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コラム

2023/11/13

テーマ: 07.不動産

次世代が困らない不動産承継対策 第3回

本コラムは「月刊 家主と地主」2023年11月号に掲載されたものです。

資産承継の基本は納税財源の確保 知っておきたい“相続税”物納制度

9月号よりスタートした本連載では、資産承継対策に携わってきた6人のコンサルタントが、そのノウハウをリレー形式で伝えています。より良い不動産を次世代に残すための対策の1つとして、物納制度は有用です。今回は、物納による相続税納税について解説します。

金銭以外で相続税を納める物納

 物納制度とは、相続税を金銭納付できない場合に活用できる制度です。相続税は金銭納付が原則ですが、金銭一括納付も延納もできない場合は、金銭納付できない金額を限度として、物納が認められます。相続した財産のうち物納できる財産は、表1に示したとおり、不動産、船舶、国債、上場株式、動産などであり、「物納適格財産」として順番・要件が定められています。
 物納制度のメリットは、以下の3点です。
①相続税評価額で収納される
②譲渡所得税がかからない
③物納する物件を申請者が選択できる

【表1】物納適格財産の種類

順位

物納適格財産の種類

第1順位

①不動産(適格財産)、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式など
※特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含み、短期社債等などを除く

②不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

第2順位

③非上場株式など
※特別の法律により法人の発行する債券および出資証券を含み、短期社債などを除く

④非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

第3順位

⑤動産

※国土交通省「タックスアンサー」を基に山田コンサルティンググループで作成

 物納までの流れは図1のとおりです。今回は、不動産を物納する場合に焦点をあて、「不動産の整備」をサポートしている当社から、その経験も交え準備しておくべきポイントと事例を紹介します。

物納は生前準備が肝心

 物納できる不動産には要件があります。また、相続発生後、10カ月以内に物納申請をしなければならないため、生前の整備が必要不可欠です。
 まず初めに行うことは「不動産の色分け」です。前回も触れていますが、所有している全不動産について、所有し続けたい物件とそうでない物件に色分けをします。そうでない物件の中から「物納に充てる(充てられそうな)不動産」を選定します。
 次に行うことは、「条件整備」です。「物納に充てる(充てられそうな)不動産」を物納申請時に求められる整備事項に基づいて、以下の条件整備を行います。
①境界確定(越境がある場合は越境解消の覚書取得)
②賃貸している場合は契約書の整備、賃料滞納などがある場合はその是正
③分筆
 これらに共通するのは、時間がかかるということです。隣接地所有者や借地人などの第三者の同意が必要となりますから、生前のうちに対応を始める必要があります。隣接地所有者や借地人と長い付き合いのある本人が対応するほうが、スムーズに進むことが多いと考えられまここまで整備しておけば、相続発生後に慌てることも少なくなります。その後、相続が発生したら、税務署に物納申請を行います。

分筆する場合には注意を

 物納は原則として金銭納付できない金額を限度として認められるため、その金額を大幅に超過する不動産を物納申請することは、却下されるリスクも高くなるため避けたほうがいいでしょう。
 超過分に関しては現金還付される制度にはなっていますが、物納対象地の相続税評価額が金銭納付できない金額と同等になるように、土地を分筆して調整することを求められるケースもあります。物納のために分筆した実例を踏まえて注意点を紹介します。
 都内在住のCさんの例です。Cさんが相続税を試算したところ、納税資金が不足することがわかりました。そこで相続するアパートを解体し敷地全体を物納に充てようと考え、生前の整備をしていました。
 ところが地価の上昇に伴い、対象敷地の相続税評価額が想定よりもはるかに高くなったことで、敷地全体を物納する必要がなくなりました。そこで図2のように、敷地を分筆して、敷地の一部を物納する方針に変更しました。

 この事例における分筆する際の注意点は以下のとおりです。
①アパ—卜の順法性を損なわないように分筆する
②物納対象地が接道要件を満たすように分筆する
③取り壊した部分の滅失登記をする
④生活インフラ(ガス管など)が物納対象地に入らないよう引き直しを行う

 以上をクリアし、本事例の不動産は物納が認められ、無事に相続税を納めることができました。
 ②③④のように物納対象地が遵法性を損なったり、第三者の権利が残ったりしないように注意することはもちろん、①のように物納しない土地の順法性も、損なわないように分筆しなければなりません。最悪の場合、それが理由で却下される可能性もあります。留意しなければならないのは、物納はあくまで所有者の申請に対して税務署が許可する形で認められるため、必ず物納できるわけではないということです。
 不動産を売却して資金化し、金銭納付する方法が一般的かもしれませんが、物納にも一定のメリットがあります。物納制度の活用も視野に入れて、準備してみるのはいかがでしょうか。
 次世代が残してほしい不動産は手元に、そうでない不動産は物納して相続税納税に充てる。次世代へより良い不動産を残す手段の一っとして、物納制度は有用です。
 次回は、「こんな不動産残されたら困る!先代の口頭約束に悩む次世代」をテーマにお届けします。

解説者紹介

山田コンサルティンググループ株式会社
不動産コンサルティング事業本部 営業部
シニアコンサルタント
溝口 哲朗(みぞぐち てつろう)

2018年4月、山田コンサルティンググループ入社。底地・借地の権利調整や物納、再開発事業の地権者へのアドバイス、資産の組み替えなど、幅広くコンサルティング役務を提供。

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