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2023/12/13

テーマ: 02.M&A

M&Aの事業譲渡とは?株式譲渡や会社分割との違いについても解説

M&Aの事業譲渡とは?株式譲渡や会社分割との違いについても解説

M&Aとは、英語のMergers and Acquisitions(マージャーズ・アンド・アクイジションズ)の略語であり、複数の会社を一つに統合する合併と、会社の支配権(経営権)を手に入れる買収のことを指しています。

日本は、少子高齢化による人口減少という、歴史上類を見ない局面に差し掛かっています。
人口減による国内市場の縮小と後継者不足からここ数年、中小企業を中心に事業譲渡合併資本業務提携など、企業間のM&Aが加速しており、今後もこうした事業承継の流れは続くと予想されます。

さらに昨今ではベンチャー企業が当事者となるM&Aや、ファンドによるM&Aが浸透しつつあり、後継者不足によるM&Aの増加に拍車をかけています。
足元ではコロナウイルス感染症の影響で全体の件数が落ち込んでいますが、小規模のM&Aの件数減少は比較的抑えられています。
ここでは、M&Aを検討している企業の経営者の方向けに、M&Aを成功させるための基礎知識やポイント、メリット・デメリットからM&Aの実行手続き、M&Aアドバイザーの選び方まで、わかりやすく解説します。
M&Aの基本的な知識を固めることは、M&Aで失敗しないための重要な第一歩です。

M&Aに関して、簡単に問い合わせたい方はこちら

目次

M&Aとは

M&AのMは英語のMergersの頭文字で、Mergersは合併を意味しています。
AはAcquisitionsの頭文字で、その意味は買収です。
つまり、M&Aとは、英語のMergers and Acquisitions(マージャーズ・アンド・アクイジションズ)の略語であり、複数の会社を一つに統合する合併と、会社の支配権(経営権)を手に入れる買収のことを指しています。

M&Aの定義を詳しく知りたい方はこちら

近年では国内企業のM&Aが増加傾向にあります。その背景には少子高齢化及び人口減少から国内需要の減少を見込んだ海外M&Aが増えていること、また、経営者の高齢化に伴う事業承継型のM&Aが増えていることが挙げられます。
特に事業承継M&Aについては2022年の1月から12月の累計で件数、金額ともに過去最高となっています。

今後は景気動向や金利情勢など不透明な先行きに対して、M&Aの買い手となる企業の慎重さが増す可能性がある一方で、大きく変化する事業環境に適応するため、その変化に迅速に対応できるM&Aが利用され続け、M&Aの市場全体は好況が続くと考えられます
す。

M&Aの目的

企業にとって、M&Aは重要な経営戦略の一つです。
M&Aで会社を「取得する側」は、他社から経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報など)を取り入れることによって、中核事業の強化、自社における弱みの補完、未進出の地域への事業拡大、新規事業の立ち上げなどを目的としてます。
一方で、会社を「取得される側」の理由としては、「後継者問題」を解決するためというケース(事業承継型のM&A)、「業績不振」というケース(事業再生型のM&A)、が代表的です。
最近では、業績が好調で、親族に後継者候補がいたとしても、会社のさらなる成長を実現するために、大手の傘下で事業拡大を目指すことを選択するケースも見受けられます。

海外・国内の失敗事例はこちら

M&Aのメリット・デメリット(留意事項)

買手企業・売手企業それぞれのメリット・デメリット(留意事項)は下記のようにまとめられます。
【M&Aのメリット・デメリット】

買手企業 売手企業
メリット ・コア事業の強化、弱みの補完
・迅速に新規事業へ進出できる
・スケールメリットによるコスト削減
・技術・ノウハウ・人材の獲得
・社長の後継者問題が解決する
・従業員の雇用を守ることができる
・スポンサー確保による信用補完
・社長の個人保証を解消できる
・引退後の生活資金を手にできる
デメリット (留意事項) ・シナジーを得られるか不確実
・想定外の債務・支出の可能性
・中核人材の退職
・従業員間での軋轢
・買手企業が見つからない可能性
・社長が統合作業を担う必要性
・従業員の解雇・退職の可能性

(買手企業のメリット)

M&Aで会社を取得する側(買手企業)は、他社から経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報など)を取り入れることによって、中核にしている事業を強化したり、弱みを補完したり、迅速に新規事業へ進出することができます。
また、売上規模の拡大、スケールメリットによるコスト削減、技術・ノウハウ・人材の獲得などのメリットも代表的なものです。

(売手企業のメリット)

M&Aにより会社を取得される側(売手企業)のメリットとしては、後継者問題が解決し、事業を継続できることで、従業員の雇用が守られる点が大きいでしょう。
業績不振企業の場合であれば、スポンサーが見つかり、追加で出資を受けることができれば、信用が回復することで、取引先の不安を解消することができます。
何より、会社の連帯債務者となっている社長にとっては、個人保証から解放されるというのが心理的には非常に大きなメリットです。
加えて、株式を売却した対価と、会社へ貸し付けていたお金の返済、そして役員退職金で、引退後の生活を送ることができます。

(買手企業のデメリット(留意事項))

買手企業としては、当初想定していたようなシナジーが得られなければ、交渉段階で取得価額に織り込んでいた金額をそのまま損したことになります。
また、M&A成立後、当初は認識していなかった債務(簿外債務)や、想定外の支出、それが補償されていない契約上の瑕疵が発覚する可能性もあります。
会社の中核を担う人材が退職してしまう、というのも大きな損失です。
退職こそしなくても、売手企業・買い手企業それぞれの従業員間での軋轢というのは根深いものです。

(売手企業のデメリット(留意事項))

一番大きな問題は、買収してくれる企業がいない可能性がある、という点です。
現実のM&A市場においては、社長がこれまでどれだけ会社に投資をしてきたかではなく、会社の事業が将来的にどれだけの収益を見込めるかで評価されます。
マッチングの問題だけでなく、M&A成立後のヒトと組織の問題は、売手企業も買手企業と同様です。
買収された後に労働条件の変更解雇をさせないためには、事前に契約書で縛っておく必要があります。

M&Aの手法

M&Aの手法は多岐にわたり、目的に合わせた設計が求められます。
資本業務提携合併買収、それぞれの手法の特徴について、少し詳しくご説明します。

【M&Aの狭義と広義】

(資本業務提携)

「業務提携」は、互いの利益のためにノウハウや技術を共有して特定の分野で協力することを指し、「資本提携」は一方が他方の株式を取得したり、お互いが相手の会社の株を持ち合ったり、独立性を保ちながらも関係を強化することです。
資本業務提携は、この2つを同時に行うことになります。
業務提携を単独で行うよりも連携をより深めることができます。

支配権を完全に取得するような買収を行うと、対象会社が上場会社である場合、上場廃止になってしまうため、これを避けるために資本業務提携が使われることもあります。
資本業務提携も広い意味ではM&Aの一つといえますが、合併や買収と違い、少なくともその段階では支配権の獲得を意図していないケースが通常です。
対象会社の独立性やブランドなどを維持しながら、柔軟に連携することが目的になります。

(合併)

合併とは、2つ以上の企業が、契約により1つの企業に統合される法的な手続きをいいます。
合併では、複数の会社が契約により1つの会社に合体し、1社を残して他の会社は消滅します。
対して、買収では、買手となる会社が対象会社の議決権株式の過半数を買い取ることで会社そのものの支配権を獲得することもあれば、欲しい事業部門だけを買って自社に取り入れることもあります。
つまり、合併では買われる会社が消滅するのに対して、買収では買われる会社は存続するのが一般的です(ただし、買収された後に合併されて消滅することもあります)。

合併には、買収する会社が消滅する会社の権利義務の一切を承継する吸収合併と、売手企業も買手企業も消滅して、その権利義務の一切を新たな会社が引き継ぐ新設合併があります。
合併によって消滅する会社の権利義務は全て存続(新設)会社に移転します。
そのため、簿外債務のような認識していなかったものについても承継されるリスクがあるので、デューデリジェンスの手続きが非常に重要になってきます。

【合併のスキーム図】

(買収)

買収の方法としては、株式を取得する方法である株式譲渡」、「株式交換」、「第三者割当増資と、事業を取得する方法である事業譲渡」、「会社分割があります。

沢山の手法がありますが、中小企業のM&Aにおいては、その8割~9割以上が株式譲渡によって行われ、残りのほとんどが事業譲渡というイメージなので、中小企業のオーナー経営者は株式譲渡と事業譲渡のポイントは押さえておきたいところです。
順番にご説明します。

株式譲渡

株式譲渡とは、個人または法人が保有する株式を売買することで、株主の地位を他者に移転させる手続きです。
原則として、株主が代わる以外に大きな影響はなく、会社の事業はそのまま存続します。
許認可や取引先との契約などもそのまま引き継ぐことができるため、対外的な影響は最小限にすることができるところが大きな利点です。
また、売手オーナー(個人)が株式譲渡を行う場合、株式の売却代金を得ることができるので、それをリタイア後の生活資金などに充てることができます

 

【株式譲渡のスキーム図】

事業譲渡

事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を第三者に譲渡することをいいます。
事業譲渡は、譲渡対象にする資産・負債、従業員や契約等を選別し、個別に進める必要があるため、株式譲渡と比べると一般的には手続きが煩雑です。
買手企業にとっては、簿外債務を引き受けてしまうリスクがないという点でメリットがあるといえます。

【事業譲渡のスキーム図】

株式交換

株式交換は、100%保有の親子関係である完全親子会社関係をつくるために使われる手法です。
株式を取得する対価は、原則として、現金ではなく買手企業が自社の株式を発行するため、買手企業としては手元資金がなくても支配権を獲得できるメリットがあります。
一方、売手オーナーの側としては、現金を受け取ることができないのはデメリットと感じることでしょう

【株式交換のスキーム図】

会社分割

会社分割とは、会社が権利義務の全部または一部を、他の会社に承継させるM&A手法のことです。
会社分割には吸収分割新設分割があり、「吸収分割」は切り出す事業を既存の会社に承継させる手法で、「新設分割」は、切り出す事業を新しく設立する法人に承継させる手法です。
また、分割の対価を受け取るのが分割会社か分割会社の株主かにより、分社型分割分割型分割の2パターンあります。
つまり、新設分割・吸収分割と分社型分割・分割型分割の組み合わせで、会社分割のパターンは4つあるということです。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、会社が特定の第三者に対して新株を引き受ける権利を割り当てる形態の増資です。
売買ではなく増資なので、譲渡損益は生じないため、課税されることはありません。
再生局面のように、売手企業自体に資金需要があるケースでは有効な手法といえます。

(特殊な株式取得の方法)

上記にご紹介した手法の特殊なパターンとして、「TOB(株式公開買い付け)」「マネジメント・バイアウト(Management Buyout:MBO)」があります。

TOB(株式公開買い付け)

TOB(Take Over Bid)とは株式公開買い付けのことで、金融商品取引法に則り、支配権を及ぼしたい上場企業の株式を取得するために、買取株価と株数、買付日を宣言した上で、不特定多数の株主から買い取る手法です。
この手法では、一気に大量の株式を宣言した株価で購入するので、市場からジワジワと買い集める方法では避け難い株価上昇による事後的な買収金額の高騰が起こらない、というメリットがあります。
そのため、目標株式の買収金額の予想が立てられます。

また、買付予定株数に達しなかった場合はキャンセルできるため、買付失敗のリスクがありません。
一方、公開のため買収目的が明らかになるため、買収対象企業が前述の第三者割当増資などを利用した買収防衛策を発動する機会を与えることになります。

マネジメント・バイアウト(Management Buyout:MBO)

マネジメント・バイアウト(Management Buyout:MBO)とは、経営陣や従業員が、銀行やファンドから資金を調達して自社企業の株式を買収する手法です。
その目的としては、株主中心の短期的戦略への傾向から脱却して中長期的な経営戦略を目指すことや、敵対的買収からの防衛、中小企業の事業承継対策などがあります。

近年、MBOが注目されるようになった背景としては、変化がめまぐるしい市場に対応するために迅速な経営判断の必要性が高まっていること、株式上場を行うことのメリットが低下していること、短期に成果を求める株主の増加による弊害から逃れることなどがあります。

M&Aの流れ

M&Aを実行するにあたって、実際にはどのような流れで手続を進めるのでしょうか。
売手サイドの場合を例に、M&Aアドバイザーのサービスとともにご説明すると、以下のフロー図にまとめられます。

【M&Aのフロー(前半)】

(① 事前準備)

まずは、M&Aの専門会社に依頼する前の事前準備の段階です。
以下のチェックポイントを確認しておく必要があります。
□M&Aの選択は妥当なのか
□対象企業をイメージできているか
□議決権は確保できているのか

(② アドバイザー選定)

M&Aで売手と買手の間に入るアドバイザーのことを一般的には「フィナンシャル・アドバイザー(Financial Adviser:FA)」といいます。
ここでは、分かりやすく「M&Aアドバイザー」と呼びましょう。
中堅・中小企業のM&Aでは、M&Aを専門としているコンサルティング会社や仲介会社がその役割を担います。

(③ 候補選定・匿名打診)

M&Aアドバイザーが決まったら、買手候補へのアプローチの段階に進みます。
候補企業のリストを作成し、条件に合いそうな候補先を数社に絞込みます。
そして、ノンネームシートと呼ばれる匿名の企業概要を作成し、買手候補の会社に提示して打診していきます。

(④ 秘密保持契約)

買収を希望する会社が興味を示し、さらに詳細な情報の開示を求められれば、秘密保持契約を結びます。
これ以降、会社の名前やその内容が初めて開示され、情報の管理が非常に重要となるためです。

(⑤ IM提示)

秘密保持契約が締結されると、IM(Information Memorandum:インフォメーション・メモランダム)と呼ばれる企業の詳細情報を買手企業に提示します。
IMは「企業概要書」とも呼ばれ、会社の名前はもちろん、詳細な事業内容、財務情報が記載されたものです。

(⑥ トップ面談)

買手候補が具体的に買収を検討する段階になると、いよいよトップ同士の面談になります。
売手企業と買手企業のトップ同士が顔を合わせて話をする貴重な機会です。
お互いの紹介、売却・買収検討に至った背景、企業経営の中で大事にしている事などを共有することで、お互いが信頼できる相手であること確認する事が一番の目的です。

【M&Aのフロー(後半)】

(⑦ 基本合意契約)

基本合意書(LOI)の作成は必須のものではなく、M&Aの基本的な条件が法的拘束力を有しない形で規定されるのが一般的です。
多くの場合、買収の基本的な条件、誠実交渉義務、独占交渉権、守秘義務、スケジュールの概略などが規定されます。

(⑧ デューデリジェンス(買手による詳細調査))

基本合意をした後、買手企業は売手企業の実態を把握するために、デューデリジェンスを行います。
具体的には、買手企業が専門家に依頼し、その担当者が売手会社を訪問して、帳簿を閲覧したり、書面ではわからない会社の状況などをチェックする手続きが行われます。

(⑨ 条件交渉)

デューデリジェンスの結果、交渉を断念させるような問題がなければ、経営者、役員、従業員の処遇や、最終契約までのスケジュール、その間に遵守すべき事項、守秘義務などに関する合意事項について固めます。
その後、細かい条件を詰めていき、最終的な売却価格を決定することになります。

(⑩ 最終契約・クロージング(代金受け渡し))

最後の手続きで、譲渡の内容(株式譲渡・事業譲渡など)、売買価格を定めた最終契約書(株式譲渡であれば株式譲渡契約書(SPA))を取り交わし、買手側から譲渡代金を受け取ります(クロージング)。

(⑪ PMI(M&A後の統合作業))

PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる統合作業こそが、M&Aの総仕上げです。
PMIでは、買手企業スタッフが現状を理解することが入り口となります。
そのため、M&A成立後は、できれば買手企業から売手企業に数人常駐して、ビジネスの流れやスタッフの特徴などを把握し、ノウハウを共有していくべきでしょう。

M&Aで知っておきたい基本_税金

M&Aで実務上利用されることが多い株式譲渡事業譲渡、そして「組織再編(合併株式交換会社分割)」についてご説明します。

【M&Aの手法ごとの税金】

M&Aの手法 対価を 受け取る者 対価の種類 (原価) 主な税金の種類と税率 (国税・地方税の合計)
株式譲渡 売手オーナー 現金 所得税等(譲渡所得)
20.315%
事業譲渡 売手企業 現金 法人税等 約30%
組織再編 合併 売手オーナー
売手企業
株式 所得税等(配当所得)
最大55.945%
法人税等 約30%(※)
株式交換 売手オーナー 株式 所得税等(譲渡所得)
約20.315%(※)
会社分割 売手オーナー
売手企業
現金
株式
所得税等(配当所得)
最大55.945%
法人税等 約30%(※)
(※)合併、株式交換、会社分割の組織再編において、税制上の「適格要件」を満たす場合、上記課税は生じません。

(① 株式譲渡)

株式譲渡では、M&Aの売手企業の株主が、買手に株式を売却し、売却代金を手にします。
つまり、課税される対象は売却代金を受け取った売手企業の株主です。
この株主が個人であれば、株式を売却したことで受け取った利益(株式譲渡所得)に対し所得税が課され、売却した翌年の確定申告で申告・納税しなければなりません。
税率は所得税・住民税合わせて一定の20.315%なので、給与や事業収入などの所得が高い人でも納税額を抑えられます。

(② 事業譲渡)

事業譲渡では、M&Aの売手企業が買手企業に事業に係る資産を売却し、売却代金は売手企業が受け取ります。
つまり、これによる利益は法人税(約30%)の課税対象となり、株主に税負担はありません。
ただし、事業譲渡で手にした資金を社長個人で受け取りたい、というときには会社からの配当金や役員給与(退職金)といった方法が考えられますが、別途課税される可能性があるので注意が必要です。

(③ 組織再編)

M&Aでは株式譲渡や事業譲渡のほかに、合併、株式交換、会社分割といった組織再編という手法もあります。
手法にもよりますが、組織再編においては、多くの場合、売手が受け取る対価は、現金ではなく買手企業の株式です。
また、その組織再編行為が「税制適格要件」に該当するかどうかで、課税関係が変わってきます。

M&Aを成功させるためには~マッチング(パートナー探し)~

M&Aの要であるマッチング(パートナー探し)は以下のポイントを確認する必要があります。

□アドバイザーの信頼感・ネットワーク
委任するM&Aアドバイザーは上場しているような信頼できる会社か、十分なネットワークを有しているか、事前にしっかりと確認してから委任する必要があります。

□経済合理性
具体的には、経営資源が補完関係にあるか、事業上のシナジー効果(規模の経済、クロスセリングなど)が期待できるかなどが挙げられます。

□感情的に納得できるか
売手・買手の双方がお互いに敬意を感じ、信頼関係を構築できると感じられるかどうか、企業文化が合うかも重要です。

M&Aで知っておきたい基本_企業価値評価方法

上場会社の場合は、公開市場で1株当たりの株価が定まっているため、その株価と株式数によって時価総額が分かります。
実際に上場会社がM&Aで買収される場合には、市場の株価より割高で買い集められることが多いです。

非上場会社の場合は、市場価格がないため、何らかの方法で買い手売り手両社の納得できる価格を算定する必要があります。
算定方法は3つのアプローチに大別され、それぞれにいくつかの方法があります。
実際には複数の方法で算定された価格に加え、対象会社の業界、事業の特性や成長ステージなどから総合的に価格を考慮し、最終的に個別交渉で価格が決定します。

インカムアプローチ

将来的に対象会社から期待される収益やキャッシュフローを基に、長期金利をはじめとした割引率で割り引く方法で企業価値を算定するアプローチです。

DCF法

DCF法は、対象会社が将来生み出すと期待されるフリーキャッシュフローを基に算定する手法です。
これは、ファイナンス理論の基本的な考え方に最も整合する評価方法とされています。
DCF法での企業価値算定する流れは、対象会社の事業計画に基づいた将来キャッシュフローの予測、キャッシュフローの現在価値と将来価値の差異となる割引率の設定、算出したキャッシュフローを割引率で調整したのち、合計する、という流れです。
本手法はM&Aで将来期待されるシナジー効果などを柔軟に反映させることができるメリットがある一方で、事業計画と割引率の客観性の確保が難しいというデメリットがあります。

配当還元法

配当還元法は将来株主が受け取る配当の総和を現在価値に割り引いて算定する手法です。
本手法は上述したDCF法と同じメリットとデメリットがあることに加え、対象会社の配当政策に左右されるデメリットがあるため、M&Aで用いられることは通常、少ないです。

コストアプローチ

対象会社の純資産を基に企業価値を算定するアプローチです。対象会社が適正な帳簿を作成している前提では、他アプローチと比較して客観性に優れていると言えます。また、現在時点での情報のみで算定するため、事業計画を作成することなどと言った煩雑な手順を踏まず、簡便な手法です。
一方で、M&Aの重要なポイントである将来のシナジー効果を考慮できないためというデメリットがあります。

簿価純資産法

会計上の純資産額をそのまま株式価値として算定する手法ですが、簿価上の資産および負債が実際の金額と乖離している場合が多いため、ほとんど使用されません。

時価純資産法

対象会社の資産および負債の時価を計算し、置き換えることで時価純資産から企業価値を算定する方法です。

マーケットアプローチ

市場での価格をもとに企業価値を算定する方法をマーケットアプローチと言います。

市場株価法

対象会社が上場している場合に用いられる方法で、市場での価値を基に算定します。

類似取引比較法

類似するM&Aでの取引事例をもとに算定する方法ですが、情報取得の困難性や、類似すると判定することが難しく、特に中小企業のM&Aではあまり使われません。

類似会社比較法(マルチプル法)

対象企業と類似する上場会社の市場株価と財務指標を基に算定する手法です。
選定する類似上場会社によって大きく結果が左右されるため、慎重に類似上場会社を選定する必要があります。

M&Aで知っておきたい基本_サービス

M&Aをするにあたって、多くの場合は外部の専門家のサービスを受けて進めることになります。
これは、M&Aの当事者は数多くのM&Aを経験を積むことが難しく、専門家のノウハウを利用することにメリットがあるためです。

M&Aを支援するサービスには様々なものがありますが、代表的なものは仲介会社とファイナンシャルアドバイザーの2種類です。

仲介会社

M&A仲介会社は買い手と売り手の間で、M&Aを実現するために両社の条件などを調整する立場で、サービスを提供します。
他のサービス形態との違いは、買い手と売り手のどちらの立場にも肩入れすることなく、M&Aの実現を目指します。

ファイナンシャルアドバイザー(FA)

ファイナンシャルアドバイザーは買い手もしくは売り手のどちらかからの依頼によって、依頼者の利益が大きくなるよう、M&Aの戦略や計画立案から成約まで助言等のサービスを提供します。省略してFAと呼称されることが多いです。
特に上場会社をはじめとした大型のM&Aでは、株主などへの説明責任があることから、買い手と売り手の両社でFAを起用することが多いです。

M&Aを成功させるためには~エグゼキューション(手続きの実行・進捗管理)~

エグゼキューション(手続きの実行・進捗管理)で不備があれば、良い相手との交渉も暗礁に乗り上げてしまいます。
以下のポイントを確認する必要があります。

□事前検討
自社の置かれている経営環境、自社の経営資源を見つめ直し、今後とっていくべき戦略を事前に検討する必要があります。

□アドバイザーの専門性
弁護士、公認会計士、税理士など各分野の専門家を組織化してワンストップで解決できる体制がM&Aアドバイザーに備わっているかは、案件を推進するスピードに関わります。

□経営リスクの認識・共有
都合の悪い事実ほど、早い段階からM&Aアドバイザーに共有することが重要です。
露見するのが後になるほど、買手企業の心証が悪くなり、破談する可能性が高まります。

M&Aに必要な経費

M&Aを進めるにあたり、当事者間の調整をするためにも、M&Aアドバイザーは必須です。
ただし、アドバイザーもボランティアではないため費用(アドバイザーの報酬)が発生します。
業務委託契約締結時に支払う着手金リテイナーフィーとよばれる月額報酬、買手企業との基本合意時に支払う中間報酬、契約成立時に支払う成功報酬が代表的なものです。
成功報酬に関しては、取引金額等と決められた料率から算出するレーマン方式を採用している会社が一般的です。通常、最低報酬が設けられています。

取引金額等 料率
5億円以下の部分 5%
5億円超10億円以下の部分 4%
10億円超50億円以下の部分 3%
50億円超100億円以下の部分 2%
100億円超の部分 1%
例)取引金額が15億円の場合の手数料の計算方法
5億円×5%=2,500万円 +(10億円-5億円)×4%=2,000万円 +(15億円-10億円)×3%=1,500万円
6,000万円

その他にも、売手企業・買手企業の双方に弁護士費用、買手企業には、登記費用、デューデリジェンス(買収監査)費用が発生する可能性があります(金額は、規模や内容によって異なります)。

M&A市場が増加している背景

1990年代以降、日本国内ではM&Aが急増しました。
これは、バブル崩壊で日本企業の株式が軒並み急落したことに加え、1997年の独占禁止法の改正、1999年の株式交換・株式移転制度の導入、2006年の新会社法施行といったM&Aに関わる法規制の緩和が背景にあります。

経営危機に陥った企業の株式を買い漁り、リストラなどを決行することで企業価値を高め、その株式を売却することで利益を得るファンドの動きが目立ったのもこの時期です。
「ハゲタカ」という用語がメディアで盛んに取り上げられ、忌み嫌われましたが、株式市場の透明性を高めるためには不可欠な存在、という考え方もあります。
ただ、こうした買収劇は、2008年のリーマンショックを契機に、緩やかに減少していきました。

近年では、異なる背景から、日本国内の企業同士、日本国内&海外企業同士のM&Aが増加しています。
主な原因は、冒頭でもお伝えしたように、少子高齢化による人口減と国内市場の縮小です。

まず、日本国内の企業同士のM&Aは後継者問題により事業承継に悩む中小企業間で数多く行われています。後継者がいない企業は、廃業の危機にさらされます。
ただ、廃業してしまうと社員たちが路頭に迷うことになるので、それは避けたいという経営者がほとんどでしょう。
そこで、M&Aによる事業承継を選ぶ経営者が増えているのです。

また、長引く不景気によって国内市場が縮小する中、日本国内に見切りをつけて海外企業をM&Aによって取得することで、新たな市場を開拓しよう、という企業も増えおり、日本企業の海外での存在感も高まっています。
国外事業の拡大に向けたグローバルサプライチェーンの構築を目的に、よりいっそう海外での企業買収が進むでしょう。

ファンドによるM&Aが市場に浸透しつつあることも全体のM&A件数の増加の一因となっています。以前よりファンドに対して苦手意識や敵対心を抱く経営者や株主が減ってきています。
国内のファンドも増えてきており、存在感を増してきました。

ベンチャー企業が当事者となるM&Aも増加しています。ベンチャー企業の保守的な事業計画では金融機関からの借入金で事業資金をすべて賄うことは難しく、エクイティで資金を調達することが比較的多いです。
加えて、自社内で新規事業を立ち上げるよりスピード感があることや、イノベーションのジレンマを抱えることから、大手企業によるベンチャー企業のM&Aを買収するケースも目立っています。

よくあるご質問

M&Aをすると決まってないが、相談していいのか

少しでもM&Aに興味がありましたら、ご相談いただきたいです。
どちらかというと、早い段階からご相談いただく方が、入念に事前準備できるため、スムーズかつ高い金額でのM&Aの実現に期待できます。
一方で、M&Aの意思決定が済んでいて、相手先を探しているフェーズや相手先が概ね決まっているフェーズでのご相談も多いです。

従業員の雇用を守りながらM&Aをしたいのですが

相手先との交渉で、従業員を解雇しないことを条件とする場合が多いです。
相手先から求められる条件、こちらが譲歩できるポイントや財務状況次第ではありますが、多くの場合は雇用が継続されます。

従業員や取引先に秘密でM&Aを進めたいのですが

ご相談時点から情報漏洩に十分気を付けますので、ご心配ありません。
諸条件が整った上で従業員に説明し、ご納得いただいた上でM&Aを実行する場合や、M&A成立後に丁寧に説明する場合など、適切なタイミングで公表します。

赤字の会社でも売却できますか

一時的な要因により赤字になってしまっている場合や、買い手の協力により収益改善が見込まれる場合は、十分にM&Aの可能性があります。
事前準備できるフェーズであれば、財務状況をしっかり分析し、収益改善が見込めるか検討可能ですので、まずはご相談ください。

小さい会社でも売却できますか

小規模な予算でM&Aを検討している買い手もありますので、十分検討可能です。

自分たちだけでM&Aを進めることができますか

必ずしもアドバイザーが必要ではありませんので、可能です。
一方で、社内に専門的な知識がある方、組織的なノウハウや、相手先を探すネットワークが無い場合はアドバイザーの支援を受けるメリットが大きく、スムーズにM&Aが実現する可能性が高いです。

高く会社を売却するコツはありますか

買い手から魅力的であればあるほど、高い金額で成約します。
事業を展開するエリアや、新規取得が難しい許認可関係、技術的な優位性など、買い手にとって魅力的なポイントは事業特性や買い手の事情により異なります。
ただ、一般的には収益性が良い事業であればあるほど買い手の金額目線が高くなりやすいため、高い金額での売却を目指す場合には、業績を良くすることが最も効果的です。

相談してから成約するまでにはどの程度の期間がかかりますか

少なくとも半年間以上は必要と考えた方がよいでしょう。
成約までの期間にはM&Aの当事者それぞれの事情により、大きく差異がありますが、相手先を見つける期間や、交渉期間を考慮すると半年程度の期間は見積もっておきたいです。

まとめ

ここまで、M&Aの手法やメリットなどを見てきました。一頃はM&Aというと、「ハゲタカファンド」のイメージが強く押し出されてきましたが、昨今では企業の生き残り戦略の一つとしての認知が進んでいます。
M&A の実務において、M&Aアドバイザーはパートナー探しから、実行支援、M&A 成立後の統合コンサルティング、税金のシミュレーションなど、あらゆる場面で重要な役割を果たします。
後継者難などで事業の継続に悩んでいる経営者の方は一度、自社にふさわしい事業承継方法を検討するために、M&Aアドバイザーに相談してみてはいかがでしょうか。