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コラム

2023/10/23

テーマ: 07.不動産

次世代が困らない不動産承継対策 第1回

本コラムは「月刊 家主と地主」2023年9月号に掲載されたものです。

資産全体を見て土地活用を検討 建てないことも選択肢の1つ

不動産を所有する人にとって、次世代にどう残していくかは大きな課題です。“相続が3代続くと財産がなくなる”といわれているように、何もしなければ、相続のたびに大切な不動産を失ってしまいます。そのため、次世代により多くの不動産を残すための対策として不動産の有効活用などの資産承継対策は有用です。本連載では、資産承継対策に携わってきた6人のコンサルタントがそのノウハウをリレー形式で伝授します。

対策だった建築が負担に

 複数の資産を保有していてその中に遊休地がある場合、相続を見据えて当該遊休地に賃貸用不動産を建築する土地活用は有用です。しかし、決断する前に一度立ち止まり、資産全体を見たうえで判断することをおすすめします。

 初めに賃貸用不動産を建築した際(借り入れをしないケース)の相続税評価の変化について解説します。
図1のとおり、一般的に賃貸用不動産を建てることで納税の負担を軽減することができます。土地と現金のみの場合の相続税評価を100とします。相続の税率が最高税率55%であった場合、納税は55の負担となります。

 仮に所有する現金を投じ、土地に建物を建てると、投じた現金の相続税評価は建物としての評価に変わり、その相続税評価は投じた現金の50%程度になるといわれています。さらに建物を賃貸することで、土地は貸家建付地として、建物は貸家として、相続税評価の軽減を受けられます。
 その結果、土地と現金のみの場合の相続税評価を100とした場合、賃貸用不動産を建てることで相続税評価は約50となり、納税負担についても約50%の軽減につながります。
 東京近郊に住むAさんの例です。Aさんは地元でも有名な地主で、さまざまな不動産を所有していました。先代の相続で多額の納税資金が必要となった経験から、自身の相続では次世代が困らないように資産承継対策を講じたいとのことでした。
 Aさんが相続した不動産の大部分が駐車場だったため、日頃より、金融機関やハウスメーカーなどから、賃貸用不動産を建築する提案を受けていました。これらの提案は資産承継対策を目的としているもので、Aさんは自身が高齢であることや、先代の相続で苦労した経験から、この提案を受け、次々と賃貸用不動産を建築していきました。その10年後にAさんから次の世代への相続が発生しました。
 次世代の相続人は、Aさんから「賃貸用不動産を建築し、資産承継対策はしてあるから、一部の賃貸用不動産の売却のみで納税資金が足りるはず」と聞いていたため、安心していました。
 しかし、実際には売却対象だった賃貸用不動産だけでは納税資金を確保できず、想定以上の賃貸用不動産の売却が必要となりました。結局、Aさんの次世代に不動産を残す目的は達成ざれませんでした。
 なぜ、このような事態になったのでしょうか。

経年による不動産価値の変化

 Aさんが所有していた一部の不動産に着目します。元々、駐車場だったときの不動産価格(時価)は2億4000万円で、その土地上に現金2億円を投じ、賃貸用不動産を建築しました。
 賃貸用不動産の価格は賃料収入に基づき決まります。当該不動産の賃料収入は年間1800万円あり、期待投資利回りを5%とすると、その時価は3億6000万円になります。
 有効活用の実行前には、駐車場(更地)の土地2億4000万円と現金2億円の合計4億4000万円の資産を保有していたことになりますが、賃貸用不動産を建てた時点で、既に資産価値は8000万円下落したことになります。さらに、新築後数年経過してから相続が発生し、売却の必要が出た場合はどうでしょうか。
 一般的に賃料は建物築年数の経過とともに下落します。また、期待投資利回りは、建物の修繕リスクを考慮するため上昇する傾向にあります。今回は、建物が新築から10年経過していたことで、賃料は新築時よりも10%減額、期待投資利回りは5%から6%に上がっていたため、その時価は約2億7000万円でした。資産承継対策ではあったものの、有効活用を実行したことで、その資産価値は半値近くになってしまったことになります。

 駐車場に賃貸用不動産を建てたことで、図1のとおり、一般的に納税負担は約50%軽減できます。しかしAさんの場合、建物の築年数の経過による不動産価格の下落を考慮していなかったために、いざ相続で不動産の売却をするとなった際、想定以上の不動産売却が必要となりました。その結果、今となっては「何も建てないほうがよかった」ということになりました。

「何もしない」も選択肢の1つ

 私たちは有効活用コンサルティングにおいて、顧客の保有資産全体や不動産を取り巻く市況などを俯眼的かつ中長期的に見て、本当に有効活用を実行すべきかどうかを多角的に検証します。その結果、「今は何もしない」ことが最善の対策である場合は、その旨を率直に提案することもあります。
 不動産の有効活用においては“事前の検証と準備”が成功のカギを握る大変重要なポイントだと考えています。
 次回は、“有効活用の前に、やっておくべき資産承継対策の基本”をテーマにお届けします。

解説者紹介

山田コンサルティンググループ株式会社
不動産コンサルティング事業本部 営業部
マネージャー
幸田 太郎(こうだ たろう)

2016年4月、山田不動産コンサルティング(現山田コンサルティンググループ)入社。売買仲介のみならず、不動産有効活用の事業立案、老朽化建物の建て替え支援、再開発事業の地権者側アドパイザーなど、さまざまなプロジェクトに携わり、コンサルティングサービスを提供。不動産オーナーに寄り添い、問題解決を行う。

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