企業の経営環境がますます複雑化するなか、財務の専門知識を軸に意思決定を支える「FAS」(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)の重要性が高まっている。M&Aや企業価値向上といった、企業の未来を左右する局面で、専門的なアドバイスを提供し、経営判断を支えているのがFAS事業部だ。
FAS事業部長の今井大は、約40名のメンバーを率い、日々多様な経営課題に向き合っている。彼がコンサルタントの道を選んだ理由、業務で大切にしている価値観、そしてFAS事業部の強みについて聞いた。
私が公認会計士の資格を取得したのは2010年。監査法人に就職しましたが、徐々に「監査は自分に合わない」と感じるようになりました。監査業務は、企業の決算書などを詳細に確認し、誤りや矛盾を指摘することが主な役割です。クライアントから煙たがられるような立ち位置で、直接誰かに喜んでいただくこともありません。そこに、やりがいを見いだしにくかったというのが正直なところです。
「もっと経営の近くで公認会計士のスキルを活かしたい」――そんな思いが強くなり、1年あまりで監査法人を退職し、転職しました。事業会社の財務部門なども選択肢にありましたが、コンサルタントであれば、会計・税務・会社法などの知識を活用しながら、経営者の力になれると考え、2013年に山田コンサルティンググループ(以下、山田コンサル)の前身である山田FASに入社しました。
入社以来ほとんどの期間、FAS事業部に在籍し、お客様の経営課題と向き合ってきました。2017年からの1年間は、大手証券会社のアドバイザリー部に出向し、大型のM&A案件も経験。2020年からはFAS事業部長として、メンバーを率いています。その中には、公認会計士の資格を持っている者もいれば、業界未経験で転職してきた者、もちろん新卒者もいます。それぞれ得意分野や興味のある領域が異なりますから、各人のやりたいことを実現させる環境を整えることが重要になります。
世の中には、強いカリスマ性で先頭を切るタイプのリーダーもいますが、私自身が考えるリーダーシップは、「ボトムから引き上げていく」こと。事業部としての方向性は示しながらも、自分の意見を押し通すのではなく、メンバー一人ひとりの声をすくい上げ、それぞれのスキルや経験をうまく活かす組織づくりを意識しています。
私たちのFAS事業部には、M&Aアドバイザリー業務を中心とする「コーポレートファイナンス」(CF)と、企業価値向上コンサルティング業務などを行う「コーポレートガバナンス」(CG)の2ラインがあります。CGでは、アクティビスト(物言う株主)や、同意なき買収提案への対応など、経営上の“悩み”に近いところもサポートしています。
お客様は時価総額300億~500億円規模、従業員数100人超の中堅上場企業が中心です。経営の悩みを安心して相談していただくためには、何よりもお客様を第一に考え寄り添うこと。それが私たちへの信頼につながり、お客様とのよいパートナーシップに結び付くと考えています。そしてよいパートナーシップを構築できれば、お客様から継続してご相談いただくことができ、最終的には私たちの成長に繋がるのです。
例えば、お客様に提案するプランで、A案とB案があるとしましょう。A案は当社に3000万円の利益があり、B案は500万円の利益だった場合、ついA案を推したくなるものです。でも、コンサルタントとしてB案の方がお客様にとって最適だと判断したら、迷わずB案をお勧めします。
それ以前に、ご相談の初期段階で課題を整理していく過程で、「コンサルタントの支援がなくても解決できるのでは」と判断した場合は、その旨を率直にお伝えしています。たとえ受注の機会を手放すことになったとしても、それで構いません。常にフェアで健全な価値観を大切にしながら、お客様に寄り添うことを重視しています。
特にM&Aの場合、パートナー選びは最初の重要なステップです。お客様が心から納得して意思決定をしていただけることを、最優先にしています。
もう一つ、私が意識していることは「プランを並べて終わりにしない」姿勢。コンサルティングをする中で、甲乙つけがたい案が3つほどあった場合、「私はこの案が最善だと考えます。なぜなら…」と明確にお伝えするようにしているのです。こうした時、「お客様が決めてください」と委ねることもできますが、各案の差異を丁寧に評価するだけにとどまらず、お客様のこと真剣に考えベストな選択肢を示すのがプロとしての責務だと思っています。
また、時にはお客様のご意見にストップをかけることもあります。
ある買収案件で、企業価値評価(Valuation)とデューデリジェンス(DD)を担当した時のことです。調査の結果、対象企業には財務面や組織風土に問題が見つかり、「買収は見合わせたほうがいい」と提言しました。しかし、買い手企業の強い希望により買収は成立。その後わずか1年で問題が表面化し、買い手企業は減損処理を余儀なくされました。お客様からは「あなたの助言を受け入れていれば…」という声が漏れましたが、私はその後悔に寄り添いながら、次の一歩を踏み出すサポートに尽力しました。
その後は、単なるアドバイザーにとどまらず、困難を共に乗り越えるパートナーとして、現在も深くお付き合いいただいております。
お客様のご意見と逆のアドバイスをすることには勇気がいりますし、そこまで踏み込むコンサルタントは少ないかもしれません。しかし、私たちFAS事業部には専門性の高いメンバーが揃い、多くのお客様を支援してきた実績があります。長期的な視点でお客様の成長を考え、リスクを恐れないコンサルタントでありたい。その結果、お客様の利益につながることが、私にとって一番の喜びであり、やりがいです。そして、私が監査法人をやめてコンサルタントになった理由「経営の近くで公認会計士のスキルを活かしたい」ともつながっているのです。
さらに山田コンサル全体としては、会計系のコンサルティングファームでありながら、経営コンサルや事業再生など、幅広いソリューションを提供できる総合力を備えています。そのため、事業と会計の両面に対応できる専門性と柔軟性が、当社の大きな強みと言えます。
以前、お客様からFAS事業部にM&Aのご相談をいただきました。事業拡大に前向きではありましたが、役員陣には自らKPIを設定したり、戦略を進めたりする意識が十分に浸透していませんでした。事業拡大を実行するには、戦略・組織・人材のバランスが大きな鍵を握ります。その企業では、まずは人材育成が喫緊の課題であることが、対話を重ねて明らかになっていきました。結果としてM&Aは見送りとなり、代わりに役員研修の実施へと方向転換しました。これは、山田コンサルに教育研修事業部があり、多角的な支援が可能だからこそ実現できた対応です。
ありがたいことに、弁護士、金融機関などから「複雑な案件であっても、山田コンサルなら対応できる」と評価いただき、多くのお客様をご紹介いただいています。
私は、FAS事業部長という立場ではありますが、プレーヤーとしての専門性も磨き続けたいと考えています。例えば、IPO(新規株式公開)やFP&A(財務計画・分析)などは、公認会計士としての知識に加えて、ファイナンスの視点も求められる。こうした領域を、今後さらに深掘りしていきたいですね。現在はビジネススクールに通い、MBAの修了を目指して学びを深めています。
FAS事業部としても、専門性を追求し続けながら、新たなプロダクトの創出に取り組んでいく方針です。AIの台頭により、単に知識を多く持つことの価値は相対的に下がってきました。私たちは一問一答型のコンサルティングではなく、「財務×M&A」「財務×Valuation」「ファイナンス×ガバナンス」といった“知識の掛け算”によって、新たな付加価値を生み出すことを目指しています。
そのために、定期的に社内勉強会を開催しているほか、メンバーには外部研修への参加も積極的に促しています。さらに、大学教授を招いてファイナンスやガバナンスに関するアカデミックな学びの機会も設け、理論と実務の両面から成長を支援しています。
早いもので、FAS事業部長に就任して5年がたちました。この間、数々の困難案件や、リーダーとして難しい局面も経験しましたが、私がいつも胸に抱いているのは「楽しい」という気持ちでした。プロとして、楽しいと思えなければ、続けられるような世界ではありません。
お客様との出会いや、メンバーとの関わり、そして新たな学び一つひとつが、自分自身の力となり、事業部の成長につながります。だからこそ、いつも楽しさを忘れずに業務に向き合い、お客様とともに喜びを分かち合いたい。その信頼にかなうコンサルタントであり続けたいと願っています。
(2025年7月 インタビュー)
執行役員 資本戦略事業本部長 兼 FAS事業部長
公認会計士 今井 大(いまい まさる)

公認会計士 今井 大(いまい まさる)
執行役員 資本戦略事業本部長 兼 FAS事業部長
監査法人および会計士事務所にて、監査や決算業務に従事したのち、2013年に山田FAS株式会社(現・山田コンサルティンググループ株式会社 以下、山田コンサル)に入社。M&Aにおけるフィナンシャル・アドバイザー(FA)、企業価値評価(Valuation)、財務デューデリジェンス(財務DD)に従事し、多数のM&A案件をクロージングまで支えている。そのほか、組織再編におけるアドバイザー、裁判における株式価値算定等にも関与。2017年から1年間大手証券会社のアドバイザリー部に出向し、大型案件の知見を積む。