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更新日:2020/08/27 公開日:2017/06/22

テーマ: 02.M&A

株式譲渡とは | 中小企業の事業承継に必要な手続きとポイント

中小企業における事業承継(特にM&A)の取引は、そのほとんどが「株式譲渡」によって行われます。
ただし、中小企業の株式はそう簡単に売買できる代物ではありません。
法務上・税務上の取扱いについても、きちんと理解しておく必要があります。

目次

株式譲渡することになった時にまず知りたいこと

株式とは

一般的にいわれる「株」は、正式には「株式」のことを指します。
株式会社は、資本金を確保するために、出資した人に対してこの株式を発行します。
出資した人はその会社の「株主」です。
つまり、株式を持つということは、会社のオーナーであることを意味します。

会社法においては、株式会社は各株主をその保有する株式の内容と数に応じて、平等に取り扱われなければならないとする「株主平等の原則」が定められています。
この原則は、株式譲渡においても念頭に置かなければならない重要な原則です。

株式譲渡とは

株式譲渡とは、 会社のオーナーが保有する株式を買手に譲渡することで、会社の経営を承継させる手続きです。
売手と買手が合意した内容の株式譲渡契約書(SPA)を締結して、株式の対価の支払いが行われたら、株主名簿の書き換えを行うだけで完了します。
そのため、他のM&Aの手法と比べると簡便な取引であり、中小企業のM&Aでは、もっともよく使われる手法です。

株式譲渡をする理由

中小企業では会社を実質的に所有している筆頭株主と、経営に直接携わっている取締役が同一人物であることがほとんどです。
そのため、経営者としての引退を考えるとき、まずは株式を後継者に引き渡すことによって会社への影響力を弱め、事業承継を進めやすくするのが一般的に流れになります。

会社オーナーは、株式を譲渡した後、すぐに引退するケースもあれば、しばらくは会社に残って、後継者への引継ぎや会社間の統合に尽力するケースもあります。

株式譲渡のメリット・デメリット

株式譲渡のメリットとして、まず、オーナーは譲渡した株式の対価として現金を手に入れることができる点が挙げられます。
また、原則として、株主が代わる以外に大きな影響はなく、会社の事業はそのまま存続します。
許認可や取引先との契約などもそのまま引き継ぐことができるため、対外的な影響は最小限にすることができるところが大きな利点です。

ただし、会社の債権債務、契約関係などが全て引き継がれることは、買手にとってリスクでもあります。
認識していなかった簿外債務や偶発債務であっても、譲渡後は自動的にその義務を負うことになるためです。
そのため、事前のデューデリジェンスが非常に重要な意味を持ち、調査には相応の時間とコストがかかります。

株式譲渡では役所などの手続きが不要

株式譲渡は会社の機関構成や株式数の変更ではないため、役所などへの手続きや法務局へ変更登記の申請は不要で、基本的には会社内部で完結することができます。
ただし、会社法上では厳格な手続きが規定されているため、専門家の助けは必要です。

なお、株式を譲渡するときは、次の2点について事前に確認することが重要になります。
1つめは、株券を発行しているか、そして、2つは、株式に譲渡制限が設けられているかです。
以下にもう少し詳しくご説明します。

株券を発行しているか

「株券」を発行しているかどうかによって、株式譲渡の方法と対抗要件が異なるため、この点は事前に確認する必要があります。

平成18年5月1日に施行された会社法において、株式会社は原則として株券を発行しないことになり、発行する場合は定款にその旨を定めることになりました。
しかし、それ以前は株券を発行することが原則だったため、この移行手続きが問題なくされているかを登記事項証明書と定款で確認しなければなりません。

登記事項証明書における「株券を発行する旨の定め」に「当会社の株式については、株券を発行する」とあれば、実際には株券を発行していなくても「株券発行会社」であり、それに沿った手続きが必要です。
株券発行会社における株式譲渡は、株券を交付しなければ、その効力が生じません。
また、第三者に対する対抗要件として株券の占有が必要とされます。

登記事項証明書において「当会社の株式については、株券を発行する」に下線が引かれて抹消されている場合は「株券不発行会社」です。
株券不発行会社は、当事者間の意思表示で株式を譲渡することができるため、株券の交付は必要ありません。
また、対抗要件は株主名簿の名義書換えで足ります。

株券が発行されているのに、一部を紛失してしまっている場合や、株券発行会社であるにもかかわらず、実際には株券を発行していない場合は、専門家にご相談下さい。

株式に譲渡制限はあるか

株式を譲渡するにあたっては、まず、株式に「譲渡制限」がついているかを確認する必要があります。

原則として、株式は自由に譲渡できるものです。
ただし、定款で会社が発行する株式を譲渡するには「会社の承認を要する」旨を定めることができます。
会社にとって好ましくない不適切な第三者が株式を手にすることを防ぐための規定であり、これを「譲渡制限」といいます。

このような譲渡制限がついている株式を「譲渡制限株式」といい、中小企業の株式は、ほとんどがこの譲渡制限株式です。
登記事項証明書においては、「株式の譲渡制限に関する規定」の欄に「当会社の株式を譲渡により取得するには、当会社の承認を要する」というような記載がされています。

譲渡制限株式を譲渡するには

譲渡制限株式であっても、一定の手続きを踏めば譲渡することができます。

そのためには、定款の定めに基づき、株式譲渡を承認する機関が必要になります。
取締役会を設置している会社の場合は取締役会が、設置していない会社の場合は株主総会が承認を行うのが一般的です。
当事者間で勝手に譲渡されていたとしても、会社の承認を受けない限りは、会社に対して譲渡の効力は生じません。

ただし、「みなし承認規定」というものもあるので、注意が必要です。
これは「会社側が一定の期間、譲渡承認請求者に認否の通知を怠った場合等には、その請求を承認したものとみなす」ものをいいます。
例えば、譲渡承認請求から2週間、会社から通知がない場合や、不承認の通知を出した場合に40日間、会社がその株式を買い取る旨の通知をしない場合などは、その譲渡承認の請求は承諾したものとみなされます。

株式譲渡承認の手続きについて

株式譲渡の手続きは、会社法の定めに則って進める必要があります。
一般的には、会社に対して譲渡承認請求を行い、次に承認機関における承認、という流れになりますが、会社の機関構成や承認機関によって手続きは異なります。
ここでは取締役会を設置しない会社で、承認機関が株主総会である場合の手続きをご説明します。

株式譲渡承認の請求

株式の譲渡を希望する株主(譲渡人)が譲渡承認の請求をする場合、会社に対して、その株数、譲受人の氏名・名称、指定買取人の買取請求などを明示して、譲受人に対する株式譲渡を承認するよう請求を行います。

臨時株主総会の開催決定・臨時株主総会の招集通知

会社(取締役)は臨時株主総会の開催日を決定し、その他の株主へ臨時株主総会の招集通知を出します。

株式譲渡の承認にかかわる決議

臨時株主総会において、株式譲渡を承認するか、否認するかを決議します。
株式の譲渡が承認されると、会社は譲渡人に対して承認したことを通知します。
承認されなければ、譲渡人が指定した譲受人に株式を譲渡できません。
その代わりに会社または、会社が指定した買取人に譲渡することになります。

株式譲渡契約の締結

承認通知を得たら、譲渡側と譲受側との間で株式譲渡契約を交わします。

株式名義書換請求

譲受人と譲渡人が共同で(譲受人単独の場合もあります)、会社に対して株主名簿を書き換えるように請求し、会社は請求に応えて、株主名簿を書き換えます。

株主名簿記載事項証明書の交付請求

譲受人が会社に対して、株主名簿記載事項証明書を交付するよう請求し、会社は請求に応えて、譲受人に株主名簿記載事項証明書を交付します。

以上の手続きで株式譲渡は完了です。

株式譲渡手続きをする際に必要になる書類

取締役会を設置しない会社で、譲渡承認機関が株主総会の場合における、譲渡制限株式の譲渡手続きに必要となる書類は下記になります。

□株式譲渡承認請求書
□株主総会招集に関する取締役の決定書
□臨時株主総会招集通知
□臨時株主総会議事録
□株式譲渡承認通知書
□株式譲渡契約書
□株式名義書換請求書
□株主名簿
□株主名簿記載事項証明書交付請求書
□株主名簿記載事項証明書

株主名簿の書換えについて

現在、ほとんどの中小企業が「株券」を発行しない会社(株券不発行会社)であり、株券を発行する代わりに会社の「株主名簿」に株主として記載されることになります。
会社の承認を得て当事者間で株式譲渡の手続きが完了しても、株主名簿の名義を書き換えなければ株主としての地位を主張することはできません。

株券不発行会社では、株主であるかは株主名簿に記載されることで判断されるため、株式譲渡が完了したら、株主名簿の名義書換えの手続きを必ず行う必要があります。

株式譲渡の税務について

譲渡所得税がかかります。
株式の譲渡所得は、売却した代金から株式を取得する際にかかった費用や譲渡の際にかかった費用などを差し引いた金額です。式は下記のようになります。

譲渡所得の金額=総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)

取得費が不明であれば、譲渡価額の5%を概算取得費とすることができます。
M&Aで専門家に支払うアドバイザリー報酬などの委託手数料も必要経費に含めて計算します。

株式を取得した側については、原則として税金がかかりません。
ただし、著しく「時価」と乖離した価格で譲渡された場合は、税務上の問題が発生します。
M&Aなどで利害関係のない第三者と取引するのであれば、売買した金額がそのまま「時価」とみなされやすいので、問題になることはあまりありません。
しかし、親族間や同族法人に対して株式譲渡をした場合、「時価」をどのように捉えるかは難しい判断になるため、事前に専門家に相談することをおすすめします。

株式譲渡を行う際に注意したいこと

同族会社における株式譲渡

株主が少数の親族だけである会社(同族会社)などの場合、実際には株主総会を開催せず、株主総会議事録などの書類を作っておくだけで済ませるケースがあります。
親族同士の関係が良好であれば、手続きを省力できる方法ではありますが、後になって相続などがきっかけで不仲になる可能性がゼロとは言い切れません。
特にM&Aなどで自社の株式を譲渡すると、大きなお金が動くため、これまで会社の経営に関わって来なかったのに、突然、権利を主張してくる者が出て来る可能性もあります。

株主総会の決議に瑕疵がある場合や、株式譲渡手続きが適法に行われていない場合、決議そのものが取消や無効となることがあります。
後々のトラブルが心配であれば、手続きは厳格な形で行っておくべきでしょう。

法務局への申請が不要だからこそ怖い

株式譲渡は法務局への申請が不要であるため、適当な手続きで譲渡を終えている(つもりになっている)会社も少なくありません。
法務局への申請がないということは、行政のプロによるチェックが入っていないということを意味します。

つまり、手続きにミスが起こりやすいため、自前で手続きを完結させのであれば、一層、慎重に取引を進める必要があります。

非上場会社の譲渡所得は損益通算できない

非上場会社の株式にかかわる譲渡所得は分離課税の取扱いであり、給与所得、不動産所得などの他の所得と区分して税額が算出され、損益通算はできません。

かつては、M&Aで売却した非上場株式の譲渡所得と、上場株式の譲渡損失を損益通算することもできたのですが、現在ではできなくなっているのでご注意下さい。

ちなみに、上場会社の株式の場合、確定申告をすることによって翌年以降3年間にわたり譲渡損失を繰り越すことができますが、非上場株式の譲渡損失に関しては、そのような取り扱いはありません。

まとめ

株式譲渡は、親族内への事業承継でも、第三者への承継(M&A)でも利用される、事業承継では必ず押さえておきたい重要な手法です。
しかし、その手続きには、法律上論点になる内容も多く、深い専門性が求められます。

株式譲渡は、会社のオーナーにしてみれば、失敗が許されない一世一代の取引です。
トラブルを避けるためには、事業承継の専門家に手続きを依頼するのが無難といえるでしょう。