お問い合わせ

コラム

2023/12/11

テーマ: 07.不動産

次世代が困らない不動産承継対策 第4回

本コラムは「月刊 家主と地主」2023年12月号に掲載されたものです。

こんな不動産残されても困る! 先代の口約束に悩む次世代

さまざまな資産の中でも不動産、特に賃貸用不動産は金融資産などと違い、個々の契約条件などにより財産価値が大きく変わることがあります。資産承継対策に携わる6人のコンサルタントがそのノウハウを伝える本連載。第4回は、契約などにまつわる事例の中でも口約束といった曖昧な取り決めにより将来どんな問題が生じる可能性があるかについて解説します。

賃貸面積などの認識相違

一団(または一筆)の大きな土地を大勢の借地人に賃貸している場合、借地人に相続が発生したときに問題が顕在化することがあります。
一例を紹介します。都内の地主A氏が相続した土地は借地人が複数いましたが、そのうちのB氏から借地権を買い取る際に双方で対象地を再確認したところ、賃貸借している面積、場所についての認識が相違していることが判明しました。土地賃貸借契約書は50年以上前のもので、「地番○○の土地のうち○㎡を賃貸借するとのみ記載されており、具体的な場所の記載はありませんでした。
A氏、B氏とも契約時の当事者ではなく、賃貸借の場所については口頭で大まかにしか引き継いでいません。A氏はB氏のほかにC氏、D氏に土地を貸しておりそれぞれが建物を建てていると引き継いでいました。しかし、B氏はC氏の建物が永らく空き家の未登記建物だったこともあり、建物は自身が所有しており土地も借りていると引き継いでいたため問題が発生しました。(図1)

本件はさまざまな経緯があったものの、幸いなことにA氏の主張どおりに借地権を買い取ることができました。しかし、場所を特定する直接的な資料は双方とも提示できなかったことを考えると交渉が難航する可能性が十分にあった事例です。

更新料支払いの約束

次は賃貸条件について賃貸借契約書に記載がなく口頭で対応していた事例になります。
E氏は、父親が管理していた東京都内にあるアパートを相続しました。アパート経営の経験はないため不安はあったものの、管理業者に頼まず自分で管理していました。しかし、家賃の遅れなどもなく賃借人との関係も良好で、良い財産を残してくれたと、父親に感謝していました。
アパート引き継ぎ後に、初めて賃貸契約の更新時期を迎えた借家人F氏と更新条件の話をした際のことです。更新料についてF氏から「お父さんからは更新料なんて要求されたことはないし、前回更新した際も払っていないよ」と言われました。
現在使用している賃貸借契約書には、更新料は家賃ーカ月分との記載があるものの、F氏は古くからの住人でその契約書には更新料の記載はあリません。父親からは「更新料は家賃1ヵ月分と全員に話しており、今までもそれで更新している」と言われていました。
しかし、これまで良好な関係であったF氏に、契約書に記載がないこともあリ強く要求することはできず、更新料なしで契約を更新しました。
家賃など毎月発生するものは引き継いだ直後から目が届きますが、更新料など数年単位(貸し宅地であれば数十年単位)で発生するものは、数年後に問題が顕在化して慌てるということが起きがちです。
本事例のようにアパートの更新料であれば、それほど高額にはならないかもしれませんが、貸宅地の更新料となると数十万円どころか数百万円ということもあります。大きなトラブルに発展する可能性も考えられるため、注意が必要です。

書面も大事な承継遺産

口頭での引き継ぎや書面のない口約束の結果、次世代が悩んでしまう事例を紹介しました。せっかく残した財産がかえってトラブルの種になり、相続人が困り果てるケースも散見されます。では、そうしたことが起こらないようにするためにはどうすべきなのでしょうか。
不動産賃貸借契約に関する取り決めは、借地契約のように契約自体が長期にわたり途中で世代交代も起こりうることから、まずは契約書を作成すること、契約後の条件変更や追加であれば変更契約書や覚書といった書面に残すことが大原則です。もちろん、実際の交渉では、借り手との関係もあり書面の取り交わしが難しいこともありますが、できる限り書面を残すことで、その書面自体が次世代への貴重な財産となります。
一方、過去の取り決めを今更書面にするのは難しいうえに面倒なので、必要になったらそのとき次世代が対応してほしいといった話も聞きます。しかし、賃借人との人間関係が薄くならざるを得ない次世代ではなく、関係性が築けている先代がお願いしたからこそ書面を取り交わすことができたという事例が多いことも事実です。そのため、あらためて口頭での取り決め事項をリストアップし(表1) 、契約更新時などタイミングを見計らい計画的に少しずつでも書面に残していくことをおすすめします。

【表1】口頭事項リスト例

【土地】

番号

地番

借主

対応日

先方

甲との
続柄

次の
イベント

内容

1

東京都〇〇区 a様 2021年
4月10日
b様 2023年5月
契約更新
地代について次回更新の際には
路線価に応じて変動

2

横浜市〇〇区 c様 2020年
秋頃
c様 本人  

3



【借地】

番号

建物・階・室

借主

対応日

先方

甲との
続柄

次の
イベント

内容

1

△△ビル・3階 d様 2020年
6月1日
e様 社長 2024年3月
契約更新
新型コロナウイルス対応で
引き下げた賃料は23年1月から
元のxx万円に戻す

2

△△荘・
202号室
f様 2020年
3月頃
g様 養女  

3

※一例であり項目や形式は個々の保有不動産などに応じて適宜作成

次回は、“残されて困る不動産への対応策として、今すべきこと”をテーマにお届けします。

解説者紹介

山田コンサルティンググループ株式会社
不動産コンサルティング事業本部 営業部
部長
長谷川 靖(はせがわ やすし)

宅地建物取引士、中小企業診断士。メガバンクにて法人、個人向けにさまざまなソリューション提案を行った後2019年2月、山田コンサルティンググループに入社。金融機関での経験も生かし、所有不動産の利活用、貸地・借地の整理、再開発事業の地権者へのアドバイスなど各種コンサルティング役務を提供。

次世代が困らない不動産承継対策 第3回

前の記事へ

次世代が困らない不動産承継対策 第5回

次の記事へ