基礎知識
更新日:2022/10/13 公開日:2017/06/26
テーマ: 02.M&A
LOI(MOU:基本合意書)とは | 契約締結の意味と法的効力
M&Aでは、取引の諸条件を確定させた最終契約の締結に先立ち、交渉段階において、秘密保持契約を結ぶだけでなく、いくつかの基本的な事項について合意書を締結することがあります。
これをLOI(Letter of Intent)、MOU(Memorandum of Understanding)、基本合意書、覚書などといい、その名称は案件ごとに異なります。
LOIの構成、書き方を下記よりダウンロードいただけます。
LOIの書き方ダウンロードページ
目次
LOI(基本合意書)とは
LOIとは、最終契約の締結にいたる前の協議の途中で締結される、いくつかの基本的な事項について定めたものです。
最終的な合意を定めるものではないため、取引内容に関する合意がなされていたとしても、それはその時点における仮の合意事項になります。
その内容は、案件の個別具体的な事情にもとづいて決定され、LOIが締結された状況に応じて、その内容のレベルもかなり異なってきます。
最終的な合意に限りなく近いものもあれば、その後の交渉によって大きく変更される可能性もあることを前提として、その時点における当事者間の理解を確認するに過ぎないものもあります。
また、具体的な内容や明確な規定、法的拘束力などが定められていることもあれば、協議開始の意志を確認するにとどまることもあり、様々です。
一般的には、LOIを締結した時点で想定しているストラクチャー(M&Aの手法)、対象・対価・役職員の処遇などの基本的な条件、支払いのタイミングやデューデリジェンスの期間などに関するスケジュール、デューデリジェンスの協力義務、独占交渉権、秘密保持義務、費用負担・裁判管轄・準拠法などの一般条項が盛り込まれます。
LOIには締結後の詳細レベルの交渉をスムーズに行うためのルールを策定するという役割があり、交渉がスケジュール通り進むかどうかはLOIの内容次第といっても過言ではありません。
どのようなLOIを締結しておくとその後の交渉で有利に働くか、という視点を備えることも重要になります。
LOI(基本合意書)の目的
LOIを締結する売手の目的
M&Aでは、デューデリジェンスなどを通じて、調査対象である会社の内部情報が開示されれば、売手のビジネスにおいて価値がある機密情報が漏洩してしまうリスクがあります。
そのため、売手にしてみれば、それだけのリスクを冒すだけの価値がある取引である必要があり、基本的な条件にコミットすることを買手が意思表示することは前提条件でしょう。
売手としては、可能であれば入札手続を行うなどして複数の買手候補から提案を受け、最も有利な条件を提示した買手を選びたいと考えます。
また、そのような手続きをとれば、買手候補の間の競争が働いてより有利な条件を引き出せるような形で交渉を進めることもできるでしょう。
その結果、売手の立場からいうと、LOI締結時点で買手に対して独占交渉権を付与することには消極的になります。
LOIを締結する買手の目的
他方、買手の立場からいうと、デューデリジェンスによって内部情報を正確に把握する前に、M&Aの実施について法的な義務を負うことは難しいはずです。
そのため、LOIにおける基本的な条件に関する規定は、法的拘束力を伴わず、意向の表明にとどまらざるをえません。
M&Aを検討するには相応の時間と費用がかかります。
時間と費用を投下した時点で交渉を打ち切られた場合、打ち切られた当事者は不測の損害を被ることになります。
特にデューデリジェンスなどを行う買手には、より深刻なものであり、コストを支払うからには、他社から横槍が入らずに交渉できる立場である必要があるのです。
売手が他の買手候補との交渉に切り替えてしまうリスクを引き下げるために、買手は、LOIにおいて独占交渉権を要求することが多くあります。
LOI(基本合意書)における独占交渉権
LOIにおいて長期間の独占交渉期間を設定することになった場合には、売手としては他の買手候補に対する「例外」を設けますが、この「例外」をFiduciary Outと呼びます。
同時に、安易な例外の適用を抑止するために例外を適用して取引から離脱するには、売手が買手に対して一定の金銭(Break-up Fee)を支払う義務を定めることもできます。
ただし、日本国内におけるM&A取引の実務として、LOIにおいて半年を超えるような長期間の独占交渉権が設定されることは一般的ではなく、独占交渉権の例外(Fiduciary Out)やこれに伴うBreak-up Feeの定めが置かれるケースは多くありません。
LOI(基本合意書)の法的拘束力
LOIの法的拘束力については、明示された規定があれば、原則としてその規定に従います。
守秘義務、独占交渉権などの取引の協議・交渉の枠組みにかかわる規定には法的拘束力を持たせ、それ以外の条項については法的拘束力を持たせない、という形が一般的です。
例えば、独占交渉条項は、最終契約の締結に向けた交渉において、具体的な法的義務を課しているものなので、通常は法的拘束力を持たせるべきものです。
一方、ストラクチャーや基本的条件など取引の内容については、LOIの締結時点では意向の表明にとどめて、法的拘束力を持たせないのが無難でしょう。
特に、最も重要な条件の一つである買収価格については、LOI締結の段階で決まっていたとしてもデューデリジェンスの結果などによって変動する可能性があるため、法的拘束力がある形での合意はせず、変更の余地を残す方法が一般的です。
買収価格について法的拘束力がある形で合意し、その後、詳細な条件について交渉する方法もありますが、この場合、契約締結上のリスクが通常よりも高まることになります。
上場会社のLOI(基本合意書)と開示義務
LOI締結の当事者が上場会社の場合、LOIの締結が金融商品取引所規則に基づく適時開示義務の対象にならないか検討する必要があります。
基本合意書の内容と性質によっては、その締結が「取引実行に関する決定」と解釈される可能性があるからです。
理論的には、法的拘束力の有無と取引実行の可能性の高さに応じて判断されるべきとされています。
例えば、法的拘束力がある条項としては独占交渉権、秘密保持義務、デューデリジェンスへの協力などを定めるだけで、取引条件について規定するものではない場合、原則として開示は不要と考えられます。
これが、取引条件について規定し、法的拘束力がある場合になると、原則として開示が必要です。
「詳細な最終契約を締結するには時間がかかるが、早期にM&Aの事実を株主に開示する必要がある」という場合、基本的な条件については法的拘束力がある形でLOIを締結し、取引の概要を公表することになります。
同様に、合併などの組織再編に際して、その事実だけはあらかじめ合意して開示し、最終合意がなされるまでの間に合併比率などの経済条件について交渉するケースもあります。
なお、開示義務が生じるか否かにかかわらず、LOIの締結が検討される段階においては、ほとんどの場合で、インサイダー取引規制における「重要事実」がすでに発生していると評価されるので注意が必要です。