コラム
更新日:2024/03/12 公開日:2024/02/09
テーマ: 02.M&A
インサイダー取引とは?対象行為や罰則についてわかりやすく説明
インサイダー取引とは、上場会社の関係者等が、その職務や地位により知り得た、投資者の投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報を利用して、当該株式等を売買することで、自己の利益を図ろうとするものです。
本記事ではインサイダー取引の定義や事例に触れながら、インサイダー取引を防止するための方法などを記載しています。
上場会社や取引に上場会社が含まれる方は特に知っておきたい内容となっています。
インサイダー取引の概要
インサイダー取引とは、上場会社の役員、従業員等が、仕事を通じて知り得た情報のうち、投資をする人の判断に重大な影響を与える未公表の情報を利用して、対象会社株等を売買することで、自己の利益を図る取引です。
内部の人間しか知りえない情報を知らされていない一般の投資者は、不利な状況で取引を行うこととなり、市場の公平性の観点から、金融商品取引法で禁止されています。
また、違反者は証券取引等監視委員会に刑事告発、課徴金納付命令の勧告を受けます。
インサイダー取引の定義
金融商品取引法第166条によると、インサイダー取引の定義は下記のように理解できます。
”上場会社の役職員など会社関係者が、その会社における業務等に関する重要事実を自身の職務等に関して知った場合、重要事実が公表される前に、当該上場会社の株式を売買すること。”
ここでの重要なポイントは、「会社関係者が」「職務上、未公表の重要事実を知ったときに」「その事実の公表前に当該株式の売買をすること」の3点です。
加えて気をつけなければならないのが、上記のうち「会社関係者」は役員や従業員以外の人でも、インサイダー取引とみなされることです。
こちらについては後述します。
インサイダー取引に当たるケース
■自社の重要事実を知った本人が株式を売買
A社の従業員であるXが、A社がM&Aによる譲渡を検討していることを知り、情報が公開されるとA社株価が上がると考えたXは、当該情報公開前にA社株式を購入した
■他社の重要事実を知った本人が株式を売買
B社の従業員であるYは、上司に印刷を依頼された資料から、取引先の上場会社であるC社の事業がうまくいっておらず、事業を大幅に縮小することを知り、当該情報公開前にB社株式を売却した。
■重要事実を伝え聞いた人が株式を売買
D社の従業員であるZは、取引先の上場会社であるE社がM&Aを進めており、事業拡大の見通しであることを知り、知人のFにE社の株式を購入するよう助言した。
上記のような取引が認められてしまうと、重要事実を知り得る人が圧倒的に優位な金融市場となってしまい、それ以外の人は投資しなくなってしまいます。
したがって、公平性の観点、市場の信頼性の観点から、投資する人を保護するためにインサイダー取引は禁止されています。
インサイダー取引を行った際の罰則
5年以下の懲役、もしくは500万円以下の罰金、これらの両方が科される場合があります。
また、違反者が法人名義で取引した場合には個人への罰則に加えて、法人に5億円以下の罰金刑が科されます。
さらに、インサイダー取引によって得た財産は全て没収、または課徴されます。
法令上定められている罰則は上記の通りですが、
インサイダー取引を行ったと公表されると、個人の場合は再就職が困難になることや、法人の場合には取引先からの取引停止など、社会的にも大きなダメージを受けることとなるでしょう。
インサイダー取引の規制対象者
インサイダー取引規制の対象となる人は大きく分けて、上場会社の関係者とその他に分けられます。
上場会社に勤務する役員や従業員以外にも、公表前の重要事実を知り得る人や、直接情報を伝達された人は規制対象者となります。
会社内部の例
インサイダー規制対象者のうち、会社内部の例は下記のとおりです。
・上場会社役員、従業員、パート、派遣社員など
・上場会社の財務情報など帳簿閲覧権を有する者
・上場会社の取引先、顧問先
・元会社関係者
上記の通り、上場会社に所属する役員や従業員以外にも会社内部の重要事実を知り得る人はインサイダー規制対象者です。
また、上場会社を退職した場合にも、退職して1年以内の人もインサイダー規制対象者となります。
会社外部の例
上場会社に所属していない人、内部情報を知り得る人以外でも、直接公表前の重要事実を知ったものはインサイダー規制対象者となります。
例えば、下記のような場合です。
・配偶者の勤務先である上場会社の重要事実を知った人
・上場会社に勤める友人から重要事実を直接伝えられた人
インサイダー取引における「重要事実」とは
上場会社の重要事実は下記4つに分類されます。
また、上場会社の子会社の情報は、上場会社の子会社が非上場であっても、親会社である上場会社の重要事実となります。
詳細な重要事実の一覧表が、証券取引所により公開されていますので、詳しくはこちらをご覧ください。
決定事実
1.株式又は新株予約権の発行(自己株式・新株予約権の処分を含む)
2.資本金の額の減少
3.資本準備金又は利益準備金の額の減少
4.自己株式の取得
5.株式無償割当て又は新株予約権無償割当て
6.株式の分割
7.剰余金の配当
8.株式交換
9.株式移転
10.株式交付
11.合併
12.会社分割
13.事業の譲渡又は譲受け
14.解散(合併による解散を除く)
15.新製品又は新技術の企業化
16.業務上の提携又は業務上の提携の解消
17.子会社の異動を伴う株式の譲渡又は取得
18.固定資産の譲渡又は取得
19.事業の全部又は一部の休廃止
20.上場廃止等の申請
21.破産・再生・更生手続開始の申立て
22.新たな事業の開始
23.公開買付けに係る対抗買いの要請
24.預金保険法74 条5項の規定による申出
日本取引所自主規制法人「こんぷらくんのインサイダー取引規制Q&A(金融商品取引法平成25年改正対応版)」より引用
発生事実
1.災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害
2.主要株主の異動
3.上場廃止等の原因となる事実
4.訴訟の提起又は判決等
5.仮処分命令の申立て又は裁判等
6.行政庁による処分
7.親会社の異動
8.会社以外の者による破産手続開始の申立て等
10.親会社に係る破産手続開始の申立て等
11.債権の取立不能又は取立遅延のおそれ
12.主要取引先との取引の停止
13.債務免除等の金融支援
14.資源の発見
15.取扱有価証券指定の取消原因事実
16.特別支配株主による株式等売渡請求
日本取引所自主規制法人「こんぷらくんのインサイダー取引規制Q&A(金融商品取引法平成25年改正対応版)」より引用
決算情報
業績予想、配当予想の修正等
日本取引所自主規制法人「こんぷらくんのインサイダー取引規制Q&A(金融商品取引法平成25年改正対応版)」より引用
対象となる財務数値は売上高、経常利益、純利益の3種類ですが、それぞれに軽微基準がありますので、
詳しくは上記引用元をご確認ください。
バスケット条項
決定事実、発生事実、決算事実に該当しないが、投資判断に大きく影響を与えるものです。
例えば、下記のような事実が挙げられます。
・架空の売上高が判明した
・上場会社が製造するものの検査数値が安全基準を下回っていることを改ざんしていた
・組織人事に関わる重要な事実
インサイダー取引の防止策
会社関係者のインサイダー取引を防止するためには、社内規定を始めとした社内体制を整備することや、情報管理を適切に行う方法が一般的です。
特に社内規定に関しては証券取引所より規定例が公開されていますので、こちらを参考にしてください。
社内における体制整備
■社内規定でインサイダー取引を防止する
役員や従業員などの上場株式売買を許可制、届出制にするなどが考えられます。
また、後述しますが情報管理の面でも社内規定で定めることでインサイダー取引を防止できます。
例えば、取引先である上場会社と接点がある場合には、情報を得た人をリスト化したり、当該情報の情報管理責任者を定めるなどの方法があります。
■社内研修
職務上他社の重要事実を得る従業員以外にも、自社の重要事実を知り得る従業員は社内に多くいることが想定されますので、
社内全体に対して定期的な社内研修を実施することで、インサイダー取引を防止することができます。
本記事に記載があるような、インサイダー取引の定義や重要事実の定義、罰則などを広く社内に知ってもらうことが重要です。
適切な情報管理
重要事実の会社としての取り扱いによってインサイダー取引を防止することができます。
自社が上場会社である場合には重要事実の公表のタイミングや、公表する事実の内容などに気を付けましょう。
また、取引先とのコミュニケーションする際や、外部からの取材に対応する際などは特に注意が必要ですので、事前に重要事実に該当する情報を把握するなど、準備を怠らないようにしましょう。
インサイダー取引の発覚方法
インサイダー取引は必ず発覚すると考えてください。
証券取引等監視委員会が日常的に厳しく調査、監視しており、不自然な株式売買を検知します。
特に重要事実が公表された銘柄を中心に、タイミングよく売買している取引や、関係者による取引は厳しく調査されます。
また、内部告発により発覚する場合も多いです。
この場合は会社と従業員の間でトラブルになる可能性もあり、事前に規定を整備しておくことや、弁護士や専門家への相談が不可欠です。
インサイダー取引に関するよくある質問
Q.損失が出た場合もインサイダー取引になるのか。
取引によって利益が出なかった場合もインサイダー取引に該当します。
インサイダー取引の定義には利益の発生や利益の金額は含まれておらず、未公表の重要事実を知りながら当該銘柄を売買した場合、基本的にインサイダー取引に該当し、罰則が与えられます。
Q.未公表の重要事実を知って、当該会社の株式を購入したが、売却せずに保有し続けている場合はインサイダー取引に該当するか。
該当します。
未公表の重要事実を知りながら株式を購入した時点でインサイダー取引に該当します。
インサイダー取引の定義には利益の発生や利益の金額は含まれておらず、未公表の重要事実を知りながら当該銘柄を売買した場合、基本的にインサイダー取引に該当し、罰則が与えられます。
Q.贈与によって上場会社の株式を譲渡する、または譲り受ける場合ははインサイダー取引に該当するか。
該当しません。
インサイダー取引規制の対象となるのは、株式の売買等となっており、売買や有償での譲渡もしくは譲受の場合にインサイダー取引に該当します。
したがって、無償で上場株式を譲渡、または譲受することはインサイダー取引に該当しません。
Q.上場会社が決算発表を行う直前・直後に関係者が株式を売買することは禁止されているのか。
禁止されていません。
インサイダー取引規制は「未公表の重要事実を知りながら」売買することを対象としています。
したがって、当該会社の未公表の重要事実を知らない場合ば、株式の売買は禁止されていません。
ただし会社によっては、リスク回避のため、社内規程で決算発表前後の当該上場会社の株式の売買を禁止している場合もあります。
まとめ
インサイダー取引は度々ニュースに取り上げられるものの、十分に理解していないと意図せずインサイダー取引に該当してしまうリスクがあります。
また、インサイダー取引には非常に厳しい罰則が設定されています。
「知らなかった」「うっかりしていた」が通用せず、刑事的にも社会的にも大きな罰則を受けることとなりますので、十分注意しましょう。
会社としては会社関係者がインサイダー取引をしてしまわないよう、情報取り扱い方法を含めた社内規定の整備することや、十分に研修を受けされることが重要です。
特にM&Aの場面は様々な関係者が重要事実を知り得えますので、インサイダー取引が発生するリスクが高い状況です。
情報の取り扱いや重要事実の公表のタイミングなど、専門家とともに綿密に計画を立てておく必要があります。