基礎知識
更新日:2020/08/27
テーマ: 02.M&A
6-4. 法的整理のメリット・問題点とプレパッケージ型手続
6. V字回復の切り札・事業再生M&Aの基礎知識
中小企業金融円滑化法が終了し、暫定リスケ中の企業はその出口を模索しています。スポンサーからの出資や、会社分割、事業譲渡によって債務の弁済を確実にする「事業再生M&A」を利用することによって、信用力を毀損することなく、迅速にV字回復を遂げる道が見えてくるはずです。暫定リスケ中の企業の出口は、①自力再生、②金融支援による再生、③スポンサーからの支援(M&A)による再生、④廃業の4つがあります。これらの選択にあたっては、債権者の経済合理性に配慮しなければなりません。原則としては、事業を継続させることで再生を目指すのであれば、清算して資産を個別に売却するよりも事業を継続させた場合の弁済額の方が大きい必要があります。また、選択した再生手続きによる回収見込額が他の再生手続によった場合に期待できる回収見込額を上回らなければなりません。この経済合理性の有無を判断するため、再生企業が債権放棄等を受けるための手続きには透明性が要求されます。具体的な手法は、私的整理と法的整理に大別され、 債権放棄等の対象となる債権者の範囲、手続の成立要件、商取引への悪影響の度合いなどの点で違いがあります。 会社が債務を弁済できる見込みがなくなった場合、債務整理にあたって、その会社の事業を継続させ、それによって得られる将来の利益を原資として、債権者への弁済金の確保を目指すことがあります。このような企業が事業再生を果たすには、債権者による債権カットや、その後の長期弁済契約といった対応だけでなく、スポンサーからの出資や、会社分割、事業譲渡によって圧縮後の債務の弁済を確実にする「事業再生M&A」が有効です。ただし、過大な負債を抱えた譲渡企業をそのまま譲受企業が買収することは相当の困難を伴います。債権者の協力を得ながら、会社分割や事業譲渡による「第二会社方式」やDES(デット・エクイティ・スワップ)などを利用したスキームの検討が重要です。
6-3. 事業再生M&Aにおけるスキーム(第二会社方式)の概要
6-4. 法的整理のメリット・問題点とプレパッケージ型手続
法的整理による事業再生のメリット・デメリット
事業再生を法的整理によって行う際のメリットとしては、裁判所より財産の保全処分が出され、債務の弁済が禁止されることにより、資金ショートの状況に対応できる、計画に反対の債権者がいても、多数決で決まればすべての債権者に対して一律・公平に対応ができる、詐害行為取消リスクおよび否認リスクを相当程度排除できる、などが挙げられる。
法的整理のデメリットとしては、イメージダウンによる営業への影響(取引条件の悪化など)、社内のモラルへの影響(不安を感じた従業員の退職など)、法的整理は私的整理と比較して手続の柔軟性に欠け、費用がかかる点が挙げられる。
民事再生手続による法的整理と会社更生手続による法的整理
事業再生で利用される法的整理には、民事再生手続による法的整理と会社更生手続による法的整理があるが、いずれも裁判所に手続開始を申し立て、裁判所の認可のもとで実施される。
民事再生手続による法的整理は、会社更生手続きによる法的整理と比べると手続が簡易で迅速化されており、原則としてDIP(Debtor in possession、経営陣の続投)型で行われるため、中小企業向きの制度である。担保権者は自由に権利を行使でき、無担保債権者の権利のみを制約する。再生計画でカットできるのは無担保債権だけとなる。
一方の会社更生手続による法的整理は、効果の及ぶ範囲が広く強力であるが、費用と時間とを要するため、大企業向きの手続である。更生計画では、担保権者や株主の権利をもカットすることができる。
いずれの法的整理手続においても、債権者が債権放棄等に応じる前提として、株主にも権利の希釈化、消滅といった負担を求めることが多い。
法的整理は、その強制力が故に私的整理に比べて利害関係者間の公平性がより強く求められ、債務超過で実質的な持分の価値がゼロである株主が、そのままの地位に留まり、会社が再建した時に利益を得るのは望ましくないという考え方がある。
法的整理における事業再生M&A
このような株主責任の明確化という意味でも、法的整理中の会社においてM&Aによってスポンサーの支援を得るのには重要な意味を持つ。
既存株主の権利全部を消滅させ、スポンサーが100%株主となる100%減増資や、事業譲渡、会社分割等を行えば、事業の再建によって利益を得る主体がスポンサーに移行する。
その他の法的整理におけるM&Aのメリットとして、以下が挙げられる。
法的整理における事業再生M&Aのメリット①
株主総会の特別決議や債権者保護手続等の会社法所定の手続を省略することができる。
法的整理における事業再生M&Aのメリット②
スポンサーの簿外債務等の承継リスクを減少させることができる。
法的整理における事業再生M&Aのメリット③
担保権消滅請求制度を利用することにより担保権を消滅させることができる。
法的整理における事業再生M&Aのメリット④
許認可等のスポンサーへの承継が容易になる。
法的整理における事業再生M&Aの問題点
ただし、「法的整理」によるイメージダウンの結果起こる、事業価値の劣化を完全に防ぐのは困難である。
これに対応するためには、早期に事業再生M&Aを実行することで、スポンサーによる信用補完が必要である。
しかし、M&A実行までの期間が短いと、十分なデューデリジェンスを行うことができないため、スポンサーにとって事業を承継するリスクは増大する。
予めスポンサーを用意するプレパッケージ型の法的整理
事業価値の毀損を防ぎつつ円滑な引継を行うために、事前にスポンサーと支援内容を決定したうえで、民事再生手続ないしは会社更正手続を申し立てるプレパッケージ型手続という法的整理の手法がある。
私的整理の成立を目指してスポンサーを選定し、債権者との交渉を行ったものの、一部の債権者から同意が得られず、法的整理に移行するような場合には、この形になりやすい。
スポンサーによる支援が確定していることで、ブランドイメージの毀損などを免れることができれば、売上や収益を維持でき、また、スポンサーの既存事業とのシナジー効果によりさらなる収益力の向上を図ることも期待される。
ただし、債権者や他のスポンサー候補者がスポンサーの選定過程や支援内容に異議を唱えられ、裁判所などから入札等によるスポンサー選定の見直しを命じられる可能性もあり得る。
そのため、プレパッケージ型手続による法的整理おいては、事業譲渡価格等の金額の合理性、スポンサー選定のプロセスにおける公正性などを精査しなければならない。
プレパッケージ型の事業再生M&Aにおけるスポンサー選定
民事再生手続による法的整理の場合、開始決定後も従来の経営陣が主導して手続を進めるため、入札等の実施を検討せざる得ない状況はあるものの、事前に準備を整えてから申立てを行い、その後、早期にあらかじめ決めていたスポンサーに計画外事業譲渡を実行するという法的整理のスキームを比較的とりやすい。
これに対し、会社更生手続による法的整理では、管財人が申立前に旧経営陣によって選定されたスポンサーをそのまま認めるとは限らず、むしろ、客観的な妥当性を担保するため、改めて入札等の方法でスポンサーの選定を行う場合もある(ただし、DIP型による経営の連続性を維持しながらの更生手続による法的整理も増加傾向にある)。
お台場アプローチ
申立て後に、再入札を行わず、プレパッケージのスポンサー選定が公正妥当と判断するための基準として、「お台場アプローチ」と呼ばれる下記の7要件がある。
□あらかじめスポンサーを選定しなければ事業が劣化してしまう状況にあること
□実質的な競争が成立するように、スポンサー等の候補者を募っていること(これが困難である場合は、価額がフリーキャッシュフローに照らして公正であること)
□入札条件に価額を下落させるような不当な条件が付されていないこと
□応札者のなかからスポンサー等を選定する手続において不当な処理がなされていないこと
□スポンサー契約等の内容が、会社側に不当に不利な内容となっていないこと
□スポンサー等の選定手続について公正である旨の第三者の意見が付されていること
□スポンサー等が誠実に契約を履行し、期待どおりの役割を果たしていること
これらを満たす場合、後発スポンサーの条件がどれだけ優れていたとしても、一律に再入札は不要であると解されている。
6-3. 事業再生M&Aにおけるスキーム(第二会社方式)の概要
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