お問い合わせ

コラム

更新日:2024/03/01 公開日:2024/02/07

テーマ: 07.不動産

次世代が困らない不動産承継対策 第6回

本コラムは「月刊 地主と家主」2024年2月号に掲載されたものです。
※1月号より、雑誌名が「家主と地主」から「地主と家主」に変更になりました。

高齢者のための資産承継対策のポイントと注意点

高齢になると懸念されるのが、認知機能の低下に伴う意思能力の欠如です。誰にでも起こる可能性がありますが、デリケートな問題のため、家族間での話し合いを先送りにしがちで、資産承継対策がうまく進まないケースが少なくありません。資産承継対策に携わってきた6人のコンサルタントが、その経験をリレー形式で伝える本連載。第6回は「高齢者のための資産承継対策のポイントと注意点」について解説します。

子から高齢の親へ「逆相続」

親より先に子が亡くなるという予期せぬ事態が発生した、A氏の事例を紹介します。
賃貸用不動産を所有していたA氏の兄が亡くなりました。その賃貸用不動産は高齢の母親が相続し、母親に代わりA氏が賃貸用不動産の管理を行うことになりました。しかし一方で、母親は多額の医療費がかかっていたことから、A氏と母親で話し合い、その後、賃貸用不動産を売却することにしました。(図表1)

高齢の親が突然賃貸用不動産のオーナーになり、かつ、その不動産を売却することになった場合、どのような問題が起きるでしょうか。予想される懸念点は次のとおりです。

①親に契約行為を行うだけの意思能力がない
親の意思能力の有無に注意しましょう。契約行為を行うだけの意思能力がないと、契約自体が無効となります。後々買主とのトラブルに発展しないためにも、親の日常生活を観察するだけでなく、主治医やホームヘルパーなどにも相談し、親の意思能力に問題がないことを確認しておくことをおすすめします。
また、登記を担当する司法書士にも、あらかじめ相談をしておくといいでしょう。

②不動産に関する書類が見当たらず基本的な情報がわからない
不動産に関する書類はとても多いため、保管する場所を決めて、紛失しないようにしましょう。
また、家族など信頼できる人には不動産に関する過去の経緯や、どのような利用形態になっているかなどを共有しましょう。そうすることで、予期せぬ相続により不動産を取得した場合でも、家族が困らないようにしておくことができます。

③契約から引き渡しまで長期間かかるケースもある
引き渡しまでに想定よりも時間がかかるケースもあるため、注意しましょう。
例えば、測量を実施すると平均3カ月程度かかることが一般的です。隣地所有者が立ち会いを拒否するなどのトラブルが発生すると、それ以上の期間がかかることもあります。場合によっては、測量が不調になる可能性もあるため、注意が必要です。親の意思能力は時間経過とともに低下することを考えると、契約から引き渡しまで、できる限り短期間で購入してくれる買主を選択するのもいいでしょう。
大切なのは、将来を見据えて行動すること。売却する可能性が高い不動産に関しては、あらかじめ準備しておくことをおすすめします。

■高齢の親が所有する賃貸用不動産を売却する際の懸念点

①親に契約行為を行うだけの意思能力がない
親の健康状態を日頃から把握するとともに、司法書士への相談もしておく。

②不動産に関する書類の紛失
保管場所を決めておく。また、家族間や信頼できる人同士で情報共有をする。

③契約から引き渡しまでが長期間になる
測量には平均3カ月程度かかる。短期間でスムーズにやりとりができる買主を探せると最良。

成年後見制度の利用

高齢者が所有している不動産を売却する場合、問題になるのは先に述べたとおり、意思能力の低下です。共有不動産の売却に際し、共有者の一人に意思能力がなかったケースの対応例を紹介します。
B氏は土地(月極駐車場)を兄と共有で保有していました。しかし、B氏の事業継続のために土地を売却して資金化する必要があり、兄の子どもC氏(B氏のおい)と相談して、土地を売却することになりました。
兄は要介護者で健康状態が悪く、主治医の診断では意思能力はないとのこと。本件土地を売却するためには、兄に成年後見人が必要です。家庭裁判所に成年後見申し立てを行い、兄の成年後見人は、C氏と弁護士の2人となりました(図表2) 。

無事に土地を売却することができた理由は、次のとおりです。
第一に、成年後見人である弁護士に、売却の必要性を承認してもらえたことです。
成年後見人の役割は、兄(成年被後見人)の財産管理と身上監護です。財産管理は、兄に代わって不動産や預貯金などの財産を管理することが目的です。本事例では、成年後見人の弁護士が財産管理の一環とし、売却の必要性や価格の妥当性などを検証する必要がありました。
B氏やC氏(成年後見人であるが身上監護しか役割が与えられていない)の意思が反映されず、予定していたスケジュールよりも大幅に遅れが生じましたが、売却する土地が兄の居住用財産ではなかったことや、医療費が多額にかかっていることが総合的に考慮され、承認を得られました。
第二に、共有者全員が売却に同意したことです。本事例は、共有持ち分の割合の7割以上を保有するB氏からの提案であり、共有者がB氏と兄の2 人であったため、スム—ズに合意を得ることができました。しかし、一般的には多くの共有者がいる場合、全員の合意を得るのは難しいことが多いです。将来のことを見据えると、不動産はなるべく共有で相続しないことも、資産承継対策には有効です。
資産承継対策のポイントは、「予期せぬ事態」に備えることです。高齢化社会の日本において、高齢者の資産承継対策の需要が高まっています。将来大切な家族が困らないよう、日頃から備えておきましょう。

次回は「土地の収益を上げて財産を守る!」をテーマにお届けします。

解説者紹介

山田コンサルティンググループ株式会社
不動産コンサルティング事業本部 営業部
マネージャー
小野口 裕樹(おのぐち ゆうき)

宅地建物取引士。2015年4月、山田不動産コンサルティング(現 山田コンサルティンググループ)入社。売買仲介のみならず、地主アドバイザー、底地・借地の権利調整、物納コンサルティングなど各種コンサルティング役務を提供。クライアントに寄り添い問題解決を行う。

次世代が困らない不動産承継対策 第5回

前の記事へ

次世代が困らない不動産承継対策 第7回

次の記事へ