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更新日:2025/05/19
テーマ: 03.海外ビジネス
タイのエネルギーセクターの現状と展望
目次
タイのエネルギー事情
タイは、経済成長のエンジンである国内の主要一次エネルギー資源の枯渇懸念があり、再生可能エネルギーへシフトする動きが進み始めています。タイ政府もエネルギー事業関連の投資を奨励しており、今後は広く民間へ開かれた事業として、日本企業にとっても大きなビジネスチャンスとなると期待され、2018年には日系企業が民間企業単独としては初となるガスの配給事業を開始しました。
本レポートでは、タイのエネルギー事業を取り巻く環境について、各種データの推移から政府の取り組み、そして今後の見通しまでを解説します。


タイのエネルギーは、輸入に大きく依存しており、2018年の一次エネルギー供給量(TPES)に占める輸入の割合は50%を超えている。エネルギー省によると、タイのエネルギー自給率(国のエネルギー安全保障を図る指標)は低下傾向にある。また、タイは原油については純輸入国だが、石油製品については純輸出国である。
原油、天然ガス、再生可能エネルギー、石炭、褐炭がタイの一次エネルギー資源であり、通常、他のエネルギー形態に転換されてから利用される。

<生産>
2018年のタイの一次エネルギー生産量のうち、最も大きい割合(約63%)を占めたのは、商業エネルギー※1である。これに26%の再生可能エネルギー※2、および11%の従来型再生可能エネルギー※3が続く
※1 石炭・褐炭、電気、石油・石油製品など市場から決まった価格で入手可能なエネルギー
※2 太陽光、風力、水力、バイオマス、バイオガスなど自然界で無限に入手可能なエネルギー
※3 石炭、もみ殻、まき、農業廃棄物によるエネルギー、従来特に農村部の家庭で回収・利用されている
天然ガスは過去においては数十年にわたって、タイの一次エネルギー生産における圧倒的な主役だった。しかし、タイの化石燃料資源(石炭、石油、天然ガス)はここ数年減少傾向で、近い将来枯渇すると予想されている。
天然資源が徐々に枯渇しつつある状況を受け、政府は代替エネルギープロジェクトやインセンティブプロジェクトを支援することで、電力構成に占める再生可能エネルギーの比重を高め、発電源の多様化を進める取り組みを強化している。
再生可能エネルギーは、2014年から2018年にかけて年平均成長率12%という目覚ましい勢いで生産量が増え、タイにとって欠かせないエネルギー資源の1つとなっている。タイは農業資源に恵まれていることもあり、バイオマスが国全体の再生可能エネルギー生産の中で大きな割合を占めている。一方、再生可能エネルギー関連事業への投資に対する政府の支援のおかげで太陽光と風力の発電量も急激に伸びている。さらに、過去2年間にわたって降水量や貯水池水量の増加で水力発電量も急増した。

これまでのところタイの太陽光、風力、水力は、全て発電用である。タイでは、太陽光パネルの設置方法として主に2つの種類がある。1つは屋根の上、もう1つは地面に設置するものである。3つめの新たな種類として、2019年の初めにタイ王国発電公社(EGAT)がハイブリッド型の水上に浮かべる浮体式の太陽光パネルを発表した。2037年までに水力発電ダム9ヶ所の水上に約16の浮体式ソーラーファームが設置される計画である(合計発電能力:2.7 GW)。この初の浮体式ソーラーファームプロジェクトのEPC(設計、調達、建設)の入札は2019年内にも実施されるとみられている。
現在のところ、太陽光パネルは屋根上よりもソーラーファームに設置されている割合の方が大きい。しかし、今後10年間にわたって国内各地域で住宅の屋根に太陽光パネルを設置するライセンスを付与するとの政府の発表があったことから、今後屋根上に設置される割合は急激に増加するものと予想される。これは、太陽光発電に関してタイ政府が実施する2回目の取り組みである。2003年に行った1回目の取り組みでは、太陽光発電は自家消費しか認められず上手く行かなかった。しかし今回は余剰分をタイ王国発電公社(EGAT)に売却することが認められている。
タイでは主に2種類のバイオ燃料、エタノールとバイオディーゼルが生産されている。エタノールはサトウキビと糖液を原料に、バイオディーゼルはパーム油から作られ、E10、E20、E85、B7、B10、B20、B100など多数の製品が市場で販売されている。これらの製品は、含まれるエタノールおよびディーゼルの割合がそれぞれ異なる。例えば、E10にはエタノールが10%含まれ、B7にはパーム油から作られたバイオディーゼルが7%含まれる。タイのパーム油市場は供給過剰に陥っているためエネルギー省は、再生可能エネルギー利用の促進に加えてパーム油市場の供給過剰の解消も目的とし、タイ全土でのB10の消費を奨励することを計画している。
まき、石炭、もみ殻など従来型再生可能エネルギー(主に家計部門で消費される)の生産量は一次エネルギー供給量全体の約62%を占めているものの、生産・消費の両面で減少傾向にある。

<消費>
タイのエネルギー最終消費量は長年増加傾向にある。2018年については、商業エネルギー(特に石油製品と電気)が最も多く消費され、これに再生可能エネルギー、従来型再生可能エネルギーが続いた。また、事業セクター別では、交通・運輸、工業が全体の約4分の3を消費した
石油製品のほとんどは運輸・交通セクターによって消費されている。しかし原油と石油製品の輸入への依存度が高いことを懸念するタイ政府は、公共交通機関などでバイオ燃料を使用したり、バイオディーゼル生産者に対して税の優遇措置を適用したりするなど、石油系燃料からバイオ燃料など代替エネルギーへの移行を強く推し進めている。
2018年に電力消費の割合が最も大きかったのは、製造業、商業および家計部門である。また、エネルギー省公表の報告書によると2018年は、食品、鉄鋼・非鉄金属、エレクトロニクス、自動車関連、2017年は、デパート、不動産、ホテル、小売の電力消費量が多かった。
政府は2019年4月に新たな電力開発計画(PDP)を発効し、2018年から2037年までの20年間の電力需要予想を示した。同20年間の年間平均成長率を、全国平均としては3%、首都圏対しては国内最高の3.8%と予想している。

タイ王国発電公社(EGAT)による発電量の割合は、現在の35%から2037年末には24%に減少する一方で、民間部門の独立系発電事業者、小規発電事業者、零細発電事業者の発電量が増加するとみられる。
タイの再生可能エネルギーの消費量は過去2年間増加傾向にある。2018年の代替エネルギー消費量は最終エネルギー消費の15%および電力消費の17%を占めた。
代替エネルギーは、電気、熱、バイオ燃料という形で消費される。消費量が最も多いのは熱で、これに電気とバイオ燃料が続く。しかし、代替エネルギーの消費を成長率でみると、太陽光、風力、水力が際立って大きい。

<輸入および輸出>
原油がタイにとっての主要なエネルギー輸入品目となって久しい。上述の通り、現在タイは原油の純輸入国であり、原油供給量の約83%を輸入に頼っている。国内の資源が減少傾向にあるため、この割合は今後さらに高くなるだろう。タイが輸入する原油の3分の2以上は中東および極東からのものである。
原油に次いで2番目に多いエネルギー資源は石炭である。タイの工業セクターが需要の高まりを受けて徐々に褐炭から石炭へと移行したことや国内資源が徐々に枯渇しつつあることで、過去数年間で石炭の需要が高まった。2018年の石炭供給量の約63%は工業セクターが、それ以外は火力発電所が消費した。

液化天然ガス(LNG)の使用が大幅に増加しているため、天然ガスの輸入が増加傾向にあり、この傾向は今後も続くことが予想される。タイ政府が競争力強化のために天然ガス事業を自由化しようと、PTT PLC(タイで唯一のガス事業およびLNGの輸入を行う)以外のLNG輸入業者からも購入することを決めたためである。現在購入契約の締結がなされ、今後は最安値で供給する会社が選定され、2019年内には出荷開始の予定である。
電気は、輸入量としては少ないものの、成長率では他のどのエネルギー輸入品目よりも大きい。ミャンマー、ラオス、カンボジアなど隣国からの電気の購入は、タイのエネルギー計画の中に組み込まれている。これは発電所や電力供給設備を自国で建設するリスクを軽減することにつながると考えられているためである。さらに隣国との良好な関係につながるとも考えられている。
輸入量に比べてタイのエネルギー輸出量は少ないが、タイは石油製品の純輸出国である。エネルギー輸出に占める割合が最も高いのは石油製品(約90%)で、これに原油、従来型再生可能エネルギーが続く。シンガポール、マレーシア、CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)がタイにとっての主要な精製燃料市場である。
エネルギー事業関連の投資を奨励
タイの外国人事業法には、外国企業による発電事業活動に対する制限はない。政府は、以前および直近の電力開発計画(PDP)の中で、タイのエネルギーセクターの拡大における民間投資の役割は極めて重要なものであると明確に述べている。
タイでのエネルギー投資に対する国内投資家の反応は一様ではない。発電事業のライセンス取得や電力購入契約(PPA)締結が活発に行われている一方、電力需要の高い潜在成長力や投資商品などの点で国外市場にこそより大きな事業機会があるとみる投資家もいる。
エネルギー省によると2017年の再生可能エネルギーへの投資額は約136億バーツで、内訳をみるとバイオマスが最も多く、それに廃棄物、太陽光が続く。
タイ政府が支援する主な取り組みは以下の通りである。

▼固定価格買取(FIT)制度
-政府と代替エネルギー生産者との間で長期契約を
結ぶ。代替エネルギーによる電気は10年から25年
の間、固定価格で買い取られる。
-固定買取価格の構成は以下の通りである。
1) FITF(固定買取価格):初期投資費用(建設費な
ど)、耐用年数期間中の運営費および維持管理費を
基に算定される。
2) FITV(変動買取価格):インフレ率に従って毎年
変動する原材料費の価格上昇分を基に算定される。
3) FITP(プレミアム価格):南部国境の特定の県・
地域内でのプロジェクト、またはバイオ燃料プロジェクトに対して上記に上乗せして支払われる。
-IT制度では小規模な電力生産者に対してより高額の補助金が支払われる。補助金の額で高い順に 並べると、屋根上太陽光パネル、廃棄物、風力に関するプロジェクトとなる。
-2019年中の運営開始を見込んで2019年の第2四半期中には住宅屋根上の太陽光パネルに適用される新規FIT制度が導入される予定。その他の再生可能エネルギーのプロジェクトとは異なり、競争入札で選定される見込みである。2018年の電力開発計画(PDP)によると、住宅の屋根上太陽光パネルに対するFIT制度では、申し込み順に1kwhあたり1.68バーツ以下で、年間100MWが今後9年間にわたって買い取られるとされる。これは住宅の屋根上太陽光による発電の消費を推進させることを目的としており、前回2013年の取り組みでは認められていなかった政府への余剰電力の売却が認められる。

▼タイ投資委員会(BOI)
-2014年以降BOIは、主に免税、機械に対する輸入関税の免除、非税制のインセンティブなどによって代替エネルギープロジェクトを支援している。以下はBOIによる投資支援の内容である。
-以下のプロジェクトに対して、8年間の法人所得税の免除、機械に対する輸入関税の免除および非税制のインセンティブが与えられる。
✓農産物や農業廃棄物などを原料とする燃料の製造(例:バイオマスの液体燃料化、排水のバイオガス化など)
✓太陽電池および/または太陽電池材料の製造
✓ 廃棄物・廃棄物固形燃料・再生可能エネルギーによる電気の製造または電気・蒸気の製造
-以下のプロジェクトに対しては、5年間の法人所得税の免除、機械に対する輸入関税の免除および非税制のインセンティブが与えられる。
✓太陽光発電製品の部品および/または装置の製造
✓バイオマスの固形燃料およびペレットの製造
-その他の資源による発電に対しては、3年間の法人所得税の免除、機械に対する輸入関税の免除および非税制のインセンティブが与えられる。しかし、この優遇措置を受けることができるのは熱電併給システムがある発電所に限る。また、石炭を使用するプロジェクトの場合は、クリーンコール技術を使用する場合に限る。
タイのエネルギーセクターの見通し
タイでは、国内の主要な一次エネルギー資源が徐々に枯渇しつつあることもあり、タイのエネルギー構成における再生可能エネルギーの比重が高まっている。エネルギー事業の自由化を目的とする奨励策や関連法が導入または改訂されており、そのことがタイ企業、外国企業の両方に全く新しい事業機会を提供している。
最新の電力開発計画(PDP)によれば、バイオマス、太陽光、風力が今後の主な発電源になるものと期待される。住宅屋根上の太陽光パネルによる発電の入札がまもなく開始し今後10年程度は継続されるため、EPC(設計、調達、建設)や維持管理に関連するビジネス需要は大いに高まるだろう。
送電網も今後のタイにおける重要な研究開発および投資の対象になるものと思われる。電力の変動が大きい再生可能エネルギー発電の割合を増やすには、柔軟性の高い送電網が必要になるためである。当面、太陽光発電は自家消費または余剰分の政府への売却という選択肢しかないが、将来的にはブロックチェーン技術により、タイ王国発電公社(EGAT)などの中間業者を介することなく、消費者同士(C2C)つまり世帯間での電気の売買を可能にするプラットフォームが構築されるだろう。
タイは再生可能エネルギーに関して大きな潜在力があり、屋根上太陽光パネルなど特定の分野に大きな開発余地がある。新たなPDPが2019年4月に施行されており、これを受けて今後は、投資刺激を目的とする施策、さらにはエネルギーに関連するその他4つの計画※が策定および実施される予定である。
※4つの計画とは、①エネルギー効率計画、②代替エネルギー開発計画、③ガス計画、④石油計画を指している。
執筆:YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd.
YC Capital Co., Ltd.
(山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)
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