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更新日:2026/03/19

テーマ: 03.海外ビジネス

中国市場で戦うための企業変革のポイント

~中国企業に学ぶ競争力の高め方~

目次

競争力を強化するためには、自社内の課題に加えて、競合の戦略や市場動向など外部要因にも目を向ける必要があります。中国市場では、主な競合が現地企業である場合が多く、概してコスト競争力、意思決定・実行のスピードが市場での勝敗を分けます。

本稿では、まず中国市場の競争環境を概観し、次に中国企業の強さの背景を分析します。続いて、日系企業の課題、対応策、および企業変革を実行につなげるための要点を示します。

日系企業が直面する業績改善圧力と競争環境の変化

NNAが実施した「アジア太平洋地域における日系企業のアンケート調査(2025年上半期の業績見通し)」では、中国市場について、回答者の37%が「減収減益」、10%が「増収減益」、合計で47%(およそ半数)が減益を見込んでいると答えています。主な要因は販売数量の減少や販売単価の低下です。調査対象国の中でも、中国は減益見通しの割合が高い国の一つとなっています。

競争環境も変化しています。十数年前は、中国企業の製品は「安かろう、悪かろう」と見なされることが多く、品質水準も低めでしたが、近年は中~高品質の水準に近づき、手頃な価格で供給されるようになっています。一方、日系企業は品質重視に傾きやすく、結果として価格が高くなりやすい傾向があります。このため、中国企業の技術力向上に伴い、一定水準の品質の製品が手頃な価格で市場に出回ると、日系企業の競争環境は厳しくなります。

競合環境も大きな要因です。JETROの「2024年度 海外進出日系企業実態調査 (アジア・オセアニア)」によると、中国での日系企業の最大の競合は現地(中国)企業だと答えた回答者の割合が80%を超えています。他国では同様の回答率は概ね50%程度にとどまるため、中国での現地企業の存在感は際立っています。

さらに、同調査では競合の強みの最大の要因として、「コスト競争力」(回答率84.7%)と「意思決定の速さ」(同55.8%)が挙げられています。低コストでかつ迅速に対応できる能力が中国市場での競争力の主な要因となっていることがわかります。

中国企業の強さの秘訣

中国企業の競争力は、製品性能や価格だけでなく、起業志向が強いことや参入から撤退までのサイクルが短いという中国の市場・競争環境、ビジネス風土にも支えられています。

起業志向が強く、会社員になるよりも起業して独立することを選ぶ人が多く、同一業界・近隣地域に類似企業が集中する傾向があります。また、市場参入後も変化への対応が迅速で、それが市場を大きく変えることにつながっています。

例えば電気自動車(EV)市場では、商機があると判断され、多業種からの新規参入が相次ぎました。参入が集中して採算が悪化すると速やかに撤退が進み、短期間のトライアンドエラーで、市場構造が急速に変化しました。

レンタルバイク市場では、多数のブランドが参入した後に大手資本へ集約され、起業家が売却(イグジット)して次に進むというサイクルが生まれました。起業からイグジットまでのサイクルが短く、市場環境が短期間で急変しました。

中国企業の競争力の源泉

中国企業の競争力の源泉は、主に以下の三つにまとめられます。

1. 迅速投入と継続的改善:

迅速な市場投入と継続的改善を重視しています。実践を通じて得たデータを基に短期間で意思決定と改良を繰り返し、実効性を高めています。

2. 当事者意識を引き出す組織設計:

従業員が「自分ごと」として捉える仕組みを設計しています。ストックオプションなどで従業員に当事者意識を持たせることで、組織全体のやる気とスピードが自然に引き出されやすくなっています。

3. スピード重視の購買・サプライチェーン戦略:

購買フローをスピード重視で設計しています。自社のQCD(品質・コスト・納期)要件に合う仕入先を素早く整え、まずは安く買って試し、改善が遅ければ仕入先を切り替えるという判断を行っています。

 

図1: 中国市場における日系企業の状況

対中国企業で見る日系企業の課題:組織肥大化と意思決定

日系企業と中国企業の主な違いは、コスト競争力と意思決定のスピードです。中国企業はスリムな組織で、機動的に動ける「筋肉質」な体質ですが、日系企業は組織運営が「肥大化」しやすい体質で、意思決定が遅れがちです。

意思決定のスピードだけでなくそのプロセスにも違いが見られます。中国企業はトライアンドエラーを繰り返しながら市場対応を迅速に進めるのに対し、日系企業は、慎重な検討や複数の合議を経た意思決定が常態化しやすく、現場にあまり意思決定をゆだねない傾向にあります。

コスト面では、日系企業は全顧客に対して高い基準で対応することが多く、顧客が80点で満足する領域にも100点基準を適用し、余分なコストや検査工数が生じやすくなります。

人員配置にも違いがあります。例えば、200〜300名規模の中国の製造会社の典型的な人員構成を想定すると、直接加工200名、工場間接40名、営業サービス15名、営業管理5名、経理・人事・総務など5名で、合計265名程度となります。同規模の日系企業では、直接加工は約1割多い程度にとどまる一方、工場間接、営業管理、その他の間接部門で人数が2~3倍になり、結果として全体の人数は3割ほど多くなる傾向があります。

「筋肉質」と「肥大化」の差が生まれる三つの要因

中国企業が「筋肉質」な組織体質になりやすい一方で、日系企業は、業務や組織が「肥大化」しやすい傾向があります。こうした違いが生まれるポイントは、業務オペレーション、組織増員、意思決定の三つに整理できます。

1. 業務オペレーション

中国企業は、顧客価値に結びつかない業務を徹底して削減します。オーナー社長がその姿勢を強く打ち出し、現場にも徹底される傾向があります。一方で、日系企業は、本国からの開発・品質基準をそのまま適用し、本当に必要かどうかを現地で見直さずにその業務を継続しがちです。

2. 組織増員

中国企業は増員を最低限に抑え、兼務などで対応するのが基本です。自動化やシステム、デジタルを積極的に活用し、徹底的な省人化を図ります。日系企業は現場からの増員要請を受け入れやすく、属人的な手作業が発生しやすい傾向があります。

3. 意思決定

中国企業は少数のオーナーや幹部が即断即決し、まずは小さく始めて高速でPDCAを回し、上手くいけばすぐに規模を拡大します。日系企業は慎重な合意形成を重視するため、業務の肥大化や遅延が起こりがちです。

 

日系企業の体質改善には、これら三つの分野の改善が求められます。

 

図2: 業務や組織が「肥大化」しやすい日系企業

無駄の見つけ方:製造

製造分野で無駄を見つけるには、同等の品質レベルを中国企業が約3割安く提供しているという状況を想定し、その差がどこから生まれるかを見極めます。

人員(直接・間接)

工場の間接部門が過剰でないかを重点的に見ます。工程検査や完成品検査にかける人数・工数が競合と比べて過剰でないかを確認します。

品質基準

日本の基準をそのまま持ち込んで運用していないかを確認します。顧客が80点で十分と考える領域に100点基準を適用すると、余分なコストと検査工数が発生します。検査項目を都度追加した結果、長年の間に工数が累積し、人員過剰につながっているケースがあります。

顧客対応の優先順位

全顧客に100%の力を割くと重要顧客への集中が困難になります。重要顧客への優先対応を定着させられるかどうかが業務効率化の鍵になります。

購買条件

原材料・部品の仕入先と価格を競合と比べます。同等品質を維持したままのコスト削減が可能か、貿易会社などの中間流通で、価格が高くなっていないかどうかなどを点検します。自社仕様に合わせて仕入先にカスタマイズを求めると、追加作業が発生し価格に転嫁されるため、同じ仕入先から買っていても自社だけ高いという状態が起こり得ます。

無駄の見つけ方:営業

営業では、本来確保すべき顧客との対話時間が、社内報告や事務処理に奪われていないかを確認します。

まず営業1人当たりの担当社数や売上を競合と比較し、次に訪問数や商談件数などの活動量を比較します。例えば、1カ月の営業日数を20日と仮定すると、1日あたり何社訪問できるか、1社にどれだけ時間を割けるかが算出できます。重要なことは、内勤の事務処理や社内報告に多くの時間が取られていないかを確認することです。内勤業務に時間を奪われて顧客対応が減れば、それが営業活動量の低下につながります。

日報や月報が、振り返りや次のアクションにつながっていない場合、単に作業時間を費やすだけになってしまいます。日報・月報の作成負担をITの活用などで軽減し、営業が顧客と話す時間を増やせるようにすることがポイントです。

商談では、意思決定の速度が勝敗に直結します。日系企業は商談を持ち帰り、社内調整に1〜2週間かかることもある一方、競争力のある中国企業は商談の場で決定して受注を獲得する例が多く見られます。受注を優先し、仕様変更やカスタマイズ提案まで踏み込んで商談を前に進めるという姿勢が有効です。

商談速度や粘り強い交渉力が受注を獲得できるかどうかの鍵となります。会社が安定している局面では、現行の人材構成が適している場合もありますが、シェア低下から成長回復が必要になる局面では、機動力のある人材が必要です。そのため、採用・評価・育成を含む人事の設計変更も検討対象になります。

 

図3:営業における無駄の見つけ方

企業変革を定着させるための要点

環境の変化に適応するためには、企業変革が必要です。ただし、製造プロセスや品質基準を大胆に変更する、あるいは大幅な人員削減を実行するといった急激な変革は現場の反発や混乱を招きかねません。まずは現場でできることから始め、小さな成功を積み上げることが現実的です。その際、従業員が心底納得し、実行に結びつくようにすることが重要です。

経営層の思いはなかなか伝わらないものです。期初の説明会などだけで、現場の行動が変わるということはあまり期待できません。ラーニングピラミッドの考え方では、一般的な定着率は、講義を聞くだけの場合は約5%、本を読むなどのインプットを含めてもせいぜい15%程度にとどまるといわれています。一瞬の感動や記憶だけでは現場での行動変容には結びつかないため、きちんと納得してもらうことが必要です。

定着率を高めるためには、「納得⇒実行⇒教える」の流れを作ることが有効です。納得した状態から、実行可能な状態へ移り、さらに他者に教えられる段階に達して初めて変化が定着します。これには時間と段階的な取り組みが必要です。

具体的には、経営メッセージはトップから一度伝えるだけで終わらせず、その後上級管理職から一般管理職に、さらに一般管理職から一般職員に説明・指導するといった形で、繰り返し伝える制度を設計します。これによって、戦略が現場に浸透しやすくなり、実行につながりやすくなります。

会社が変わり始める状況についても整理します。イノベーター理論を組織に当てはめると、イノベーターが2.5%、アーリーアダプターが13.5%で、合わせて16%の人が鍵になります。多くの組織では経営層から部長・課長クラスがこの16%に相応します。まずはこの層が心底納得し、自分ごととして変革を推進する意志を持つことが、出発点です。

変革の初期には抵抗が起こりがちです。頭では正しいと理解しても、他者に指示されると拒否反応が出るというのはよくあります。これを乗り切るためには、意図的に小さな成功を設計して早めに実現し、「やった方が良い」と実感させることが効果的です。小さな成功を素早く積み上げることで、変革のスピードが上がります。

また、PDCAの設計では、P(計画)やC(評価・分析)に過度に時間をかけず、D(実行)とA(改善・アクション)に比重を移すことが重要です。

まとめ:現状を見極め、戦略的選択で競争力を向上

コスト競争力と意思決定の速さが鍵となる中国市場において、日系企業は厳しい競争環境にさらされています。中国企業は顧客価値と収益性を軸に業務を徹底的に効率化することで、競争力を維持しています。

競争力の向上を目指す日系企業がとるべきアプローチは、業務内容、工数、合意形成などにおいて、非効率的なやり方が恒常的になっていないか現状を見極め、戦略的な選択によって効率化を目指すことです。

実行にあたっては、変革を推進するリーダー層を確保し、経営メッセージを組織内に浸透させ、小さな成功体験を積み上げながら、PDCAの比重をP/CからD/Aへと移すことが重要です。

一つの視点として、本稿で示した着眼点や進め方が、現場での検討や意思決定のご参考になれば幸いです。

本レポートの全文を、下記よりダウンロードいただけます。

執筆:上海現地法人 山田商務諮詢(上海)有限公司
(山田コンサルティンググループ株式会社 中国現地法人)

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