M&Aの基礎知識 会社分割とは

会社分割とは、ある会社が(分割法人)その事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させることです。既存の会社が承継するものを「吸収分割」、新たに設立する会社が承継するものを「新設分割」といいます。法人税法では、分割の対価となる資産の帰属先に応じて、「分社型分割」と「分割型分割」とに区分しています。税法上、原則としては、時価により資産・負債を分割承継法人に対して譲渡したものとして、譲渡損益が計上されますが、これを「非適格分割」といいます。一定の要件を満たす場合、この譲渡損益は繰り延べられ、この特例的な取扱いを「適格分割」といいます。

(1) 会社分割の法務(手続き、労働契約、担保権について)

 
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◆会社分割とは

会社分割とは、ある会社(分割法人)がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、承継する会社(分割承継法人)の株式等を対価として、包括的に承継させることである。
分割の態様には2つあり、切り出された事業を既存の会社が承継するものを「吸収分割」といい、新たに設立された会社が承継するものを「新設分割」という。
会社分割は、事業の買収やグループ企業の再編等に活用されている。

会社が吸収分割をするには、分割会社と承継会社との間で吸収分割契約を締結し、原則として各当事会社の株主総会の承認を受ける。
一方、会社が新設分割をするには、新設分割計画を作成し、原則として株主総会の承認を受けることになる。

分割法人が1社である場合の分割(単独分割)だけでなく、2以上の会社が分割会社になる共同新設分割という手法もあり、合弁会社の設立を通じた業務提携などに利用されている。

なお、法人税法においては、会社分割を「分割対価資産の最終的な帰属先」に応じて区別している。
帰属先が分割法人であるものを「分社型分割」といい、帰属先が分割法人の株主であるものを「分割型分割」という。

◆会社法の下での分割型分割

会社法が制定される前の旧商法において、会社分割は、権利義務を承継する対価として、承継する会社が発行する株式の全部を分割会社が受け取る「物的分割」と、この株式の全部または一部を分割会社の株主が直接受け取る「人的分割」に整理されていた。

「物的分割」の効果は、税法上でいうところの「分社型分割」、人的分割は「分割型分割」に対応する。

【旧商法における会社分割(物的分割と人的分割)】
【旧商法における会社分割(物的分割と人的分割)】

その当時、配当は金銭でなくてはならないと解されていたため、発行する株式を分割会社の株主に割り当てることができ、これにより人的分割(分割型分割)が行われていた。

しかし、会社法は現物配当を許容したため、人的分割は「株式を分割対価とする物的分割+受け取った株式の配当」と構成すれば足りるとされ、人的分割は廃止されることとなる。

つまり、会社法における「会社分割」とは、物的分割のみを意味するものとして整理されることとなった

会社法の下で人的分割と同じ法律行為を行う場合、分割会社は、物的分割の効力発生と同時に、分割対価として受けた承継(新設)会社の株式を、「剰余金の配当」または「全部取得条項付種類株式の取得の対価」として株主に交付する。

このような一連の手続きを経ることにより、かつての人的分割と同様の効果を得ることができるため、実質的に人的分割は維持され、税法上の分割型分割もまた引き続き活用可能である。

【会社法における人的分割の整理】
【会社法における人的分割の整理】

この場合、分割会社の債権者すべてに対する債権者保護手続が必要となるが、剰余金の配当または全部取得条項付種類株式の取得についての財源規制は課されない。
そのため、分割会社に配当財源がなくても承継会社・新設会社の株式に限っては、株主に交付することができる。

◆会社分割の対価

会社分割では、権利義務を承継する代わりに、承継会社または設立会社は、分割会社に対して対価(分割対価)を交付する。

旧商法では、分割会社に交付されるのは承継会社の株式に限られていたが(分割交付金を除く)、会社法では株式に限られず、金銭、新株予約権社債その他の財産を交付できることとなった(「対価の柔軟化」)。
買収や事業再編成を行いやすくする制度を導入してほしい、という経済界の要請に応える形の改正といえる。

これにより、吸収合併と同様、吸収分割の対価の種類は吸収分割契約で自由に決められるようになった。
なお、新設分割の対価は、設立会社の発行する株式や社債等に限られる。

◆会社分割の対象

会社法制定前の旧商法においては、会社分割の対象は分割会社の「営業の全部又は一部」であるとされ、会社分割による承継の対象自体が「営業」(会社法における事業と対応)としての実質を有している必要があった。
つまり、営業(事業)を構成しない単なる権利義務の集合のみでは会社分割の対象とならないと解されていた。
他方、この「営業」の意味内容が明確ではないことで法的安定性を害する、という批判があり、会社分割の対象を規定することが望まれていた。

会社法において、会社分割は分割会社が「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」を承継させること、と規定されたことで、会社分割の対象は「事業」としての実質を有する必要はなくなったといわれている。
というのも、会社の行為は事業のためにするものと推定されるため、会社が有する権利義務は、基本的にはすべて「事業に関して有する」ものであると考えられるためである。

(ただし、学説の中には、会社分割が現物出資規制等の脱法手段として利用されるおそれがあるとして、会社分割の対象は事業としての実質を備えたものでなくてはならないとする見解もある。)

なお、会社分割により実際に承継される対象は、分割会社が事業に関して有する権利義務のうち、吸収分割契約または新設分割計画に承継する旨が定められたものに限られる。

◆会社分割の法律効果

□効力発生日

吸収分割の効力は分割契約で定めた「効力発生日」に生じ、また新設分割は、設立登記による成立の日に効力が発生する。

□分割契約または分割計画の定めに従った権利義務の承継

承継会社または設立会社は、吸収分割契約または新設分割計画の定めに従い、分割会社の権利義務を承継する。
この際、分割会社の債務を承継する場合も、債権者の承諾は必要ない。

これは、免責的債務引受には債権者の承諾を要するという民法の一般原則の修正であり、事業買収・再編を円滑に進めることを目的として創設された会社分割の特徴である。

その半面、経営不振の分割会社が不採算事業に関する権利義務だけを分割して設立会社に移転するなど、濫用によって債権者が不利益を受けるおそれがある、という指摘もある。
そのため、会社分割においては、他の類型の組織再編の場合以上に、債権者の保護が重要な課題となる。

◆会社分割の手続

会社分割に必要となる手続としては、株主総会決議、債権者保護手続などの会社法上の手続だけでなく、労働契約承継法上の手続もある。
例えば、公開会社上場会社を除く)が新設分割を行う場合のスケジュールは以下のようになる。

【新設分割(株主総会を行う場合)のスケジュール】
【新設分割(株主総会を行う場合)のスケジュール】

◆分割契約または分割計画の作成

会社分割が「重要な財産の処分及び譲受け」または「その他の重要な業務執行」に該当する場合、分割契約(吸収分割のとき)または分割計画(新設分割のとき)につき取締役会決議が必要となる。

◆株主総会決議による承認

分割契約または分割計画は、株主総会の特別決議による承認を受けるのが原則である。
吸収分割の場合、当事会社は、分割契約で定めた効力発生日の前日までに分割契約の承認を受けなければならない。
新設分割の場合は、新設会社の成立の日の前までには、分割計画の承認を受ける。

なお、会社分割が「略式分割」「簡易分割」(後述)のいずれかに該当する場合には、分割契約または分割計画を承認するための株主総会は不要となる。
(ただし、簡易分割の場合、一定の数(原則として、議決権を有する株主の6分の1)以上の株主が反対したときは、株主総会決議が必要となる。)

□簡易会社分割

・簡易会社分割の要件
承継会社は、吸収分割する際に、次のア~ウの合計額のエに対する割合が20%以下である場合、承継会社やその株主に与える影響が軽微であるとみなし株主総会の承認を省略することができる。

ア 対価として交付する承継会社の株式の数に1株あたりの純資産額を乗じた額
イ 対価として交付する承継会社の社債、新株予約権または新株予約権付社債の帳簿価額の合計額
ウ 対価として交付する承継会社のアイ以外の財産の帳簿価額の合計額
エ 承継会社の純資産

・分割会社は、吸収分割・新設分割をする際に、承継会社・新設会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が分割会社の純資産額の20%以下である場合、分割会社の株主総会の承認を省略できる。

・簡易会社分割の例外
上記の要件に該当する場合であっても、次の場合には承継会社の株主総会の承認を省略することができない。

ア 承継する債務額が承継する資産額を上回っている場合
イ 承継する債務額が承継する純資産額を上回っている場合
ウ 公開会社でない承継会社が対価として承継会社の譲渡制限株式を交付する場合
エ 一定以上の株主が承継会社に対して吸収分割に反対する旨を通知した場合

なお、簡易会社分割において、承継会社の株主は、会社からの会社分割通知または公告の日から2週間以内に、吸収分割に反対する旨の通知を行うことができる。

株主総会が開かれたとすると否決する可能性がある数の株式を有する株主から反対の通知または買取請求が行われた場合、承継会社となる会社は、株主総会の承認を省略することができない。

□略式会社分割

・略式会社分割の要件

承継会社となる会社と分割会社となる会社の間に支配関係がある場合、仮に株主総会を開催したとしても、承認されることは明らかであるため、支配されている会社の株主総会の承認を省略することができる。

具体的に株主総会を省略できるケースは次のとおりです。

ア 承継会社となる会社が分割会社となる株式会社の議決権の90%以上を有する場合、分割会社の株主総会決議を省略することができる。

イ 分割会社となる会社が承継会社となる株式会社の議決権の90%以上を有する場合、承継会社の株主総会決議を省略することができる。

・略式会社分割の例外
承継会社が公開会社でない場合に、対価として承継会社の譲渡制限株式を交付するときは、承継会社の譲渡制限株式を有する既存株主の保護を図るため、承継会社の株主総会の特別決議による承認を省略できない。

なお、吸収分割が法令または定款に違反し、または吸収分割の対価が不当であるため、株主が不利益を受けるおそれがあるような略式会社分割をする場合は、株主は吸収分割をやめるよう請求することができる。
これは、承認決議を経ない場合の少数株主を保護するための規定である。
(簡易会社分割の場合では、株主は反対通知ができる。)

◆労働契約承継法上の手続

他のM&A手法と比較したとき、会社分割に特徴的な手続として「労働者保護手続」というものがある。

会社分割にあたり、分割会社の労働者にとって、自分がどちらの会社に所属するかは重要な問題である。
そこで、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(承継法)では、労働者の同意なくして労働契約を移転させることを認めるかわりに、会社は労働者へ事前通知をし、異議を申し出る機会を与えなければならない旨、就業規則の不利益変更や解雇が行われない旨の規定が設けられている。
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□労働者への通知

分割会社は、労働者の労働契約の承継の有無、異議申出期限日などを書面で通知する必要がある。
この規定の対象者は、次の者である。

・承継する事業に主として従事する者
・承継する事業に従として従事する者であって、分割契約(計画)書に労働契約承継の旨が記載されている者
・労働協約を締結している労働組合がある場合は当該労働組合

通知は、分割契約(計画)を承認する株主総会の日の2週間前の日の前日まで、または吸収分割契約の締結の日、または新設分割計画作成の日から2週間を経過する日までにしなければならない。

□異議の申出

分割会社から通知を受けた労働者のうち次の者は、異議申出期限日までに、書面で異議を申し出ることができる。

・承継する事業に主として従事する者であって、分割契約(計画)に労働契約承継の旨が記載されていない者
・承継する事業に従として従事する者であって、分割契約(計画)に労働契約承継の旨が記載されている者

異議申出期限日は、通知期限日の翌日、つまり分割契約(計画)を承認する株主総会の日の2週間前から株主総会の日の前日までの範囲または効力発生日の前日までの範囲で定められ、通知がされた人異議申出期限日の間は少なくとも13日間は置かなければならない。

【会社分割における労働契約の承継】
【会社分割における労働契約の承継】

(※1「)承継する事業に『主として』従事する者」であって、「労働契約が承継される者」は、現在と同じ仕事に従事することになるので、異議を申し出ることができない。

(※2)「承継する事業に『主として』従事する者」であって、「分割契約(計画)に労働契約承継の旨が記載されていない者」が異議を述べた場合は、承継(新設)会社に労働契約が承継される。

(※3)「承継する事業に『従として』従事する者」であって、「分割契約(計画)に労働契約承継の旨が記載されている者」が異議を述べた場合は、分割会社に残留することになる。

◆担保権の取扱い

会社分割により、担保権の付された債務が新設会社(承継会社)に免責的に承継される場合、担保の取扱いが問題となる。
また、根抵当権については、民法上、会社分割が行われる際の処理に関する特則が定められているため、債権・債務の承継の有無にかかわらず、別途の検討が必要となる。

□主債務者が設定した通常の担保の取扱い

一般に、被担保債務が免責的に承継される場合、主債務者が設定した抵当権・質権などの通常の担保は、担保権の随伴性により移転すると解されており、会社分割による承継の場合も同様である。

□人的担保・第三者が設定した通常の物的担保の取扱い

一般に、被担保債務が免責的債務引受により承継された場合、保証人による保証や物上保証人の設定した通常の物的担保は、当該保証人の別途の承諾がない限り消滅するものと解されている。

もっとも、会社分割については、単なる免責的債務引受とは異なる法的側面(相手方の同意を必要としない包括承継)を有するので、別途検討が必要となる。
実務上は、担保付債務の免責的承継を円滑に行うためには保証人・物上保証人から別途承諾を得ておくことが望ましい。

□根抵当権の取扱い

会社分割時における確定前の根抵当権については、普通抵当権とは異なる取扱いとなる。

民法上特則が定められており、元本の確定前に債務者(根抵当権設定者)を分割会社とする会社分割があったときは、根抵当権は、会社分割の時点に存する債務のほか、分割会社および新設会社または承継会社が分割後に負担する債務をも担保することとされている。

つまり、分割契約等における記載にかかわらず、根抵当権は、分割に伴い分割会社と新設会社または承継会社を債務者とする共用根抵当権になる。

このため、実務上は分割会社、新設会社または承継会社および根抵当権者が別途合意のうえ、吸収分割後に分割会社が負担する債務を被担保債務から除外するなどの対応が必要となる。

 
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