基礎知識
更新日:2021/02/10 公開日:2017/06/01
テーマ: 02.M&A
デューデリジェンス(DD)とは |意味から実務上のポイントまで完全理解
デューデリジェンス(デューディリジェンス)とは、Due(当然の、正当な)、Diligence(精励、努力)という意味で、略して「DD(ディーディー)」と呼ばれることもあります。
M&A(企業買収や合併)や組織再編を行う際に、買収対象企業の経営環境、事業内容などを調査し、法務面の問題点・リスクや財務状況・収益力について企業分析を行うことで、正確な企業経営の実態や事業運営の手法を把握するための精密検査です。
合併、買収、組織再編などのM&A取引の意思決定において、統合対象企業に対する事前のデューデリジェンスは欠かすことができません。
その意味と具体的な手法について解説いたします。
目次
デューデリジェンスの意味
デューデリジェンス(デューディリジェンス)とは、Due(当然の、正当な)、Diligence(精励、努力)という意味で、略して「DD(ディーディー)」と呼ばれることもあります。
M&A(企業買収や合併)や組織再編を行う際に、買収対象企業の経営環境、事業内容などを調査し、法務面の問題点・リスクや財務状況・収益力について企業分析を行うことで、正確な企業経営の実態や事業運営の手法を把握するための精密検査です。
主に、買手からの依頼によって、公認会計士や監査法人、税理士、弁護士、財務系コンサルティング会社などが行います。
デューデリジェンスによって、財務諸表や契約書などの正確性や資産の実在性が担保され、簿外債務を認識することができます。
その結果、売手と買手の間に存在する“情報の非対称性”が解消されることで、M&A・組織再編の最終的な意思決定を行うことができるのです。
デューデリジェンスには様々な種類がある
デューデリジェンスは、その調査の視点・切り口によって、事業(ビジネス)デューデリジェンス、財務デューデリジェンス、税務デューデリジェンス、法務デューデリジェンス、人事デューデリジェンス、ITデューデリジェンス、環境デューデリジェンスなどの種類があります。
これらのデューデリジェンスを全て実施する義務や必要性はなく、M&A取引の状況に鑑み、必要なデューデリジェンスを選択しましょう。
複数のデューデリジェンスを実施した場合は、それぞれの調査結果を有機的に関連づけて、総合的に評価する必要があります。
事業(ビジネス)デューデリジェンス
事業(ビジネス)デューデリジェンスでは、その企業を包括する市場全体を評価し、また、市場における対象会社のポジションなどを確認した上で、その事業がM&Aの目的と適合したものなのかを精査します。
外部環境・内部環境の分析からビジネスモデルを把握し、事業の将来性を見極め、経営計画の実現可能性を裏付ける情報を収集することが目的です。
M&A取引においては、買手がどのように買収先企業の事業に関与すればシナジー効果を得られるかなどを洞察するにあたり事業(ビジネス)デューデリジェンスは有効です。
調査内容は、大きく「外部環境分析」と「内部環境分析」に分けることができます。
強み(strengths)、弱み(weaknesses)、機会(opportunities)、脅威(threats)の頭文字を取ったSWOT分析という有名なフレームワークがありますが、対象企業にとっての「この4要素が何であるか」を特定するためには、より客観的な事実を整理した分析が必要です。
そのため、事業(ビジネス)デューデリジェンスにあたっては、フレームワークの選択が重要となります。
財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスでは、対象会社の財政状態、経営成績、資金繰りなどの財務状態について詳細に調査し、また、不正な取引や経理処理がないかを確認します。
これにより、正常収益力、キャッシュ・フローなどの正確な基礎情報を導き出し、将来にわたって期待できる収益水準はどうか、債務が適正な範囲内か、といったリスクを洗い出します。
具体的には、意思決定機関の議事録等の確認、会計方針の確認と外部調査の概要、損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)の精査などが行われます。
税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスでは、対象企業の税務リスクまで承継しないように、法人税や事業税などを適正に申告して納税しているか、組織再編税制やグループ法人税制の取扱いに問題はないか、繰越欠損金の処理は適正か、などの内容を調査します。
これらは、専門的な判断と処理の方法によって納税額が大きく変わるリスク事項です。
過去の税務処理の誤りや申告漏れを見落とした場合、ペナルティが課されることもあるので、十分に注意する必要があります。
例えば、組織再編税制における適格要件や繰越欠損金・含み損の確認は納税額に大きな影響があるポイントです。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスでは、その企業が締結した契約や取引等の事業に関係する権利、債権債務などについて、M&A取引に影響を与える法務上の問題がないか調査します。
法的なリスクを抱えていると、訴訟や和解、任意整理などに多大なコストと時間が使われることになり、経営に悪影響を及ぼします。
調査範囲は幅広く、会社組織・株式、関係会社、許認可、契約、資産・負債、知的財産権、人事・労務、訴訟・紛争、環境などに及ぶのが特徴です。
社外のステークホルダーとの契約関係、許認可、ライセンス(知的財産権)、違法行為、重要な訴訟・紛争の存在などは、法務デューデリジェンスによって検出されることになります。
対象会社が重要な訴訟・紛争を抱えているケース、取引上の契約違反や他人の権利の侵害により、多額の損害賠償請求を受けているようなケースなどでは特に法務デューデリジェンスは欠かせません。
人事デューデリジェンス
人事デューデリジェンスでは、就業規程、給与体系、退職金など人事制度の把握、採用・配置・評価制度・教育・昇進昇格・報酬など人材マネジメントの実態を調査します。
企業の原動力であるヒトに関する統合マネジメントなしにシナジー効果は期待できません。
異なる企業文化間の摩擦や評価システムの矛盾、社員のモチベーション低下など、M&Aにともなう統合時における人事上のリスクを想定しておくことで、事前に準備を整えることができます。
人事デューデリジェンスの調査項目としては、買収対象企業の人員構成や、年齢・勤続年数・雇用区分・所属などの属性、人件費、労使関係、労働契約、人事制度、経営幹部やキー人材、組織文化などが挙げられます。
これら人事領域におけるリスクと対処方法を把握することで、価格や契約、PMIでの手続き面などに反映させることができるのです。
ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスでは、対象企業の管理システムを対象に調査を行います。
財務会計システム、人事労務システム、顧客管理や販売管理システムなど、基幹業務に関する情報システムをどのように結合すれば、工数やコストを最小銀にして円滑な統合ができるかを検討することが目的です。
獲得する事業の業務フローを効率的に落としこむことができなければ、日常業務がかえって煩雑になり、シナジー効果を発揮することが難しくなります。
限られた期間で買収対象企業のIT資産を確認し、基幹システムを片寄せするか、並行稼働させるかを判断しなければなりません。
IT資産のデータ移行が容易か、ライセンス費用に変更はないか、システム統合の計画は現実的なものか、などについて精査します。
環境デューデリジェンス
環境デューデリジェンスでは、様々な環境リスクと、これらを規制している法令への違反、企業の評判に及ぼす影響などを分析します。
調査対象となるのは、土壌汚染、大気汚染、アスベスト、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、ばい煙等排出ガス、オゾン層破壊物質、排水水質、騒音・振動、産業廃棄物、危険物・特殊薬液貯蔵施設などが一般的です。
これらについて、危険物質が利用されていないか書面による分析、サンプル調査などが行われ、対策工事が必要であれば、そのコストを見積もります。
環境汚染への対応コストは多額におよぶこともあり、調査結果によってはスキームの変更がせまられる事態にもなり得ます。
デューデリジェンスの目的
正確な会計帳簿に基づいた企業価値評価
簿外リスクなども含めた真実の情報を得て、その事実を織り込んだ企業価値評価を行い、価格設定をすることができるため、買手は高値掴みを回避できます。
M&A戦略にかかわる説明責任
「自社の戦略に必要なM&Aなのか?」という取引の合理性、適合性について、利害関係者に対する説明責任を果たすことができます。
ストラクチャーの分析
予定していたストラクチャーを実行して問題ないのか、会社分割や事業譲渡などによってリスク要因を切り離すべきではないかを判断することができます。
最終契約内容への反映
問題点をあらかじめ洗い出しておくことで、負担したくないリスクについては契約によって遮断することができます。
買収後の経営管理にかかわる情報収集
生の情報や客観性の高い市場動向を調査・分析することで、想定される経営リスクを十分に洗い出し、買収後の経営管理に資する情報を獲得できます。
デューデリジェンスの一般的な手順
手順としては、買手企業が専門家(公認会計士や監査法人、コンサルティング会社など)に依頼し、担当者が売手会社を訪問します。
現地では会計帳簿の閲覧や、必要に応じて実地棚卸などを行うことで、決算書・申告書といった書面だけではわからない会社の経営実態を確認します。
続いて、社長や経理担当者など関連部門へのヒアリングを行い、報告書をまとめます。
M&Aの売手企業が調査対象である場合、情報漏洩を回避するために、これらの作業を一般の従業員に知られずに進める必要があります。
このような場合、予め信頼できる協力者に目星をつけておいたり、休日に行ったりといった工夫が必要です。
デューデリジェンスの流れ
①基礎資料の入手、案件概要の把握
②ミーティング、調査範囲のすり合わせ
③事前分析
④調査範囲・手続きの決定
⑤依頼資料リストの送付
⑥資料の閲覧・分析
⑦質疑応答・インタビュー
⑧報告書の作成
⑨最終報告
デューデリジェンスの注意点
デューデリジェンスを実施するタイミング
M&Aにおいてデューデリジェンスが行われるタイミングは、基本合意契約が締結された後で、かつ、最終条件交渉に移る前に行われるのが一般的です。
早すぎれば、あらぬ噂が流れて従業員や取引先を動揺させてしまうリスクがあります。
かといって、遅すぎても、別の買手によって買収されてしまう可能性があるので、適切なタイミングを図りましょう。
事前に計画を立てて重要なポイントを絞る
デューデリジェンスにおいて、目的を持たずに闇雲に調査を進めることは、費用や時間の浪費につながります。
デューデリジェンスは限られた期間内で、限られた情報の中から有効な情報を抽出しなければなりません。
事前に周辺情報を調査することで、どのデューデリジェンスを実施するべきか優先順位をつけ、計画的に深掘りすることが重要です。
依頼するのは外部アドバイザーがおすすめ
顧問を務めている公認会計士や税理士がデューデリジェンスを行う場合、内情を知るが故に重要な部分にまで切り込めないケースも出て来るはずです。
デューデリジェンスを依頼するのであれば、外部のアドバイザーから客観的な意見をもらう方が、調査結果の信頼性も高まります。
現状の分析と課題の提示はもちろんのこと、経営統合後の事業展開を踏まえたコンサルティングもあれば、なお意味のある調査報告とできるはずです。
企業再生におけるデューデリジェンスの重要性について
企業再生の局面にある企業であれば、経営を圧迫している要因は過剰な債務にあるのか、収益力の低下にあるのかを見極める必要があります。
特に、粉飾決算などによって会計事実が歪められている場合、事業再生の第一歩はデューデリジェンスによる正確な経営実態の把握です。
例えば、事業(ビジネス)デューデリジェンスによって、対象とする事業の市場環境を確認すれば、窮境にあるのは自社だけなのか、業界の構造的な問題なのかが見えてきます。
財務デューデリジェンスでは、本業がキャッシュを生み出しているのかが浮き彫りになります。
また、不動産を保有している場合は、その時価や収益性を調査することで、継続して保有するべきか、早期に手放すべきかを判断できます。
真実に基づいた再生計画によって存続させるべき事業の優先順位をつけることができれば、債権者とリスケジュールの交渉を行なうことも可能になってきます。
まとめ
M&Aの意思決定においてデューデリジェンスは欠かすことができません。
対象企業のありのままの財務状況や収益力を知るだけでなく、統合後にいかにしてシナジー効果を発揮させるかをイメージすることも重要な目的の一つです。
しかし、隅から隅まで対象企業を調査することは不可能であり、時間とコストは常に念頭に置いて実施を検討する必要があります。
いかにして「当たり」をつけて、限られた時間の中で意味のある調査結果を導き出すか、がプロの仕事です。