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更新日:2026/07/22

テーマ: 03.海外ビジネス

タイにおけるM&A ~買収・売却の最前線~

本稿は2026年7月7日開催のWebセミナーの講演内容を編集・要約したものです

 

タイのM&Aは、撤退、カーブアウト、組織再編の3パターンに大別されます。いずれの手法においても、売手・買手ともに経済合理性の検証、意思決定権者の把握、現地文化の理解が重要です。そのうえで、迅速に意思決定を行い、客観データに基づいて交渉を進めることが成功の鍵となります。

市場概況

日系企業によるタイのインバウンドM&Aは中期的に増加傾向で、直近では支配権を取得する案件が高水準にあります。タイのインバウンドM&A件数において日系企業は約20〜25%の割合を占め、年間約20件前後で推移しています(公開データ集計ベース)。弊社が直近半年で扱った案件では、対象企業の約83%が非上場で、業種は製造業が中心です。加えて食品・飲料(F&B)、ヘルスケア、コスメ等にも広がっており、案件規模は概ね10〜30億バーツ(約50〜150億円)の範囲に集中します。投資目的は製造拠点やサプライチェーン確保、ブランド・販路獲得、技術移転など多様で、近年は消費市場獲得を目的とするニーズも増えてきました。一方、売却側では後継者不在が顕在化し、エグジット需要を下支えしています。

 

ここからは、撤退、カーブアウト、組織再編の順に、実務上の勘所について解説します。

撤退の判断基準と実務の要点

撤退要因

主な要因としては、進出時の戦略ミス、内部ガバナンスの不備(後継者不在や駐在員のコミット不足)、あるいは外部環境の変化(競合激化、為替・金利上昇など)があげられます。

 

実行前の準備

売却と清算を比較する「清算バランスシート」を作成し、清算費用、残余資産、税務の影響、債務処理の見込みを明確にすることが必須です。これにより、撤退の経済合理性を定量的に示し、関係者の合意形成が得やすくなります。

 

アプローチ

売却候補は既存取引先や競合、近隣の工場など現場に近い買手に優先的に当たるべきです。むやみに広範な打診を行うと情報漏洩や風評リスクを招くため、ターゲットを絞って戦略的に接触することが重要です。

 

事例

長年赤字の製造業が清算シミュレーションを経て会社売却を選択し、取引先が土地・設備取得を目的に買収して成立したケースがあります。早期の数値提示と買手の事業意図の把握が成立を後押ししました。

 

カーブアウトの選択肢と注意点

カーブアウトは会社全体の売却、事業単位の切り出し、部分的な事業売却などの形態があり、残存会社が生じる場合は清算やライセンス継承が発生する点に注意が必要です。

 

ストラクチャー検討

各選択肢の利点と欠点を整理し、ライセンス移転、資産の切分、従業員処遇などの実務論点を事前に洗い出すことが欠かせません。

 

具体的対応

事業別の外部環境と収益性分析、許認可の移転可否確認、資産・負債の切り分けルール策定、Change of Control(COC)条項の事前確認と情報管理の徹底などが必要です。

事例

物流会社が不採算事業を分離して売却し、ライセンスの再取得手続きなどを整理して実行したケースがあります。許認可と従業員処遇を早期に固めることが成功要因となりました。

 

組織再編(JV解消・持分整理)における契約と交渉

合弁解消や持分買い取りに際して、まず合弁契約条項(JVA)を精査し、譲渡価格の算定ロジック(契約根拠、DCF、類似事例、資産評価)を確立することが最初の一手になります。

 

交渉の姿勢

感情論を避け、業績データや再生コスト、閉鎖費用などの客観的根拠を積み上げて提示することが有効です。これにより合意形成がスムーズになります。

 

実務的対応

譲渡条項や評価方法の確認、再編後の株主構成と外資規制の検討、閉鎖費用負担の分配と合意プロセスの設計を行う必要があります。

 

事例

持分の不均衡が経営を阻害していた企業が持分買い取りと負担分配の合意により製造を縮小し、卸売に特化したことで黒字化したケースがあります。現実的なコスト配分と段階的実行が功を奏しました。

 

日系企業の買収アプローチ

買収のソーシング手法は取引先買収、能動的探索、FAやM&Aブティック経由の案件紹介があり、並行して実行するのが有効です。投資前に投資スコープ(販路・ブランド・技術・人材等)、必要持分(マジョリティ要否)、業種・規模の基準を明確にしておくことで案件の効率化が図れます。

 

交渉・文化面の留意点

タイではトップダウンでの意思決定が多く、真の意思決定権者を把握して直接アプローチすることが重要です。面と向かって断らない文化があり、表面的な発言だけで結論を判断しないよう注意が必要です。

 

交渉上の障害

高い価格期待、個人売却益課税など税務の影響、資料不足(会計・開示の不備)が挙げられます。対応策としては、清算シミュレーションなどの客観データで期待値を調整し、意思決定プロセスに合わせたスケジューリングと税負担の早期説明を行うことです。

 

最後に、上記のすべてのM&Aタイプに共通する実務プロセス上の主要な確認ポイントをまとめました。

準備段階

M&A戦略の明確化と清算バランスシート作成、JVA・主要契約の初期確認

候補探索

ショートリスト化と優先順位付け、機密保持の整備

交渉段階

期間を区切った打診とNBO→BOのスケジューリング、客観根拠の提示

DD段階

会計・税務・労務・契約・許認可の影響についての重点的な確認

実行段階

納税影響、ライセンス移転、従業員対応、クロージング手続き

本セミナーのさらに詳しい内容については、下記からアーカイブ配信およびセミナー資料をご参照ください。

執筆:YAMADA Consulting & Spire(Thailand) Co., Ltd.
(山田コンサルティンググループ株式会社 タイ現地法人)

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