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基礎知識

2016/05/22

テーマ: 02.M&A

2-2. 事業譲渡によるM&Aの基礎知識

2. 知って得するM&Aの手法

M&Aの手法としては、株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割、現物出資、現物分配、株式交換、株式移転、第三者割当増資があります。採用する手法によって税務上、会計上の取扱いが異なり、目的に応じて手法を使い分けることで、コスト面、リスク面の問題をコントロールできます。中小企業のM&Aで利用されるのは、ほとんど株式譲渡か事業譲渡です。 これらのM&A手法の中で最も簡便とされ、よく使われるのは株式譲渡です。オーナーが代わるだけなので、原則として、債権債務、許認可、雇用契約などはそのまま引き継がれます。ただし、帳簿上認識していなかった債務(簿外債務)も引き継ぐことになるため、買手にしてみれば事前のデューデリジェンスは欠かせません。株式譲渡ではリスクがあるという判断になると、多くの場合、事業譲渡が利用されます。個別に契約を結び直すことになるため手間がかかり、事業規模が大きくなるほど不向きです。事業譲渡では、一部の事業だけを売却することもできますが、対価は会社に入るので、オーナーが受け取るには退職金や配当などによることになります。 合併においては、売手の会社が消滅することになりますが、法的にも一つの会社となることで、売上規模の拡大、スケールメリットによるコスト削減、ノウハウ・人材の相互活用などが期待できるでしょう。会社分割では、事業譲渡のように一部の事業を切り離すことができますが、事業譲渡に比べて労働者の承継手続きが厳格に定められています。 債権を株式化するDES(デット・エクイティ・スワップ)は現物出資の一形態です。グループ内再編では現物分配が利用できる場面もあるでしょう。株式交換・株式移転は現金を使わずに経営統合を進めたいときに有効です。マイノリティ出資での資本業務提携では第三者割当増資が使われる場面が多くあります。 このように、M&Aの目的に応じて、最適な手法を選択しなければなりません。

2-1. 株式譲渡によるM&Aの基礎知識

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2-3. 合併によるM&Aの基礎知識

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2-2. 事業譲渡によるM&Aの基礎知識

目次

事業譲渡によるM&Aとは

事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を第三者に譲渡することであり、M&Aの局面で使われることも多い。
ここでの「事業」とは、営業目的のため財産のことであり、設備等の有形財産だけではなく、一定の機能を発揮するのに必要な人材、特許権等の知的財産権、ブランド、顧客リストや契約などの無形財産も含める。

事業譲渡の手続きは、譲渡対象にする資産・負債、従業員や契約等を選別し、個別に進める必要があるため、同じM&Aの手法である株式譲渡と比べると一般的には煩雑になる。
また、事業譲渡の対価は会社に支払われるため、売手のオーナーが直接資金を受け取ることはできない。
買手にとっては、簿外債務を引き受けてしまうリスクがないという点でメリットがあるといえる。

事業譲渡によるM&Aの売手のメリット・デメリット

<事業譲渡によるM&Aの売手のメリット>
□手元に置きたい資産や従業員、契約を残すことができる。
□法律上、自社の債権者に対する個別通知や公告等をせずに手続をすることができる。

<事業譲渡によるM&Aの売手のデメリット>
□譲渡対象とならなかった資産負債の取扱いについて別途検討しなければならない。
□譲渡益への課税や不動産等の移転コストが発生する。
□株主が対価を取得するためには別途支払方法を検討しなければならない。

事業譲渡によるM&Aの買手のメリット・デメリット

<事業譲渡によるM&Aの買手のメリット>
□取得したい財産や従業員、取引先を選別して引き継ぐことができる。
□売手企業の簿外債務等、手続実行まで把握できないリスクを遮断することができる。
□法律上、自社の債権者に対する個別通知や公告等をせずに手続をすることができる。
□取得した償却資産やのれんを償却することよる節税メリットを受けることができる。

<事業譲渡によるM&Aの買手のデメリット>
□資産・負債や従業員、取引先について個別に移転手続を行わなければならない。
□事業継続に必要な有形・無形の財産を確実に引き継げるか確認する必要がある。

事業譲渡によるM&Aの会計処理

<譲渡会社>
移転直前の適正な帳簿価額による株主資本相当額と譲渡対価との差額は、原則として移転損益として認識する。また、事業譲渡に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として処理する。
(仕訳の具体例)
・譲渡資産の帳簿価額 200
・譲渡負債の帳簿価額 100
・付随費用 20
・譲渡価額 140

<譲受会社>
譲受事業の取得原価は、取得対価に取得に直接要した支出額を加算して算定する。取得原価は、譲り受けた資産及び負債の譲受時点の時価を基礎として、当該資産及び負債に対して配分する。
取得原価と取得原価の配分額との差額はのれんとして資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。
(仕訳の具体例)
・譲受資産の時価 200
・譲受負債の時価 100
・付随費用 20
・譲渡価額 140

事業譲渡によるM&Aの税務処理

<譲渡会社>
・法人税
譲渡価額と譲渡対象となる資産及び負債との差額は課税対象となる。
・消費税
譲渡する資産のうちに課税資産があれば消費税が課税される。
・登録免許税
譲渡する資産のうちに不動産がある場合、不動産の所有権移転登記が必要となり、その際に登録免許税が課税される。登録免許税は、固定資産課税台帳の価額の2%。
・不動産取得税
譲渡する資産のうちに不動産がある場合、不動産取得税が課税される。不動産取得税は、原則として固定資産課税台帳の価額の4%。

<譲受会社>
・法人税
譲り受ける資産及び負債を時価で受け入れ、譲渡対価が譲り受ける資産及び負債の差額(時価純資産価額)を上回る場合、その超過額は資産調整勘定(のれん)となる。
資産調整勘定が認識された場合、一定の金額(=資産調整勘定の当初計上額×当該事業年度の月数/60)を、当該事業年度において減額し、損金の額に算入する。
この処理は任意ではなく強制であり、損金経理要件は課されていない。

株式譲渡と事業譲渡

事業売却する方法としては、法律上「株式譲渡」もしくは「事業譲渡」いずれかの手続きをとることになる。
それぞれの特徴は下記のようにまとめられる。

株式譲渡
株式譲渡は、売却する側の企業が、自社の株式を売却・譲渡することで、会社の経営権自体を譲渡する方法である。
株式を譲渡することで、売手のオーナーは直接現金を手に入れることができ、株主が代わるだけなので、大手企業・中小企業問わず手続きは容易とされる。
株式譲渡では、対象企業の簿価責務も全て引き継ぐことになるので、株式譲渡による買収を行なう時はデューデリジェンスをしっかりと行うことが重要である。

事業譲渡
事業譲渡は、人材、営業資産、ノウハウなどの事業そのものを売却する方法である。
譲渡の対価を得るのは会社になるため、オーナーが資金を手にするためにはスキームを工夫する必要がある。
いくつか部門がある場合、希望する一部門のみの売却することも可能で、売却される事業の所有者が変更になるだけなので、会社自体は存続される。

一般的に手続きは煩雑になるため、規模が大きいほど事業譲渡のデメリットの方が大きくなるため、大企業の事業売却の手法として使われることは多くない。
中小企業であればメリットの方が大きくなることも少なからずあるため、十分に検討する余地がある。

株式譲渡と事業譲渡の比較

株式譲渡・事業譲渡を比べて、項目ごとに説明すると下記のように整理できる。

譲渡の対象範囲
株式譲渡では会社全体を売買することになるが、事業譲渡は会社の一部の事業を譲渡することが可能。
買い取る側の目線でいうと、事業譲渡では希望する事業のみを買うことができる。

リスク負担
株式譲渡では会社の権利・義務を包括的に引き継がなければならないが、事業譲渡では、帳簿に記載されていない簿外債務を引き継ぐリスクはない。
そのため、株式譲渡であれば会社全体のデューデリジェンスを入念に行う必要があるが、事業譲渡では移転する資産だけに限定されるため、調査費用を下げることができる。

従業員の待遇
株式譲渡でも事業譲渡でも、一般的には、従業員の士気に配慮して、待遇が変更されることはない。
とはいえ、法的にいうと、事業譲渡では、買手企業と改めて雇用契約を結び直すことになるため、個別の交渉による(従業員には雇用関係の移転を拒否する権利もある)。

株主総会
株式譲渡については、当事者間の契約で成立するため、原則として株主総会の決議は必要ない(ただし、譲渡制限株式である場合、一定の手続きが必要)。
事業譲渡では、原則として株主総会の特別決議が必要となる(重要でない事業の一部を譲渡するのであれば不要)。

移行手続き
株式譲渡の場合は株主が代わるだけなので、手続きは比較的楽だが、事業譲渡では雇用契約や取引先との契約などを個別に結び直す。
そのため、規模が大きい事業譲渡では、従業員や取引先の移行手続きが煩雑になる。

事業譲渡によるM&Aの手続き

① 事業譲渡契約締結
・売手企業及び買手企業との間で事業譲渡契約を締結
・売手企業及び買手企業それぞれで取締役会の承認決議

② 事業譲渡によるM&Aの実行
・売手企業及び買手企業で株主総会の承認決議
(買手企業では取締役会の場合もあり)
・株主の買取請求手続
・譲渡対価の支払い

③ 事業譲渡によるM&Aの実行後
・B事業にかかる資産負債、契約等の移転手続
・従業員の転籍の手続 etc.

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