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コラム

2021/08/03

テーマ: 02.M&A

土木工事業界の課題とM&Aの最新動向を事例も交えて解説

はじめに

土木工事業界は、国や地方自治体からの受注を大きな軸として成立している業界です。国土強靱化基本計画によるインフラ整備の推進によって、ここ数年は業界全体が堅調に推移していました。しかし新型コロナウイルス感染予防対策に多額の国家予算が投入されており、今後、公共事業への予算は絞られることが予想され、将来を楽観視することはできません。そうした状況の中で土木工事業界のM&A市場はどのような動きを見せているのか、具体的な事例も交えて、弊社コンサルの今田雄大が解説します。

目次

1.土木工事業界の定義と仕事の具体的な種類

最初に土木工事業界とはどんな業種が含まれているものであるのか、その定義を説明します。

(1)建設業法上における土木工事の定義

土木工事は建設業の中に含まれ、土木事業に関する工事に対して使われる言葉です。
建設業法上では建設工事は2種類の一式工事と27種類の専門工事に分けられ、その工事の種類に応じて業種ごとに許可を受けることとされています。

その2種類の一式工事の中の1つにあたるのが土木一式工事です。
「一式」という言葉が使われているのは複数の仕事が含まれており、土木事業の企画・指導・管理を担当する総合的な業種と定義されていることによります。

通常、「土木工事業界」と表現する場合には、土木一式工事の他に大工工事、左官工事、とび・土工・コンクリート工事、石工事、舗装工事、しゅんせつ工事など、さまざまな種類の仕事が含まれるのです。土木工事には多様な工程があるため、複数の業種の会社が同時に関わって行われるのが一般的な進め方となっています。

(2)土木工事と建築工事の違いとは?

建物を建設する建設工事は、大きく土木工事と建築工事に分けられます。

「建築工事」は主に人が暮らしたり、活動したりするための空間や建物を建設することです。
一方で、「土木工事」は人が生活するのに必要なものや便利にするためのものを作る工事であり、建築以外の建設工事全般ともいえます。

しかし、広義においては、どちらも設計図に基づいて建造物を作る作業であり、建築工事なのか土木工事なのかの境界線は明白ではありません。脆弱な地盤に建造物を建設するにあたり、基礎では安定しない場合に、深く杭を打ち込んで建造物を支える「杭基礎」と呼ばれる工事が良い例です。

杭基礎は地面の下がメインの工事ですが、杭を打った土台の上に建てるのがマンションやビルなどの建造物ならば建築工事、橋梁や道路ならば土木工事と使い分けされています。
同じ工事でも目的によって言い方が変わるのです。ただし一般的な現場の認識では、土木工事は地面の下、建築工事は地面の上という認識で区別されることが多いようです。

(3)土木工事は多岐にわたっている

土木工事を具体的な作業の内容で分けていくと、かなり細かく分類されます。
地盤を固める作業1つをとっても、土を掘り起こす作業、土を盛り上げる作業、締固めする作業などがあり、工程ごとに担当している会社が違うケースが従来は多くありました。

しかし、近年は一貫して工事を請け負う工事業者も増えてきています。
また発注者により、工事を実施する場所やその工事内容は異なり、通常はここからここまではA社、ここからここまではB社と分担して土木工事を行っています。

(4)土木工事のメインは公共投資によるインフラ整備

土木工事の需要を下支えしているのは道路や河川や港湾の補修・整備などです。つまり公共投資によるインフラ整備がメインの事業になります。
そのために国家予算における公共投資割合と業績とが連動してしまうのが土木工事業界の大きな特徴になるのです。

2.土木工事業界の現状と問題点、将来の展望

国土強靱化基本計画、オリンピック誘致、インバウンド需要などによって、ここ数年、建築業界全体は活況を呈していました。コロナ禍の影響によって、土木工事業界はどうなっているのか、現状と展望を説明します。

(1)コロナ禍の影響は見られず現状は堅調

土木工事業界全体の最新の収支における新型コロナウイルス感染症の影響ですが、現時点ではさほど顕在化しておりません。1回目の緊急事態宣言を受け、一部の工事が中断することはありましたが、安全面を確保した上で再開されました。
また建設ニーズは減ってはおらず、今後も対策を進めながら仕事を進めていくことができるため、現状は堅調、横ばいが続いている状況です。しかし、明確な集計はあとあと出てくるものなので、現時点で結論づけることはできません。

日本は自然災害の多い国です。震災、台風、豪雨などにより、道路の陥没、建築物の倒壊、河川の氾濫などの被害がたびたび起こっています。現在、相次ぐ災害をきっかけに、老朽化したインフラを見直す動きもあります。
国土強靱化基本計画が推進されており、従来の復興工事に加えて、新規建設だけでなく老朽化したインフラの整備や維持管理の需要の拡大が見込まれています。

令和三年度以降の土木に関わる公共投資に関しては、「新型コロナウイルスの影響が出てくるのではないか」という意見も多くあると思います。実際、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、民間の建設投資は大幅に減少することが見込まれますが、新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ景気を下支えするため、政府建設投資については前年度並みを維持すると予測しています。

(2)土木工事業界全体のトレンドの変化

戦後から高度経済成長期、バブル景気など日本の経済成長を支えてきた土木工事業界も長いスパンで考えれば、今後は厳しい状況になると考えています。なぜなら、既に大きな工事をする必要がさほどないからです。

かつてはそもそも道路がなかったので、道路を作るところからスタートしました。現在は基本的なインフラは既に整備されている状況があります。将来的には公共投資は減少していくことになるでしょう。
今はオリンピック等の特需がありますが、特需が終わりを迎えた後、国内は人口の縮小もあり、建設事業の需要減少は避けられない見込みです。つまり長期的に考えると、土木工事業界全体としてはマイナス成長と予測されているのです。

しかし、ニーズの高い工事の業種に変化が見られます。
以前は「新たに作る工事」がメインでしたが、現在は「直す工事」、つまり補強・修繕・解体などの需要が増加する傾向にあります。土木工事業界全体としてはマイナス予測ですが、一部の業種では将来的にも安定した受注が見込まれています。

(3)土木工事業界では人手不足と高齢化の問題が顕著

日本の産業全般でも人手不足と高齢化が問題となっていますが、特に際立っているのが土木工事業界です。建設投資は堅調に進んでいるのに、就業者が減少しているという現状があります。
しかも従業員の中で高齢者の占める割合が高く、年々高齢化が進行しています。

(4)地方では廃業する会社が増加

人手不足と高齢化とも連動した問題ですが、廃業する会社が増えていることも大きな問題となっています。特に廃業が目立つのは資本金1000万円以上5000万円未満の規模の会社、いわゆる地方の中堅および中小企業です。

建設業界では慢性的に人員が不足しており、特に中堅・中小企業では技術者の平均年齢が上がってきています。
技術者が高齢になり退職すると、せっかく受注できる工事があっても、それに対応できる技術者がいないため、その工事は受注できず、売上が減少し、利益が減り、経営が難しくなります。

また、建設業では許認可を取得する必要がありますが、専任技術者や経営業務の管理責任者が退職すると、建設業許可の要件を満たさなくなり、その許可が必要な工事はできなくなります。
なお、建設業許可がなくなっても、軽微な工事や他の許認可のある工事の施工はできます。

また、土木工事は営業所が所属している都道府県で許可を取らなければならないので、基本的には業務がその地域に限定される傾向にあります。つまり、その地方における受注動向の影響が大きく出てしまうのです。関東エリアと比べると、地方での公共投資の金額は少ない傾向があるため、より厳しい状況にあるといえるでしょう。

3.土木工事業界ならではの特徴と動向

土木工事業界は他の業界とは違った独特の構造を持っています。その特徴と、最新の動向を解説します。

(1)公共工事入札制度には様々な方式がある

公共工事では歴史的に入札制度が採用されていますが、現在では公平を期すために、工事の種類によって、公募型指名競争、工事希望型指名競争、技術提案型競争など、さまざまな入札方法が採られています。透明性を維持して各社の競争力を公平に判断した上で決めるのが基本です。

(2)受注ビジネス

土木工事は受注方式のビジネスであり、受注があって始めてビジネスとして成立するという特徴があります。
土木工事と対照的なのは製造業です。誰が購入するか決まっていない状況で製品を作り、小売店に納品して消費者が買うという流れがあり、生産が主導的なビジネスになっています。

一方で、建設業界・ゼネコン業界は、発注者からの受注生産方式をとること、公共工事を入札で落札するなどの特性があります。その中で土木工事とは建設業許可において「総合的な企画、指導、調整のもとに土木工作物を建設する仕事」とされています。

(3)多重下請け構造のピラミッド型業界

一般的に知られているとおり、土木工事だけでなく、建築業界全体が多重下請け構造になっています。
元請けとなる大手の会社を起点として、土木のあるパートはA社、別のパートはB社、建物のこのパートはC社といった具合で分担して、さらにそのA社、B社、C社の下にも孫請けの会社がいるというピラミッド型の構造になっているのです。この構造は建設業界全体の特性です。

(4)人材不足問題の解決策として期待される技術革新

土木工事業界は慢性的な人材不足に悩まされています。
ここ数年で目立っているのは、AIやロボットを取り入れた省人化への動きです。現時点では一部の企業でしか実現していませんが、ドローンを使用した管理システムの導入もその流れの1つといっていいでしょう。

建設現場では工事の進捗状況を管理する必要があるため、これまでは一現場に一人は管理する人間が配置されていたのですが、ドローンを飛ばして、搭載されているモニターで確認することで人員の削減を進めているのです。
まだ実用化には至っていませんが、人間が行っていた作業を建設ロボットに分担させようという取り組みも行われています。

ITの世界でも人材不足解消の動きが見られます。「助太刀」という建設現場の人材マッチングアプリの登場もその1つでしょう。人手が足りない工事現場と工事をやりたいという人をつないでいくアプリが開発され、活用されています。IT技術の発達が人手不足の解消に一役買っているのです。

4.新たな潮流が見えてきたM&A最新事情

現時点では堅調な土木工事業界ですが、M&Aの市場はどのような動きが見られるのか、解説します。

(1)売却を希望する経営者が増加

土木工事業界を含めて建設業界は国内と海外、事業の拡大と売却の2つの二極化が進んでおります。自社の事業拡大のために、大手を中心に海外へ進出を進めている会社や国内の別エリアの買収を進める会社が増えております。
その一方で会社を売りたい経営者も増え続けており、今後もその傾向は変わらないだろうと予測しています。会社を売りたい理由は多岐多様に渡っておりますが、その目的は会社存続のための手段です。

十数年前にもリーマンショックの影響があり、民主党政権下での投資需要の落ち込みが加わって、土木工事業界で「会社を売りたい」という経営者が増加しました。「業績が悪化して立ちゆかなくなったので会社を売りたい」というのが大きな理由となっていたことが当時の特徴です。

その後、復興需要もあり、景況感が戻ってきて、「後継者がいないので会社を売りたい」「先行きに不安があるから会社を売りたい」という経営者が増加しました。後継者不在でM&Aを希望するケースは現在でもたくさんあるのですが、土木工事業界でM&Aを希望するトップの理由は人材不足です。
地方の中堅・中小企業において、業績には何も問題がないのに、新しい若手の人材が入ってこないために人手不足に悩まされ、「会社を守るためにも大手の傘下に入りたい」「会社を守るために別の会社と提携したい」と希望するケースが増えています。

(2)M&Aの買手は人材確保とプラスαを求めている

人材不足が理由で売りたいという会社が増えている一方で、人材を確保するために会社を買いたいという動機のM&Aも増えています。ただし人材確保だけではM&Aを実行する動機として弱いと考えている企業が多いというのが現状です。

プラスαの付加価値があるかどうかが、M&Aに踏み切るうえでの大きなポイントになっています。優れた技術力がある、特殊な工事をやることができるなど、明確な強みがあると、買手が見つかりやすいという傾向があります。

(3)隣接する業種が買手となるM&Aが活発化

土木工事業界だけでなく、建築業界全体に言えることですが、この業界のM&Aの1つの特徴としてあげられるのは、隣接する業種の会社による買収です。
例えば、電気工事を専門にやっている会社が基礎工事を専門としていた会社を買うなどのケースは珍しくありません。

これまでトンネル工事と道路工事を中心にやってきたけれど、河川をやっていなかったので、河川工事をやっている会社を買って、河川工事に進出していこう、といった具合で事業の拡大を目的としたM&Aが増加しています。また、建材を取扱う商社が商材を使用した又は使用できる工事会社を買収する事例も増えています。

(4)営業面でのプラスが大きい業務範囲の拡大

業務範囲の拡大は営業面でのプラスも期待できるでしょう。
例えば、ビル建設の発注をする場合に、これまではA社が元請けをやり、さらにB社に建物工事、C社に基礎工事、D社に配管工事を発注するというやり方だったとします。しかし発注者からすると、A社が「自社で建物も基礎も全部できます」ということになると、わかりやすいし、手間も省けるため、「全部任せよう」ということになる可能性が高くなります。
A社が役割を分担していた会社を買収することで、売り上げを伸ばすことが期待できるのです。

この他にもデベロッパーの役割も果たしている大手の不動産会社が建設会社を買うケースも目につきます。マンション開発をする場合に、マンション工事もできることにより、仕事を拡大する可能性が高くなるからです。

(5)海外の会社を買収するケースが増加

スーパーゼネコンと呼ばれる大手や準大手、中堅の建設会社が海外の会社を買収するケースも目立っています。M&Aをする目的は明確で、国内の建設需要が望めないと見ているからではないでしょうか。

社会インフラがまだ整っていない発展途上国の企業と組み、海外のインフラ整備を行うことによって、ビジネスを展開していく狙いがあります。また、大手は省人化につながる技術への投資やAI、IoT、ドローンをはじめとしたテクノロジー企業への投資も進めています。

(6)案件の大規模化に伴ってファンドの買収が増加

直近で少し変わってきたと感じているのは売手の規模が大きくなってきたことです。かつてはM&Aで売却を希望するのは小規模の会社がほとんどでした。しかし最近は売却希望の会社のサイズが大きくなっています。
地場ゼネコンといわれる会社、売り上げ10億から100億円クラスの会社は今までは買手になることが多かったのですが、売る動きが増えているように感じています。

案件が大規模化してきた1つの理由は、中堅以上の会社であっても単体で生き残っていくのが難しい現状があるからだと考えます。案件が大規模化したことによって、中堅の会社でも手を出せない買収金額になり、ファンドが会社を買うケースが増えてきています。
かつては同業者同士のM&Aがほとんどでした。しかし今は異業種やファンドなど、M&Aのプレイヤーも多様化しています。

5.M&Aでの売手と買手のメリット

土木工事業界のM&Aの売手のメリットと買手のメリットをそれぞれ分けて説明していきます。

(1)売手にとってのメリットとは?

売手にとってのメリットは以下のようなものがあります。

①後継者問題を解決して会社を残すことができる
②従業員の雇用を維持できる
③売却益や譲渡益を確保できる
④会社を成長させることができる

①から③までは土木工事業界だけでなく、すべての業界のM&Aに当てはまるメリットでしょう。

土木工事業界のM&Aのトレンドとなっているのは「会社を成長させるための売却」が増えてきている点だと考えています。復興需要が一巡し、中堅・中小企業が「自社単独ではこれ以上の成長がのぞめない」と判断して、大手企業に譲渡することで成長を目指すM&Aが増える傾向があります。
大手企業の傘下に入ることにより、自社が持っていない技術力やノウハウ、新しい視点、資金を活用することによって、会社を成長させることを目指した「戦略的なM&A」と位置づけることができるでしょう。

(2)買手にとってのメリットとは?

買手にとってのメリットは以下のようなものがあります。

①新規事業への参入
②事業の拡大
③営業エリアの拡大
④人材不足の解消
⑤技術やノウハウの獲得
⑥海外進出が可能になる

①と②と⑤は隣接業種の会社を買収することによって期待できるメリットです。

③は土木工事業界ならではのメリットといえるでしょう。土木工事業界は都道府県ごとの許可制であるため、エリア戦略を目的として、他の都道府県にある会社を買い、自社グループの1拠点とするケースが目立っています。
準大手・中堅の会社が国内の足元を固めるために、自社の弱いエリアの会社を買収して、勢力拡大を目指すケースは少なくありません。

④と⑥は前述したように、M&Aによって土木工事業界の構造的な問題を解消していくメリットが見込まれます。

6.M&Aを行う場合の注意点

土木工事業界でM&Aを行う場合にすべき準備、注意点などを解説していきます。

(1)M&Aの売手が注意すべき点とは

M&Aをするには事前に計画を立てて準備する必要があります。日頃から心がけていくべきことを中心に解説します。

①従業員の引き継ぎをしっかり準備しておく
土木工事業界は古くからの風習が引き継がれているケースも多く、「親方についていく生業」といったニュアンスのある会社が数多くあります。会社を売却しても社長が会社に残るならば、技術者の流出の可能性は低いと言えるでしょう。
しかしほとんどの場合は社長が交代することになります。新しい社長のもとであっても、従業員に変わらず気持ち良く働いてもらうためには人間関係の構築が不可欠です。

従業員が信頼を置いている若頭的な存在がいる場合は、引き続いて従業員を統率してもらえるように依頼するなど、準備をしておく必要があるでしょう。

②工事台帳で実績や受注記録を管理する
土木工事業界には工事台帳があるので、実績や受注記録を管理しておくことが大切です。技術的な記録とともに実務的な記録をつけておくことが財務でのPL(損益計算書)の正しさを確認する材料にもなります。

すべての工事が設定した実行予算通りに終わることはないでしょう。工事期間の延長や、工事の種類変更、材料の変更等があります。中には赤字になる工事もあります。実行予算の設定が問題だったのか、不運な天候が原因なのかなどその要因を買手は確認します。
PLが不正確だと、買手がためらう要因になる可能性があるため、日頃から受注記録や工事台帳の管理を適切に行い、整理しておくことが重要なのです。

③自社の企業価値評価を確認しておく
土木工事業界に限らず、すべての業界にいえることですが、売却を検討する際には、自社の市場評価がいくらぐらいになるのか、確認しておく必要があります。その評価を参考にして、これぐらいの評価をしてほしいという希望売却価格を設定します。

(2)M&Aの買手が注意すべきことは?

買手が注意すべきことについて、説明します。

①従業員の残留の確認
土木工事業に関わらず、従業員がいないと成り立たないビジネスは多いと言えるでしょう。土木工事では施工管理技士など有資格者がいないと、売り上げが立たないビジネスなので、まずは従業員、特に有資格者が残ってくれるかどうかを確認する必要があります。

売手の社長とコミュニケーションを取って、従業員をどんなやり方で管理しているか、従業員とどんな関係を築いているのか、従業員間のコミュニケーションの状況や従業員の中で若頭的な統率者がいないか、確認しておきましょう。

②会社の根本的なデータや元請けとの関係の確認
売手の根本的なデータを確認する必要があるのは、どんな業界のM&Aでも一緒です。
土木工事業界ならではのチェック・ポイントは元請けとの関係の確認です。売手の中には元請け会社との関係を気にするケースもあります。会社の売却先が元請け会社とライバル関係にある会社だった場合に、関係性を気にする経営者もいるのです。心情的な要素は考慮する必要があります。

ただし実務上での影響度は元請け会社と売手との関係性次第です。実際に元請けとの関係がしばりになるケースはほぼないでしょう。系列が一緒であるほうが会社としての風土が合う場合もあるので、参考にするくらいの意識を持っていることが望ましいと考えます。

③売手候補の財務内容を確認する
土木工事業界の社長は職人気質であることが多く、経理はすべて担当の従業員まかせという会社も数多く見受けられます。通常のM&A以上にしっかりと売手候補の財務内容をチェックしたほうがいいでしょう。

7.土木工事業界におけるM&A事例3選

2018年から2021年にかけての土木工事業界におけるM&Aを3事例紹介します。

(1)名門地場ゼネコンが国内中堅へ売却した事例

福島県でも有数の名門・地場ゼネコンである佐藤工業が2018年10月に準大手ゼネコンの戸田建設の子会社になりました。福島県内に拠点を持っていない戸田建設が福島県のエリアの営業を取る目的で買収したのです。

売手の佐藤工業は30年後を見据えて、従業員の雇用を守り、安定した経営を行っていくために決断したという内容のコメントを発表しています。買手の戸田建設にとっては同業他社の買収によるエリア拡大という目的があり、土木工事業界M&Aの典型的な例の1つと言えるでしょう。

(2)地場ゼネコンが投資ファンドに売却した事例

2021年1月29日に発表された最新の事例です。福島県内の地場ゼネコンである小野中村の株式を国内老舗ファンド、エンデバー・ユナイテッドが収得しました。
小野中村は東日本大震災からの復興を目指す地域のリーディング・カンバニーとしての役割を果たしてきた会社です。エンデバー・ユナイテッドは同業態への豊富な投資実績の経験を基に、小野中村の経営理念を尊重・理解したうえで、経営基盤を強化するために買収したとのコメントを出しています。つまり成長戦略として、ファンドに売却された事例なのです。

小野中村は4月1日からエンデバー・ユナイテッドの投資先である山和建設と統合することを発表しました。高齢化が進む中での深刻な技術者不足解消と、競争激化が進む中での受注エリア拡大を狙う戦略であり地域連合型ゼネコンとして統合後は事業、財政面などで連携を図り、技術者の積極的な相互派遣を行います。
地場建設会社が抱える深刻な問題を解決するための新しいモデルケースになる1つの事例と言えるでしょう。

(3)地場土木工事会社が異業種に売却した事例

2020年7月に愛知県内の土木工事会社である山昇建設が、「ボンド」で知られている接着材、建材、補修材などの製造会社コニシによって子会社化されました。
コニシのプレスリリースによると、コニシが持っている補修・改修・耐震・補強工事に関する材料・工法・施工能力と営業ネットワークを活用することで、シナジーを発揮して収益拡大を目指すとのことです。異業種ではありますが、技術や材料に関しては共通する部分もあるため、互いの成長戦略が合致したM&Aといえるでしょう。

8.まとめ

ここ数年、土木工事業界全体としては堅調な状況が続いていますが、将来的な展望が拓けているとはいえない状況です。人材不足、後継者不足、多重下請け構造などの問題に加えて、受注メインのビジネスであるために成長戦略を立てるのが難しいなどの事情もあり、M&Aの重要性が増してきました。

最近の傾向として、成長戦略の一環としてのM&Aが目立っており、「守りのM&A」ではなく、「攻めのM&A」ともいえる選択をする企業が増えています。土木工事業界では長期的な視野に立ち、M&Aをひとつの選択肢として検討することにより、チャンスが広がる可能性があるといえるでしょう。

〈話者紹介〉

今田雄大(いまだたかひろ)

山田コンサルティンググループ株式会社 コーポレートアドバイザリー事業本部
M&A 事業部 マネージャー

早稲田大学法学部卒業後、大手都市銀行勤務を経て 2016 年に山田グループに入社。以降、M&A アドバイザリー業務に従事。中堅中小企業から上場企業、外資系企業、スタートアップ、投資ファンド等、幅広い顧客属性に対応。北米・欧州を中心にクロスボーダーM&A にも関与する。