山田コンサルの祖業であり、中核サービス領域の「事業再生コンサルティング」。2019年に事業再生の専門部隊を結集以来、チームを束ねてきた高橋淳郎が、山田コンサルならではの支援の特徴や本事業に取り組む意義について語った。
事業再生コンサルティング事業部では、財務状況や事業環境に不安を抱えるお客様に対して、事業再生支援を行っています。業務内容を例えるならば、救急救命医療のような役割といえるでしょう。企業の出血が続いてPL(≒収益活動)がダメージを受けている、突発的な損失でBS(≒財務状況)に穴が開いた、不祥事が起き事業の継続性に疑義が生じた……そんなときは、“外科的処置”をほどこします。つまり、窮境の要因(患部)を明らかにし、当面の資金繰りを維持し、延命(止血・輸血)している間に必要な改善を行うのです。そして、ある程度持ち直したところで収益・オペレーション改善といった“内科治療”につなげる。この両面のアプローチでお客様の事業再生をサポートしています。
事業再生コンサルティングは山田コンサルの祖業かつ中核事業です。不良債権問題が顕在化した2000年ごろ、企業の財務改善について、金融機関から顧客支援の要請を受けて始まりました。はじめは資金繰りの把握をお手伝いする、資産売却や金融機関の支援に基づきBSを改善するなどの財務再構築支援が主たる支援内容でした。その後、再生を果たした企業が持続的に成長できるようなサポートのニーズも高まってきました。そこでメーカーなどの事業会社出身者を続々と仲間に加え、事業の再構築ノウハウを蓄積。本質的な事業再構築、再成長のための支援を強化し、業務の幅が広がるなかで当社自身は、“総合病院化”していきました。
当社には、各事業部が密に連携することでクライアントに最適なソリューションを展開する企業文化が根付いています。それは事業再生においても例外ではありません。例えば、お客様が自力で再生するのは難しい場合には、M&Aチームと共にスポンサー企業を探索したり、海外事業の整理が必要であれば各国にある自社海外拠点と連携して役務推進したりと、得意分野を掛け合わせながら提案の精度を高め、それぞれの案件に最適な支援ができるのです。
もうひとつ特徴的なのは、当社の主要部門はすべて祖業である事業再生コンサルティングを経験したメンバーが立ち上げているということです。各事業部、各拠点にいるコア人材がみな事業再生に関する知見を有しており、何がいつ必要なのかという事業再生への深い理解を前提に連携できます。的を射た提案をワンストップで提供できることが、お客様からの高い評価に繋がっています。
今まさに出血している企業を支援するという性質上どうしても労働集約型の対応となるため、提供している付加価値は高いと自負していますが、収益性という観点で言えば他のコンサルティング事業に比べ、高い訳ではありません。しかし事業再生コンサルティングの役務を通じて財務・事業・税務等に関する総合的な知識に加え、折衝力やスピード感など、経営コンサルタントとして必須の能力を身につけられるため、優秀な人材の育成・輩出に繋がっています。前述の通り、事業再生で培った知見や経験を糧に他領域・他国で活躍するメンバーが続々と生まれているのです。また、「お客様のお困りごとに寄り添い、真に必要とされる役務提供ができる」という部分に魅力を感じて入社するメンバーも多く、人材の確保にも一役買っています。利他の心が求められる事業再生支援は、山田コンサルが掲げる「健全な価値観」「社会貢献」「個と組織の成長」という基本理念を体現している事業と言えるでしょう。当社代表の増田も株主総会で「事業再生は当社の中核事業であり、今後も注力する」と宣言しています。
事業再生コンサルティングにおける市場動向ですが、2000年前後はバブル崩壊以降増え続ける不良債権への対応がメインでした。リーマンショック前は構造不況業種である繊維業やアパレル業、インバウンド需要が増える前の宿泊・旅館業を多数支援しました。リーマンショックの際には、企業が急に立ち行かなくなりご相談いただくケースが増えましたし、直近のコロナ禍では感染拡大による影響を受けた飲食業・サービス業などの危機対応が多くなりました。このように、時代の変化とともに事業再生コンサルティングのニーズも移り変わっています。
印象的な事例として、あるアパレル企業を紹介いたします。ご依頼いただいた時点ですでに資金繰りが相当悪化しており、経営破綻が目前に迫っていました。まずは生命線の資金繰りです。法的整理を選ぶかどうかの瀬戸際だったため、社長とひざを突き合わせて資金調達や利害関係者への対応策を練りながら、一歩ずつ段取りを進めていきました。我々の経験値を活かして精度の高い資金繰り見込みを把握しつつ時間的な余裕を作る傍ら、M&A部門とともにスポンサーを確保することができましたそれが抜本的な再生に繋がり、お客様・利害関係者の期待に応えることができたのです。ギリギリのところまで粘り、お客様と一緒になって諦めずに取り組めることが我々の最大の強みだと思っていますが、その姿勢を象徴するような案件だったと思います。
ここ数年は経営の悪化した中堅中小企業だけではなく、大手企業のグループ内の不採算事業の整理や、子会社の売却サポートを依頼いただくなど、これまで培い磨いてきたスキルを活かす案件も増えています。地方を中心に人口減少による人手不足などが理由で、廃業を見据えた相談もいただくようになりました。この場合はM&Aを活用した外部への事業承継など、当事者同士が納得できるような支援を心がけています。お客様からは「泥臭く、ともに汗をかいてくれる」という評価をいただき、長期の関係を築く礎になっています。
当社では過去20年一貫して再生事業に関わり、現在も年間およそ400件を超える再生支援を行っています。この実績が高く評価された結果、2024年3月に公表されましたが、REVIC(地域経済活性化支援機構)による「金融機関向け事業再生支援高度化の手引き」の制作と地域金融機関への研修を行いました。この手引きは事業再生支援の重要性の高まりに伴い、地域の金融機関でその担い手を育成するために制作したものです。我々の事業再生のノウハウがスタンダードである、と公的機関にも認められた証だと自負しています。
事業再生コンサルティングは、国内外の各拠点に経験値・知見を有したメンバーを配置し、各地で役務提供できる体制を整えています。支援できる分野も着実に拡大しており、お客様のお悩みに総合的に対応できるようになりました。今後はこれらの強みを活かして、主に中堅企業が事業を最適化させる際の‟触媒”になれたらと思っています。例えば赤字事業があれば改善支援を、再成長が必要ならばその戦略策定の手段をサポートする。投資するのであれば、M&A部門がそのお手伝いをする。大手企業であれば経営企画室が担うような業務ですが、中堅企業には十分なリソースがないケースも多いため、ワンストップでさまざまな役務提供ができる我々をアウトソース先として活用していただくことを考えています。
地域別に考えると、東京をはじめとする大都市エリアにおいては、事業ポートフォリオの最適化や、中堅企業の再生支援に注力していきたいと思っています。一方、地方では人口減少が顕著で、企業や関係する金融機関と議論しながら最適解を見つけることが重要です。会社は一度なくなると地域からサプライチェーンが失われ、それが元に戻ることはありません。そうなる前の手立てとして、山田コンサル全体で地域の活性化・最適化にも貢献していきたいと考えています。
また、我々の知見を、世の中でより広く役立てていくことも目標にしています。近年、地方都市でスマートシティ事業が進められており、限られた予算の中で利害調整や都市機能の集約を行う必要がありますが、これは事業再生で培ったノウハウが大きく活かせる分野ではないかと考えています。
当社の強みは、各事業部と連携したワンストップサービスを提供できること。これからも山田コンサルの中核事業として愚直に向き合い、長きにわたり事業を継続してきた企業に寄り添ってともに汗をかきながら、事業再生だけではなく継続的な事業改善、持続的成長のお手伝いをして、企業そして地域に貢献して参ります。
(2024年7月 インタビュー)
執行役員 経営コンサルティング事業本部 事業再生コンサルティング事業部長
高橋 淳郎(たかはし じゅんろう)
高橋 淳郎(たかはし じゅんろう)
執行役員 経営コンサルティング事業本部 事業再生コンサルティング事業部長
2004年、山田ビジネスコンサルティング株式会社(現・山田コンサルティンググループ株式会社)に入社し、主力事業である事業再生部門にて財務的な支援全般を担当。2019年、事業再生の専門組織を立ち上げ、現職。入社以来20年間にわたり事業再生支援に携わっている。RCC(整理回収機構)、REVIC(地域経済活性化支援機構)、中小企業再生支援(活性化)協議会、事業再生ADR等の枠組みを用いた私的整理、および純粋私的整理による再生支援の実績多数。