お問い合わせ

基礎知識

更新日:2025/04/02

テーマ: 02.M&A

事業売却とは?メリット・デメリットや会社売却との違いを解説

後継者不足や業績不振に悩む企業は、その解決策として会社・事業の売却という選択肢があることを忘れてはなりません。
事業売却にはどのようなメリットがあり、どのような手続きで実行されるのでしょうか。

目次

事業売却とは

事業売却は会社の事業を売却することを指しますが、その目的として、主に3つのケースがあります。1つ目は、大手企業で実施されることが多い、「選択と集中」です。会社全体の業績が低迷した際、不採算部門の売却を行い、そこで得た資金を成長分野へ投資、再生を図る、という事例です。2つ目は、グループインによる成長戦略です。大手資本の傘下に入ることで、①増資による、財務基盤の安定②信用力向上による、優秀な人材の確保③新しい技術・販路・ノウハウの獲得を目的とする事例です。3つ目に中小企業の事業継続です。近年、中小企業オーナーの後継者不足が深刻化しています。事業を承継できずに廃業となると、取引先や従業員への被害は甚大です。そこで、事業継続を目的として売却するケースです。

事業売却と会社売却との違い

事業売却とは、企業が特定の事業を手放すM&Aの一形態で、経営戦略の変更や不採算事業の切り離しなどの目的で行われることがあります。法律上は「事業譲渡」と呼ばれ、企業内の特定の資産や権利、従業員や取引先との契約が売却対象となります。これに対して会社売却は、企業全体を第三者に株式譲渡することを指し、主に株式が売却対象です。税制面では、事業売却では譲渡対象に課税資産が含まれると消費税がかかり、法人税も課税されることがあります。一方、会社売却では株主に譲渡所得税が課され、消費税はかかりません。

株式譲渡と事業譲渡の比較

株式譲渡と事業譲渡について、5つの項目で比較します。1つ目は譲渡の対象範囲で、株式譲渡は会社全体を売買(100%株式)するのに対し、事業譲渡は会社の一部の事業(営業権)のみを譲渡します。2つ目は買手のリスク負担で、株式譲渡では会社全体の権利・義務を引き継ぐため広範なデューデリジェンスが必要ですが、事業譲渡では移転する資産・負債に限定されます。3つ目は従業員の待遇で、事業譲渡では買手と再雇用契約を結ぶ必要があり、従業員との個別交渉を実施する場合もあります。4つ目は株主総会で、株式譲渡では通常株主総会の決議は不要ですが、事業譲渡では株主総会の特別決議が求められます。5つ目は移行手続きで、株式譲渡は比較的簡単ですが、事業譲渡は契約の結び直しなど手続きが複雑化します。

事業売却の売り手側のメリット

事業売却における売り手側のメリットとして、一般的に以下の点が挙げられます。

収益を確保しつつ、組織を再構築できる

事業売却は、事業を売却し、売却資金を得つつ組織再編を図る有効な手法です。譲渡対価を得て会社資金にすることで、不採算事業やノンコア事業を切り離し、コア事業に集中できる体制を整えることができます。赤字事業の売却で資金繰りも改善され、撤退より有利に再編が進みます。

会社として事業を継続できる

中小企業の社長の高齢化と後継者不在が進む中、多くの企業が事業承継を重要課題としています。社長の引退と共に会社が廃業すれば、取引先や従業員に影響が及び、貴重なノウハウと地域の雇用も失われます。つまり事業売却では、他の会社に買収されることで事業を存続できるメリットがあります。

株主総会の特別決議事項で実行できる

株式譲渡による会社売却は、全株主の同意が必要で、譲渡の障壁となることがあります。買い手はすべての株式を取得したいため、この合意形成が重要です。一方、事業売却は株主総会の特別決議により実行可能で、簡易の事業譲渡は取締役会の決議で行えます。

事業売却の買い手側のメリット

事業売却における買い手側のメリットとして、一般的に以下の点が挙げられます。

事業・資産の選択的に取得できる

事業譲渡では、買い手は譲り受けたい資産や負債を選べるため、有用な資産だけを取得し、不必要な負債を避けることが可能です。また、即座に既存の事業基盤や顧客基盤を取得でき、これにより、新規事業開発に伴う時間やコストを大幅に削減し、迅速な市場参入や拡大が可能となります。

負債や債務を開始したり、法的リスクを軽減できる

事業譲渡では、一般的に債務や負債などを引き継ぐ必要がありません。また、買い手が譲渡会社そのものではなく、事業に関連する資産を取得するため、企業の過去の法的問題や訴訟リスクを直接引き継ぐことを避けやすいです。これにより、買収後の不確定要素を減らすことができます。

のれんによる税負担の軽減

事業譲渡において、買い手は支払った対価と引き受けた純資産との差額である「のれん」を税務上損金として計上できます。これにより、事業譲渡は税負担を軽減し、節税効果を得る可能性があります。一方、株式譲渡ではのれんを損金として計上できません。なお、税負担については税理士・公認会計士に相談してください。

事業売却の売り手側のデメリット

事業売却における売り手側のデメリットとして、一般的に以下の点が挙げられます。

税負担

事業譲渡においては、売り手は譲渡益に対して法人税(約34%)が課税されるため、税務上の負担が増大する可能性があります。特に、譲渡する資産の簿価と実際の売却価格の差額(のれん代)が大きい場合、法人税負担が顕著になります。個人株主の株式譲渡(税率約20%)と単純に比較すると重くなります。なお、税負担については税理士・公認会計士に相談してください。

競合避止義務がある

会社法第21条は、事業売却後に同一地域で同事業を行うことを制限する「競業避止義務」を定めています。これは、売却側が売却後もノウハウや人脈を利用して同事業を行い、買い手の計画を妨げないようにするためです。特約がある場合は最大30年、合意がない場合は20年間、この義務が適用され、売却した事業を同一または隣接市町村で行うことが禁止されます。

顧客や取引先との信頼関係変化リスク

事業譲渡により、売り手側には顧客や取引先に対する通知や対応が必要となります。これが円滑に行われないと、顧客や取引先との信頼関係が損なわれるリスクや、契約解除などが起こる可能性、また買手との交渉が決裂する可能性があります。

事業売却の買い手側のデメリット

事業売却における買い手側のデメリットとして、一般的に以下の点が挙げられます。

手続きの煩雑さ

事業売却は通常、従業員の雇用契約の再締結や事業許可の取り直し、不動産登記の変更などで手続きが複雑になります。また、事業譲渡によって支配権が変わる場合、契約の見直しや解約が可能となるCOC(チェンジ・オブ・コントロール)条項にも留意する必要がます。一方、株式譲渡による会社売却は、株式の譲渡手続きが完了すれば基本的な手続きが済みます。

消費税

事業売却においては、買い手側が負担する消費税が発生します。土地や有価証券、債権などの非課税資産を除き、課税資産には消費税がかかります。負債に対して消費税はかからず、資産に対してのみ課税されます。また、資産移動の内容によって、課税の有無が決まります。例えば、土地は非課税ですが、建物は課税対象です。このため、課税資産の場合、買い手は消費税を負担しなければなりません。

許認可の引継ぎ

会社売却では、株主や取締役の変更以外は大きな変化がなく、許認可や免許も引き継がれます。しかし、事業売却の場合、売り手の許認可や免許は自動的には引き継がれません。そのため、買い手は売却された事業で必要な許認可や免許を新たに取得し直す必要があります。

事業売買価格の算出方法

事業売却における価格算定は、売り手と買い手の間で合意形成する重要なプロセスです。以下、実際に使われる価値算定の方法を紹介します。

コストアプローチ

コストアプローチは、企業の純資産の評価に基づいて株主資本価値を算定する手法で、ストックアプローチとも呼ばれます。この手法は、企業を構築する際のコストに注目し、貸借対照表の純資産に焦点を当てます。主な手法には簿価純資産法と時価純資産法があります。簿価純資産法は貸借対照表上の純資産額を使い、時価純資産法は資産と負債を時価に置き換えて評価します。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、市場価格を基に評価する手法で、主に二つに分かれます。一つは市場株価法で、評価対象企業の株式市場価格や過去の取引価格を用います。もう一つは類似会社比較法(マルチプル法)で、類似する上場企業から倍率を算定し、その倍率を評価対象企業の指標に乗じて価値を算出します。

インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来予想される経済的利益を割引率を用いて、現時点の価値を評価する方法です。この手法は、リスクや期待収益率を考慮し、企業や資産の価値を見積もります。主な手法には、将来のキャッシュフローを基に価値を計算するDCF法や、予想配当を基にする配当還元法があります。

事業売却にかかる税金

事業売却時における税金について、売り手側・買い手側に負担される一般的な税金について以下にまとめています。実際の場面では、顧問の士業の方に相談しながら進めるようにしてください。

売り手側の税金

事業売却における売り手側の税金負担は、売却金額が事業資産と負債の差額を超える部分に法人税が課され、実効税率は約34%です。法人税は会社の利益に対して課税され、利益が少ないと税額も少なくなります。

買い手側の税金

事業売却における買い手側には、土地を除く事業資産への消費税が課されます。不動産を含む場合には不動産取得税が適用され、また登録や許可の申請に際しては登録免許税も発生します。

事業売却の手続きと流れ

事業売却の手続きや流れは、一般的に以下のステップで進められます。ただし、状況や業種、売却の条件によって異なる場合もあるので、具体的なアドバイスを得るには専門家に相談することをお勧めします。

事業譲渡に関する検討と意思決定

事業売却は経営戦略の一環として有効ですが、すべての場合で最適とは限りません。まず、売却の必要性を目的や想定メリットに基づいて思案することが重要です。次に、事業売却や目的を明確化して、売却後のビジョンを整理した上で売却先を探します。自社単独では、売却先候補のリストアップや選択肢の検討に限界があるため、専門家に依頼することが一般的です。

マッチング

マッチングとは、売却希望条件に基づき、事業の譲渡候補先(買収希望企業)を探索するステップです。専門家に依頼した場合、売却希望条件を提示し、その条件に基づいてアドバイザーが候補企業のリストを作成します。そのリストから交渉する企業を選定していくのが一般的です。

トップ面談

トップ面談は、M&Aプロセスにおける重要なステップであり、企業間、経営者間の相互理解を深めることを目的としています。企業概要書による書面情報だけでは把握しにくい将来のビジョンや経営理念、経営者の人柄を確認する機会です。これにより、売り手と買い手が信頼関係を築くことができ、将来的な協力体制の構築が期待されます。なお、トップ面談ではM&Aの具体的な価額や条件についての交渉は行われないことが一般的です。(

基本合意

基本合意書とは、M&Aプロセスにおいて交渉がある程度進展し、双方が合意した条件を正式契約前に文書化したものです。この書類には、譲渡価格や取引スキーム、スケジュール、対象となる資産・負債、従業員の雇用条件などの主要条件が含まれます。基本合意書の締結により、具体的な契約に向けた準備が進むための基礎が築かれます。

デューデリジェンス(買収監査)

デューデリジェンス(買収監査)は、M&Aにおいて買い手側が売り手企業を詳細に調査するプロセスです。財務、法務、税務などの側面から専門家がリスクや問題点を検証し、譲渡価格の妥当性や法的トラブルの有無を判断します。このプロセスは短期間で集中的に行われ、売り手の協力が重要です。

事業譲渡契約の締結

事業譲渡契約は、事業の一部または全部を譲渡する際に作成される契約書です。法律上作成の義務はありませんが、取引内容を明確にすることで後のトラブルを防ぐ役割を果たします。この契約では、譲渡の目的や譲渡財産などが記載されており、契約条件によりいずれかの会社が不利になる可能性があるため、弁護士やM&Aアドバイザーの専門的助言が奨励されます。事業譲渡の重要プロセスとして慎重な対応が求められます。

株主への通知と特別決議

株主への通知は、事業譲渡の効力発生日の20日前に行い、株主保護の観点から反対株主による買取請求が可能な期間を設けます。事業譲渡は組織変更であり株主利益に影響するため、通知後に株主総会を開き特別決議を取ることが必須です。特別決議は過半数出席者の3分の2以上の賛成で成立します。なお、簡易事業譲渡や略式事業譲渡では株主総会を省略可能です。

まとめ

事業売却は、売手と買手の双方がWin-Winの関係にあるときに取引が成立します。
その手法として「株式譲渡」と「事業譲渡」が挙げられ、一般的には株式譲渡の方が簡便であるため、よく使われます。
規模が大きい取引でなければ、買手にとっては事業譲渡の方がリスク負担の面で有利になるケースもあります。
それぞれの特徴を押さえて、事業売却のスキームを選択するべきでしょう。