基礎知識
2016/05/23
テーマ: 02.M&A
2-1. 株式譲渡によるM&Aの基礎知識
2. 知って得するM&Aの手法
M&Aの手法としては、株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割、現物出資、現物分配、株式交換、株式移転、第三者割当増資があります。採用する手法によって税務上、会計上の取扱いが異なり、目的に応じて手法を使い分けることで、コスト面、リスク面の問題をコントロールできます。中小企業のM&Aで利用されるのは、ほとんど株式譲渡か事業譲渡です。 これらのM&A手法の中で最も簡便とされ、よく使われるのは株式譲渡です。オーナーが代わるだけなので、原則として、債権債務、許認可、雇用契約などはそのまま引き継がれます。ただし、帳簿上認識していなかった債務(簿外債務)も引き継ぐことになるため、買手にしてみれば事前のデューデリジェンスは欠かせません。株式譲渡ではリスクがあるという判断になると、多くの場合、事業譲渡が利用されます。個別に契約を結び直すことになるため手間がかかり、事業規模が大きくなるほど不向きです。事業譲渡では、一部の事業だけを売却することもできますが、対価は会社に入るので、オーナーが受け取るには退職金や配当などによることになります。 合併においては、売手の会社が消滅することになりますが、法的にも一つの会社となることで、売上規模の拡大、スケールメリットによるコスト削減、ノウハウ・人材の相互活用などが期待できるでしょう。会社分割では、事業譲渡のように一部の事業を切り離すことができますが、事業譲渡に比べて労働者の承継手続きが厳格に定められています。 債権を株式化するDES(デット・エクイティ・スワップ)は現物出資の一形態です。グループ内再編では現物分配が利用できる場面もあるでしょう。株式交換・株式移転は現金を使わずに経営統合を進めたいときに有効です。マイノリティ出資での資本業務提携では第三者割当増資が使われる場面が多くあります。 このように、M&Aの目的に応じて、最適な手法を選択しなければなりません。
2-2. 事業譲渡によるM&Aの基礎知識
2-1. 株式譲渡によるM&Aの基礎知識
目次
株式譲渡によるM&Aとは
株式譲渡は、個人または法人が保有する株式を売買することで、株主の地位を他者に移転させる手続きをいう。
中小企業のM&Aでは最も一般的な方法であり、買手が法人であれば、対象会社は買手企業の子会社になり、そこで事業を継続することになる。
株式譲渡においては、決算書上では認識できない簿外債務も含めて、すべての財産を承継することになる。
そのため、M&Aの局面では、事前のデューデリジェンスは欠かすことができない。
企業オーナー(個人)が株式譲渡を行う場合、株式の売却代金を得ることができるので、それをリタイア後の生活資金などに充てることができる。
課税関係は、基本的には譲渡所得に対する20.315%(所得税・住民税、復興特別所得税)だけであり、他のM&A手法に比べると売却後の手残りの面で有利であることが多い。
株式譲渡は会社の機関構成や株式数の変更ではないため、役所などへの手続きや法務局へ変更登記の申請は不要で、基本的には会社内部で完結することができる。
ただし、会社法上では厳格な手続きが規定されているため、専門家の助けは必要である。
なお、株式を譲渡するときは、株券を発行しているか、株式に譲渡制限が設けられているかの2点については事前に必ず確認しておきたい。
株式譲渡によるM&Aの売手のメリット・デメリット
<株式譲渡によるM&Aの売手のメリット>
□手続が簡便で、迅速に実行することができる。
□従業員や取引先といった、事業に係る全てを承継させることができる。
□法律上、自社の債権者に対する個別通知や公告等が不要。
<株式譲渡によるM&Aの売手のデメリット>
□特定の資産を売却対象外とする場合、別途資産の移転手続が必要となる。
株式譲渡によるM&Aの買手のメリット・デメリット
<株式譲渡によるM&Aの買手のメリット>
□株主数が少なければ、手続を簡便かつ迅速に実行することができる。
□原則として株主総会が不要であるため、経営陣の判断が覆されるリスクがない。
□従業員や許認可、各種契約を特別な手続を経ることなく取得することができる。
□法律上、自社の債権者に対する個別通知や公告等をせずに手続をすることができる。
<株式譲渡によるM&Aの買手のデメリット>
□保証債務等の簿外債務も取得することになる。
□売手企業の資産を自社に移転する場合、別途資産の移転手続が必要となる。
株式譲渡によるM&Aの会計処理
<譲渡会社>
第三者に子会社株式を譲渡した場合には、当該子会社株式の消滅を認識するとともに、帳簿価額とその対価としての受取額との差額を当期の損益として認識する。
また、株式譲渡に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として処理する。
(仕訳の具体例)
・子会社株式の帳簿価額 100
・付随費用 20
・譲渡価額 140
現預金 付随費用 | 140 20 | 子会社株式 子会社株式売却損益 現預金 | 100 40 20 |
<譲受会社>
第三者からある会社の株式を取得し、当該会社を子会社とした場合には、子会社株式は時価により計上する。
子会社株式取得時における付随費用は、取得した資産の取得原価に含める。
(仕訳の具体例)
・子会社株式の時価140
・付随費用20
子会社株式 | 160 | 現預金 | 160 |
株式譲渡によるM&Aの税務処理
<譲渡会社>
・個人株主の場合
個人株主が株式を譲渡した場合、その譲渡による所得は他の所得と区分して税金を計算する「申告分離課税」となる(所得税15.315%、住民税5%)。
譲渡所得等の金額=総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)
・法人株主の場合
有価証券の譲渡により生じた利益又は損失は、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度の益金又は損金となる(法人税、住民税及び事業税)。
<譲受会社>
課税関係は生じない。
※有価証券の譲渡は、消費税法上非課税取引とされており、消費税は課税されない。
※有価証券の譲渡契約書については、印紙税は課税されない。なお、有価証券の譲渡対価の受取書は、17号文書として課税される(一律200円)。
譲渡制限株式を譲渡するには
譲渡制限株式であっても、一定の手続きを踏めば譲渡することができる。
そのためには、定款の定めに基づき、株式譲渡を承認する機関が必要になる。
一般的には、取締役会を設置している会社の場合は取締役会が、設置していない会社の場合は株主総会が承認を行う。
当事者間で勝手に譲渡されていたとしても、会社の承認を受けない限りは、会社に対して譲渡の効力は生じない。
株式譲渡の手続きは、会社法の定めに則って進める必要があるが、会社の機関構成や承認機関によって手続きは異なる。
取締役会を設置しない会社で、承認機関が株主総会である場合の手続きは以下の通り。
株式譲渡承認の請求
株式の譲渡を希望する株主(譲渡人)が譲渡承認の請求をする場合、会社に対して、その株数、譲受人の氏名・名称、指定買取人の買取請求などを明示して、譲受人に対する株式譲渡を承認するよう請求を行う。
臨時株主総会の開催決定・臨時株主総会の招集通知
会社(取締役)は臨時株主総会の開催日を決定し、その他の株主へ臨時株主総会の招集通知を出す。
株式譲渡の承認にかかわる決議
臨時株主総会において、株式譲渡を承認するか、否認するかを決議する。
株式の譲渡が承認されると、会社は譲渡人に対して承認したことを通知する。
株式譲渡契約の締結
承認通知を得たら、譲渡側と譲受側との間で株式譲渡契約を交わす。
株式名義書換請求
譲受人と譲渡人が共同で(譲受人単独の場合もあります)、会社に対して株主名簿を書き換えるように請求し、会社は請求に応えて、株主名簿を書き換える。
株主名簿記載事項証明書の交付請求
譲受人が会社に対して、株主名簿記載事項証明書を交付するよう請求し、会社は請求に応えて、譲受人に株主名簿記載事項証明書を交付する。
株式譲渡によるM&Aの手続き
① 株式譲渡契約締結
・売手株主及び買手との間で株式譲渡契約を締結
② 株式譲渡によるM&Aの実行
・対象会社で取締役会(又は株主総会)による譲渡の承認決議
・株主名簿の書換え、株券の交付譲渡対価の支払い
③ 株式譲渡によるM&Aの実行後
・対象会社の役員変更
・退任役員への退職金支払 etc.



2-2. 事業譲渡によるM&Aの基礎知識