基礎知識
更新日:2020/09/04
テーマ: 02.M&A
M&A(企業買収)と株価への影響 | TOB、経営統合で上昇するのか?
M&Aの当事者は「買収する企業」と「買収される企業」だけでなく、それぞれの企業の株を持っている「株主」もまたM&Aをもとに行動する当事者といえます。M&Aによってどれほど株式の価値が変わるのか気になるところでしょう。
M&Aは株価に影響するのか、株価が上昇または下落するとして買収する側と買収される側にはどのような傾向が見られるのか、また、買収時の株価の評価基準や変動要因も併せて解説します。
目次
なぜM&Aをするのか?
M&Aにおける株価への影響を知る上で、まず押さえておきたいのがM&Aの目的です。M&Aの目的を知り、企業の価値について考えてみましょう。
M&Aとは企業・事業の全部または一部の移転を伴う取引のこと
そもそもM&AとはMerger(合併)とAcquisition(買収)の頭文字を取ったもので、一般的に「会社もしくは経営権の取得」を意味します。M&Aの方法には企業同士の合併、買収があり、広義では合弁会社(JV)設立、資本業務提携などがあります。
買収企業(買手側)、買収対象企業(売手側)それぞれの目線でみた買収・合併の主な目的は以下の通りです。
<買収企業(買手側)から見たM&Aの目的>
・シナジー効果
単純な足し算を超えるシナジー効果(相乗効果)を得ることはM&Aにおける大きな目的のひとつです。
各社が持っている経営資源などを相互に活用することで、売り上げ増加やコスト削減につながるなど、財務諸表に直接的なインパクトがある効果が代表的です。
例えば、買収することで会社同士の技術を組み合わせて革新的な商品開発が可能になる場合や、それぞれの商品をクロスセル展開することで販売力を強化する場合などは、シナジー効果が見込めるといえるでしょう。
・事業規模の拡大
企業を買収・合併すると1社では賄えなかった人員(人材)、技術、設備、取引先、流通網、店舗網を確保できます。
通常は事業拡大となると自社で開拓しなければいけないところですが、買収や合併を用いることで、すでに構築した設備、取引先、マーケット(市場)を得ることできます。迅速な事業規模の拡大が可能となり、事業を拡大するためにもう少しリソースを増やしたい、と考えている企業を前進させます。
・事業の多角化
現在の主力事業における環境が厳しくなっていたり、将来の見通しに不安がある状況において、柱となる事業・収入源を確保するため、事業の多角化を狙うケースです。
しかし、多角化にはリスクも伴います。詳しくは後述の「M&Aによって株価は上がるのか?多角化のリスクとメリット」にて説明します。
<買収対象企業(売手側)から見たM&Aの目的とメリット>
買収対象企業から見たM&Aの目的は主に以下が代表的です。後継者問題などにより、事業の存続が難しい中小企業は、M&Aによって問題の解決が期待できます。
・事業の選択と集中
運営している事業の中でより力を入れたい事業、手放したい事業があるときにM&Aが用いられます。
会社や事業を売却できれば、経営の効率化や投資資金の獲得といったメリットが得られ、企業買収によって債務から解放されることも、買収対象企業のメリットです。
特に事業譲渡ではコアとなる事業を残し、そうでない事業を売却して経営の効率化を図るケースが増えています。国内市場に見込みがないと判断した企業は、早々に国内の事業から撤退して、海外の事業へ再投資することも選択肢です。
・事業承継
中小企業の場合は、事業が立ち行かなくなる理由として「後継者の不在」が多く挙げられています。しかし、事業を買収してくれる会社が見つかれば、事業は存続できます。
かつてM&Aと言えば、とにかく企業規模を拡大するために行われていました。経営危機に陥った企業を買い漁る投資ファンドが「ハゲタカ」と呼ばれニュースになったこともありました。
しかし、現在は国内市場の縮小や後継者問題から企業が生き残るためのM&Aが盛んに行われています。事業が立ち行かずに廃業となった場合、社員が路頭に迷ってしまうため、それを避けたいと考える経営者が多くいるからです。
上記のような目的で行われるM&Aですが、株式を公開していない中小企業のM&Aは、経営陣の同意を得て行う友好的買収がほとんどです。
しかし、上場企業の場合は経営陣の同意を得ない「敵対的買収」が存在します。
同意を得ずに株式を買収する「敵対的買収」
敵対的買収とは、買収者が対象企業の経営陣の同意を得ずに、買収を仕掛けることです。
上場株式を取得する方法は、市場での購入のほか、市場外で取得する場合は、相対取引もしくは株式公開買付け(TOB)があります。特に株主総会の同意を得ずにTOBを行う場合を敵対的TOB(「敵対的TOB」にて後述)といいます。
敵対的買収を実施する際は、一般的にはTOBが用いられることが多いのですが、ときには市場での購入だけで議決権の過半数を獲得し、敵対的買収が成立することもあります。
敵対的買収を防ぐためには、従業員や取引先に自社の株式を保有してもらうなどの予防策や、相手の持ち株比率を下げるための新株予約権を準備しておくなどの対抗策があります。
敵対的買収をされそうになった時に、買収対象企業が逆に買収を仕掛けるという方法もあります(パックマンディフェンス)。
それでは、友好的買収にしろ、敵対的買収にしろ、M&Aによって買収される企業の株価はどのような影響を受けるのでしょうか?
M&Aによって買収される企業の株価は上がるか、下がるか
M&Aと株価の関連について検証した書籍『M&Aと株価』(著者:井上光太郎、加藤英明/発行:東洋経済新報社)によると、「1999年3月以前、いわゆるM&Aブームが起こる前においては、企業買収されることは株価を高める要因として十分ではなく、前後5日間で言えば下落させる要因だったが、1999年4月以降は有意な上昇が見られる」とされています。
株式公開買付(TOB)で株価はどう変動するか
企業買収のために上場株式を大量に取得する代表的な方法は、株式公開買付(TOB)です。
株式公開買付(TOB)とは、市場外で株式の買い付けを申し込むことです。TOBは不特定多数の株主に対して買い付けの申し込みや売付申し込みの勧誘を公告します。TOBを行うとさまざまな株主が取得している株式を効率よく買い集めることができ、価格のずれがありません。
TOBの目的は、株式の取得割合による「経営権」と「特別決議の拒否権」 の取得にあり、特別決議の拒否権だけであれば3分の1超の株式保有で可能です。
しかし、実際は株主総会において普通決議を可決できる過半数や、特別決議を通すことができる2/3以上など、目的に応じた数の経営権を獲得するものです。
ちなみに、TOBを用いる時は買い付け予定の株式数等に下限を設けることができます。つまり、想定する支配権に至らない場合に余計な株式を抱え込むリスクを避けられるというメリットがある、ということです。
<上場廃止になる場合、ならない場合>
100%経営権を獲得された会社は、TOB後に上場廃止となります。
上場廃止となる場合は、特別な事情がない限り「TOB公表前1カ月間の市場株価の終値の平均値」が買い取り価格となる傾向があります。その基準に応じて思惑が生じ、株価が変動します。
通常はTOBでの買付け株数に上限があり、TOBに応募すれば必ず株式を買い取ってもらえるわけではないため、TOBへの応募に落選した場合のリスクが株価に反映されることで、多少下落することもあるようです。
なお、完全子会社化する場合には、TOBによって株式を90%以上集めて特別支配株主になった上で少数株主に対して株式等売渡請求を行う方法が一般的です。
このとき、株主の保護と公正な価格という観点から、特段の事情が無い限りTOBの価格と同一とします。
TOBは会社の経営陣が自社の株式を買収するMBO(Management Buyout) の手段としても利用されます。MBOは経営陣が支配権を獲得して意思決定を迅速にすることや、議決権行使の阻害要因となる少数株主の排除(スクイーズアウト)を目的に行われます。
この場合も、前述のような上場廃止になるケースと株価の値動きは同様です。
一方、上場が維持されるタイプのTOBは、TOB期間こそ買付け価格近辺の高い水準で推移しますが、この期間が終わると買付け価格に縛られなくなり、株価は通常の値動きに戻ります。
つまり、買収企業が経営権を獲得するために高い価格でTOBを行っているようなケースでは、その期間の終了後に大きく下落することもあり得る、ということです。
<友好的TOBの場合、敵対的TOBの場合>
TOBには買収対象企業の賛同を得て行う「友好的TOB」と買収対象企業の賛同を得ずに行う「敵対的TOB」があり、株価の変動はそれぞれのケースで異なってきます。
・友好的TOB
友好的TOBは、買収対象企業との合意を得ていることから成立しやすく、買収対象企業の経営陣がそのまま経営に関わります。そのため、TOBの買付価格は市場価格と同じくらいになります。
・敵対的TOB
敵対的TOBを仕掛けるには、株式を売ってもらえる価格設定が必要です。そのため友好的TOBに比べて買付価格が高くなる傾向があります。
より効果的に株式を集めるために設定価格を引き上げることもあります。
なお、上場企業を買収する手法としては、TOB以外にも、株式移転などを通じて経営統合するケースもあります。この場合、株価はどのように変動するのでしょうか。
株式移転などで経営統合した場合、株価はどう変動するか
株式移転とは、新たに完全親会社を設立して、それぞれの会社の株式を移転し、代わりに株主へは完全親会社の株式が割り当てられます。
この割り当てられる株式の比を株式移転比率といいデューデリジェンス(買収企業の調査) の結果や、第三者算定期間に寄る株価算定の結果を踏まえて決定されます。
例えば、複数の上場会社による株式移転(共同株式移転)による経営統合が行われたとき、「経営統合によって現在より企業価値が上がる」と市場が判断した場合、すなわち「株主価値の創造」がされたとみなされた場合は、完全親会社の時価が、株式移転前における子会社の時価総額よりも上昇する可能性があります。
つまり、株主にしてみれば、手元にある株式の株価が引き上げられることがある、ということです。
一般的なコーポレートファイナンス理論では、「株主価値の創造」が企業経営の目的とされており、経営統合などのM&Aも目的は同様です。
買収企業(買手側)にとって「買収によって増加する将来キャッシュフローの価値」が、買収対象企業(売手側)にとって「売却により減少する将来キャッシュフローの価値」を上回っていなければ、価値両立的なM&Aとなりません。
そして、株主価値を高めるには、単に戦略的方向性が正しいだけでは不十分です。
「株主価値の創造」における価値原因となる重要な要素は、先述した「シナジー効果」であり、どのようなM&Aでも、売り上げ増加やコスト削減におけるシナジー効果を可能な限り計数化し、「買収価格やプレミアムとの比較で株主価値を創造しているか」を検証することが重要です。
この検証に耐えられたとき、理論上では株式移転などの経営統合の結果、株価が引き上げられることになります。
ただし、実際の株式市場には過剰反応や相場の動向など外的要因も多く、短期的に見た場合は株価と理論値が乖離することも否定できないため、その点については留意しておきましょう。
参考例1)横浜銀行と東日本銀行が経営統合により、株式会社コンコルディア・フィナンシャルグループとなった例
横浜銀行と東日本銀行は2014年に経営統合の基本合意に至ったというニュースが流れました。この2社の経営統合は規模の拡大及びお互いの商圏である東京においての連携にあります。横浜銀行の持っているサービスのノウハウと東日本銀行が培ってきた経営インフラを組み合わせて、より強い経営基盤を作ることが目的です。
その後、2016年に持ち株会社であるコンコルディアを設立し、コンコルディアグループの傘下となることで最終合意が行われました。
株式移転比率は第三者算定機関による分析をもとに東日本株式会社の普通株式1株に対してコンコルディア・フィナンシャルグループの普通株式が0.54株、横浜銀行の普通株式1株に対しては持株会社の普通株式が1株の比率で割り当てられました。
参考例2)東急コミュニティー、東急不動産、東急リバブルが経営統合により、東急不動産ホールディングスとなった例
東急不動産は2013年に東急コミュニティー、東急リバブルとの経営統合を発表しました。こちらは経営資源の分配と連携強化を目的にもともとのグループ会社同士が経営統合した形です。新たに持ち株会社である東急不動産ホールディングを設立し完全子会社化されました。
株式移転比率は東急不動産ホールディングの普通株式1株に対し東急不動産の普通株式が1株、東急コミュニティーの普通株式が4.77株、東急リバブルの普通株式が2.11株という比率で割り当てられました。
次に、M&Aによって買収企業(買手側)の株価はどう変わるかについて考えてみましょう。
M&Aによって買収する企業の株価はどう変わる?
M&Aによって買収する企業の株価は、前述の書籍『M&Aと株価』によると、「M&A前後3日間に多少の上昇が見られるが、その数日後には株価の調整が起きてM&A前と差が見られない状態になる」とされています。
ただし、個別的に見ればM&Aに対する市場の評価によって、株価の上昇・下落が分かれるといえるでしょう。予算の選択・集中が企業価値向上のカギとなり逆に予算が分散すると企業価値を下げかねません。そもそも、株価が上昇すると企業にどんなメリットがあるのでしょうか。
株価が上昇すると企業にどのようなメリットがあるか
株価が上昇すると企業イメージが高まります。これは人材確保や資金調達を容易にし、敵対的買収の防衛策としても機能するため企業買収における取引で優位になります。
1.資金調達が容易になる
株式の価格が上がれば新株発行することによって得られる資金も多くなります。また、株価が高い状態であれば株主が長期的に株式を保有することが期待されます。長期で株式を保有する株主が増えることは企業の安定につながります。
2.企業の価値が上がる
株式は企業の資産を構成する単位です。よって株価が上昇すると企業の時価総額が上がります。もちろん企業の価値が高まるとそれに伴ってイメージや信用度の向上が見られます。
3.企業買収における取引で優位になる
株価が高まると株式交換による買収をする際により少ないコストでの買収が可能になります。買収対象企業の株式の対価として自社の株式を支払えるからです。また、自社の株価が上がることは敵対的買収のコスト増大につながるため、敵対的買収のリスクを下げます。
M&Aによって株価は上がるのか?多角化のリスクとメリット
M&Aによる株価の上昇は企業価値と大きく関わっています。したがって企業価値を向上させれば株価が上昇し、企業価値が下がると株価下落につながります。特に予算の分散はコング
ロマリット・ディスカウントにつながるため、資源の選択と集中が本質的な企業の価値向上のカギとなります。
コングロマリット・ディスカウントとは、積極的なM&A等により、事業の多角化を進めている企業において、事業を単体で営む場合と比較したときに、市場からの評価が低下し、株価が下落している状況を指します。
M&Aのメリットはお互いの企業のリソースやノウハウを生かしたシナジー効果ですが、企業を多角化するといくつもの事業に予算が分散されてしまう点に注意が必要です。予算の分散はリスクマネジメントになる一方でそれぞれの事業が持つ力を弱めてしまいます。その結果市場からの評価が低下し、株価下落につながります。
コングロマリッド・ディスカウントが起きる理由は、コーポレート・ガバナンスの不備やシナジー算出の誤りです。シナジー効果はお互いの弱点を補い強みを生かすことで単体での事業運営以上のパフォーマンスを生み出すものですが、特に関連しない事業を保有しても意味が無く投資家にとっても好材料になりません。
企業価値は多角性ではなく自社の持つ競争優位性を活かすことにあります。企業価値を高めるためには強みを生かせる事業領域への選択と集中をした上で、さらに前進させるようなシナジー効果を得るM&Aが大切です。
まとめ
M&Aは買収対象企業(売手側)から買収企業(買手側)へ経営や事業の一部または全部を移転に関するビジネス取引です。
その目的は、買収企業(買手側)としてはシナジー効果・事業規模の拡大・事業の多角化など、買収対象企業(売手側)では事業の選択と集中・事業承継などが挙げられます。
株価は取引の形によって変わりますが、参考書籍『M&Aと株価』における分析では、1999年4月以降のM&Aブームにおける取引においては、平均して株主価値の増大が認められ、株主視点でみて経済合理性を指示する結果となっています。
このことから、企業価値向上に伴った中長期的な株価の評価が期待できるといえるでしょう。
株価が上昇すると資金調達、企業価値の向上、敵対的買収からの保護というメリットがありM&Aの実施は長期的な企業価値向上につながりやすいといえます。しかし、シナジー効果を生まない多角経営は、コングロマリッド・ディスカウントが生じる企業価値を向上させないM&Aとなるリスクもあります。企業価値を高めるM&Aは、「選択と集中」がカギとなるといえるでしょう。
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