基礎知識
更新日:2021/01/14 公開日:2016/03/22
テーマ: 02.M&A
4-2. コスト(ネットアセット、ストック)アプローチによる企業価値評価
4. バリュエーション(企業価値評価)の基礎知識
バリュエーション(企業価値評価)の方法は、大きくインカムアプローチ(DCF(Discounted Cash Flow)法など)、コストアプローチ(時価純資産法など)、マーケットアプローチ(市場株価法、類似会社比較法(マルチプル法)など)に分類されます。これら利用して、妥当な価格のレンジを導き、M&Aの意思決定を助けます。
インカムアプローチは、将来期待される経済的利益を、その利益実現に見込まれるリスク等を考慮した割引率で割引くことにより企業価値評価を行うものです。 将来のフリーキャッシュフローを算定して評価する「DCF(Discounted Cash Flow)法」、株主が受け取る配当額から評価する「配当還元法」などが代表的になります。
コストアプローチは、ネットアセット・アプローチ、ストック・アプローチなどとも呼ばれ、会社の純資産を基準に企業価値を評価する方法です。 会計上の純資産額に基づいて評価を行う「簿価純資産法」と、評価対象となる企業または事業の資産・負債のすべてを時価に置き換えて純資産を評価する「時価純資産法(または修正純資産法)」に分けられます。
マーケットアプローチとは、市場において成立する価格をもとに企業価値を算定する手法です。代表的なものとして、評価対象企業自体の株式の市場価格を基準にして評価を行う「市場株価法」、評価対象企業と類似する上場企業の市場株価や、類似するM&A取引において成立した価格をベースにした一定の倍率(マルチプル)を評価対象企業の経営指標に乗じることによって価値を導き出す「類似会社比較法(またはマルチプル法)」があります。
企業価値評価は売手・買手双方にとって意思決定の土台です。戦略的に価格交渉を進めるためには、対象会社に対する適切な投資額を見極めなければなりません。そのためには、財務データを基にしながらも、買収対象とする事業・企業を取り巻く市場環境や、M&A実施後に 想定されるシナジー効果やリスク要因などを多面的なアプローチから分析する必要があります。
4-2. コスト(ネットアセット、ストック)アプローチによる企業価値評価
コストアプローチによる企業価値評価とは
コストアプローチとは、ネットアセット・アプローチ、ストック・アプローチなどとも呼ばれ、会社の純資産を基準に企業価値を評価する方法である。
大きくは、会計上の純資産額に基づいて評価を行う「簿価純資産法」と、評価対象となる企業または事業の資産・負債のすべてを時価に置き換えて純資産を評価する「時価純資産法(または修正純資産法)」に分けられる。
時価といっても、大きく分けて2つの考え方があり、1つは再調達原価、もう1つは正味売却価額である。
コストアプローチにおける時価の考え方①再調達原価法
再調達原価は企業に帰属する個別の資産・負債を、現時点で取得し直すとした場合に必要となる金額であり、これを利用した評価方法を再調達原価法という。
この手法によって導かれた時価純資産額は、その企業と同等の資産・負債構成の企業を設立し直すために必要とされる投資額を意味する。
つまり、自社で同様の事業を展開するのに必要となるコストと考えられるため、M&Aを実施するべきか、自前で事業を開始するべきかを検討する上で、意味のある参考情報となる。
コストアプローチにおける時価の考え方②清算価値法
正味売却価額は、現時点において企業が所有するすべての資産を処分することによって得られる金額によって、現時点におけるすべての負債を弁済する場合の残余額である。
つまり、その企業を清算(解散)した場合に株主が得られる金額としての時価であり、これを利用した評価方法を清算価値法という。
解散を前提としているため、評価損益がプラスである場合、法人税の実効税率を掛けて控除することになる。
他の評価方法による株式価値が清算価値に満たない場合、その企業の株式価値は企業を解散することによって最大化されるものと判断される。
通常、この清算価値は株式価値の下限となることが多い。
機械などはその企業のために特別な仕様で製造され、他の企業での使用が困難なものが多いため、通常は売却処分による換価は難しい。
一方で、不動産は取引市場が発達しているので、換価できる可能性が比較的高い。ただし、売却を焦ると足元を見られることになり、時価での取引ができないことも少なくない。
清算手続きには、従業員の解雇に伴う退職金や突然の取引停止によるペナルティ、弁護士などへの報酬の支払いなどといったコストが発生するため、これも減額要因になり得る。
コストアプローチによる企業価値評価の留意点
コストアプローチによる企業価値評価は、企業が保有する個別の資産の価値は会社が将来どれほどのキャッシュを生み出すのかとは無関係であるため、継続企業を前提とした場合は採用する理論的根拠に乏しい。
しかし、企業価値評価の基となる帳簿作成が適正で、かつ、時価等の情報が取りやすければ、客観性に優れている手法でもある。
コストアプローチは、精度の高い事業計画を作成することが困難なケースでは有益な方法の一つといえる。