
不動産鑑定士、宅地建物取引士。不動産鑑定事務所、不動産デベロッパー、大手鉄道会社などで不動産鑑定評価をはじめとした不動産の評価経験を経て2019年8月、山田コンサルティンググループ入社。不動産鑑定士目線で企業の遊休不動産、事業用不動産に関する評価分析や土地・建物の賃料査定を行うほか、さまざまなコンサルティング事業へ参画する。
次世代が困らない不動産承継対策 第1回
次世代が困らない不動産承継対策 第3回