IT業界とは、英語の「Information Technology」すなわち「情報技術」にかかわる業界を意味しているが、多くの業種や職種が絡み合い、さまざまな技術やサービスを提供しているのが実態であり、一括りに定義することは困難である。
というのも、近年ではIT企業の業種的な棲み分けはボーダレス化しており、昔は業態としてハードウェア、ソフトウェア、アプリケーションなどの開発会社などを指していたが、時代の変化とともにこうした区分けからして難しくなっている。
例えば、以前はハードウェアといえば、コンピューター本体やキーボード、マウス、スキャナー、ハードディスク、ディスプレーなどの電子機器を指していた。ソフトウェアやアプリケーションも、家電量販店などで売られているパッケージソフトや業務用アプリケーションなどが主流で、モノとしての商品が売買されていた。
しかし、現在ではインターネットがブロードバンド化し、光回線やWi-Fiなどによって常時接続が当たり前となり、スマートフォンの普及とパブリッククラウドやデータセンターの拡充によって個人認証や電子決済までが行えるようになった。
整理の仕方の例としては、「ソフトウェア系」、「ハードウェア系」、「情報処理系」、「通信インフラ系」、「インターネットサービス系」、「クラウドサービス系」のように分けることができる。その中でも「通信インフラ系」、「インターネットサービス系」、そして「クラウドサービス系」は注目したい分野といえる。
「通信インフラ系」とは、私たちが普段当たり前のように利用している情報端末が、情報を送受信するために必要な設備を指す。具体的には、電話回線網、光ファイバー回線網、携帯電話基地局、通信会社の拠点施設、交換装置、データセンターなどだ。爆発的に増加する伝達情報量に対し、これらの設備もより高速化し、大容量化されていく。
「インターネットサービス系」とは、インターネットを利用することで享受できるさまざまなサービスを構築したり、運営したりするサービスを指す。インターネット上に公開されているウェブサイトの制作・運営や、インターネット広告、オンラインショップの決済システム、ブログやSNSの運営システムなどを指す。
「クラウドサービス系」とは、インターネットを通じて利用できるアプリケーションを提供するサービスをいう。利用者はネット回線に接続して、そのデータがどこにあるのかを意識せず、まるでネット上の雲(クラウド)の中にある機能を利用しているように感じる。このクラウドサービスは、ブログやSNSを作動させているサーバーシステムや決済システム、ファイル転送・保管サービス、会計システム、グループウェア、クラウドソーシング、ウェブメールなどのほか、インターネット経由で利用できるあらゆるサービスを支えている。
【IT業界の相関図】
IT業界では、顧客がシステム構築をシステムインテグレーターに発注する。システムインテグレーターとは、個々のサブシステムをまとめ上げて、目的の機能が働くようにシステムインテグレーションを行う会社で、SIer(エスアイヤー)の略称で呼ばれることが多い。
大手SIerはプロジェクトの管理を行うため、実際の開発要員をその都度調達するために中小規模のIT企業からSEやPGを手配する。
ところが、中小規模のIT企業も自社だけでは人員をまかなえないため、さらに孫請けの零細IT企業からエンジニアを調達する。
ここで調達される人員は、派遣会社やSES(System Engineering Service)からまかなわれるが、派遣社員は派遣先企業の指導で動くのに対し、SESは派遣元である雇用主が指導者となる。
また、派遣では二重派遣が禁止されているが、SESは派遣契約ではなく準委任契約であるため、SES会社の技術者をSES会社経由でさらに別の会社に常駐させても問題はない。
「業界構造」にもあるように、IT業界の市場の特徴は、業務種類別売上高の割合で見ると、ソフトウェア業務の中でも企業からの「受託ソフトウェア開発」が全体の51.39%と、半分以上を受託型事業が占めている。
2番目の「情報処理・提供サービス業」とはASP、SaaS、システムの管理運営、データの加工・蓄積、各種調査などの業種を示している。
「インターネット附随サービス業」は、一般のユーザーの目に入りやすいためIT業界の代表的な業種に思えるが、売上ベースで見ると全体の1割にも満たないことがわかる。
なお、近年では、情報通信技術を総称して「ICT」(Information and Communication Technologyの略)と呼ぶようになってきている。ICTはITとほぼ同じ意味合いで使われることも多いが、その間に「Communication」という言葉が入っていることからもわかるように、コンピューター技術そのものよりも、その技術を活用したサービスも含んだ通信応用技術と考えると理解しやすい。
総務省が発表した「平成25年版 情報通信白書」によると、このICT市場に海外企業ではIBMやアクセンチュア等のSIer、SAPやOracle等のパッケージ・ソフトウェア事業者、AT&Tやベライゾン等のネットワーク事業者など、さまざまな業態のグローバル大手企業が参入し、日本でも大手企業を中心にグローバル展開が急速に進みつつあると報告されている。
同じく総務省が発表した「平成29年版 情報通信白書」では、2015年の国内ICT産業(情報通信産業)の市場規模を、全産業中で最大規模の95兆7,000億円(9.9%)と発表した。2000年からのITバブル崩壊や、2008~2009年のリーマンショックの影響などで生産額が下降していたが、2012年以降は徐々に回復を見せているとして、今後も高い成長が期待されている。顧客となる企業や一般消費者も、知らず知らずのうちにさまざまな形でICT企業のサービスを享受しているといえるだろう。
経済産業省が2016年に取りまとめた調査「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、今後も大型のIT投資が続くことや情報セキュリティ対策のニーズが増大することから、IT人材の不足が課題になっている。
とりわけ、日本では特に若年人口を中心とした労働人口の減少は必至で、IT業界における人材不足はさらに深刻になると考えられている。IT企業および企業情報システム部門に所属するIT人材数は約90万人で、すでに17万人が不足していると推計されている。そして2019年をピークに人材供給が減少し、人材の不足数は拡大することが予想される。
同調査では、情報セキュリティ人材は現在約28万人で不足数は約13万人だが、これが2020年には不足数が20万人に拡大すると推計されている。また、先端IT人材においても、現在約97,000人で不足数が約15,000人だが、これが2020年には不足数が48,000人に拡大するとも推計されている。
この人材不足に対する対策として、以下の5つの対策が提言されている。
・より多様な人材(女性、シニア、外国人)の活躍促進
・人材の流動性の向上(高付加価値領域への戦略的人材の配置)
・個々のIT人材のスキルアップ支援の強化
・IT人材への処遇やキャリアなど、産業の魅力の向上
・先端IT人材、情報セキュリティ人材、IT起業家などの重点的な育成の強化
コンピューターが登場して間もない1940年代から1950年代当時は、非常に高価だったコンピューターを共同利用する計算センターが誕生した。これがIT産業の始まりといえるだろう。
1960年代後半になると、通信回線を利用して計算センターを利用するユーティリティコンピューティングが登場し、使用した分だけ課金されるようになる。しかし、ユーティリティコンピューティングを利用できるのも、まだ研究所や大学などで、一般企業が利用できるまでには普及していなかった。
1970年代になると、オンラインで計算センターが提供するソフトや自作のソフトを利用できるTSS(Time Sharing System)と呼ばれるサービスが始まった。
そして1990年代中頃になると、インターネットが急速に普及して、外部のサーバーをデータの保管場所として利用するホスティングサービスが始まり、間もなくプロバイダがアプリケーションも提供するようになり、ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)が登場する。
1990年代中頃になると、ERP(基幹系情報システム)パッケージが普及し始め、会計や人事、販売、在庫管理などの業務システムがパッケージ化されて販売されるようになる。
2003年頃になるとブロードバンド化が始まり、インターネットの活用範囲が一気に広まり、2006年頃からSaaS(Software as a Service)という用語が使われ始め、インターネット上から必要なソフトウェアを呼び出して利用する仕組みが普及し始めた。
間もなく、SaaSを利用してデータやアプリケーションを利用する方法がクラウドコンピューティングと呼ばれるようになり、2007年以降はスマートフォンの普及も相まって、現在ではさまざまなサービスをクラウドコンピューティングで活用できるようになっている。
IT業界の重要性が高まるにつれて、M&Aも増加することが予測できる。特に前述のとおり、競争力に直結する人材確保のためのM&Aが増加すると考えられる。
また、IT業界が多様化していることも注目される。これまではシステム開発がIT業界をリードしてきたが、今後はウェブメディア、EC、スマートフォンアプリ、AI、VR/AR、そしてIoTと業態が多様化していくことが予測できる。
このことから、人材の確保といっても、それぞれ強化したい業態により、IT業界でのM&Aのターゲットも多様化するだろう。
同時に、M&Aアドバイザー側も、新しいビジネスモデルに精通した人材の確保と育成が急がれる。
売り手のメリット
買い手のメリット
□顧客基盤
□人材確保
□収益性
□将来性