お問い合わせ

基礎知識

2017/10/24

テーマ: 02.M&A

M&Aのメリット・デメリットとは | 企業買収の効果

後継者難など事業承継問題に直面する企業経営者の方にとって、自社の苦境を救う一つの方法としてM&Aが注目されています。

かつては、「M&A=ハゲタカ、身売り」などというネガティブなイメージが想起された時代もありましたが、目的に適ったM&Aは売手側・買手側の双方にとってメリットをもたらすものです。

人口の減少によって国内市場の縮小が運命づけられている今、海外市場に活路を求めた戦略的なM&Aも増えています。

今回は成功するM&Aに向けて、そのメリット・デメリットを見ていきましょう。

目次

M&A のメリット

合理的なM&Aは売手側・買手側の双方にメリットとシナジーをもたらします。ここでは、それぞれのメリットについて詳しく見てみましょう。

買手のメリット

狭義のM&A は「企業や事業の経営権を移転させること」を意味し、合併や、株式譲渡(譲受)、事業譲渡(譲受)など買収による企業統合を指します。

一方、広義では「経営権を完全に掌握しないまでも何らかの協力関係を構築すること」も含まれており、資本業務提携、JV(ジョイントベンチャー)設立などの手法があります。

このようにM&Aと一口にいってもその手法は数多くありますが、いずれにしても、すでに完成された状態の企業と提携関係を深めることで、買手側に多くのメリットをもたらします。

取引網・店舗網の拡大による「規模の経済性」

買収対象企業が保有する不動産や設備といった有形の資産はもちろんのこと、技術、ノウハウ、取引先、顧客基盤、流通網などといった無形の資産を取り込むことで買手側の企業は事業規模の拡大を図ることができます。

少子高齢化による人口減で国内市場が縮小する中、限られたパイを奪い合うため、マーケットの寡占化は今後も進んでいくはずです。
持続的な成長を維持するためにも、事業拡大は重要な経営課題になります。事業の規模が大きいというのは、それだけで大きなアドバンテージです。
一般的に、取引量が大きくなることで取引先に対する交渉力が強化され、様々な仕入コストを引き下げることができ、メーカーであれば設備の稼働率を引き上げます。
また、小売業やサービス業であれば、知名度やブランド力の向上は集客力に大きく寄与することでしょう。

そうはいっても、取引先を一から開拓するのは容易ではありません。
その点、M&Aであれば、買収対象企業がすでに構築した取引先やマーケットをそのまま取り込むため、一気に事業拡大を図ることができます。

M&Aによる事業拡大の一例として、流通大手のイオン株式会社が同業で経営不振に陥っていた株式会社ダイエーの店舗網を取り込むことで、一気にシェアを伸ばしたケースがあります。

また、日産自動車株式会社と三菱自動車工業株式会社との資本提携も、買手側の日産自動車が事業規模を拡大することで競合が激化する自動車業界でのスケールメリットを狙ったものだといわれています。

事業の多角化

事業環境が厳しくなる中、収益源を安定的に確保するためには事業の多角化が必要とされることもあります。
業種や事業内容の異なる企業をM&Aによって買収することで、これまで自社にはなかった分野への参入や川上から川下へのバリューチェーンの拡大が図れます。

例えば、ネット通販大手の楽天株式会社は、「ネット事業」というキーワードにマッチする異業種企業を次々と買収しました。
旅行業や銀行・クレジットカードなどの金融業にも進出して事業の多角化を推進しています。

新規事業参入

自社で一から新規事業に参入しようとすると、さまざまなリスクがつきまといます。上記の事業多角化とも関連しますが、M&Aによってすでにある分野で実績を上げている企業を買収することで、新規事業参入へのリスクを軽減できます。

事例として、通信大手の株式会社NTTドコモが、有機・低農薬野菜宅配サービスの「らでぃっしゅぼーや」(2018年2月にオイシックスドット大地株式会社へ売却)や音楽・映像ソフト販売の「タワーレコード」など、一見無関係に見える異業種企業を次々と買収・子会社化し、新規事業への参入とサービスの多角化を図った事例があります。

技術力向上(既存事業の強化)

新規事業だけではなく、自社の既存事業の強化を図るためにM&Aで他社の技術を取り込む事例もあります。

例えば、パナソニック株式会社が三洋電機株式会社を買収したケースです。当時世界最高水準の性能を誇っていた「HIT太陽電池」を持つ三洋電機を買収することで、自社事業の中でも弱みであったリチウムイオン電池や太陽電池部門の強化を図った事例と考えられます。

節税対策(租税回避)

海外で話題になったM&Aを利用した節税方法として、外国企業との合併による「タックス・インバージョン」(租税地変換)があります。
これは、より税率の低い国の企業を買収することで第3国に新本社を設立し、合法的に節税を図るというものです。

しかし、製薬大手が課税逃れを目的に米国からの脱出を図ったことなどを受けて、規制が強化されるようになっています。

事業成長に必要な時間を買う

新規事業を立ち上げるにはマーケティングや技術開発、従業員の教育まで多くの時間やコストがかかります。
一方M&Aで、すでに出来上がっている状態の事業や企業を買収すれば、こうしたコストや時間を削減できます。

企業買収には多額の資金が必要となりますが、こうした事業を育てるための時間やコストを削減できるという点で、「時間を買う」というメリットがあるのです。

買手にとってメリットはさまざまですが、M&Aは経営に必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ)がある程度そろった状態で企業を買収するため、時間と労力を大幅に削減することが可能になります。

売手のメリット

M&Aによって事業や企業を売り渡すことは売手側にも大きなメリットをもたらします。

後継者問題の解決と従業員の雇用の確保

事業承継やM&Aに関するご相談で増えているのが「後継者問題」といえます。
日本においては、少子化によって後を継ぐべき子どもの数が減っていることに加えて、国内市場の縮小やマーケットの競合激化で事業がうまくいかない傾向があります。

また、家業を継ぎたくない(継がせたくない)という中小企業の経営者の方やそのご家族も増えています。
あるいは、バブル崩壊後の採用引き締めや人手不足などで、「跡を継ぐことができる従業員や役員がいない」というのもよく聞かれる悩みです。

さらに、自分の代で廃業するにしても廃業コストや残された従業員の将来を考えると難しいというケースもあります。
取引先に迷惑がかかったり、事業を立ち上げた先代に申し訳ないと感じたりする経営者の方にとってM&Aは、一つの選択肢になり得ます。
優良企業に自社の将来を託すことで、後継者問題を根本的に解決し、従業員の雇用を守ることもできるのです。

事業継続と拡大が期待できる

M&Aを戦略的に利用し、将来的なビジョンを持つ優良企業に託すことで、自社努力だけでは成し得なかった企業成長の機会と成果が得られます。

例えば、先に紹介したNTTドコモとらでぃっしゅぼーやのケースです。NTTドコモの持つ通信・モバイル技術を取り込むことで、らでぃっしゅぼーやは、これまでの紙の広報誌ではできなかった新しい形での情報発信やサービス提供が可能になりました。

すでにインフラや資本を持っている企業からの支援を得ることで、海外展開や新規事業への参入、技術力の強化など自社に新たな未来が描けるというのは経営者にとって大きなメリットでしょう。

また不採算部門のみを売却することで、経営者はコア事業に集中できるというメリットもあります。

廃業コストがかからない

会社を廃業する際にも、さまざまなコストがかかります。例えば、会社設備の処分費や在庫処分費、店舗を賃貸しているなら原状回復費などもあります。

また、廃業に関するさまざまな書類の手続きや税務処理を依頼するための費用、解雇される従業員に支払う補償も忘れてはいけません。
さらに、経営者は廃業後に自らの生活も立て直していく必要があり、金融機関などからの借り入れがあれば、引き続き返済する必要に迫られることも考えておかなければなりません。

会社を廃業してしまえば、これまで積み上げてきた事業や技術、従業員の雇用なども全て失うことになります。
いい条件でM&Aが成立すれば、廃業コストがかからない上、事業や技術、従業員の雇用などを守ることができます。

創業者利益

創業者は事業を売却することで引退後の生活資金を得ることができます。

長年にわたり会社を維持・発展させてきた創業者として、最大の報酬が支払われるのがこのM&Aによる事業承継です。

このように、M&Aにおいては原則、買手企業に売手企業の有形、無形の資産がそのまま引き継がれるため、売手側にとっては事業の継続と拡大、さらに後継者問題の解決につながるなどのメリットがあります。

M&Aのデメリット(留意事項)

このようにM&Aにはさまざまなメリットがある一方で、残念ながら企業統合によるシナジーを発揮することができず、不発に終わってしまうケースもあります。

M&Aに対する売手側・買手側それぞれのデメリットは以下の通りです。

買手のデメリット(留意事項)

売手企業との融合がうまくいかない

社風や従業員への待遇が異なる企業同士が統合することで、文化の違いが露呈し、融合までに時間がかかる可能性があります。

想定していたシナジーが生まれない

両社間の溝が解消されなかった結果、元々所属していた企業ごとに派閥が生まれ対立するなど、想定していたシナジー効果が発揮できないこともあります。

優秀な人材の流出

統合後の労働条件の変更や、統合による派閥争い、社内のいざこざなどによって、優秀な人材が外部に流出してしまう可能性があります。

買収対象企業でエースとして活躍している人材やキーパーソンに今後の活躍を期待する場合は、早めにコンタクトをとり、買収後の待遇や将来的なビジョンについてきちんと話し合いなどをしておくことが大切です。

簿外債務・偶発債務

買収交渉後に貸借対照表上に記載されていない簿外債務が発覚してもめるケースがあります。

また先頃の鴻海精密工業によるシャープ株式会社の買収では「偶発債務」の行方が焦点の一つになりました。

訴訟などにより、今後発生する可能性がある債務を偶発債務といいますが、これら買収先企業の財務リスクを事前に把握することがM&Aの基本となります。

このように買手側にとってM&Aは不確定要素もあり、想定通りに進まない可能性があることを念頭に入れておきましょう。

のれんの減損リスク

会社の存亡をも左右するM&Aの影響といえば、会計上における「のれん」の減損処理です。

「のれん」の本質は、被買収企業が将来にわたり利益を稼ぐ力(超過収益力)を買収者が評価したものです。
貸借対照表(バランスシート)上では、無形固定資産として計上されます。

株式の取得によって買収したとき、「のれん」が計上されるときの仕訳は下記のようになります。

具体例

・買手企業A社は、対象企業B社の80%の株式を1,800で取得。
・買収対象となったB社の「純資産の部」の内訳は、資本金100、利益剰余金1,400。

【買手企業による単体仕訳】

借方
貸方
B社株式
1,800
現預金
1,800
 

【買手企業による連結仕訳】

借方
貸方
資本金
利益剰余金
のれん(※2)
100
1,400
600
B社株式
非支配株主持分(※1)
1,800
300

(※1)1,500(=100+1,400)×20%=300
(※2)1,800-(1,500×80%)=600

この計上された「のれん」を費用として計上(償却)するかどうかは、会計基準で異なります。
日本の会計基準では、20年以内で均等に費用計上するものとされていますが、国際財務報告基準(IFRS)や米国会計基準では、定期的な償却は認められていません。

ただし、買収した企業の「収益力が低下した」と判断されれば、「のれん」の評価を引き下げ、損失処理しなければなりません。
これを、「のれん」の減損処理といいます。

巨額に上った「のれん」の減損処理として、下記に挙げるものがあります。

●東芝
米原発子会社ウエスチングハウス(WH)社関連で約7,200億円の減損を計上(2017年3月期)

●日本郵政
豪物流子会社トール・ホールディングス社関連で約4,000億円の減損を計上(2017年3月期)

●パナソニック
三洋電機関連で約2,500億円を減損処理(2012年3月期)

●富士通
英国ICL社関連で2,900億円の評価損を計上(2007年3月期)

売手のデメリット(留意事項)

買手が現れない、想定していた価格で事業を譲渡できない

M&A市場では、企業は「将来的にどれだけの収益を見込めるか」で評価がなされます。
現在うまくいっている事業や企業でも、今後頭打ちになると判断されれば、企業価値が低く見積もられる可能性があります。

高値で売却するためには、業界における市場動向の見極めが重要な要因の一つですが、非上場企業の株式には、信頼性がある「時価」のようなものはないので、それよりも重要なことがあります。

成長に必要な設備投資をするのも一つですし、逆に、過剰な借り入れがあれば、繰り上げ返済してしまうのも有効です。
いずれにしても、企業がキャッシュフローを生み出せるように収益構造を改善することがポイントになります。

企業文化の融合に時間がかかる

社風の全く異なる企業に買収された場合、企業文化の融合に時間がかかり、社内に大きな混乱を招く可能性があります。
また、実務上でも書類の手続きや社内システムの変更・統合など、各部門の担当者に負担がかかることが多くなる傾向です。

買手による雇用・労働条件の変更、従業員の離職

統合後に従業員の雇用や労働条件が変更される可能性もあります。さらに所属していた企業ごとの派閥争いが発生したりした場合、従業員がモチベーションを失って離れていく可能性があります。

取引先の反発や契約打ち切り

買収によって契約条件が変更されたり、担当者が変わったりした場合、長年よい関係を築き上げてきた取引先の反発を招き、契約を打ち切られる可能性があります。
M&A市場では、会社の収益性の見込みで評価されることもしばしばです。さらに統合によって社内にいざこざが生じることも珍しくありません。

買手が見つからない可能性や、社長自身が統合事業を担う必要性、従業員の退職などの可能性というデメリットがあることを心得ておきましょう。

まとめ

ここまでM&Aのメリット・デメリットについて売手側・買手側の双方から見てきました。

買手には「経営資源獲得のための時間と労力を大幅に削減できる」、売手には「後継者問題の解決」などのメリットがあります。一方、買手企業にも売手企業にも相応のリスクは存在します。

M&Aが抱えるリスクを知り、あらかじめ解決策を検討しておくことで、大きな失敗を避けられる可能性は十分にあります。

成功するM&Aには適切な相手先企業を見つけることや適切なタイミングを見計らうことが重要といえます。そこでおすすめしたいのが、市場環境に通じたM&Aアドバイザーの活用です。

M&Aアドバイザーはこれまでの経験に基づき、M&A案件のクロージングに向けたサポートを行います。それ以外に会社経営・事業承継に関わるさまざまな相談にも応じています。

M&Aの成功例を知りたい方、M&Aを検討している方は、一度M&Aアドバイザーに相談をしてみてはいかがでしょうか。