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コラム

2024/04/03

テーマ: 07.不動産

次世代が困らない不動産承継対策 第8回

本コラムは「月刊 地主と家主」2024年4月号に掲載されたものです。

相続を「争続」にしないための不動産分割

相続において、関係者の誰もが相続が「争続」となってしまうことを望んでいません。しかしながら、しっかりと対策、準備をしておかないと相続が争いのきっかけとなってしまいます。不動産承継対策に携わってきた6人のコンサルタントがリレー形式でその経験を伝える本連載。第8回は、「相続で争いを起こさないために準備しておく」ことの大切さについて解説します。

相続に対する親の思い

人によって所有する財産はさまざまですが、ほとんどの人は次世代へ良い財産を引き継ぎたい、そして引き継いだ財産で争ってほしくないと思い、財産を残しているのではないでしょうか。
東京都に住むA氏は、先代より引き継いだ不動産を複数所有していました。
その内訳は駅前の賃貸ビル、賃貸アパート、自宅、自宅の隣の貸し駐車場です。A氏は相続する財産の大半が不動産であることから、将来自分がいなくなった後、相続で争ってほしくないと考え、遺言書を書くことにしました。
この場合、A氏はどのような点に気を付ける必要があるでしょうか。

2回の相続を前提に考慮

最初に気を付けるべき点は「一次相続、二次相続、両方を踏まえて考えること」です。
A氏には妻(配偶者)と子ども2人がいますが、A氏が妻より先に亡くなった場合、妻と子どもが財産を相続することを一次相続、その後、妻が亡くなり子どもが財産を相続することを二次相続といいます。

一次相続と二次相続の相続人

今回、子どもが相続で争わないように平等に相続させるという目的のためには、2回の相続を経て遺産分割が平等に、かつスムーズに行われるようにする必要があります。
なお、不動産を平等にと考えた場合、共有相続という方法もあります。しかし、子ども間で共有していると収入を分割したり、維持管理の方法を相談したりするなどの手間がかかりますし、どちらかが売却したいと考えてももう一方の共有者が賛成しないと売却でさません。そのため、相続してすぐに売却する不動産以外は、共有で相続することを避けたほうがいいでしょう。

共有相続とは

相続開始後、遺産を複数の相続人が一緒に相続している状態のこと。
固定資産税の支払いの分割が難しい。
相続した不動産を売却したい場合は共有名義人全員の同意が必要になるなど、デメリットが多い。

一次相続では、配偶者は法定相続分(または1億6000万円まで)の財産を相続しても納税額がゼロとなるため、配偶者に換金性の低い不動産を相続させがちです。
その結果、二次相続(配偶者の財産)で子どもたちが換金性の低い不動産を相続して納税に苦慮するケースが少なくありません。
これらを踏まえて、①一次、二次の相続を経て最終的に「長男へは賃貸ビル、長女へは駐車場を引き継ぐ」などとなるイメージをしたうえで、A氏が遺言書を作成することが肝要です。②その際に、一次相続、二次相続における相続税の納税をどうするかも併せて考えておくといいでしょう。

不動産の価値を把握する

不動産は金銭のように分割できないため、遺産分割を考える際、不動産の価格、流動性や収益性などを総合的に考慮する必要があります。不動産の価値を把握するために大切なのは大きく分けて次の2点です。
一つ目は不動産の価格です。不動産には定価というものはないため、それぞれ目的に応じた価格が存在します。相続税の算出の際に適用される「相続税評価額」や不動産売買の際の「時価」などです。
遺産分割はどの価格を基準にしても可能ですが、平等性を保つには時価を想定して分割することが望ましいです。しかしながら、事前に時価を把握することは難しいため、この点を十分に理解し、相続時に時価を専門家に算定してもらえるようにあらかじめ準備するなど、方針を考えておくことが大切です。
二つ目は不動産の流動性です。先ほども少し触れましたが、不動産は個別性が強く、すぐに売れる不動産、売れにくい不動産と流動性に差が生じ、それが価格にも影響を及ぼします。従って、不動産それぞれの流動性および価格への影響度を把握しておくことが大切です。
事情にもよりますが、流動性の低い不動産を事前に流動性の高い不動産へ組み替える、売却して換金するなどの対策も時として有効な場合があります。相続人によっては、引き継いだ財産を保有していきたいのか、すぐに換金したいのかなど事情が異なります。
また、収益不動産を引き継ぐ場合、収益を得られますが、同時に管理や修繕に係る経済的・物理的・心理的負担が生じます。
不動産の取り扱いに慣れていない人が引き継いだ場合、この負担はとても大きくなります。このように、不動産の価値に加えて、個々の事情も含め家庭の状況を総合的に考慮したうえで、誰にどの不動産を引き継いだはうがいいのかを考えておくことをお勧めします。

不動産の価格

時価や相続税評価額などそれぞれの価格の目的とその違いを理解、把握しておく。


不動産の流動性

不動産の売りやすさ、売りにくさの違いと価格への影響を理解、把握しておく。


不動産の収益性

不動産から得られる収益、管理・修繕の負担などを把握しておく。

相続には被相続人の思いや引き継がれる財産、家族の事情などさまざまな状況が存在します。その思いや引き継がれる財産を大切に守っていくために、相続の仕組みや財産の特性など状況に応じて必要な内容をしっかりと理解し、できる限りの準備をしておくことが重要であると考えます。

解説者紹介

山田コンサルティンググループ株式会社
不動産コンサルティング事業本部 営業部
シニアコンサルタント
土 恵一(つち けいいち)

不動産鑑定士、宅地建物取引士。不動産鑑定事務所、不動産デベロッパー、大手鉄道会社などで不動産鑑定評価をはじめとした不動産の評価経験を経て2019年8月、山田コンサルティンググループ入社。不動産鑑定士目線で企業の遊休不動産、事業用不動産に関する評価分析や土地・建物の賃料査定を行うほか、さまざまなコンサルティング事業へ参画する。

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