基礎知識
2017/10/24
テーマ: 02.M&A
M&Aに携わるコンサルティング会社 とアドバイザリーファーム
中小企業の経営者の中には後継者となる子どもや従業員を持たず、事業承継に困難を感じている方も多いのではないでしょうか。
バブル後の長引く景気低迷や少子高齢化による国内市場の縮小を受けて、M&Aによる業界再編の動きはますます加速すると考えられています。
M&Aにはさまざまな手法があり、企業の目的に沿ったスキームを設計しなければなりません。
また、その実行においては、買収に係る調査(デューデリジェンス)、企業価値評価(バリュエーション)から最終契約書への調印(クロージング)まで、多くのプロセスを経なくてはなりません。
そのため、M&Aを成功に導くためには、プロフェッショナルの助言やサポートが必要不可欠ともいえます。今回はM&Aのプロフェッショナルであるコンサルティング会社の事業内容やサービスについて紹介していきます。
目次
M&A のコンサルティング会社とは?事業内容とサービス
M&A のMは英語の「Mergers」、Aは「Acquisitions」の頭文字で、「合併」や「買収」を意味します。
合併や株式譲渡(譲受)、事業譲渡(譲受)といった狭義でのM&Aに加え、「経営権を移転しないまでも何らかの協力関係を構築すること」もM&Aに含まれます。いわゆる資本参加や、合弁会社設立なども、広義のM&Aとして認識されています。
M&Aコンサルティング会社の事業内容
M&Aコンサルティング会社は、M&Aアドバイザリーファームとも呼ばれます。
M&Aは売る側と買う側の2社がいないと成立しないため、まずこの両社を引き合わせることが重要な役割の一つです。
そして、売手企業と買手企業がM&Aを進めることについて合意に至った後、税・会計上の処理や法律手続などを含めた専門領域に至るまで、一貫してサポートを受けることができます。
具体的には以下のような業務を請け負います。
〔売手企業への支援〕
・事業売却の戦略・計画
対象事業の調査(セルサイド・デューデリジェンス)、買手候補の提案・選定、諸条件の検討など
・売却手続きの実行
買手候補へのアプローチ、企業概要書(ノンネームシート、IMなど)の作成、売却基本条件の交渉、デューデリジェンス対応など
・契約・クロージング
最終条件交渉、契約の締結など
〔買手企業の支援〕
・買収戦略立案
現状分析・戦略立案、買収対象事業選定など
・買収手続きの実行
事業価値の初期評価、買収対象事業のデューデリジェンス実施など
・契約・クロージング
最終条件交渉、契約の締結など
M&Aのコンサルティング会社はM&Aのプロフェッショナルですが、M&Aを検討している経営者は、多くの場合、他の選択肢も含めて検討していたり、M&Aを実行する前後の経営に関する悩みにも対応して欲しいと考えるものです。
M&A以外の事業承継の検討(親族内承継、従業員のMBOなど)や、M&Aに付随する経営に係わるさまざまなコンサルティング(後継者の教育、M&A後の統合作業など)にまで対応できるかどうかは、M&Aコンサルティング会社の規模や業務領域に応じて大きく異なります。
M&A業界について
M&Aに対する認知が広がるにつれて、さまざまな業種からM&Aアドバイザリー業務への参入が広がっています。それぞれの主な特徴や得意分野は以下の通りです。
・証券会社
国内大手の証券会社の多くは、M&Aの専門部署を持っています。証券会社は、上場企業が実施する株式公開買い付け(TOB)の代理人を兼ねることができるのが特徴です。
・メガバンク・その他銀行
メガバンクもM&Aの専門部門を持ち、大型案件であればFA(フィナンシャル・アドバイザリー)業務も自ら手掛けます。
一方、地銀でも、地域の取引先同士をマッチングさせるなどして、中小企業の廃業を阻止していく大きな流れがあります。
買手が見つからない、財務状況が不透明など、自行では手が回り切らない難しい案件については、後述するM&Aブティックファームや財務系コンサルティングファームの協力を仰ぐなどして対応します。
・外資系投資銀行
世界的に知名度のある投資銀行は、グローバル規模でのM&Aの中でも、とくに大型案件の実績を多くもっています。ただし報酬もそれ相応となりますので、大手企業の案件が中心です。
通常、投資銀行の担当領域は案件の実行までであり、 その後の統合作業(PMI: Post Merger Integration)などについては別途企業側がコンサルティングファームを雇うことが多いようです。
・M&Aブティックファーム
主に中小企業のM&A領域で売手と買手の仲介を行う事業者です。M&Aの仲介がメインになるため、一般的にはプレM&A(M&A戦略立案など)、ポストM&A(PMIなどのM&A後の統合作業)などの業務領域は手掛けません。
M&Aの仲介業務には、本質的な「利益相反」の問題を抱えている、という指摘もあるので、コーポレートガバナンスには十分に気を払って活用する必要があります。
・財務系アドバイザリーファーム
財務系アドバイザリーファームを利用すると、M&Aのパートナー探しと実行だけでなく、会計・税務上のアドバイスや企業価値評価も可能です。
その多くが、関係会社に監査法人や税理士法人を持ち、各分野の専門家を多く抱えているため、対応できる企業の規模や業務領域が広いところに特徴があります。
また、多くの場合、本業が経営コンサルティングなので、M&Aに付随した周辺領域のサービスも充実しています。
M&A戦略の検討、M&A実行後の統合だけでなく、親族内への事業承継や個人の資産税対策も含めた相談をしたい場合はおすすめです。
主なM&Aコンサルティングの類型
先に述べた通りM&Aと一口にいっても、手法や意味するところはさまざまです。事業承継の形態によって適切なコンサルティングが必要とされます。
ここでは、コンサルティングサービスの代表例をM&Aの形態を踏まえて説明します。
事業承継M&A
「後継者である子どもがいない」「役員へのMBOを視野に入れているが、まだ後を任せるには不安がある」という悩みをお持ちの経営者もいるでしょう。
また、「後継者である子どもがまだ若く、事業を任せるには不安」という方もいるかもしれません。
家族や社員などに事業を引き継がせるのが難しいという場合は、主にM&Aによる第三者への承継か廃業を選ぶことになります。
廃業する場合、これまで積み上げてきた事業や技術、従業員の雇用、取引先との関係などを全て失うことになります。
そのため、「廃業コストが負担」「残された従業員の雇用を守りたい」「取引先に迷惑をかけたくない」「事業を立ち上げた先代に申し訳ない」といった思いから、なかなか廃業に踏み切れない経営者も多いようです。
そんな方々が選択しているのが、M&Aによる事業承継になります。
M&Aを戦略的に利用し、将来的なビジョンを持つ優良企業に託すことで、企業は新たな成長ステージを迎えることが可能です。
事業再編M&A
「ノンコア事業を売却し、コア事業に注力したい」「グループ会社における支配関係を整理したい」という考えをお持ちの方、あるいは、「自社の競争力を高めるために他社と協力したい」という考えをお持ちの経営者の方に向けたものが事業再編M&Aのコンサルティングです。
経営環境が厳しくなる中で事業の「選択と集中」の重要性が改めて認識されています。
自社の収益の源泉であるコア事業に経営資源を集中させ、ノンコア事業を売却したり、事業提携によって、他社の技術力を取り入れたりするなど事業再編M&Aの重要性が改めて認識されています。
クロスボーダーM&A
少子高齢化による人口減で日本の国内市場は縮小傾向にあります。限られたパイを巡って争う国内市場に見切りをつけて、人口増と経済発展が著しい新興国など、海外市場に活路を見出したいという企業も増えています。
クロスボーダーM&Aでは進出市場の調査や買収対象企業の選定などをはじめ、国や地域ごとに異なる法律、税金や会計ルールなどを踏まえて、最適なM&A戦略の立案を請け負います。各プロセスにおける実行を支援し、成功するM&Aへと導きます。
また、収益を上げられていない海外法人の撤退などの支援も行います。
事業再生M&A
債務超過や過大借入、資金不足などにより自力での再生が難しい状況にある場合、M&Aが事業再生の一手になるかもしれません。
法的整理や私的整理による債務圧縮も折り込み、さらに債権者と調整することで、スポンサーに譲渡できる可能性もあります。事業が継続できれば従業員の雇用などを守ることができます。
M&A のコンサルティングサービスの流れ
ここからは一般的なM&Aコンサルティングサービスの具体的な流れについてご紹介します。
M&A戦略策定(相談)
「自社にM&Aは可能か?」「後継者がいないが事業承継手段にはどういったものがあるか」という疑問もあるでしょう。
M&Aコンサルティング会社は「M&Aの売却価格はどれくらいか」「自社の競争力を伸ばすために優良企業を紹介してほしい」など、事業承継や経営課題に関するさまざまな悩みや相談に無料で応じています。まずは、M&Aの実行ありきではなく、M&Aの可能性を含めた企業戦略の策定を行います。
事業買収・売却の戦略・計画
アドバイザリー業務の内容、報酬体制、契約期間などについてご理解いただいた上で具体的なサポートを開始するための契約を締結し、M&Aの実行支援をスタートします。
<売手企業の場合>
その後、概要を把握するための調査手続きを行います。まずは譲渡対象となる企業・事業について、必要な資料を一式ご提供いただきます。
提供された情報をもとにして、簡易な企業概要書(ノンネームシート)、譲渡対象となる事業について詳細をまとめた資料(IM)を作成します。
ついでM&Aのターゲットとなるロングリストとショートリスト作りに取り掛かります。買収先企業の条件、希望譲渡金額、譲渡後の経営者・役員・従業員の処遇など、経営者の方のご希望に基づいた買収企業の選定を実施します。
また、譲渡対象となる事業について、買手側の立場からの経営実態調査を実施します(セルサイド・デューデリジェンス)。これは実際M&Aの実行フェーズになったときに論点となりそうなポイントについてあらかじめ精査しておくためです。
<買手企業の場合>
現状の経営課題の整理・分析、M&A戦略の立案や、初期段階における実行プロセスの計画の策定などを支援します。経営者の方のご希望に基づいて、買収する対象企業のリスト作成をします。
売却・買収手続きの実行
ノンネームシートをもとに買収に関心を持つ企業が現れた場合、秘密保持契約を締結した上で詳細を開示し、おおまかなスケジュールなどを決定して、実際の売却・買収手続きの実行に移ります。
<売手企業の場合>
まず買収企業によるデューデリジェンス(調査・交渉)があります。
これは買収後のリスクやシナジー構造を洗い出し、買収価格や契約条項の買手の意思を決定するための大切なフェーズといえます。
買収後に莫大な負債や訴訟をいくつも抱えていることが発覚した場合、買収企業にとって大きな損失となるからです。そのため市場調査、法務・財務面での調査、人事、社内システムなど、さまざまな角度からの入念な調査が行われます。
デューデリジェンスに関する買手企業からの質問・要望対応などについて、M&Aアドバイザーは、財務会計・税務面のプロフェッショナルとしての立場から入念に対応します。そして、デューデリジェンスをもとに買手候補企業から提出された提案書を精査していきます。
<買手企業の場合>
M&Aのさまざまな手法から最適なものを選定するストラクチャー設計や実行に移すための社内支援などを行います。
買収対象となる事業を調査し、潜在するリスクを把握するデューデリジェンスを実施します。
また、第三者機関として対象会社の企業価値評価(バリュエーション)を行い、期待されるキャッシュフローやシナジーに見合う買収金額を算定します。
契約交渉・取引実行(クロージング)
デューデリジェンスが完了したら、いよいよM&A案件のクロージングに移ります。
法務の専門家と連携し、売手側・買手側の双方ともに最終契約の書面作成を支援。最終契約において規定されている諸条件への対応、実行後の財務諸表作成、譲渡価格の決定などをしていきます。
クロージングで大切なポイントは以下の3点です。
1.法的な手続き等含め、交渉において決められた諸条件が全て合意されている
2.最終契約書の価格調整条項に沿った形で、譲渡金額が決定されている
3.無事に譲渡を完了させる
M&Aによって経営上の重要な意思決定や売却される企業の役員・従業員の処遇が大きく変わる可能性があるため、時には両社の利害がぶつかることもあります。
感情的に交渉を進めてしまうと意見の対立から案件そのものが破談になりかねないこともあるので最後まで慎重に進めていくことが重要です。
まとめ
ここまでM&Aコンサルティング会社の業務内容や種類、M&Aコンサルティングサービスの内容から手順までご紹介しました。
M&Aと一口に言っても、その手法は多岐に渡ります。「自社の経営課題は何か」、また、成長機会を得て未来を描くためにはどういった手法がふさわしいのかなど慎重に見極める必要があります。
山田コンサルティンググループには、累積1,200件を超える事業承継・M&Aの実績があります。日本全国、あらゆる業種・規模でサービスをご提供しております。M&A案件のクロージングに向けたサポートだけでなく、会社経営・事業承継に関わるさまざまな相談にも対応しております。ぜひ一度お問い合わせください。