基礎知識
更新日:2020/08/27
テーマ: 02.M&A
社員のリストラ人事は必須?経営戦略としてのM&A
M&Aを経営戦略のひとつとして採用する企業が増えています。経営戦略としてのM&Aというと、リストラを連想する方もいますが、実際はどのようなものなのでしょうか。
そして、どのような効果が期待できるのでしょうか。
ここでは、経営戦略としてM&Aを考えることがどのようなことかについて解説します。
目次
経済のグローバル化・IT化で加速するM&A
近年、経営戦略としてのM&Aが注目されています。経済活動のグローバル化やITの普及に伴い、より迅速な経営戦略が必要とされているためです。
新規事業への参入、事業規模の拡大、既存事業へのシナジー効果、不採算事業の売却などを、M&Aによって迅速に対応しようとする動きがあります。
また、M&Aにより、すみやかな人材の確保や技術・ノウハウの取得も大いに期待されるところです。
そこで、経営戦略としてのM&Aに焦点をあててみます。
グローバル経済におけるM&A
経済産業省「我が国企業による海外M&A研究会報告書概要」(2018年3月)によれば、日本企業が外国企業を買収するIn-Outの件数が2017年で過去最高を更新したと伝えられています。
国内をはじめとして先進国では需要の伸び悩み状態のため、日本企業においても海外進出への意欲が高まっています。
特に人口増加が続き、若い働き手が豊富にありながらも、インフラが未成熟な東南アジアやアフリカなどの市場への進出が増加しています。
欧米諸国においても日本の文化や食のブームが起き、日本ブランドに対する需要が存在しています。
さらに、英国のEU離脱を契機とした円高により、外国企業の価値が相対的に低下したことも、買収のハードルを下げました。

IT業界におけるM&A
M&A支援企業のレコフ社の調査によると、ITソフトウェア業界のM&A件数は6年連続で増加し、2016年に622件となり、過去最高件数を更新しています。
この背景には、拡大するIT業界の需要がある一方、AIやIoTなどの技術革新による環境変化への迅速な対応圧力に対して、不足している人的リソースや技術・ノウハウの獲得が急がれているという買い手側のニーズがあります。
一方、売り手側のニーズとしては、若い起業家がエグジットとしてバイアウトする(株式を売却して利益を得る)ためにM&Aを活用していることや、クラウド化の普及や技術革新、あるいは派遣法の改正などにより縮小が見込まれる受託開発業界の再編が進んでいることがあります。
経営戦略としてのM&A
経営戦略としてM&Aを用いるとはどのようなことなのでしょうか。
それは、M&Aを行うことで、企業が抱えている経営課題を解決し、企業価値を高めるということといえるでしょう。
ここでは、経営戦略としてのM&Aに期待できることを整理してご紹介します。
新規事業を開拓できる
自社が現在持っているリソースだけで新規事業への参入を行おうとすると、人的資源の育成、市場の開拓、販路の開拓、技術・ノウハウの蓄積など、多くの課題を解決するために多大なコストと時間がかかります。
そのため、市場の変化に対応できないリスクを抱えてしまいます。
しかし、これらの基盤がすでに整っている企業をM&Aにより取込むことで、新規事業開拓のリスクを軽減することができます。
既存事業の多角化や市場規模の拡大ができる
企業の持続的な成長を維持するためには、市場規模の拡大が重要な経営課題です。
そのためにM&Aを活用して、自社の経営戦略にマッチした企業を買収することで、事業の多角化や部門の強化を行うことができます。
また、買収した企業の取引先や顧客を引き継ぐことで、市場拡大のコストと時間を圧縮することができます。
さらに、双方の販売チャネルを活かしたクロスセルや配送ルートの整理、重複部門の統合、技術・ノウハウの相互活用などにより、新たなシナジー効果を期待することもできます。
内部で解決できない経営課題を打開できる
企業には、優秀な人材の不足や組織の再編など、自社内だけでは解決が困難な経営課題が多くあります。
そこでM&Aにより、優秀な人材を確保し、組織管理のノウハウなどを獲得することで、短期間での課題解決が期待できます。
中小企業のM&Aは事業承継・企業再生となる
M&Aというと、敵対的買収や乗っ取りといった印象を持つ方も多くいます。
しかし、後継者問題で廃業の危機にある中小企業などにとっては、事業を承継させるための有効な選択肢となります。
それは、親族や社内に後継者を見つけられないとき、M&Aにより事業の承継と従業員の雇用を確保することができるためです。
買い手企業が優良企業であれば、後継者問題が解決するだけでなく、より事業が発展し、従業員の待遇が改善されることもあります。
あるいは不採算部門だけを売却した場合でも、経営者がコア事業に経営資源を集中させることが可能になります。
そして、最も重要なことは、廃業によるコストを回避できることです。
廃業コストとは、設備や在庫の処分費、オフィスや店舗の原状回復費、諸手続きの費用、解雇される従業員への補償などです。
廃業コストを支払った結果、経営者みずからの生活費も確保が困難になる可能性すらあります。ほかにも、これまで築いてきた取引先や顧客との関係、技術やノウハウも失われることになります。
しかし、M&Aにより事業の承継が可能になれば、創業者は売却利益を得ることができ、取引先や顧客との関係も引き継がれることになります。
成長にかかる時間を短縮できる
事業を承継あるいは拡大するためには、優秀な人材の育成や技術・ノウハウの蓄積、市場の開拓、協力先の確保、生産設備の増設など、経営資源を用意するために時間をかけなければ、解決の難しい課題があります。
市場の変化が速い現代では、これらの時間がリスクをもたらす可能性もあります。
一方、M&Aにより、これらの資源を備えた企業を取込むことができれば、素早く経営資源を充実させることができます。つまり、M&Aは企業の成長期間を短縮させる効果が期待できるのです。
投資コストが安くて低リスク
事業規模を拡大するためには、拡大する分の経営資源を自前で用意しなければなりません。
しかし、そのためにはコストと時間がかかってしまい、市場の変化に追いつけなかった場合のリスクも伴うことになります。
しかし、すでに拡大しようとしている事業で成功実績のある企業をM&Aで取込むことができれば、投資コストとリスクを抑えたまま、規模の拡大を実現することができます。
目的に合った方法を選べる
M&Aには、さまざまな手法・形態がありますので、企業規模や事業形態、達成したい目的に応じて最適なM&Aの手法・形態を選ぶことができます。
M&Aによる社員のリストラ・人事のリスク
M&Aにより、それまでの異なる会社の人事制度をひとつにすることを「人事制度統合」と呼びます。
人事制度には、社員の等級や評価方法、給与体系、退職金、年金、労務管理、福利厚生、教育制度など、多くの制度が密接な関係を保ちながら存在しています。
これらを統合することで、矛盾や不整合が生じることがあります。
その結果、以下の4つのリスクが生じる可能性があります。
・モチベーションの低下
一方の企業の社員にとって労働条件が改悪された場合、不公平感や被害者意識が生じ、労働意欲を損なうリスクがあります。
・法的なリスク
労働条件が悪化したことで、社員から訴訟を起こされるリスクがあります。
・人件費の負担増加
モチベーションの低下や法的リスクを回避するために、諸制度をそれぞれ良いほうに合わせた結果、人件費が増大してしまうリスクがあります。
・制度の運用の不公正
労務管理の運営上の習慣が異なることで、統合された諸制度が公正に運用されないリスクがあります。
以上のリスクはトレードオフの関係にあることが多く、すべてを同時に解決することは困難です。
そのため、常にPDCAサイクルを回しながら、制度を最適化しながら運営する必要があります。
事業整理でリストラ人事は必須か?
M&Aが行われると、買収された側の人員整理が始まることを予想して、社員がリストラ人事の不安を抱えることがあります。
しかし、実際にはM&Aにより雇用が脅かされることは少ないといえます。
確かにM&Aでは、人員や人件費の非効率の解消を目的として、人員の戦略的再配置を行うことがあります。
その際、人員・人材の重複を解消して人件費を抑えるために、人員のしぼり込みを行うことがあります。
しかし一方では、多様な能力やノウハウ・経験を交流させることでシナジー効果を創出できるために、買収した企業の人材の雇用を維持する傾向も強くあります。
また、そもそもM&Aの条件として、売り手企業のオーナーが従業員の雇用と待遇維持・改善を条件にしていることが多いので、M&Aによるリストラ人事や雇用条件の悪化は起きにくい傾向があります。
社員のリストラや人事・雇用調整が大変
M&Aの手法の中でも事業譲渡の場合は、会社全体ではなく特定の事業だけを切り売りするので、M&A時に雇用契約が引き継がれません。
そのため、買い手企業に転籍する従業員は個別に転籍合意書を取り交わしますが、このとき、これまでの雇用条件が維持されないことがあります。
ただし、買い手企業も今後の企業評価を落としたくはありませんから、できるだけ従業員が納得できる条件を提示することが重要になります。
不採算事業や廃業の処理負担や清算手続き
M&Aに伴い廃業する会社や事業がある場合は、単に解散を宣言するだけではなく、廃業処理や清算手続きの負担が発生します。
そのため、廃業には2ヵ月程度は必要となります。
廃業の流れは以下のとおりです。
1. 解散の議決
株主総会などで会社解散の議決を行い、清算人を決定し、取締役は退任します。この日から2週間以内に法務局に登記申請を行います。
2. 清算手続き
会社の資産が整理され、債権の回収、資産の換価、債務の支払い、残り資産の出資者への分配が行われます。債務超過の場合は、破産管財人や裁判所の監督下で破産手続きや特別清算が行われます。
3. 清算結了登記
清算終了後の決算報告書が株主総会などで承認されると、法務局に決算結了の登記申請を行い、廃業手続きが完了します。
経営戦略M&Aを効率的に進めるポイント
経営戦略としてのM&Aを効率的に進めるには、いくつかのポイントがあります。
選択と集中
M&Aを経営戦略として効率的に活用するためには、選択と集中が必要です。既存事業をコア事業とノンコア事業に分類し、コア事業に経営資源を集中させ、規模の拡大とシナジー効果を狙ってM&Aを活用します。
一方、ノンコア事業については売却を検討します。
M&Aはあくまで経営の手段
M&Aは経営の手段であり、目的ではありません。
多くの企業がM&Aを目的としてしまい、M&A後のシナジー効果を発揮できないことがあります。
これを避けるために、M&A後には必ず、当初目的としていたシナジー効果の検証を行わなければなりません。
段階的に進める
M&Aは経営戦略を実現するための手段のひとつです。
従って、M&Aだけでいきなりすべての目標を達成しようとするのではなく、M&Aはあくまで目標に到達するためのプロセスのひとつだと考える必要があります。
そのために、まずは自社のリソースでできることを行い、M&Aの効果を最大限に発揮できるための戦略を練るといった準備が必要です。
例えば、国際的なマネジメント経験やノウハウがまったくないにもかかわらず、外国企業を買収しても、戦略として活かすことが難しい場合があります。
また、M&A実行後もシナジー効果を発揮するためのPDCAサイクルを回し続ける必要があります。
つまり、経営戦略としてのM&Aを行うためには、まず、自社が明確な戦略を持っていることが前提で、その段階的なステップの中に、M&Aを組み込むという考え方が必要です。
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