基礎知識
更新日:2021/01/14
テーマ: 02.M&A
4-3. マーケットアプローチ(市場株価法、マルチプル法)による企業価値評価
4. バリュエーション(企業価値評価)の基礎知識
バリュエーション(企業価値評価)の方法は、大きくインカムアプローチ(DCF(Discounted Cash Flow)法など)、コストアプローチ(時価純資産法など)、マーケットアプローチ(市場株価法、類似会社比較法(マルチプル法)など)に分類されます。これら利用して、妥当な価格のレンジを導き、M&Aの意思決定を助けます。
インカムアプローチは、将来期待される経済的利益を、その利益実現に見込まれるリスク等を考慮した割引率で割引くことにより企業価値評価を行うものです。 将来のフリーキャッシュフローを算定して評価する「DCF(Discounted Cash Flow)法」、株主が受け取る配当額から評価する「配当還元法」などが代表的になります。
コストアプローチは、ネットアセット・アプローチ、ストック・アプローチなどとも呼ばれ、会社の純資産を基準に企業価値を評価する方法です。 会計上の純資産額に基づいて評価を行う「簿価純資産法」と、評価対象となる企業または事業の資産・負債のすべてを時価に置き換えて純資産を評価する「時価純資産法(または修正純資産法)」に分けられます。
マーケットアプローチとは、市場において成立する価格をもとに企業価値を算定する手法です。代表的なものとして、評価対象企業自体の株式の市場価格を基準にして評価を行う「市場株価法」、評価対象企業と類似する上場企業の市場株価や、類似するM&A取引において成立した価格をベースにした一定の倍率(マルチプル)を評価対象企業の経営指標に乗じることによって価値を導き出す「類似会社比較法(またはマルチプル法)」があります。
企業価値評価は売手・買手双方にとって意思決定の土台です。戦略的に価格交渉を進めるためには、対象会社に対する適切な投資額を見極めなければなりません。そのためには、財務データを基にしながらも、買収対象とする事業・企業を取り巻く市場環境や、M&A実施後に 想定されるシナジー効果やリスク要因などを多面的なアプローチから分析する必要があります。
4-2. コスト(ネットアセット、ストック)アプローチによる企業価値評価
4-3. マーケットアプローチ(市場株価法、マルチプル法)による企業価値評価
マーケットアプローチによる企業価値評価とは
マーケットアプローチとは、市場において成立する価格をもとに企業価値を算定する手法である。
代表的なものとして、評価対象企業自体の株式の市場価格を基準にして評価を行う「市場株価法」、評価対象企業と類似する上場企業の市場株価や、類似するM&A取引において成立した価格をベースにした一定の倍率(マルチプル)を評価対象企業の経営指標に乗じることによって価値を導き出す「類似会社比較法(またはマルチプル法)」がある。
マーケットアプローチによる企業価値評価①市場株価法
市場株価法は、評価対象企業が上場会社である場合に利用される。
市場株価は、長期的には会社の収益力等に基づく企業価値を適正に反映して形成されると考えられているが、短期的には企業価値と無関係に変動することもある。
そのため、一時的な株価の騰落といったマーケットの影響を排除するため、毎日の終値を1~3ヵ月程度の期間で平均を取り、これを評価額とするのが一般的である。
ただし、このようにして算定された平均株価に基づく株式時価総額は、基本的に評価対象企業の現状における単独での企業価値(stand-alone value)を表わすものであり、また、経営権の移動を伴わない少数株主間の売買によって形成されたものである。
つまり、M&Aによる経営改善効果やシナジー効果、経営権に対する評価などは考慮されていないため、買手にとっての企業価値としてはそのまま使用できない。
通常、一定のプレミアム(支配権プレミアム)を加算することで取引価格を導き出す。
マーケットアプローチによる企業価値評価②類似会社比較法(マルチプル法)
類似会社比較法(マルチプル法)は、評価対象企業の類似会社にあたる上場会社の市場株価と、利益やEBITDA、純資産といった財務指標から算出された倍率(マルチプル)を評価対象会社に適用することで企業価値を算定する手法であり、マーケットアプローチの1つである。
評価対象が非上場会社である場合、市場株価が存在しないため、市場株価法に代替する手段として利用されることが多い。
この場合、評価対象企業の流動性欠如について一定の割引(非流動性ディスカウント)を考慮する必要がある。
DCF法などと比べれば客観性が担保されているとされるが、この評価の妥当性は選定した類似会社の妥当性に依存している。
一般的には、類似会社は以下のプロセスによって選定する。
① 所属する業界、類似する業種の上場会社をリストアップする。
② 同業種の上場会社がない場合、顧客属性や、事業構造、製品サービスの補完性などの観点から、類似会社を選択する。
③ 事業戦略、ビジネスモデル、地域性、顧客層、製品構成、事業ライン、免許・許認可、規模、国際性などの観点から類似度を判別する。
マーケットアプローチによる企業価値評価③類似取引比較法
その他のマーケットアプローチの手法として、類似するM&Aによる取引事例を用いた類似取引比較法がある。
しかし、取引対象となった企業が非上場である場合、財務数値は、限定的にしか開示されていないため、類似度の判定が難しく、中小企業のM&Aで利用されることは少ない。
4-2. コスト(ネットアセット、ストック)アプローチによる企業価値評価