基礎知識
2017/06/06
テーマ: 02.M&A
会社譲渡とは | M&Aで企業の経営権や事業を譲渡する
後継者問題や会社の成長など、会社譲渡で解決できることは多々あります。
会社の売却を「身売り」などと考えられていたのは一昔前の話です。
経営者の引退後の生活や、社員の雇用継続など、会社譲渡のメリットや手順を理解しましょう。
目次
会社譲渡のメリット
会社譲渡には数多くのメリットがあり、事業承継の手段としてだけでなく、会社の成長や従業員の雇用継続のためにも非常に有効です。
代表的なものを下記にあげます。
後継者問題の解決
全国で半数以上の中小企業が「後継者不在」に悩まされています。
会社を清算してしまえば、技術・販路・ノウハウは失われ、従業員は路頭に迷い、取引先にも深刻な影響を与える可能性があるでしょう。
M&Aによる会社譲渡では、これらの問題を解決できます。
従業員の雇用は守られ、会社の経営資源は次世代へ継承され、取引先に迷惑をかけることもありません。
企業の存続と再発展
M&Aによる会社譲渡によって経営資源が豊富にある大手のグループ会社に加われば、財務体質が強化され、新たな技術や販路を獲得することで再成長の機会を得ることができます。
また、新オーナーが有する経営資源(技術、販路、ノウハウなど)を吸収できるようになり、社員のモチベーションも向上するかもしれません。
これによって両社の組織が融和してシナジー効果を発揮することで、収益を獲得できれば待遇も良くなっていくはずです。
創業者利益の確保
M&Aによる会社譲渡を行えば、経営者は会社の借入金に対する個人保証から解放されるだけでなく、創業者利益を得て引退後の生活資金を確保することができます。
創業者利益を得る方法としては、「株式公開」、「廃業・清算」も選択肢としては考えられます。
ところが、「株式公開」は、純資産や利益など財務面での基準はもちろんのこと、内部管理体制の整備などといった実質面でも求められるハードルは低くありません。
また、「廃業・清算」では、事業を継続しない前提で評価されるので、一般的に会社の事業用資産は二束三文に評価される上、税負担も重く、手残りはわずかです。
会社譲渡で経営者・従業員はどうなる?
会社譲渡のその後、経営者や従業員、そして譲渡される会社にはどのような変化が起こるのでしょうか。
M&A取引後の問題を曖昧にしたまま契約を進めてしまえば、後に大きなトラブルに繋がることも考えられます。
連帯保証・担保提供の解除
中小のオーナー企業においては、金融機関から融資を受ける際、社長が個人保証していたり、個人資産を借入金の担保に提供していたりすることが多く、これが社長にとって精神的に大きな負担になっています。
M&Aによって経営権が移動する場合、この個人保証の肩代わりや解消について、買手の意向を交渉の早い段階から確認しておくことが重要です。
通常は、買手がこの条件を承諾しないことは考えられず、社長の個人保証や個人資産の担保提供は解除されます。
M&A後における経営者の処遇
株式の過半数を譲渡することで、経営権は買手企業に移り、多くの場合、買手企業から新しい経営者人材が派遣されます。
現経営者は、このタイミングで引退する場合もありますが、経営のスムーズな引継ぎのために代表権のないポジション(会長、相談役、顧問など)で会社に留まるケースも少なくありません。
ただし、この前経営者の役職をどうするか、常勤にするか非常勤にするか、報酬は支払うのか、何をいつまでやるのか、といった条件は、両社の協議であらかじめ決めておくのが無難です。
もちろん、代表者の地位にとどまったまま、新たな経営資源を活用して会社の成長に関わり続ける、という選択肢もあります。
M&A後における従業員の処遇
友好的なM&Aでは、従業員のモチベーションを落とさないように配慮することが多く、原則的には、大幅な人員削減や給与水準の切り下げなどといった急激なリストラはありません。
M&Aの直後については、譲渡前と同じような待遇で働くことができるケースがほとんどです。
そうはいっても、売手企業と買手企業の雇用条件が完全に一致することは考えにくく、雇用条件の調整は遅かれ早かれ起こる、と考える方が自然ではあります。
お互いの認識に行きちがいがないように、「○○年程度の期間は現在の雇用条件を尊重する」といった条項を契約内容に盛り込んでおくというのも一つの解決策です。
会社名
既存の取引先との関係を円滑にするためにも、株式譲渡の場合であれば、会社名はそのまま利用されるのが一般的です。
買手がグループ企業であれば、そのグループ企業名を社名に追加することもブランディング手法の一つでしょう。
M&A契約の際、あらかじめ合意しておきたい重要事項の一つです。
会社譲渡前の準備
会社を譲渡するスケジュール設定
あらかじめ譲渡までのスケジュールを決めて、そこに向けて会社の内部や取引先との関係を整理していくことがスムーズな会社譲渡に繋がります。
なぜなら、社長自身が気持ちを固めることができないまま、ズルズルと時間だけが過ぎていくケースが多くあるためです。
ビジネスの成功を決定づけているのは、会社の強みや組織体制のような「内部環境」だけではなく、市場の成長・衰退という「外部環境」も大きく寄与します。
そのため、「内部環境」と「外部環境」を改めて整理することで、いつまでに「譲渡を実行しなければならない」、もしくは「実行するべきである」という帰結が自然と浮かび上がって来るはずです。
このスケジュールは目安ではありますが、時間が区切られることで机上の計画が現実味を帯びてくるようになってきます。
会社の磨き上げ
会社の評価は、おおむね「どれくらい稼げるか」を示す収益力と、「価値のある財産をどれだけもっているか」を示す純資産によって決まります。
つまり、将来に予想される業績の伸びや、保有している資産が生み出すと予想される収益によって会社の価値は変動するということです。
会社のビジネスモデルを整理して、中長期的な収益力の強さを示すことができれば、会社の評価を高めることができます。
そのため、過去の実績を整理・分析しておくのはもちろんのこと、将来の中期的な売上・利益計画も準備し、その業績を達成するための前提を確認しておきたいところです。
M&Aのタイミングが具体的になっていれば、これまで億劫に感じていた施策についても、重い腰を上げるきっかけになるかもしれません。
不当な取引を整理
会社や事業を第三者に譲渡するには、不当な取引がないかなどコンプライアンス面の再確認をしておく必要があります。
買手企業は、貸借対照表や損益計算書だけでなく、必要に応じて証憑書類までしっかり確認することで、不透明な取引や、法令に反するような取引、税務上問題になる可能性をはらむ取引がないことを確認します。
もし、このような取引があれば、できるだけ早急に問題を解消しておくのが理想であり、すくなくとも早期のうちから情報開示しておく必要があります。
「売却前までに」などと放置していたことで、デューデリジェンス(買収監査)のタイミングになって問題が明るみにさらされると、買手の心証に悪影響を及ぼします。
売却代金を引き下げられるだけでなく、交渉自体が立ち消えになるというリスクもあるのです。
事前の対策は、顧問税理士や顧問会計士に依頼することも重要ですが、悪い意味での「馴れ合い」を排除するのであれば、第三者に依頼することも必要です。
売却条件の優先順位決め
社長自身や会社にとって何が大事な条件なのかをしっかり洗い出しておくことが重要です。
「このM&Aで優先するのは何か」を明確にしておけば、会社譲渡の交渉を滞りなく進めることができます。
「自身が手にする手残り額」「会社の成長」「社員の雇用」など、挙げればキリがないかもしれませんが、すべてを期待水準以上に期待することは難しいものです。
あらかじめ優先順位をつけておけば、交渉の現場で意思がブレることなく、スムーズに交渉を進めることができるはずです。
会社譲渡の誤解
×M&Aは中小企業に関係がない?
⇒M&Aというと、グローバルに展開する大企業の経営手法のようなイメージが先行します。
しかし、近年では、国内シェアを拡大したい大企業による国内の中小企業への資本参加、業界内での生き残りをかけた中小企業同士のM&Aは頻繁に行われています。
マスメディアのニュースには大きく取扱われなくても、案件数は増加傾向です。
×自分の会社は売れるわけがない?
⇒会社の魅力は売上の規模や純資産の厚さで決まるわけではありません。
企業価値を計算するときに参考にするのは、実態としての収益力なので、少し借入金が重くても買手を見つけることは可能です。
また、数字に表れない技術や販路に可能性を感じてくれることもあります。
×赤字の会社は売ることができない?
⇒会社の収益力を示す指標は会計上の損益だけではなく、キャッシュフローやEBITDAなどにも目を向けて、多角的に判断します。
例えば、大きな設備投資を行った後は減価償却費で会計上の利益は小さくなりますが、会社の収益力が低下した、という見方はしないのが通常です。
まとめ
近年、会社譲渡は、中小企業が経営継続していくための手段として注目されています。
そのメリットは、社長だけのものではなく、買手企業、取引先、そして従業員にまで及ぶものです。
納得のいくM&Aを実現するには、経営環境の分析から会社譲渡を実行するタイミングしっかりと固め、外部の人間に全て見られてしまうことを意識した身辺整理を計画的に進めていくことが重要になります。