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コラム

2024/01/04

テーマ: 07.不動産

次世代が困らない不動産承継対策 第5回

本コラムは「月刊 地主と家主」2024年1月号に掲載されたものです。
※1月号より、雑誌名が「家主と地主」から「地主と家主」に変更になりました。

「知らない・聞いてない」を防ぐ 次世代のために、今すべき対応策

不動産を相続したものの、その管理や処分に頭を抱えてしまうケースは少なくありません。次世代が困らないために、今のうちにできることはやっておきたいものです。資産継承対策に携わってきた6人のコンサルタントが、その経験をリレー形式で伝える本連載。第5回は、先代と次世代が情報共有することの重要性などについて解説します。

先代にしか管理できない物件

賃貸用不動産を相続した際、何もわからないまま賃貸物件の貸主になり、予期せぬ問題を抱えてしまうケースがあります。
都内に住むA氏の例です。A氏の父親は、神奈川県内に賃貸ビルを所有していました。その物件の賃借人の多くは外国人で、語学に堪能なA氏の父親は自ら管理をしていました。しかし、高齢になるにつれ賃料の入金管理や更新業務、建物の管理などがおろそかになっていきました。建物の壊れた箇所は放置され、やがて賃料の滞納が発生。賃借人への督促もままならない状況になってきたところで、A氏の父親が亡くなりました。
物件を相続したA氏は、荒れ果てた現状を目の当たりにし“自分には手に負えない”と思い、近所の不動産会社に売却の相談に行きました。ところが、担当者から「すぐに買い手を見つけるのは難しい」と言われてしまいました。その理由は次のとおりです。
・家賃を滞納している入居者がいる
・賃貸借契約書、更新契約書がない入居者がいる
・入居者の9割が外国人で、その中には日本語が話せない人もいる

滞納家賃の回収や新たな契約書類の取り交わしなど、どれをとっても一筋縄ではいかないことが容易に想像できます。それに加えて、ずさんな管理状況も影響しているようで、相談した不動産会社が提示した売買価格はA氏の希望をはるかに下回るものでした。
A氏の父親はどのような対応をしておくべきだったのでしょうか。

①入居者対策

日本語が話せない外国人に賃貸する場合は、せめて保証人を日本人にしてもらうなど、“自分しか対応できない”といったケースがないように、対策をしておく。

②賃貸借契約書類の管理

郵送で契約書類をやりとりする場合、契約者が押印した書類を戻し忘れてそのまま、ということを防ぐため、書類管理を徹底しておく。うっかり更新手続きを忘れてしまうことがないよう、期日管理も行っておく。

③毎月の入金管理

支払期日を過ぎても入金がなければ、速やかに賃借人に連絡し、入金があるまで督促を続ける。そうすることにより、できるだけ滞納を防ぐ。もし滞納がある場合は、何月分まで入金済みなのか記録をしておく。
これら入居者との問題は、入居当時から知己であるA氏の父親が入居者と話し合い、解決しておいてほしいところです。また、賃貸用不動産の場合、管理の良しあしが不動産の価値に大きな影響を及ぼします。管理がおろそかになる前に、外部のプロに依頼したほうがいいでしょう。そして、次世代に残したい不動産があるのなら、早い段階で次世代と連携しておくことも、円滑な不動産承継のポイントです。

今からできる基本的な対応策

【表1】基本的な対策とその理由

対策 理由
1.測量、境界の確定 隣接地の所有者といった第三者が相手のため、時間を要する。また、面識がない次世代がお願いするよりも、先代のほうが円満に進められるケースが多い。
2.権利関係の調整、越境物の解消
3.不動産の調査 売買に支障が出るようなネガティブな要素がないかを把握するために有用。
4.正しい時価の把握 市場流通価格を把握しておくことで、現時点での資産価値を確認。

不動産を円滑に承継するためには、「基本的な対策」を押さえておきましょう。
①測量、境界の確定②権利関係の調整、越境物の解消③不動産の調査④正しい時価の把握です(表1)。基本的な対策ができていなかったため、土地の売却に困ってしまったB氏の例を紹介します。
B氏の父親は複数の駐車場(更地)と賃貸用不動産を所有していました。そして自分に相続が発生したら、更地の駐車場を売却して、相続税納税にあてるようB氏に伝えていました。
相続が発生し、いざB氏が駐車場を売却するために隣地に境界画定のお願いに行ったところ、問題が発生。隣地の所有者から、「先代とは土地を譲ってもらう約束になっていた。ほかの人に売るならはんこは押さない」と言われてしまったのです。
B氏はそのような約束があるとは聞いておらず、すでに買い手を見つけ売買契約を交わした後でした。条件である境界確定ができなければ、売るに売れません。慌てて別の駐車場を売却しようとしましたが、今度は隣地の水道管が当該地に越境していることが発覚。解決には時間を要することがわかり、結局保有し続ける予定だった条件の良い賃貸用不動産を売却せざるを得なくなりました。
先代が健在なうちに境界確定をしていれば、隣地とのトラブルは避けられたでしょう。また、基本的な対策をしておけば、残したい不動産を守ることができたと思われます。
円滑な不動産承継のために、表1で挙げた基本的な対策は必要不可欠です。特に境界確定など相手があるものは、先代が交渉したほうが円満に進むことが多いです。次世代が安心して引き継げるように、今できることから始めてみてはいかがでしょうか。

次回は“予期せぬ相続発生!想定される相続順位が子から高齢の親へとなった場合に困らないための対応策”をテーマにお届けします。

解説者紹介

山田コンサルティンググループ株式会社
不動産コンサルティング事業本部 営業部
シニアコンサルタント
宮尾 啓子(みやお けいこ)

宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター。賃貸物件の仲介・管理の経験を経て、2008年、TFP不動産コンサルティング(現山田コンサルティンググループ)に入社。不動産の売買仲介や有効活用、収益用不動産の購入コンサルティングなど、幅広い役務経験から顧客の資産承継を支援。

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