コラム
2022/05/13
テーマ: 03.海外
インドネシアの新首都移転について
インドネシアの新首都、ジャカルタからカリマンタン島東部へ
ジャワ島への一極集中の是正を目指すインドネシアの新首都移転については、本年1月の国会での関連法案可決以降、以下にあるように必要な法令の交付も進んでおり、政権の動きを見る限り、24年10月のジョコ大統領の任期終了前に移転作業が始まる前提で進んでいるようです。
一方で、投資資金の調達問題、新首都移転に反対するグループの存在、そして24年10月の大統領選への思惑もあり、ジョコ大統領の目玉の政策ではありますが国民合意には時間がかかるものとみています。出典:日経新聞、NNA、等
新首都概要

・新首都名は「ヌサンタラ」で、カリマンタン島の東側、行政都市サマリンド、商業都市バリクパパンとその西側のセパクを中心に建設。サマリンダとバリクパパンは車で2時間。
・総工費460兆ルピア(約3兆6000億円)。用地246千ヘクタールが中核行政地域、国家戦略地域に指定。
法的手当
・22年1月 新首都法が国会で可決
・22年3月 新設行政機関のトップにアジア開発銀行副総裁バンバン氏を任命
・22年4月 政令2022年第17号で新首都の開発資金調達と予算運営を、
大統領令2022年62~65号で新首都の土地利用を規定。
首都移転の背景と事業機会
移転の狙い
現首都ジャカルタにおける渋滞、大気汚染等の問題に対しては、地下鉄延伸、LTR開通、高速道の整備で改善されていますが、北部の地盤沈下は悪化するばかりで、地震のリスクも残ります。首都移転の話が出た直後の2019年夏に財務省の高官に会い、本来の狙いを聞いた際には「ジャカルタ再生」と明確に回答がありました。地盤沈下が進む北部には役所が集中していることから、役所を移動することで、地盤沈下への対応とジャカルタの整備も可能になります。その上、引き続き経済の中心としてのジャカルタが残ることは現実的な計画であると見受けられます。
国民の反応
国民がジャカルタの渋滞や大気汚染に対し強い問題意識を有していることは、ジャカルタ知事への訴訟からも明らかです。一方で、2018年アジア競技大会で地下鉄の整備が進み庶民の足として定着したこと、加えて今夏のLTR(軽量軌道)の開通後に更なる利便性が向上すること、イオンを含むショッピングモールの増加もあり、移転の必要性を感じない人も多数いることも事実です。インドネシア人の変化に対する保守的な国民性が影響していると考えられます。
事業面での日系企業の関与
首都移転の全体像が不明確、特に資金調達の目途が立たない中で、日系企業として対応は取りにくい状況です。ビジネスは国営企業・地場企業中心に動くことが予想されますが、それに備えて地場企業との連携・合弁を進めながら新首都だけでなくジャカルタでも進展が期待される都市型交通網整備や国内調達を意識した戦略を進めることが肝要だと思います。インドネシア政府は輸入代替・国内生産へのコミットを要求しており、建設・設計等では地場パートナーとの合弁が必須であるため、今から対象先を検討する必要はあるでしょう。シャープの2023年4月稼働予定のエアコン工場建設は、今後のインドネシア市場拡大を見込んだ動きといえます。
今後の動き
首都移転に反対のグループもありますが、ジョコ大統領が具体的にその目的を国民に伝えることで、理解は得られるのではないでしょうか。これまでの発言ではメッセージは届いていないと思います。ジャカルタ、カリマンタンのどちらが良いかという選択ではなく、その両方を生かした計画が求められるのです。
インドネシアはフレームワーク作りには優れていますが、それを実行すること、つまり魂を入れて機能するようにすることは苦手だと感じています。進行中に方針が変わることも多く、最近でいうと石炭輸出制限やパームオイル輸出制限等がその例です。資金調達は引き続き大きな課題ですし、カリマンタン島での土地の確保の問題等も残るため、一歩進んで二歩下がることも想定しつつも今後の進捗に期待をしたいと思います。
まとめ
私は25年間ジャカルタを見てきましたが前述の渋滞や環境問題を除けば非常にきれいな街になったと思います。外を歩くことができるようになり、東京より多くの緑を感じることができます。30年以上議論の対象となった地下鉄が走っています。
新首都がどのような街になるのかも気になりますが、個人的にはジャカルタの渋滞と大気汚染、洪水が解消されることへの期待の方が大きいです。皆さんは如何でしょうか。
暴動でシンガポールに移った華人がジャカルタへ戻る日も遠くないかもしれません。
執筆:山田コンサルティンググループ株式会社 海外事業本部
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